MUSIC 2025.08.01

Review: go!go!vanillas “ダンデライオン” バニラズが表現する令和のディスコ・ロックチューン

EYESCREAM編集部
Text_Ryo Tajima(DMRT)

新境地的でありルーツを感じる 新たなアプローチが軽快な楽曲


7月23日にリリースされた「ダンデライオン」。go!go!vanillas(以下、バニラズ)の2025年第1作目となる楽曲であるが、いやー、この新曲がめっちゃヤバいのだ。そう、レビュー2行目にして早くも語彙力を失ってしまうほどにビックリなのだ。このままだと、「すげぇ、やべぇ、かっけぇ」っていう、海賊王を目指す少年漫画の主人公みたいな口調になってしまいそうなので、できるだけロジカルに、何がやべぇ、かっけぇ、なのかを考察していきたいと思う。

ーーと、細かな内容を書いていく前に、タイパ重視な読者のために総論的な感じで言っておくとすると、本楽曲はバニラズの新境地的な1曲だ。もちろん、これまでの10年を超えるバンドの軌跡とルーツを踏まえたうえで、だ。
ゆえに「やべぇ」のだ。再生ボタンを押して3秒後には「あっ、今までとなんか違う!」って衝撃を受けること確実。まぁ、聴けばわかる。「何それ、早く聴きたい」と思った読者はここで離脱してサブスクを開いてくれ。

「ダンデライオン」は7月からスタートしたTVアニメ『SAKAMOTO DAYS』第2クールのエンディング・テーマである。このアニメ(及び原作漫画)は日常と非日常が入り乱れ、シリアスさの中にコメディの要素がふんだんに落とし込まれている作品であり、平熱感のある描写の中で、急なパッションやエモみが投げかけられることで、ぐっと作中に惹き込まれ感動する。
静かなだけではなく臨場感のあるアニメなので、そのエンディングテーマをバニラズが手掛けるとなれば、楽しげで踊れるR&Rでくるか、カントリーミュージックを彷彿させるメロディで聴かせてくれるのか。はたまたブリットポップ的な賑やかさで魅了してくるのか。さぁ、どうなんだい!? ってワクワクを抱きながら「ダンデライオン」をスタート。
すると、聴こえてくるのは丸みのある四つ打ちのリズムにファンキーなギターリフと誘うようなベースライン。静けさを携えたイントロにシンセの音が重なり、そこに牧達弥(Vo,Gt)の歌が入って、マイナー調の叙情的なメロディが歌われる。歌い出しのAメロ(サビ)のラストに歌われる<ダンデライオン>のリフレインには80~90年代を彷彿させるノスタルジックな音色でシンセが効果的に絡む。<僕らには 最新技術はいらない>というフックを中盤に挟むが、その曲展開に感じるのはAOR的な発想。脳裏に思い浮かぶ光景は、これから家族と夕飯を過ごす時間を迎える、アーバンな夜の入口だ。繰り返し歌われるサビも、曲後半には幾重にもシンセが重ねられ、メロがループすることで曲が前進していくことを体感させられる。平熱感と不思議な浮遊感を伴ったままに曲は流れ、最後にはアルぺジオと共に美しいメロディでパッと曲が終わり、夢から覚めたような気持ちにさせられる。『SAKAMOTO DAYS』は冷静さが根底にある物語なのだが、「ダンデライオン」の雰囲気は、その平熱感や儚さ、主人公“坂本太郎”の心の拠り所を描いているようにも感じられる。

そういった刹那的な印象があるのは牧の情緒ある歌詞があってこそ。ストーリーはアニメ作品の内容を踏まえてのものであり、そこに準じたワードも多いが、<影法師>、<陽炎のように>、<僕らのデイズ>といった言葉は、まさにバニラズ節。日本語の妙というか、言葉が持つ印象によってリスナーは心を大きく動かされ切ない気持ちにさせられる。四つ打ちで淡々と流れていくリズムの上で。

