MUSIC 2021.02.02

Interview: Ivan(Survive Said The Prophet)”サバプロの音楽をアートという形にすること”

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Kohei Suzuki, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

Survive Said The Prophetことサバプロ。そのアートワークからマーチャンダイジングまであらゆるアートディレクションをギターのIvanが手掛けていることは彼らのことを知っている人であればご存知だろう。アパレルやアートの活動を精力的に行うIvanに密着し、今回は1月にリリースされたサバプロの10周年リテイク・ベストアルバム『To Redefine / To Be Defined』を巡って、Ivanのアート性について掘り下げてみたい。

アートにしろ音楽にしろ
完成形へ向かうプロセスが最高に楽しい

ーリテイク・ベストアルバム『To Redefine / To Be Defined』について、アートワークの話をメインにお伺いしたいと思います。まずはジャケットのアートワークについて教えてください。

Ivan:バンドも生き物で、時間の経過とともに状況も変わっていくものなので、今作のアートワークには生き物を使用したいというのが根底にあったんです。使った花はダリアなんですが、バラバラに分解した姿を表現することで、そこから新しいものを作り出すという意味を込めています。作品のタイトルにある通り、サバプロが定義してきたものに新たな意味を加えて再定義することを表しています。それに、ダリアの花言葉には華麗、優雅といった解釈もあるので、バンドを10年続けてきて、今この瞬間があるという意思も込めていて。

ー今年で結成10周年を迎えるということが様々な形で表現されていると感じます。付属するフリップボックスやフォトジンはどんな内容なんでしょうか?

Ivan:フリップボックスの方は動くアー写的なものですね。パラパラマンガの仕様にしていて、めくるとメンバーが加入した順番に登場して最後には現在の5人が揃った写真になるんです。メンバー1人1人が集まって同じ船に乗って活動していくというストーリーを表現したかったんです。フォトジンはメンバーに対する僕なりの解釈を写真を使ったレイアウトで表現したんですよ。メンバーそれぞれが「10年間の振り返り」をテーマにエッセーを書いていたので、夫々のの視点から見たバンドのまとめとして最初はそこに言葉も掲載したら面白いだろうと思っていました。ただ、その内容が付属するドキュメンタリーフィルムと共通する点が多かったり、そもそもジンの4ページでは到底まとまらない内容だったので、ここではビジュアルに特化した内容に編集したんです。そこに歌詞カードとアー写を拡大したポスター、これら全部をパッケージして1つの作品として見せています。

ーそのようにデザインやアートを制作することと、音楽を作る作業はIvanさんにとってどのように異なりますか?

Ivan:確かに異なる作業ではあるんですけど割と繋がっているんですよ。というのも、これまで作ってきたアートワークに関しては曲が先にあって、出来上がった音楽をずっとループ再生で聴きながらデザインを起こしているんです。やっぱりバンドで表現する音を視覚的に形にすることで五感で体験できるものにしたいと思ってアートを作っています。今まではそんな制作工程でした。いつか逆にアートを先行して制作して、そこに曲をつけていくようなことも出来たら面白いですよね。

ーアートやグラフィックを制作しているときはどのようなことを考えたりするんですか?

Ivan:結果的には無心ですかね。アートも音楽そうなんですけど制作作業って終わりがないというか、無限の可能性があるじゃないですか。何でもできてしまうものなので。今、僕は自分の手の届く範囲で制作を行っていますけど、今後はまったく違うものを表現している人とコラボするかもしれないしチャレンジしたいですね。例えば、コーヒーだってラーメンだって、作っている人が徹底的にこだわって追究して生み出しているものであれば、それはアートだと思うし、結果として生み出している形が異なっていたとしても、根底の部分は同じような感覚で制作している人が世の中に大勢いると思うんですよ。

ー作り手の情熱が込められているものは何でもアートだと呼べる、ということですか?

Ivan:ーって思いたい。やっぱり作り手が本心から作りたいと思って生み出したものはパッと見で全然違うと思うんですよね。情熱を感じさせるものに魅力があるわけであって、大事なのはそこだと思うんです。僕だけではなく、世界中のアーティストもそうだと思うんですけど完成形を目指して制作していくプロセスそのものを楽しんでいると思うんですよね。音楽で表現する1秒のために1年間かけたとすると、その1年間は最高に楽しい時期だと思うんです。音楽やアートもそう、すべてがそうだと思いますね。

ーそのようにしてサバプロの活動を介して積み上げた10周年を迎え、今後はどのようなことやってみたいと考えていますか?

