OTHER 2025.05.23

adidasがゴルフカテゴリーの大規模な発表会をドイツ本社で開催 編集部の潜入記・前編

EYESCREAM編集部

少し前の話になるが去る2月、ドイツ郊外の街ヘルツォーゲンアウラッハにあるadidasの本社“WORLD OF SPORTS”にて、ゴルフカテゴリーの大規模な発表会が行われた。これに、EYESCREAM編集部は日本を代表するメディアのひとつとして、世界各国から招かれた関係者と共に潜入。そのプレスツアーの模様を、前後編の2部構成でお届けする。

まず発表会について触れる前に、adidasが本社を構えるヘルツォーゲンアウラッハという街と、広大すぎる“WORLD OF SPORTS”についてご紹介したい。“adidasのお膝元”こと通称ヘルツォは、フットボールの世界的強豪FCバイエルン・ミュンヘンで知られる南部バイエルン州に属し、人口は3万にも満たない小さな田舎町だ。緯度は、アメリカとカナダの大部分の国境線と同じ北緯49度。訪れた2月初旬は寒さが非常に厳しく、6日間の滞在中の平気気温は0℃を下回り、最低気温がマイナス6℃を記録した日もあった。

ヘルツォの最寄りの空の玄関口はニュルンベルク空港となるが、直行便は日本から就航しておらず、フランクフルト空港やパリ=シャルル・ド・ゴール空港などを経由する必要があり、羽田空港からはおよそ20時間弱。そして、ニュルンベルク空港から本社までも距離があり、広大な野原を横目に1時間45分ほど車に揺られ、ようやく到着する。余談だが、ドイツの高速道路は“アウトバーン”と呼ばれる速度無制限の区間があり、スピードメーターが時速180kmを指すのもザラ。もし“アウトバーン”がなければ、2時間以上はかかるだろう。

事前情報として「とにかく広大」と耳にしていた本社は、敷地面積が約60万平方メートルと、サッカーコートに換算すれば約112面分に相当し、ざっくり6つの建物・エリアから構成されている。足を踏み入れて真っ先に目に飛び込んでくるのが、“ARENA”と呼ばれる社屋だ。この格子模様の近未来的な建物は、創立70周年を記念して2018年に誕生。3層構造から成るオフィスフロアの総床面積は約52,000m²で、2000人近い従業員たちが働いているという。なお、内部中央の吹き抜け部分に伸びる階段は、1〜3階で全183段あり、1年間毎日登り降りすればフルマラソン完走時と同等のカロリーが消費できるとか。

また、玄関へと伸びるアプローチのスタート地点には、創業者であるアドルフ・ダスラーの銅像が鎮座し、道中にはスタン・スミスやリオネル・メッシ、ジネディーヌ・ジダンら歴代のadidasアスリートたちの原寸大の足跡が刻まれ、歩を進めると同時にブランドが歩んできた歴史を感じ取ることができる仕掛けに。

“ARENA”を出ると目の前(と言っても100m先)に広がるのが、同じく2018年に完成した菱形の建物“HALFTIME”である。V字型のコンクリートの梁により、屋根の3分の1が天窓となっているため、屋内は柔らかい自然光が降り注ぐ心地よい空間に。ここは会議室やショールーム、社員食堂などを擁するほか、ヒストリーコーナーと呼ばれる展示ブースも備えられている。

ヒストリーコーナーは、定期的に展示内容が変わるそうで、この時は75周年記念展示が行われていたほか、常設ギャラリーでは創業時から現在に至るまでの主要トピックスが貴重なアイテムと共に解説されている。

中には、社名を登記申請する際、adidasではなくa“dd”asを予定していたが、直前になって類似するキッズシューズブランド名の存在が発覚したため、急遽“dd”の間に“i”を付け加えたことが分かる書類も。そのため、最初に刷られた名刺のロゴデザインは、addasのママになっている。

お次は、“HALFTIME”から徒歩5分ほどの場所に位置し、本社のコアとも言える“LACES”に。その名の通り、デザインからマーケティング、ブランディング、リサーチまで、さまざまな部署間を“靴紐”のように結ぶ施設で、宙を走る空中廊下もどこか交差するシューレースを彷彿とさせるが、こちらは物理的な回遊のしやすさを求めて後から増設されたそうだ。また、後述する4万点以上のアーカイブプロダクトの保管庫“THE ARCHIVE”も、この“LACES”の地下1階部分にある。

