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Daichi Yamamoto 『WHITECUBE』
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Daichi Yamamotoの2ndアルバム『WHITECUBE』が6月16日にリリースされた。すでに聴いた人も多いだろう。コロナ禍の中で制作され発表された今作には、Daichi Yamamotoが今の時代に感じる思いが詰め込まれている。1stアルバム『Andless』の頃とはリリックの描き方も変えたという本作、そこには新たなDaichi YamamotoのHIPHOPであり、今だからこそ心に響くメッセージが歌われている。『WHITECUBE』という作品は自身にとって、どんな存在となったのか。
ー『WHITECUBE』というタイトルや1曲め「Greetings」にあるリリックからも読み取れるように、本作はアルバムという作品をインスタレーション的に提示していると感じたのですが、いかがでしょう?
Daichi Yamamoto(以下、Daichi):『WHITECUBE』という展示空間をイメージしていて、世間から隔離されたところで作品を制作し、それを展示するというテーマ性がありますね。これは前作『Elephant In My Room』のときも同様のイメージではあるんですが、今作に関しては、もう少し時代性が影響しているというか。コロナ禍の中で、人間の生活から切り離された感覚がすごくあったんですよ。人とあんまり会わなくなったり、街に人がいなかったりとか。ふとした瞬間に生活ってなんなんだろうって思ったり。生々しさが世の中から感じられなったんですよね、ジオラマを見ているような気分といか。そういうニュアンスもあって、ホワイトキューブの中にいる、というイメージがあったんです。
ーやはり、コロナ禍には影響を与えられましたか?
Daichi:そうですね。すごく影響していると思います。考え方やインスピレーションを得る場所も限られて、自分と向き合う時間が多かったので、テーマ的にもそういう楽曲が自然と多くなりましたし、周りの人とかコンタクトが取れる人の話を聞きながら共感できる部分をピックアップしていきつつ制作を進めていました。
ー人の話から連想された楽曲は、例えばどの曲が該当しますか?
Daichi:4曲めの「Cage Birds feat.STUTS」とか。コロナの影響で仕事がなくなった知人の話を聞いて、それをもとに歌ったりしています。”コロナ”という具体的なフレーズは出していないんですが、テーマとしてありますね。
ーそういった時代性が反映されている楽曲として2曲め「Love+」は象徴的なリリックだと思うんですよ。「分断されてる世の中で」という言葉はすごく強いですよね。
Daichi:2020年の前半は特にSNSを見ても意見が二極化されていたり、人々の間に溝が開いていく感じがあったじゃないですか。まさに分断されていると感じていましたし、そういうことに、ふと疲れたなという瞬間があってそのことをそのままストレートに歌っている楽曲でもありますね。そこに対する自分の見解を先にリリースしていた「Paradise feat.mabanua」で描いたつもりではあったんですが、このフレーズがずっと残っていたので「Love+」にも表現したらハマった感覚があります。
ー「Paradise feat.mabanua」は『WHITECUBE』にも収録されていますね。客演にISSUGIさんが参加されているのは、どういう経緯が?
Daichi:ISSUGIさんが「Paradise feat.mabanua」を聴いて「あの曲がカッコいい」って言ってくれているよって話を人づてに聞いて、リミックスをお願いできるなら是非! と思ってお願いさせたいただいたんですよ。
ーなるほど。客演という意味では9曲め「Pray feat.吉田沙良(モノンクル)」も実に印象的な組合せですね。
Daichi:桑原あいさん(ジャズピアニスト)の方と公演で一緒になって、そのときからモノンクルの音源をチェックしていたんですよ。この楽曲はパーソナルなことを歌っているので、サビのパートを自分じゃない人に、この曲のコアな部分を汲み取って要約してくれるようなサビを歌ってほしくて、吉田さんがバッチリ合うなと思って声をかけさせていただいたんです。
ー客演の流れで。3曲め「Simple feat.釈迦坊主」、プロデュースはLapistarですが、今回が初のタッグとなりますか?
Daichi:初めてですね。釈迦坊主さんはレッドブルがキュレートする「RASEN」という企画でご一緒させていただいて、いつか一緒に何かやりたいと思って連絡を取り合っていたんです。今作で、そのタイミングがきたんでオファーさせていただいて。Lapistarさんはインスタで見つけて声がけさせてもらったんですよ。
ーそうなんですね。普段からSNSなどでプロデューサーを探されたりもしているんですか?
Daichi:いえ、意図的に探しているわけではないんですけど、SNSでコミュニケーションが生まれることは多々ありますね。「Pray feat.吉田沙良(モノンクル)」をプロデュースしてくれたRNSOMさんも、向こうから連絡をくれましたし。自分の知らないところ、繋がっていない人の表現が気になる性質でもあるので、そういう出会いは大事にしてます。RNSOMさんはすごくいい人で、けっこうな量のビートを送ってくれて。あまりにも送ってくるんで「今、スランプで(リリックが)書けないんだよ」って伝えたら、わざわざFaceTimeで連絡くれて、「一行でもバシバシ描いて100曲でもラップしまくって、そこから絞っていけばいいんだよ」とか、そんな風に励ましてくれたり(笑)。すごく背中を押してくれるタイプで助かったなって。彼曰く、自分はそんなに日本語が上手じゃないし英語圏の方と曲をよく作っている、と仰ってて、日本在住のおじいちゃんやおばちゃんに聴かせられる日本の曲を作りたい、という気持ちがあったようです。そのアーティストとして僕を選んでくれたことが嬉しかったし、そういう出会いがこのコロナ渦でもSNSであって嬉しかったです。
ーバラエティに富んだプロデューサー陣がいることもあると思うのですが、トラックが非常に賑やかで、ジャンルレスに感じました。その辺りのバランスを考えた部分はありますか?