「ダンデライオン」はバニラズによる令和のディスコ・ロックだと思う。
その新たなアプローチに「すげぇ」と食らってしまうわけだが、この曲を語るうえで重要なのが、2024年11月に発表された7thアルバム『Lab.』だ。タイトルの通り、バニラズの“実験室”的な作品であり、バンドのベースにあるロックにジャズやファンク、ビートミュージックなどをクロスオーバーさせたサウンドを表現した。
シングルカットされた楽曲を各々振り返ってみると、「SHAKE」には、R&Bとジャズの要素を織り交ぜたダンスロックを。「平安」ではシンセを使ったダンスミュージック的なアプローチが施され、「来来来」ではアークティック・モンキーズを彷彿させるパートを踏まえ、ルーツにあるUKロックからの流れを楽曲に落とし込んだ。「Persona」ではジェームス・ブラウンを彷彿させるファンクで踊らせてくれたりと、自身のルーツミュージックを現代に昇華させバンドの新たな音楽を形にしていた。そういった実験を踏まえ、バニラズはバンドとして、これまでにないほどの自由さを獲得しているのかもしれない。ブレない軸がバンドにあるからこそ、新たなアプローチを次々に取り入れることができる無双状態。そのようにして、新たな音を次々に取り入れて「ダンデライオン」に至ったのではないだろうか。だからこそ、本楽曲は派手な展開がなくとも豊かなストーリー性を持ち合わせている。

では、ファンクやディスコなどの要素が落とし込まれた「ダンデライオン」は、例えるなら、どんなロックのルーツがあるのかを考えていこう。
もともとブリットポップな楽曲もあるバニラズであることを踏まえると、マッドチェスターであろう。マッドチェスターは1980年代終わり頃にマンチェスターで興った音楽ムーブメントのことで、ダンスのビートを取り入れたロックのトレンドを指す。例えば、有名どころではザ・ストーン・ローゼズなどがいる。同バンドが1989年に発表したセルフタイトル作に収録されている楽曲には斬新さとノスタルジーの両方が感じられるが、その雰囲気が「ダンデライオン」にも感じられる。
だが、「ダンデライオン」は、牧の歌うメロディやレトロなシンセの音色も相まって、マッドチェスター直球というのもちょっと安直な気がする。そうだな、もう少し遡ってビー・ジーズはどうだろうか。60~70年代にかけて活躍したUK発のバンド、ビー・ジーズのディスコロックは今聴くとノスタルジック。あるいは、ちょっと飛躍するけど、四つ打ちにかこつけてビートルズの「Octopus’s Garden」とか。そんなローファイ感が「ダンデライオン」にあるように思う。
という、ここまでがサウンド面における考察だ。合っている部分もあるかもしれないし、全然そうじゃないかもしれない。だが、バニラズが『Lab.』を経ての新曲をこういったアプローチで表現したというのは、リスナーにとってはすごく面白いことだ。考察なんてものは想像しながら楽しむものなので、別に合ってなくてもいい。バニラズの音楽が好きな人は、どんな音楽的背景があるのかな? とか。アニメ作品と、どんな親和性があるのだろう? などと思いながら聴き込んでみるといいと思う。個人的に、夕暮れに合う楽曲だと思うので、通勤・通学の帰り道に「ダンデライオン」を聴いて、四つ打ちのテンポに合わせて、ちょっとリズミカルに歩いてみたらいいと思う。「ダンデライオン」はすげぇし、やべぇし、カッコいいんですよ。

INFORMATION

go!go!vanillas “ダンデライオン”

https://lnk.to/ggv_Dandelion
https://gogovanillas.com/news/detail/5411

go!go!vanillas SCARY MONSTERS TOUR 2025-2026
Hall Tour

2025年
10月14日(火)【埼玉】大宮ソニックシティ 大ホール
10月23日(木)【栃木】宇都宮市文化会館 大ホール
10月31日(金)【愛知】Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
11月1日(土)【大阪】オリックス劇場
11月14日(金)【長野】長野市芸術館メインホール
11月24日(月・祝)【宮城】東京エレクトロンホール宮城
11月28日(金)【北海道】カナモトホール
2026年
1月11日(日)【広島】上野学園ホール
1月12日(月・祝)【香川】サンポートホール高松 大ホール
1月30日(金)【福岡】福岡市民ホール 大ホール
2月1日(日)【熊本】熊本県立劇場 演劇ホール

Arena Tour
2026年
3月22日(日)【兵庫】GLION ARENA KOBE
4月19日(日)【東京】TOYOTA ARENA TOKYO
4月29日(水・祝)【愛知】日本ガイシホール

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