Interview:MONO NO AWARE
4th Album『行列のできる方舟』
言葉を扱うバンドが言語化した、思っているけど言ってないこと

Photography_Ryuichi Taniura Text&Edit_Maho Takahashi

Interview:MONO NO AWARE
4th Album『行列のできる方舟』
言葉を扱うバンドが言語化した、思っているけど言ってないこと

Photography_Ryuichi Taniura Text&Edit_Maho Takahashi

足並みを揃えることに疲れたけど、いきなり乱すこともできない。6月9日にリリースされるMONO NO AWAREの4thアルバム『行列のできる方舟』は、そんな朦朧とした心を地についた言葉で救い上げてくれる一枚だ。人と関わることで生まれる“自意識”に焦点を当てた本作は、各々が対峙した世界観から広がったサウンドと歌詞がこれまで以上に融合している。一貫して温かかった前作を経て、大きく変遷した世の中とともに辿り着いた一枚は、どのように生まれたのか。理想だけではどうにもならない、今を共生することについて。メンバーに話を訊いてみた。

確実に言いたいことはあるけど、
思い描いているものをどう言語化するかに困った

ー今回のアルバム『行列のできる方舟』は人間関係における“自意識”にフォーカスしていますが、テーマに至る経緯を教えてください。

玉置周啓:思ったより人間関係というのは複雑なんだということを去年から考えていて。何か人間関係に問題があったというよりは、良かれと思って相手にしたことが実は求められていなかったり、言いすぎたと後悔していたことを、案外向こうは何も気にしていなかったり。そういう小さなすれ違いというか、自意識が生む悩みってなぜ起こるんだろうと思い巡らしていたことから、このテーマに至りました。

ー前作『かけがえのないもの』は事前に歌詞の意味を共有したそうですが、今回はどのように制作を進めましたか。

玉置:今回は歌詞がほぼ定まってない状態でレコーディングした気がします。歌詞ありきのバンドでもあるので、最初に考えてはいたんですけど、一部しか言語化できなくて。確実に言いたいことはあるのに、思い描いているものをどう言葉にすればいいか分からず、なかなか歌詞ができなかったんですよね。

柳澤豊:バースの歌詞だけ付いている曲もあったけど、大体は曲の構成とかアレンジがある程度定まってから、周啓が持ち帰って歌詞を付けていった印象ですね。

加藤成順:大枠のオケを録ったあとに、歌入れは家でやりました。リラックスしている空間でやったから、そこで大きく歌詞が変わったりもしたよね。

玉置:メンバーとの会話や、音から感じる空気をヒントに作りました。軸となる歌詞の制作から作曲、オケ録りまで終えて、また作詞と向き合うみたいな感じで。

竹田綾子:「水が湧いた」はデモ入れから構成を変えたよね。最初から展開の少ない曲にしようとみんなで構想していたけど、なかなかしっくりこず。実験的にタブラという楽器を使ったゾーンを入れましたが、完成してみると、おお!って。こういう作り方は今までなかったので、スタジオで生まれたアイデアが形になることに感動したし、改めてレコーディングの楽しさを実感しました。

ー他にも新たな楽器やソフトを取り入れたり、制作面にも変化があったそうですね。

柳澤:今回ドラムサウンド的なところから一度離れたいと思って。既存のいいドラムの音ってめっちゃあるし、叩いてても作りたいものが想像の範囲を出ることはない。だから太鼓ありきで音を決めずに、ロジックやソフトで音を作ってエフェクトをかけたり、自分の可能性が広がった気がします。「幽霊船」ではスネアを別で録って重ねたり、「LOVELOVE」にはコンガのパーカッション的な音を入れたり、曲にも反映できたと思います。

玉置:僕がプリセットで作るドラムの音は、変哲もないので実際の仕上がりがイメージしづらいんですけど、豊から戻ってくると音に広がりが出ているので、それで進んだ歌詞もありました。そういう制作上のメリットもありますね。

加藤:曲に対してドラムやギター以外の楽器を取り入れられたのは、前回と大きく変わった点です。12弦の方が合うなと思ってレック前に入れたり。基盤の世界観が広がった状態に歌詞が付いてきたので、そういう意味での強度は上がった気がします。

ーサポートピアノが入った「LOVELOVE」も印象的でした。

玉置:実は「LOVELOVE」も昔の曲で。「ゾッコン」の後に描いたので、20歳くらいかな。その時のデモにもピアノが入っていて、今作のサポートでベースに入ってくれた清水くんがピアノも弾けたのでお願いしました。

加藤:前回のアルバムでも生ピアノに挑戦したんですけど、意外と難しくて、周啓が打ち込んだピアノをそのまま使って。

玉置:打ち込みのピアノがいい曲と、生ピアノの音の方がいい曲があってね。

柳澤:前の曲だと打ち込みのような少し質感を強調したシンプルな音がハマったんですけど、今回は響きのある生の音がしっくりきたんです。

みんな口に出してないけど、
身体感覚的にはそう思っている

ーここからは歌詞についても詳しく伺いたいのですが、まず冒頭の「異邦人」はタイトルの通り“私は異邦人”というサビが印象的でした。

玉置:みんな口に出してないけど、身体感覚的にはそう思っているのかもしれないことを、歌詞として言語化する試みもあって。社会の動きとしては、一つになろうとか、認め合おうっていう方向にむかいはじめているけど、それって本当にみんなフィットしているのかなって。いがみ合えとは言わないけど、努力すれば通じ合えると思って生きることも、正直キツくなってきてるんじゃないかなと。少なくとも僕はそういう気持ち。人間はバラバラで理解し合えない存在同士だけど、それでも共生していけばいいじゃんって。そんな想いをこのサビに託しました。

