去る3月19日、高校卒業と言うひとつの分岐点を迎えたchilldspotが、新曲「Monster」をリリースした。メンバー全員が2002年生まれの18歳、2019年にバンド活動をはじめるや否や、spotifyの「RADAR:Early Noise 2021」へ選出され、J-waveの「TOKIO HOT 100」にランクイン。幼少期を沖縄で過ごしたヴォーカル比喩根の豊な感性と天性の歌声がバンドの核を担い、楽器隊による鮮やかなサウンドが、その世界観に色をつける。ジャンルと言う縛りから解放された音楽で、シーンを虜にするニューカマーだ。いま、大人と子供の間で社会と向き合う彼らは、本作にどんなメッセージを込めたのか。この日がメディア初取材となったchilldspotの実像に迫りつつ、楽曲に託した想いを聞いた。
“感情が溜まったら作る”それが制作のきっかけ
ーまずは、chilldspot結成の経緯を教えてください。
比喩根(Vo.):私がみんなを誘ったんです。藤原さくらさんのような女性のシンガーソングライターに憧れ、弾き語りを始めました。でも、ひとりでは、自分が思い描いた音楽ができないなと思い、まずは幼なじみの小崎に“バンドをやりたい”って話をしてみたんです。ジャスティンは同じ高校の軽音楽部で一緒にコピーバンドを組んでいて。
ジャスティン(Dr.):玲山とは、いろんな高校の軽音学部が集う合同ライブがあって、そこで出会いました。
比喩根:私もジャスティンも玲山のギターにおお!となり(笑)。そんな感じで集まったのが、2019年の10月末とかかな。
比喩根(Vo.)
ー比喩根さんは、女性のシンガーソングライターに憧れて弾き語りを始めたとのことでしたが、皆さんの音楽のルーツを教えてください。
比喩根:私は元々ボーカロイドとかも好きで。ボカロの中にもいろんな音楽のジャンルがあるから、幅広く聞いていました。高校に入ってからは、R&Bやジャズ、ファンクとかも聞くようになって、やってみたいなって。SIRUPさんや藤原さくらさん、Nulbarich、最近はSe So Neonにハマっていたり。
小崎(Ba.):親の影響もあって、昔はよくロックを聞いていました。FACTやマキシマムザホルモンなど。比喩根と一緒にバンドを掘ったり、ブラックミュージックも聞くようになって。最近はKroiが大好きで、比喩根と一緒にライブにも行きました。
玲山(Gt.):昔は小崎と同じくロックが好きでしたが、最近はくるりの「琥珀色の街、上海蟹の朝」やtoeの「孤独の発明」とかをよく聞いています。メンバーからも教えてもらったり、今はいろんな曲を聞いて、吸収しています。
ジャスティン:僕は親の影響でエリック・クラプトンを聞いていたのが、最初の記憶。「いとしのレイラ」のアコースティックバージョンが好きな、生意気な3歳でした。小学校高学年くらいの時にラジオで聞いた、クリーン・バンディットにハマって。今は、僕のドラムの師匠から教えてもらったクエストラブが、chilldspotのドラムサウンドの基盤になっています。彼が参加しているバンドは、よく聞いて勉強していて。自分の好きな音楽とchilldspotのサウンドはリンクしているから、みんなと楽しく活動しています。(笑)
小崎(Ba.)、玲山(Gt.)
ー皆さんのサウンドは、まだまだ広がって行きそうですね。音楽以外で好きなことや特技などはありますか?
比喩根:私は漫画が好きですね。 「ブルーピリオド」、「メイドインアビス」、「クジラの子らは砂上に歌う」とか……大今良時さんの作品もオススメです。
小崎:僕はゲームが好き。夏休みは一日中ゲームをやっているくらい。その反面、ダンスも好きで、高校の友達と主にストリートダンスをしています。みんなで円を作って、その真ん中で即興で踊るんですけど、そのグルーブ感が面白いし、バンドにも繋がります。
玲山:今日の取材の前に、考えたんですけど、僕には趣味とかないな……って。唯一、飼っているネコかな。保護ネコたちが4匹います。自分のアイコンとか、結構ネコで溢れてる。
ジャスティン:僕はフィルムカメラですね。常にポケットに入れていて、自分のインスタに結構アップしているんですけど、ゆくゆくはジャケ写など、何かしらに活かせればいいなと思っています。あとはチェックシャツ。いつもチェックシャツを着ていて、よく探しています(笑)。
ジャスティン(Dr.)
