2000年、At The Drive In(アット・ザ・ドライヴ・イン/以下、ATDI)はその存在によって世界を変えた。彼らの、他の誰とも似ていない音楽性と規格外のパフォーマンスは、ロックにもまだまだ進化の可能性が残っていることを世界中の音楽ファンに知らしめたのだ。だがバンドはたった一枚のアルバムを残し、これからという時にあっけなく解散してしまう。そして2012年、またも突如として再結成を宣言。さらに2017年には17年ぶりの新作『In・ter・A・li・a』も発表し、そのニュースは彼らをずっと見守ってきたファンにはもちろん、リアルタイムを知らない若いリスナーにも大きな衝撃だったことだろう。9月、バンドはジャパンツアーのために来日。フロントマンであるセドリック・ビクスラー・ザヴァラに、再結成の動機や現在の心境などを聞いた。
不安も違いも、今の僕らはすべて音楽で表現できる
—2012年の再結成、そして17年ぶりの新作には歓喜した反面、正直いって意外でした。常に新しい音楽を作り続けてきたあなたたちを過去のバンドに向かわせた、一番の動機は何だったのでしょう。
今回の再結成は、僕の中では“初恋を思い出す”みたいな感覚かな。人生は短いからさ、昔のほろ苦い思い出に目をそむけるんじゃなく、きちんと受け入れて、そこからまたやってみようって思えたんだ。そしてそういう気持ちになれたのはたぶん、僕に子どもが生まれたからっていうのもあったと思う。少年時代に気の合う奴らで集まって“オレらで世界を見てやろうぜ”って始めたのがATDIで、あれは僕にとって間違いなく一つのファミリーだった。そういう人とのあり方や“僕はこんな道を辿ってきたんだ”っていうのを、ちゃんと子どもたちにも見せてやりたくなったんだよね。じゃないと、彼らを叱る時にも説得力がないしさ。
—“初恋”。いい例えですね。
はは。新しいことを発見したり、作りたいという気持ちはもちろん今でもあるよ。でも、そういうことをマーズ・ヴォルタより何より先にやっていたのがATDIだしね。
—今の言葉ですべて説明できる気もしますが、もう少し聞かせてください。いくつものバンドを平行して活動させている中で、ATDIの音楽性には特定のコンセプトや、5人の中での決めごとなどはあるのでしょうか。
楽しむこと、それだけだね。今の僕たちには不思議な安心感があるんだ。いろんな不安や互いの相容れない部分も含めて、すべてを音楽で表現できるっていうか。昔はそんな能力もなかったし、この歳になったからこそそう思えるのかもしれないけどね。昔と今で最も違う部分だと思うよ。
—今回のアルバム制作にあたって、ギターのオマー(・ロドリゲス・ロペス)は「17年前の気持ちや感覚を取り返すために、当時影響を受けた映画や音楽を片っ端から観直した」とか。それはあなたもですか?
僕はそういったことはしていない。オマーはプロデューサーという立場もあるから、概念として当時を捉えるプロセスが必要だったんだろうね。アルバム制作中にオマーがよく言っていたのは「ファンの記憶にある僕らを大事にしなきゃいけない」ってこと。確かにそうだよね。そして「ルールを学んでしまう前の自分たちを思い出そう」、とも。歌い方は、弾き方はこうでなきゃいけないなんてことに縛られず、本当に自由にやっていた25歳の自分たちを、オマーはそういう方法で思い出そうとしていたんじゃないかな。
—では、あなたにとってのインスピレーション源は?