ーだからメロディは明るいんですね。

玉置:そうですね、昔からポップなのに歌詞が重いとか、そういうギャップが好きなんでしょうね。時代的に暗い曲は全く求められていないし、自分も作りたくはないけど、夢みがちなことを言っている場合でもないとも感じていて。

ーそれは「幽霊船」にも重なる部分なのでしょうか。歌詞は出航するイメージなのに、乗っている船はすでに幽霊船という。

玉置:新たに自由な世界へ行けば、必ずしも救われるわけではないってことをアルバムを作りながら考えていました。出航に喜び勇んでいても、側から見れば幽霊船に乗った骸骨のような、自分も含めどこか死にながら踊っている気がしていて。頑張りたい人を揶揄したいわけでも、ネガティブに捉えてほしいわけでもないので、最後は“幽霊船から飛び降りて”で締めているんです。

ー「孤独になってみたい」も、なって“みたい”という言い回しがいいですよね。孤独というワードに反してポップな響きだなと。

玉置:これも実は思っていることの一つで。今それを口に出したら空気が読めていないことになるから、何も言えないって感覚の人が多いんじゃないかな。別にその人たちに向けて作ったわけではないけど、僕がそう感じている。もしかしたら贅沢な悩みだし、孤独で苦しんでいる人に対して失礼なことだけど、このどうしようもなさってなんだろうなって。本当の孤独を望んでいるというより、しがらみを捨てて一旦独りになりたい。だから“みたい”ってのは結構大事かも。

ーなるほど。今回は恋愛を歌った曲もいくつかありますよね。「ゾッコン」とは対照的な「LOVELOVE」は、恋人同士ゆえの不安が描かれている気がします。

竹田:当時ライブに来ていた友達が、“街中に監視カメラを仕掛けたい”って歌詞を聞いて、周啓のこと心配していたよね(笑)。

玉置:そうだった。その通り歌詞はクサいし、イタいし、こわいと思うんです。だから24、5歳になると別の自意識が生まれて、なんか演奏できなくなってしまって。でもそこから3、4年経った今、逆に行けるかもって感覚が湧いてきて。あの時期にしか描けないものだし、読み直してみると意外と真理に近い気がして。「LOVELOVE」で描いたような、結ばれたゆえの不安って自意識が惑わしていると思うんです。そんな人間関係における、愚かな愛すら大切にしたいという心持ちが今作に合うと思いました。

ー「ダダ」にもそういう恋愛の“上手くいかなさ”を感じました。

玉置:そういえば「ダダ」も昔の歌詞だな。

加藤:曲の構成も大体できていたよね。

玉置:そうそう。昔、自主制作で一度音源化をしていて、今回はアレンジを変えたんです。歌詞的には、好きだけど別れた方がいい状態というか…これは説明したら一時間くらいかかってしまうほど絶妙な問題なんですけど、それが“自意識”に通ずるものなんだと思います。

ーラストを飾る「まほろば」 は、“方舟”が出てきますね。理想郷という意味もありますが、歌詞からは浮き足立つ様子はなく、節々で切なさすら感じました。

玉置:革命を起こして、自分たちの望む自由な世界へ行くことが方舟に乗ることであるならば、すでに乗ってしまっているから、これ以上はどうしようもないという肌感で描きました。結局カウンターカルチャーとして出てきたものは、次にカウンターされる存在になる。それが時代の新陳代謝であるなら仕方ないのかもしれないけど、衝突的な自意識の立て方が何も生まない世の中になってきているし、人それぞれという言葉で全部相対化されてしまうので、そういうスタンスの表現を辞めたいと思ったんです。そこの言語化は最後まで困ったし、今もできないんですけど、唯一「まほろば」 に書いたことが限界点だった気がします。

ーその温度感がすごく心地良いと思いました。このような情勢ですが、リリースツアー開催に向けた今の気持ちを教えてください。

竹田:やりたいね。

玉置:基本的なことですけど、まずは無事に開催されてほしい。状況は違えど、お金を払ってくれた人に対価分のパフォーマンスを返すのは、今までと何ら変わらないし、そのために今のライブを練習しています。僕らも練習しているから、みんなも健康第一で無事に会いましょう。開催できたらソーシャルディスタンスも感じさせないくらい、楽しいライブにするのでそこは期待してください。

INFORMATION

MONO NO AWARE
4th Album『行列のできる方舟』

発売:2021年6月9日(水)
収録曲:
01. 異邦人
02. 幽霊船
03. 水が湧いた
04. そこにあったから
05. LOVE LOVE
06. ゾッコン
07. ダダ
08. 孤独になってみたい
09. 5G
10. まほろば
品番:PECF-3261
定価:¥2,860
形態:CD
配信:https://mononoaware.lnk.to/hakobune

「ODORI CRUISING」

6月20日(日) 札幌SPiCE(Open17:00/Start17:30)
7月2日(金) 仙台CLUB JUNK BOX(Open18:30/Start19:00)
7月9日(金) 大阪umeda TRAD(Open18:15/Start19:00)
7月11日(日) 福岡CB(Open17:00/Start17:30)
7月16日(金) 名古屋ボトムライン(Open18:15/Start19:00)
7月17日(土) 金沢GOLD CREEK(Open17:30/Start18:00)
7月25日(日) 東京Zepp Diver City’Open17:00/Start18:00)


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