そして、“LACES”から500mほど進んだ本社最深部にある“HOMEGROUND”が、招待客のための宿泊施設だ。これまで紹介してきた施設とは打って変わったウッド調で、カフェテリアからワークスペース、ラウンジ、プール、サウナ、ゲーミングルームまでを完備。肝心の宿舎は、2020年のUEFA欧州選手権の際にドイツ代表をホストするために作られ、枝分かれした木道沿いに17戸(各4ルーム)のロッジが点在。どの部屋もプライバシーの保護と安らぎのために寝室とベランダが森に面しているのが特徴だ。

ちなみに、建物間をスムーズに移動するため、敷地の方々にはシェアサイクルが配置されている。このadidas Originals仕様のブルーカラーを纏った二輪車は、鍵がついておらず専用のアプリも不必要で、いつでも誰でも自由に乗ることが可能。日常的に利用している本社スタッフの横で、嬉しそうにペダルを漕ぐ招待客も散見された。

少し前置きが長くなってしまったが、ここからはadidas Golfにおける発表会の模様をレポートする。
発表会は2日間にわたり“HALFTIME”の地下1階で開催された。1日目のメインコンテンツは、最新ゴルフシューズAdizero ZG 25をはじめとした今年展開されるadidas Golfのパフォーマンスプロダクトについて。

ひとしきりadidasというブランドそのものに関するプレゼンテーションが終わったのち、アディダス ランニングおよびセレビリティスポーツ部門でゼネラルマネージャーのアルベルト・ウンチーニ・マンガネッリが登壇し、「ゴルフに根付いているスポーツブランドとは異なり、スポーツブランドからゴルフに根付いたのは、adidas Golfしかないでしょう。そして、他競技で培った技術をゴルフへとアダプトし、トレンドにも即座に対応できるのが最大の強みなのです」と説明。さらに、ゴルフは生涯楽しめるスポーツであるがゆえに、さまざまな潜在性や可能性を持ち、「他競技に応用する技術や事例も存在するadidasにおいて必要不可欠なスポーツ」と熱弁を振る。

プレゼンテーションが終盤に差し掛かると、トークセッションのスペシャルゲストとして、アメリカやヨーロッパのツアーで優勝経験をもつ新進気鋭の注目選手のリン・グラントと、レアル・マドリードなどに所属していたフットボーラー時代からゴルフに明け暮れていたことで知られるガレス・ベイルの2人が登場。

Adizero ZG 25を「夢見ていた“絶対に滑らないゴルフシューズ”」と絶賛するリン・グラント

両者とも、すでにAdizero ZG 25の愛用者として実際にツアーなどでも着用しており、グラントは「ドライバーを打つ時、絶対に軸足を滑らせたくないので、スパイクレスシューズよりもスパイクシューズ派です。でも、Adizero ZG 25はスパイクレスシューズですがアウトソールがうまくデザインされているので全く滑る心配が無く、いつも考えていた“絶対に滑らないゴルフシューズ”の夢が叶いました。それに、スパイクシューズにはない履き心地が本当に快適ですし、私は硬いシュータンが足に食い込んでしまうので苦手なのですが、それが一切感じられないのも嬉しいポイントですね」と絶賛。

利き足は左だが、ゴルフでは右打ちだというガレス・ベイル

続けてベイルも、「フットボールでもゴルフでも、ハイレベルのパフォーマンスを発揮するには靴の機能性が欠かせません。僕の場合は、足を踏み込んだ時に内側で足が動いてしまうのが嫌なので安定性と、地面へのグリップ力が重要です。その点、Adizero ZG 25には大変満足していますね。あと、もしシューズの色をひとつしか選べないのならば迷わずホワイトを履くので、パーフェクトなシューズです(笑)」と感想を語ってくれた。

発表会後、グラントとベイルは“LACES”の1階に特別設置されたパターゴルフに移動し、Adizero ZG 25を着用してプレイ。現地スタッフも見守る中、20m強のロングパットを難なく決めて盛り上がっていると、なんとadidasのCEOであるビョルン・グルデンが登場する本社ならではのサプライズが。

なんでも、グルデン自身も大のゴルフ好きとのことで、いてもたってもいられずパターゴルフに参加しに来たという。しかし、残念ながらカップインはできず……。それでも、CEO自らが純粋にゴルフを楽しむために飛び入り参加する姿は、adidasのスポーツへの情熱と遊び心が垣間見えたひとときだった。

“LACES”の地下1階に位置する“THE ARCHIVE”

