七尾旅人×マヒトゥ・ザ・ピーポーによる音楽の物語の行方。渋谷WWW 10周年公演をレポート

photography_Kuniyoshi Taikou, text_Takuya Nakatani

七尾旅人×マヒトゥ・ザ・ピーポーによる音楽の物語の行方。渋谷WWW 10周年公演をレポート

photography_Kuniyoshi Taikou, text_Takuya Nakatani

忘れがたい一年となった、2020年も残すところ半月あまりとなったが、師走に入る直前の11月29日、渋谷WWWで起こった/生まれたことを記録しておこう。

この日はWWWの10周年特別公演として行われた。本来なら10周年イヤーということで、“WWW(ダブダブ)らしい”ドキドキに満ちたアニバーサリー企画を構想していたはずで……と後ろを振り返ってしまいそうになるけれど先に進もう。七尾旅人が、オンライン上の架空のライブベニューをイメージして、さまざまなゲストを遠隔でつないで開催してきた対コロナ支援配信「LIFE HOUSE」をリアルな場=ライブハウスに持ち込んでしまおうという意図のもと、「LIFE HOUSE x LIVE HOUSE」は企画された。ゲストにはGEZANのフロントマンであり、小説や映画などフィールドを横断しながら表現を拡張するマヒトゥ・ザ・ピーポー。ライブハウスにおけるガイドラインに基づく有観客+配信というスタイルで開催された。配信のアーカイブは巻末にあるので、このレポートはそこへの導線と余韻になれば幸いだ。(ちなみに以降は両者のことを、七尾旅人のツイッターにもあった「旅人(タビト)・マヒト」として表記したい)

ひとつのステージ、同じ画面のなかで一曲ずつ交互に歌ったり喋ったりしながら、そこに意味を見出していく、というスタイルで行われた本公演。過去に旅人が豊田道倫や向井秀徳と同じ形式で演った際には軽く4時間半を越える長尺となったが、今回は感染拡大の予防もあり途中休憩を挟みつつ3時間強で収めたい、というのは事前に旅人のほうから告知されていた。そのこともあり予めテーマ設定されたのが以下だ。

[11/29 構成]
・ファーストコンタクト(フリー。自由に曲を交わし合う)
・「これまで」 活動中期からコロナ前年頃までに大切にしてきたこと。
ー休憩タイムー
・「いま」 コロナ禍のなかでの変化。新曲など。
・「ルーツ、根本」 活動初期の曲や、歌い続けるきっかけになった曲など。
・「展望、未来」 これからのこと。コロナ後の世界に。願いなど。

結果からいうと、この構成は見事なまでにスルーされて、かといって取っ散らかることもなく必然の流れとしてこの夜は進んでいった。

交互に弾き語りをしていくこの形式は、進むごとにそれぞれの“個”をより浮き彫りにしていく。旅人は物語に巻き込んでいって、聴者はそれを自分ごとに落とし込んで聴き入ることになる。つまりはナラティブの状態。対してマヒトは世界を描き出して、連れ出していく。白昼夢的に。その二つは安易に交わることはなく、DNAの二重螺旋構造のように上昇していく。

曲間の会話もまた創造的で、脱線や寄り道をしているようでいてじつは手探りながらも二人のなかで同じ目的地は共有されていて。「過去に未来がある」と異口同音に互いが言えば、自身の過去曲について「歌詞が先回りして待っていてくれてた」(マヒト)という言葉なんて、この対話だからこそ出てきたものだろう。かと思えば中盤からは会話を挟むこともなく、歌と歌、ギターとギターで交歓していく。相手の歌を受けて次どう出るのか、この緊張感も楽しい。このあたりから「構成は用意したけどまあいいや」と旅人が白状したように、生まれつつある大きなうねりとともに展開されていく。マヒトが「Wonderful World」を歌っているとそこに旅人が口笛で合いの手を入れたりと、互いの距離が縮まるほどに自由度もどんどん高くなっていく。と、ここで第一部が終了。

休憩を挟んで一曲目は旅人の「今夜、世界中のベニューで」から。窮地に立たされているライブハウス=ベニューのことを歌った、今年4月に発表された曲だ。コロナ禍についてマヒトは「誰かに決められていたところから、自分で考える。一人称が自分の元に帰ってきた」と話していたが、たしかにコロナ禍がパラダイムシフトを加速させたのは事実で……などと音の波にいざなわれるように思考は浮遊していく。そうなってくると聴者それぞれはそれぞれの波のなかで漂っていけばよくて、でもゆるいつながりもまた、そこには存在している、という境地。

「一緒にストーリーを描いている感覚がある。終結に向かってきている」(旅人)と、いよいよ大詰めに。旅人の「きみはうつくしい」では、マヒトもギターのフィードバックノイズで色彩を添えていく。立体的に、多層的に。そしてマヒトが、この日のために作ったという「旅人(たびびと)」を披露。タイトルの示す通り、七尾旅人をモチーフにした曲だ。それに続いて旅人はマヒトの「夏の幻」をカバー。これが二人にとってのラストの曲となった。見事な物語だった。

マヒトを送り出したのち、最後にアンコール的に旅人がもう一曲。マヒト著の小説「銀河で一番静かな革命」の登場人物である「ゆうき」からの連想で「ゆうきの歌」をセレクト。これは実際に旅人のファンであった人物に捧げた曲であり、パーソナルな思いもまた音楽になることで普遍となり、それぞれの物語へと沁みていく。そんな帰結となった。

この夜のアーカイブ配信は以下だ。投げ銭方法はここに詳しい。「投げ銭の収益は七尾旅人、ゲストのマヒトゥ・ザ・ピーポー、渋谷WWW、3者それぞれの判断でコロナ禍のなか困窮する誰か、また格闘する誰かへの支援に使わせて頂きます」となっている。

INFORMATION

『WWW 10th Anniversary LIFE HOUSE x LIVE HOUSE』

2020/11/29(Sun) at WWW

LIVE:七尾旅人 / マヒトゥ・ザ・ピーポー

「LIFE HOUSE」放送アーカイブ一覧
https://note.com/tavito/n/n31ef10620508

POPULAR