MUSIC 2019.12.04

[Interview]石若駿
世界を見据える気鋭のジャズドラマー
“日本のミュージシャンは世界でヤバいことになる”

Photograhy-Syuya Aoki Text-Keita Miyazaki Edit-Mizuki Kanno
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

くるりやKID FRESINOのツアーバンドのドラマーとして知られる石若駿が、新プロジェクトAnswer to Rememberを始動させた。「中学卒業したら俺のバンドに来なよ」。10代前半に札幌のジャズシーンで頭角を現した石若を誘ったのは、ジャズ界のレジェンドであるトランペッターの日野皓正。それほど突出した存在だった。

その後単身で東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校に進学。そして藝大へ上がり、常田大希(King Gnu/millennium parade)や江﨑文武(WONK)、MELRAWらと出会う。今回のAnswer to Rememberにはそんな石若の経歴が色濃く反映されているという。「素晴らしい仲間との縁を大切に、新しい音楽を作っていくプロジェクト」と語るAnswer to Rememberとは一体どんなものなのか。12月4日に発売されたセルフタイトルアルバムの内容と合わせて聞いた。

27歳の今、自由にセッションしてた大学時代を思い出す。その答えを作品に。

ーAnswer to Rememberは石若さんにとってどんなプロジェクトですか?

「気心の知れた仲間たちと安心して自分たちの音楽がやれる場所」みたいなイメージかな。僕は今27歳なんですが、このAnswer to Rememberに参加してるミュージシャンはほとんど同世代なんです。僕は10代の頃から偉大な先輩ミュージシャンたちと演奏してきて、それは素晴らしい経験だったけど、一方で当時は同じ感覚を持った同世代のミュージシャンがいないことに寂しさも感じていたんです。ジャズが大好きな一方で、ロックやヒップホップ、R&B、ハウス、テクノみたいな音楽も大好きだったから。

そしたら大学でKing Gnuの常田(大希)やWONKの(江﨑)文武、MELRAWとかと出会えたんです。本当に嬉しかった。大学時代はもちろん、卒業してからも彼らとは本当によくセッションしてて、その経験は今の僕にとってものすごく大きいものなんです。20代半ばくらいになると、みんなそれぞれ自分の音楽で評価されるようになり、僕も自分のソロプロジェクトに加え、くるりやKID FRESINOくんのツアーバンドに参加できるようになってきた。

でもちょっとみんな疲れてるような気がしたんですよ。それを顕著に感じたのは2018年の年末。忘年会で常田や文武、MELRAWと会って話すと、それぞれがいろんな思いを抱えてた。それで確か常田と飲んでた時、「2019年はあの頃の仲間たちでまた集まって何かやりたいね」という話になったんです。大学の頃、気の置けない仲間と自由にセッションしてた僕らが今再び集まって、当時のマインドで自由に音楽を作ったら、面白くて、楽しくて、カッコいい何かができるような気がしました。Answer to Rememberを直訳すると「思い出の答え」。プロジェクト名にはそんな思いが込められています。

ー音楽的にはどんな特徴があるんですか?

自分がドラマーであるという特徴を活かしたいと思ってるんです。ドラムっていろんな音楽に関われる楽器なんですよね。実際、僕はド渋なジャズバンドのライヴに参加した翌日にKID FRESINOくんのバックでドラムを叩いてたりする。ドラムにはそんな振り幅がある。Answer to Rememberのサウンドは僕のバックグラウンドであるジャズがベースになってるけど、面白くてカッコいい音楽には自由でいたいと思っています。

ーAnswer to Rememberに参加しているメンバーを教えてください。

主なメンバーは、ほぼ全ての楽器ができるMELRAW、オーストラリア人のベーシストのマーティ・ホロベック、高校生の頃から友達の鍵盤奏者の海堀弘太くん、北海道時代から仲がいいトランペット奏者の佐瀬悠輔くんかな。彼らとは何回もセッションしてきたけど、実は録音物を残すのは今回が初めて。昔ながらの仲間と新しい音楽を作るっていう。そういう意味でも、Answer to Rememberは僕の個人的な「思い出の答え」でもあるんです。

集まって演奏するだけで必ずアツくてカッコいい音楽になる

ー制作はどのように進めたんですか?