僕の場合は子どもたちの存在がすごく役に立った。双子の男の子なんだけどね、2人がケンカする姿とかを見ていると、僕らもこんな感じだったよなって、昔の自分たちの姿がおのずと見えてくるようでさ。
—実際の作業はどうでしたか。
実をいうと、僕は最初“アーティストとしての現在の自分”をそのままぶつけようと思っていたんだよね。今の僕はこうなんだ! って。でも作り始めてすぐ、それは間違いだってことがわかった。だって一緒に音を出した瞬間、自然と昔の自分たちに戻っていくのを感じたから。そこで今の自分を出すのは違うし、そもそも無理だったんだよ。でも同時に、あのアルバムには“あの頃の自分たちにアクセスしていく”みたいな作業がともなったのも事実なんだ。偽りのものを作るつもりは決してないけれど、ある意味では演じる部分もあったかもしれないね。
At The Drive In – Hostage Stamps (Official Music Video)
—今回は単独インタビューなので、セドリック個人への質問もさせてください。若い頃からATDI、マーズ・ヴォルタのフロントマンとして活躍したあなたは、当時から他のアーティストからも一目置かれる存在だったと思います。そんなあなたが個人的に今注目しているアーティストを教えてください。
そうだな、若手ではないけど、アニマル・コレクティヴ。型や概念に囚われない感じがいいね。あとはデス・グリップスも。あれは“美しきカオス”だよ。ヒップホップと言われるけど僕はそうは思わない、ものすごく独創的だね。ザ・グロウラーズもいいバンドだよ。L.A.のハンティントンビーチの、いわゆるサーフと呼ばれる音楽を再定義するようなことをやってるんだ。セイント・ヴィンセントも素晴らしいね。あとはマーニー・スターンという女性ギタリストもかっこいい。アメリカはぞくぞくと面白いものが出てくるから、たまに吸収しきれないことがあるよ。
The Growlers – “Love Test” (Official Video)
僕にとってオマーは、常にパラレルな存在なんだ
—これは1人のアーティストとして訊きたいんですが、まずその前置きとして。ATDIのようにこれだけ課外活動の多いバンドもそうはいないと思います。
うん(笑)。
—その中でいうとあなたは少ない方というか、ATDI以降もほとんどのバンドでオマーと一緒です。そしてこれは勝手な推測ですが、たぶん日本のファンの99%は「オマーとセドリックは常にセットでいてほしい」と思ってます。
あはははは(笑)。
—そのうえで訊かせてください。歌や表現、そして長年の盟友であるオマーと一緒に音楽を作ることは、あなたにとってどのような意味を持つのでしょうか。
まあ何というか、常にアイデアをやりとりできる仲間がいるのはありがたいことだよね。いつも共犯者がいてくれるというかさ。これはあくまで僕が思っていることだけど、オマーの直感や感じ方というか、物事へのアクセスの仕方は、自分とは常にパラレルなんだ。そういう人物と、こんな形で出逢えるなんてね。もし、僕とオマーと出逢わせてくれた人がこの宇宙に存在するなら、その人こそが僕の人生のチャンピオンだと思ってる。あいつの存在は例えるなら踏み台や滑走路のようなもので、一緒にいることで僕はいろんなところへと飛んでいけるんだ。
—今の言葉、長年のファンはずっと待っていたと思います……。
アーティストとして、ATDIのような表現の場所があるのは本当に素晴らしいことだよ。でもそれ以上に、あの男がここにいるということが僕にとっては重要なんだ。そしてそういう存在を認めて感謝することも、とても大切だと思う。あいつがいてこそ自分の表現のプラットフォームがあると、今は心から思えているからね。
—では、最後に。あなたたちがこの17年の間に築いたポジションは本当に独特です。時に「伝説」と呼ばれながら、次もきっと新しいものを見せてくれると、コアなファンだけでなく世界中の人が信じているということが本当に素晴らしいです。こうした状況を自分たちの中ではどう捉えていますか? こうありたい、という理想はあるのでしょうか。
僕らの目指すところは、17年前に思い描いていたものと今も変わってないんだよ。ATDI、マーズ・ヴォルタといくつものバンドを同時に進行させて、その全部をみんなに認めてもらうことなんだ。だってバンドを始めた当初は、まさか自分たちの音楽をこんなにたくさんの人が聴いてくれると思っていなかったからさ。だから、今もこうして僕らの音楽をきちんと受け止め、反応して、大事に思い、楽しみにしていてくれるのはすごく幸せなことだと思ってる。みんなには本当に感謝しているよ。
PROFILE
At The Drive In
1994年にテキサス州エルパソで結成。2000年9月に1stアルバム『Relationship Of Command』でメジャーデビュー。パンク、ハードコア、プログレとあらゆる要素を飲み込んだ音楽性で世界的な評価を得るも、直後にバンドは無期限活動休止を発表。メンバーはマーズ・ヴォルタやスパルタでそれぞれの活動を開始する。2012年に、突如再結成を発表。その年のあらゆる音楽フェスでヘッドライナーを務め、日本ではフジロックフェスティバルに、翌2016年にはサマーソニックにも出演を果たした。2017年5月、実に17年ぶりとなるニュー・アルバム『In・ter・A・li・a』をリリース。9月には東名阪をまわるジャパンツアーも敢行した。
http://hostess.co.jp/atthedrivein/