Daichi:もともとアルバムを二分割しようと思っていたんですね。真ん中の6、7曲め辺りに「Paradise Remix feat. mabanua, ISSUGI」がきて、その前後で明るい話と暗い話を分けて描き、1曲めと13曲めが対比した内容になるように進めていたんです。結果的にごちゃ混ぜにしたんですけど、それでこういうバランスになったのかなと。
ー二分割ではないんですが『WHITECUBE』を通して聴いていると、11曲めの「Paradise Remix feat. mabanua, ISSUGI」までの流れから、それ以降の2曲ではリリックの内容が一気にパーソナルなものになっていると感じました。
Daichi:そうですね。「Paradise Remix feat. mabanua, ISSUGI」で1回アルバムが作品として終わっているイメージなんです。12曲目め「maybe」と13曲め「Testin’」は番外編じゃないですけど、終わった話の続きみたいなイメージでした。
ーこの2曲で描かれているのは1stアルバム『Andless』では見られなかった世界観だと思います。Daichiさん自身の個人的な話を思わせる内容を歌っていると思うのですが、ここは意識的に表現を変えたんですか?
Daichi:意識はしてなかったんですけど、リリックの書き方を変えたんです。それが影響したのかな。今までは曲を聴いてイメージを書き起こしたりしてたんですけど、今回はイメージが湧いたらすぐに録るってことをしていたんです。覚えられる範囲の言葉だったり自分の口から出てくる言葉を大事にしたというか。文字に起こした途端、言葉が出てこなくなるだとか、僕が好きなラッパーがそういうことを言っている人が多いんです。ソクラテスも同じようなことを言っているんですよ。自分の言った言葉を書き残すと、そこで言葉が死んでしまうといったことを。話す感じの言葉遣いって直接的でいいんじゃないかなって考えていたので、以前と違う表現だと感じるんだと思います。ジェームス・ブラウンとかジェイ・Z、ビギーだとか、僕が聴いてきた好きなラッパーは同様に書き起こしていなくて、彼らのラップにある言葉の躍動感は全然違うと思うんですよね。そこにトライしたいと思ってやってみて「maybe」で、そのニュアンスをつかめた感じがしています。
ーでは、改めて今作のコンセプトを具体的に言うとしたら、どういう言葉になりますか?
Daichi:最初は、恥ずかしいんですけど裏テーマとして”LOVE”だなと思っていたんです。でも、制作を進めるうちに、1曲ごとに思い入れが生まれて、そこには人との繋がりがあって。そういう意味でのLOVEがあったので、「このアルバムは僕にとってLOVEを歌った作品です」って伝える方が合っていないと思うようになってきて。みんなで作った作品なので、自己中心的なコンセプトやテーマをつけたものにしたくない、というのが自分の中の答えになっていったんですよね。あと、『Andless』の制作の時は、その前に住んでいたイギリスの生活が反映されているリリックとかもあったのに対して、今作は京都で完成した作品で、このアルバムを聴いて京都を感じて欲しいって思いました。京都で聴くと、しっくりくるアルバムであってほしいなと。ジャマイカでレゲエを聴いたとき、しっくりきたんですよね、その感覚をつかみたいって思ってました。
ー自分の作品ではあるけども、一歩引いて見れるような感覚に近い?
Daichi:そうですね。1stアルバムの頃よりプロデューサーに任せられるというか。今までビートに対して100点の勢いで自分を主張したいっていうのがあったんですが、今回それがなくて。ビートに対してラップが負けていても、ビートがカッコよく聴こえたらいいやって考えに変わったので、そういう意味でもみんなで作った作品だと思いますね。客演の方々にしてもそうで、例えば「Simple feat. 釈迦坊主」で釈迦坊主さんが、後半のバースをラップしてくれているから、あの曲がカッコいいのであって、そこで自分のラップがお膳立てみたいになっていたとしても、それでいいというスタンスになれた感じです。
ー逆に言えば、自分がやれることを明確にしていった作品でもある?
Daichi:ええ。自分ができないことはできる人にやってもらって。その代わりに自分ができることをやる方が大事な気がしたんです。「Paradise Remix feat. mabanua, ISSUGI」でISSUGIさんから曲が届いたときも、それをすごく痛感しましたね。ISSUGIさんじゃないとあのリリックは書けないし、僕が同じリリックをラップしてもあそこまで伝わる内容にできないので。ISSUGIさんのバースが返ってきたとき、ハッとして、このアルバムの完成図が少し見えたんですよね、本当に素敵なリリックで、まさに代弁者というか。めちゃくちゃ嬉しかったです。
ー『WHITECUBE』。このコロナ禍に制作され、Daichiさん流儀に時代を描いた作品となったわけですが、この作品をリリースして、何かやってみたいことはありますか?
Daichi:ずっと制作してリリースしてきたので、もししたいことが出てきたらやりたいんですが、まだ先のことはそんなに考えていないんですよ。まずはゆっくりしてみようかなって。あと、とりあえずは海外に行きたいですね。普通に旅行で(笑)。イギリスはもう1回行きたいな。エジプトに行ったときに、すごく衝撃だったんですが、そんなインパクトを与えてくれる国に行きたいです。
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