Ivan:最近、バンド内で話をしていてアベンジャーズってワードがよく出てくるんですよね。つまり、メンバーそれぞれがサバプロ以外で行っている表現力をより強くして、各々が成長を遂げていくことでバンドがさらに良い状態になっていくということなんですけど。『To Redefine / To Be Defined』にしても、Yoshがプロデュース業をここ何年間もやってきた結果であり、バンドが10年間ライブをやり続けてきた結果だと思うんですよね。自分を含めてメンバーの活動がバンドの発信にすべて繋がっている。だからこそ、僕らは1人1人がバンドに強力な何かを持って帰って来れるようにならなくてはいけないと思っています。それに、以前から掲げていることではあるんですが、世界へ視野を広げて活動していくこと。これは引き続きこれからも行っていきたいですね。

サバプロはバンドのリアルを作品で表現している

ーそもそも、Ivanさんが絵などアート制作を好きになったきっかけは何ですか?

Ivan:小さい頃、父が絵が得意で、好きなものを模写してもらっていたんです。それをずっと僕も真似していました。音楽よりも先に絵を描き始めましたね。中学校くらいからギターを始めて、友達と香港で路上ライブとかもめちゃめちゃやっていたんです。好きな音楽をアコースティック版にアレンジして。やがて日本に来て生活するようになったんですが、その頃はアートに関わるグラフィックの仕事などを続けながら、バンドもやり続けることができたらいいなって感覚だったんですよ。そんな時期に、バイト先のアパレルショップでYoshと出会ってサバプロを始めたんです。バンド活動を進めていくうちにマーチャンダイズが必要だってことになり、じゃあ自分がデザインしようと思ってスタートしたんですよね。自分が思っていたのとは異なる入り口から入って、バンドのアートワークやマーチャンダイズのデザインなどをやって10年が経ったんです。アートに関する専門知識が予めあったわけではなく、必要だからほぼ独学で学んでいったんです。


2020年末に始動したIvanのアートプロジェクト”Suji”によるアパレルラインの一部。Kineticsの新ショップでポップアップが開催されアート作品も展示された。

ーちなみに好きなアーティストは誰ですか?

Ivan:ダリ、めちゃめちゃ好きです。バンクシーだとかストリートアートも好きですよ。ただ、特定のアーティストが好きというか、作品ベースで直接的に好きになることが多いですね。バンドも一緒で、どっちかというとアルバムや曲単体をセレクトしていますね。

ー置かれているアート作品はモノトーンのカリグラフィー表現で構築されていますね。

Ivan:カリグラフィーが好きなんですよね。配色に関してもシンプルなものが好みで。言ってしまえばワビサビじゃないですけどね。完璧なものもいいんですけど、それだけだと飽きちゃうじゃないですか。作品を見た人が考えられる余地を持ったアートを表現したいと思うんです。だからカラーリングに関しては、見てくれた人が頭の中で想像してくれるような形が1番良いのかな、と。もう1つベースにあるのは日本語や韓国語、英語といった文字の形ですね。思い出してみると、小学校のときに悪いことをしたら、居残りで教科書の文字を書き写しさせられたりしていたんですよね。それが意外と好きで(笑)。そういう作業が好きだったから文字の形が今でも好きなのかもしれません。

ータイポグラフィという表現では4thアルバム『s p a c e [ s ]』が思い出されますね。

Ivan:そうですね。なんで”様”って漢字を使ったのかというと、世界で1番バランスが良い漢字だそうなんです。この1文字の中に○を置くと均等な距離感になるという。これはYudaiが教えてくれて、アートワークに落とし込もうと思ったんですよ。この作品をリリースした頃、メンバー同士で互いの距離感を持つのも大切だなって思っていた時期だったんです。

ーでは、これまでの作品で印象深いアルバムと言うと?

Ivan:難しいですけど、2ndアルバムの『FIXED』。これは僕がデザインしたというよりも、香港のフォトグラファー、de oddに撮影をお願いして、ペインターのマチュー(AYA MACCIU MATSUE)にカリグラフィーを、レイアウトをmaxillaにお願いして彼らとやりとりしながら進めていったんです。お世話になっているアーティストたちに協力してもらって、それが全部集まった作品ですね。今のメンバー5人で初めてアメリカで制作したアルバムでもあります。

ー制作した時によってバンドの状況も変わるし、表現するアートワークも変化するものですよね。

Ivan:そう、その時々によってバンドが求めているものや考えていることは違うんですよね。僕らは、その変化を隠さずに表に出すと言う表現をしているんです。距離が必要なときはそういう風に表現するし。そのリアルを表現する、そうでなくては嘘になってしまうしバレてしまうと思う。それをメンバー全員が理解しているんです。ありのままでいたい。

ー今後、Ivanさんが描きたいアートはどんなものですか?

Ivan:造型物や玩具など何か形があるものにアートを施したいですね。建物全体に絵を描くだとか。あとは今回もフォトジンやフリップボックスを作りましたが、雑誌だとかフィジカルプリントをもっと作っていきたいと思います。今は写真もスマホで一瞬でスワイプされてしまうので、もったいないと思うんですよね。そんな風にリアルな空間をもっと作りたいし、実際に手で触れる紙媒体の魅力ももっと伝えていきたいと考えています。

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