その後、adidasの軌跡が凝縮された保管庫“THE ARCHIVE”のナビゲートを受けることに。ここは、本社スタッフといえど誰しもが入室できるわけではなく、限られたメンバーしか立ち入りが認められていない神聖な場所で、今回、編集部はadidas Japanの計らいで見学することができた。

適切な保管状態を維持しなければ、このように崩れてしまうことも

我々をガイドしてくれたSusanさんいわく、創業者アディ・ダスラーが初めて手掛けたシューズから最新のユニフォームまで、4万点にもおよぶアーカイブが約250平方メートルのスペースに保管されているという。また、室内は保管に適した18℃の室温と55%の湿度にキープされ、これを保つために一度に入室できる人数を8人に制限。さらに、万が一の場合に備えて“THE ARCHIVE”の周辺には水道管を一切通しておらず、一部のスタッフは災害時に最優先で駆け付けることになっているなど、厳重なセキュリティ体制はadidasの中でもトップクラスだ。

そして、貴重なアーカイブに触れるにあたり、ダメージを与えないための専用手袋が配布され、いざ入室。Susanさんがまず紹介してくれたのは、SambaやStan Smith、Superstarといったゴルフ仕様のモデルも登場しているadidasのアイコンシューズのアーカイブだ。

1950年に発売されたSambaの初代モデル。1950 FIFAワールドカップ ブラジル大会を記念して制作され、開催国ブラジルの代表的音楽であるサンバからモデル名が名付けられた

「このミッドカットのスニーカーは、Sambaの初代モデルです。adidasが創業された1949年に冬季用サッカーシューズとして開発され、1950年に発売が開始されました。凍ったピッチ上でのグリップ力の問題から、ソールがスパイクではなくゴム仕様なのが特徴で、アウトソールに開けられた3つの穴が吸盤のような役割を果たしていたのですが、このディテールは現行モデルにも受け継がれているんですよ」。

「初代Stan Smith(*正式名称はStan Smith Haillet)は1973年に発売され、翌年からシュータンにスタン・スミス本人のイラストが配されるようになりましたが、現行モデルのイラストが採用されたのは1979年から。当初は、トレードマークの髭を生やしたイラストが採用されていたものの、パートナーに『髭を剃った姿の方が良い』と助言されたことから、1979年以降は髭が無いイラストに変わりました」

さまざまな年代と国から収集されたシューズボックス

続いて案内されたのは、歴代のシューズボックスだけをまとめた棚だ。デザインをよく見ると、さまざまな国から蒐集されていることが分かる。「状態の良いアーカイブは、日本で見つかることが多いんです。おそらく、日本の方々はモノを丁寧に扱う文化を持っているからでしょうね」

その後も、年代物のバッグやトラックスーツの定番Beckenbauerの初期品など、カテゴリーごとに分けられた棚を回りながらプロダクトの説明を聞いて回り、その途中には2018 FIFAワールドカップ ロシア大会時にLouis Vuittonとの協業で制作されたサッカーボール専用のトランクFIFA WORLD CUP OFFICIAL MATCH BALL COLLECTION TRUNKもお目見え。

ここで本日のメインディッシュとして、これまでadidasが展開してきたゴルフシューズの数々が登場。陸上競技やサッカーのイメージが強いadidasだが、先述の通り50年前からゴルフシューズを展開しており、1975年に生産されたadidas初の1足Fairwayから、世界ゴルフ殿堂入りも果たしているサンディ・ライルが1988年に「マスターズ」を制した時に履いていたモデルまで、adidas Golfの歴史が勢揃い。これらアーカイブの叡智と美学が背景にあるからこそ、最新作Adizero ZG 25は誕生したと実感する。

アーカイブツアーのラストを飾ったのは、「スペシャルなものをお見せして終えますね」とSusanさんが持ってきた2足。それは、アディ・ダスラーが初めて制作したシューズと、初めてスリーストライプスがあしらわれたシューズだ。前者は1925年に短・中距離走のために、後者は室内用シューズのために開発されたとのこと。スリーストライプスの誕生の経緯としては、ある日、白線の視認性の高さに気付き、実験的に2〜6本の白線をあしらう中で、最終的にスリーストライプスに落ち着いたという。

adidasが築き上げてきた歴史と軌跡、そして、その先に広がる未来の可能性と新たな挑戦の姿勢を強く感じた発表会の前編。5月下旬掲載予定の後編もお楽しみに。

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