ーchilldspotの楽曲は、主に比喩根さんが作られているとのことですが、普段はどのように制作を行っていますか?
比喩根:曲を作る上で習慣になっているのは、“感情が溜まったら作る”こと。音楽は私の吐口なのかも。昨年の11月にリリースした1st EP『the youth night』にも収録されている「夜の探検」は、高校一年生のときに初めて作った曲なんですが、ポロんとギターを弾いていたら、いいなと思ったコードがあって。それにあうメロディーや歌詞ってなんだろうと、全部の要素を同時に詰めて行ったのがこの曲です。曲を作るときは、だいたい夜。一番ゆっくりできるし、ひとりになれるから。22:00くらいに作りはじめて、朝4:00までとかやって、そのまま学校に行って寝ます(笑)。DTMを使っての作曲も絶賛勉強中ですが、基本弾き語りスタイルですね。声とギターとクリックだけ。そこから歌詞を詰め込んで、メロディーもそれにあわせて調整して。
自分の心のうちに問いかけた曲でもある
ー新曲「Monster」はどんな感情が溜まって、曲へと昇華されたんですか?“あなたは誰なの”と、まるで自分に問いかけられているような感覚でした。
比喩根:ある友達が、家庭事情について打ち明けてくれたことがきっかけでした。高校の友達とは、身近な問題から私たちなりに感じる社会問題とか、深い話をすることが多いんです。マックとかサイゼで(笑)。その子は、パステルカラーのものや髪の毛を伸ばしたりすることが好きな男の子で、その姿を見た彼のご両親が、彼にすごく酷い言葉を放って。彼は、自分の好きな表現ができないことに苦しんでいました。いくら両親だとしても、個性や表現を制限してしまうことはよくないことだと思う。私の家族は、ひとりの人間として対等に意見を言い合える関係性があるので、それが叶わない友人の話を聞いて、いろんな感情が湧き上がりました。友達のように世の中には同じにように悩んでいる人がたくさんいると思う。“立場や威厳の前に1人の人として聞くわ”。そんな人たちへの問題提起を、この楽曲に託しました。だけど、曲を制作しているうちに、そんなことを言っている“私は誰なんだろう”って。私自身、知らず知らずのうちに、自分の価値観を他人に押し付けて、誰かを傷つけているんじゃないかと不安になりました。なので、この楽曲は自分の心のうちに問いかけた曲でもあるんです。
ー同じリズムを刻みつつ、パートごとに色が変わる鮮やかなサウンドも印象的でした。
比喩根:私が弾き語りで作ったデモからは、想像もつかないサウンドに仕上がりました。今回は歌詞にあわせて、力強い楽曲にしたかったので、今までと少し雰囲気を変えてみたいとみんなに相談をして。
玲山:基本的に伴奏隊のノリはずっと一緒。弾き方で音色や強弱の変化を付けました。そこの工夫にこだわりました。
小崎:前のめりにグルーブ感を出しているところが、この曲の特徴かな。
ジャスティン:まさにその通りです。僕らが今までに作ってきた曲は、どちらかって言うと後ろノリ。今回は勢いを出すために前のめりにしました。フレーズに関しても、ここは早くしたほうがいいとか。試行錯誤を繰り返しましたね。
ー高校生活が終わるこのタイミングでの本作のリリースは、意識的なことだったんですか?