曲によって違うんですが「Still So What feat. ATRBand」「410 feat. Jua & ATRBand」「RUN feat. KID FRESINO」あたりはセッションがベースですね。参加してくれた人たちは技術はもちろん、感性も知識も併せ持った本当に素晴らしいミュージシャン。だから集まって演奏するだけで、必ずアツくてカッコいい音楽になる。メロディとコード、展開という楽曲の大枠だけ僕が決めた感じ。でも正直、どの曲も想像を上回るものができたという感触があります。

ー確かにみなさん、最初から最後まで延々とソロをやってるんじゃないかと錯覚するほど爆裂に演奏しまくってました。でも、楽曲としてしっかりまとまっているんですよね。

特にみんなに指示を出したりしてないけど、2、3回セッションするとこうなる(笑)。そこがこのメンバーのすごいところなんです。あと僕らはバックグラウンドも含めて、それぞれがお互いのミュージシャンとしての特性を熟知してるから、阿吽の呼吸でやれるというのもあります。セッション系の曲はどれも2〜3日くらいで完成しました。

一方で「TOKYO feat. ermhoi」「Cicada Shells feat. Karai」は多重録音で制作してます。自分で作った曲としっかり向き合う経験はあまりなかったので、めちゃくちゃ楽しい一方で、結構悩みましたね。何を残して、何を足すか、みたいな。本当に締め切りギリギリまで作業してました。

ー「TOKYO」でermhoi(Black Boboi)さんのヴォーカルを倍速にするアイデアはかなり驚きました。

最初はもっと遅いテンポのジャズだったんですよ。メロディも含めて、個人的にすごく気に入ってたんだけど、2019年に、この東京という街で、27歳の僕が音楽をやってることをもうちょっと印象的に表現したい気持ちもあって。そんな時、たまたま倍速の音楽に合わせて踊ってるTikTokの動画を見て、「あ、このスピード感って、僕の考える現在の東京の雰囲気にぴったりかも」と感じて。それで「TOKYO」のベースになった曲を倍速にするアイデアを思いついたんです。しかもそれを生演奏でやったら、録音物としても、ライヴパフォーマンスとしても面白いかもって。

Answer to Remember 『TOKYO featuring ermhoi』

ーライヴでもこのスピードで演奏するんですか!?

もちろん。でもレコーディングはあえてゆっくりしたテンポで録りました。それを早回しにしてます。この曲のドラムは超人が叩いてるような雰囲気がある。それは早回しにした効果。実際にこのスピードで叩くこともできるけど、そうじゃなくて遅く録ったドラムを早回しにすることで生まれるスピード感があって。「スター・ウォーズ」でルークとダース・ベイダーがライトセーバーで戦ってるシーンをイメージしてもらうとわかりやすいんだけど、あの戦いって人間離れした凄みを感じるじゃないですか? でも実際はもっとゆっくり撮ってて、完成版では早回ししてるんです。早回しすると、人間の筋肉の活動限界を超えたスピード感を出せるんですよ。

ーヴォーカルはどのようにレコーディングしたんですか?

ヴォーカルはかなり試行錯誤しました。最初は全然違うキーで、しかも棒読みで歌ってもらって。そこに僕がオートチューンをかけ、さらにPro toolsで早回しにして、オケにはめ込んでみたけど、なんかしっくりこなかったんですよ。それで、僕が作ったエディット版のヴォーカルを聴いてもらった上で、ermhoiに「こんな感じで歌える?」とお願いして録ったら、それがOKテイクになりました。彼女が生で歌ってくれたことで、この曲に血が通ったような感覚も入れることができました。

言葉でなく音楽でコミュニケーションできるから、バンドは面白い

ーアルバムには、2ndシングル「RUN feat. KID FRESINO」のインスト版が収録されていますね。

「RUN」はセッションで作ったインスト版が先にあったんですよ。でもある日、「RUN」からメロディの要素を抜いて、そこにKID FRESINOくんのラップを入れたらめちゃくちゃカッコいい曲になるんじゃないかと思い付いたんです。それでお願いしたら快諾してくれて。通常、メールでやりとりする場合、ヴォーカルのレコーディングデータのニュアンスを細かく調整するために、何往復かすることが多いんですよ。でもKID FRESINOくんは一発OKでした。正直驚きましたね。だって、このトラックでラップするのは決して簡単じゃないから。その後、ライヴのリハでKID FRESINOくんと会ったら「難しかったよ〜」って笑ってました(笑)。彼の作品に参加したり、ツアーで一緒に演奏することは何度もあったけど、自分の作品でラップしてもらえるのはやっぱり嬉しかったです。

Answer to Remember『RUN feat. KID FRESINO』

ー3rdシングルの「GNR feat. 黒田卓也」はどんなイメージで制作されたんですか?

この曲は去年亡くなったトランペッターのロイ・ハーグローヴをトリビュートする気持ちで作りました。僕は中学生の頃からロイが本当に大好きで、ずっと新譜を楽しみにしていたんです。ジャズとヒップホップ〜R&Bをいち早く繋いだのはロイだと思う。彼はソウルクエリアンズのメンバーで、エリカ・バドゥ「Mama’s Gun」、ディアンジェロ「Voodoo」、コモン「Like Water for Chocolate」という超名盤にも参加してます。ロイの急逝は世界の音楽シーンにとって大きな損失です。けどそれ以上に、僕は単純にロイが大好きだったから、亡くなってしまったことがものすごくショックだったんです。それで「もしも彼が元気だったらこんな曲を作っただろうな」というイメージで作曲しました。

ー黒田卓也さんは、ロイ・ハーグローヴが亡くなった際、日本のBLUE NOTEのオフィシャルサイトに愛とリスペクトにあふれた追悼文を寄せていましたね。(参照:特別寄稿:黒田卓也 追悼ロイ・ハーグローヴ

まさに。それが黒田さんに参加してもらった理由でもあります。彼は本当にロイをリスペクトしてたし、個人的な思い出もあるから急逝に関して僕以上にいろんな感情があったと思う。でも制作時は、バンドメンバーに「トリビュート」みたいなことはあまり言わなかったんですよ。なぜなら僕が作ったメロディやハーモニーを聴けば、この曲で何をしたいのかわかってくれると思ったから。バンドが面白いのは、言葉でなく音楽でコミュニケーションできるところ。しかもシングルバージョンでピアノを弾いてるトニー・サッグスは、ロイのヒップホップ/R&BプロジェクトであるRHファクターの1stアルバム『Hard Groove』にも参加してる。彼も高校生の頃からよく一緒に演奏してる仲間であり、今は日本で活動しているので参加してもらいました。みんなのプレイが本当に素晴らしかったのは言わずもがなです。

ータイトルはどんな意味なんですか?

「Genki Na Roy Hargrove(元気なロイ・ハーグローヴ)」の頭文字ですね。 ずっと仮タイトルだったんですけど、そのまま採用になっちゃいました(笑)。

ー中村佳穂さんが参加した「LIFE FOR KISS」はすごく不思議なメロディですね。ヴォーカルがどんどん高音になっていくけど、小難しい感じではなく、なぜか心地いい。

あれは僕が書いたメロディを佳穂ちゃんがアレンジしてトップノート(メロディの一番高い音)で歌ってるんです。すごい発想ですよね。最初は佳穂ちゃんと、佳穂バンドのキーボーディストの荒木さんとメールでデータのやり取りをして作ってたんですが、僕がツアーで関西に行く機会があったのでそのタイミングで中村佳穂 BANDのみんなと一緒にスタジオに入って、制作しました。

ー最近は実力ある若いミュージシャンたちが各地から次々と現れているので、今後はATRBANDとの共演も増えそうですね。

実は未発表曲がまだまだたくさんあるんですよ。おっしゃる通り、今日本には実力も才能もあるミュージシャンがたくさん出てきてて、本当に面白い状況になってると思う。沸点は近い。僕らは日本はもちろん、世界にも発信できるカッコいい音楽をやっていきたい。今回のアルバムも、僕ら世代が日本、そして東京で作る音ということを思い切り意識してるし。

あと来年Answer to Rememberでの単独公演を予定しています。僕らがそれぞれミュージシャンとして辿ってきたこれまでを演奏で表現して、みなさんに感じてもらいたい。そう遠くない未来に日本のミュージシャンは世界でヤバいことになるような気がしてるんです。僕自身も本当に楽しみなんです。

INFORMATION

『Answer to Remember』

2019.12.4 発売・全世界同時配信開始
・初回限定盤 トレーディング・カード付特殊仕様/¥3,200+tax
・通常盤/¥2,700+tax
1.Answer to Remember
2.TOKYO feat. ermhoi
3.Still So What feat. ATRBand
4.RUN feat. KID FRESINO
5.GNR feat. 黒田卓也
6.Cicada Shells feat. Karai
7.410 feat. Jua & ATRBand
8.TOKYO(reprise)
9.GNR feat ATRBand
10.LIFE FOR KISS feat.中村佳穂Band
11.-bonus track-RUN (ATRBand Version)
https://lnk.to/ATR_AnswerToRemember

“Answer to Remember”
OHIROME GIG Vol.1 
~石若駿 史上最大の祭り、よろしくワッツアップ~

2020.2.4 OPEN 18:00 / START 19:00
@恵比寿LIQUIDROOM
出演:石若駿、MELRAW (sax)、中島朱葉(sax)、佐瀬悠輔(tp)、若井優也(keys)、海堀弘太(keys)、TONY SUGGS(keys)、君島大空(gt)、MARTY HOLOUBEK(b)、新井和輝(b)(from King Gnu) and more
ゲスト:KID FRESINO、ermhoi、Jua and more
料金:¥3,400(オールスタンディング 別途1ドリンク)
一般発売:12.7 10:00〜
お問い合わせ:DISK GARAGE 050-5533-0888
(平日12:00~19:00)  
チケットぴあ

https://www.sonymusic.co.jp/artist/AnswertoRemember/

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