比喩根:子供と大人の間にいる今の私たちは、いい意味で無責任でいられて、真っ直ぐな意見を等身大のまま言えるので、このタイミングでリリースしたいと思っていました。今感じている想いを綴った楽曲だからこそ今リリースすることに意味があると思うし、意見を主張すること=恥ずかしいことだと感じている同年代の人たちにも、そんなことはないんだよって伝えたくて。
ー自分の意見を自由に話せる場、意見交換できる友達が、皆さんの活動を支えるひとつの要素なのかもしれませんね。
ジャスティン:コロナの影響で、僕たちの高校生活は、途中から非日常になってきて。文化祭も体育祭も卒業旅行も、いろんな行事がなくなったし、半分くらい家での自粛生活だったので。だからその分、友達と話す時間が増えたのかも。電話とかで朝まで話したり。夜が深くなればなるほど、話の内容もどんどん深くなっていって。制作中は特に意識していませんでしたが、改めてこの楽曲の歌詞を見ると、思い当たる節や考えるべきことがたくさん出てきて、いい曲だなって。
バンドという固定概念に囚われることなく活動していきたい
ー今ひとつの分岐点を迎えた皆さんのそれぞれの目標や、この先のビジョンを教えてください。
ジャスティン:音楽の側面だと、もっとたくさんの方にchilldspotを知ってもらってバンドの活動を広げていきたい。またひとりのドラマーとして、他のアーティストの現場も経験してみたい。もっと先の話だと、プロデュース作業とかも。あとは、話すことが好きなので、ラジオ番組なども持ってみたいです。
玲山:音楽はもちろん続けて行きますが、僕はバンドメンバーの中で唯一、4年制の大学に進学するんです。経済学に興味があって、そのために必要なことやプログラミングなどを学びたくて。自分の可能性を広げて行きたいです。
比喩根:chilldspotの初レコーディングのとき、玲山に、経営がやりたいからバンドを辞めたいって言われて、三人で「お前が必要なんだ」って半ば洗脳みたいに、バンドに残ることを懇願しました。この四人の性格的なバランスがすごく取れてるバンドだし、玲山のギターで曲の雰囲気が完成されている部分もあったので。
小崎:吉祥寺のハンバーガーショップで必死にね。
玲山:これからもお願いします(笑)。
小崎:(笑)。僕は好きなジャンルの音楽がたくさんあるので、バンド活動だけでなく、マイペースに活動の幅を広げて行きたいですね。あとは、表現者としてダンスや写真など、限界を決めずにとにかくいろんなことにチャレンジしたい。将来的には、クリエイターとして世界に発信できたらいいなと思っています。
比喩根:5年後、10年後になっても、当たり前に努力のできる人でいたい。今までは、中の上で満足するタイプで、正直、ちゃんと努力をしたことがなかったんですけど、プロのミュージシャンの覚悟というか、ストイックさを目の当たりにして。これは本気で努力しないと本当に置いていかれるなと思って。今できる努力を頑張ってして、それを日常にできるようにして、またそれ以上に努力をして、今度はまたそれを日常にして、どんどんパワーアップして行きたい。あとは、ソロとして曲を提供してもらったり、私も誰かに提供してみたい。その中で自分の新しい一面を、表現できたらいいなと思います。あと、好きな帽子も。ブランドさんとかとコラボして作ったりできたら、面白そうだなと思っています。
ー最後に、chilldspotとしてチャレンジしたいことや計画していることを教えてください。
比喩根:壮大な話になっちゃうんですけど、バンドという固定概念に囚われることなく活動していきたいです。曲がミクスチャーであるのもそう。例えば、バンドセットをシンプルに観せるライブをやったかと思えば、millennium paradeのような映像やセットにもこだわった演出を加えたり、表現の幅を広げたい。
ジャスティン:映像を作っている友人がいて、その子と昨年millennium paradeが国際フォーラムでやっていたライブを観に行きました。彼らの存在によって、周りにも、VJや映像演出をやりたいって言ってる友人が多くいます。millennium paradeのように、クリエイティブチームとバンドの関係がもっと密接になって、一緒に活動ができたら理想的だと思っています。
比喩根:若いからこそ貪欲にガツガツ行って、成長して行きたいですね。私が言うのも野暮だけど、みんなをバンドに誘ったのは、音楽性もそうだし、高校生ながらに素晴らしいものを持っているなと思っていたから。今は私の歌を引き立てるって言ってくれているけど、いずれは、演奏隊が中心となったインストの音源も作りたいと思っています。みんながそれぞれの目標に向けて活躍できるくらいに、まずはバンドを成長させて行き、最終的にはchilldspotがひとつの芸術作品になれればいいなと思っています。
INFORMATION
chilldspot
「Monster」
2021年3月19日 配信リリース
https://lnk.to/_Monster
Twitter:@chilldspot
Instagram:@chilldspot_official
YouTube:https://youtube.com/c/chilldspot
レインボーエンタテインメントHP:http://rainbow-e.co.jp/