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名無し之太郎
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まず、「名無し之太郎」というバンド名が気になる。そう思った人は多いだろう。彼らは北海道函館市出身の4人組ギターレスバンドだ。メンバーは林(Vo/作詞)、⼆瓶(Dr/作曲・編曲)、⾼橋(Key)、中野(Ba)。2024年2月にメジャーデビューを果たし、アニメのEDテーマなども手掛けながら、2025年5月には1stフルアルバム『名箋』を発表。 彼らの音楽で特に惹かれるのは、まずは林の明瞭で凛とした歌声と詩世界だ。それを支える楽曲も実に個性的でバラエティ豊か。現代的なデジタルサウンドをマシマシにしたような派手さがない分、スッと耳に入って心に染み込んでいく感覚がある。 これが令和のポップスなのかどうか。そんなことはさておき、名無し之太郎の音楽には日本人ならピクリと反応してしまう本能的で原始的な魅力がある。彼らがどのように音楽活動をスタートさせ、今に至るのかについてインタビューした。

ー名無し之太郎は函館発のバンドですね。もとは同じ高校の軽音楽部で結成されたということですが、実際どのように集まったバンドなんですか? また、当初はどのような活動をしようと考えられていたんですか?
中野:軽音楽部内で、自分と高橋がいるバンドと、林と二瓶がやっていたバンドがあり、カバーをやったりしていたんですけど、コロナ禍もあってそれぞれのバンドが解散してしまい、そのタイミングで2バンドが合流して結成されたのが始まりになります。
二瓶:そこで、名無し之太郎として軽音楽部の全国大会に出場しようという話になったんです。オリジナル部門とカバー部門があり、僕らはオリジナル部門に出場して勝ち抜き、北海道代表になろう、というのが当初の目的でした。というか、あの頃はそれしか考えてなかったです(笑)。卒業後もバンドをやっていこうなんて話してなかったですから。
ーそれで、全国大会に出演されてどうなったんですか?
高橋:僕らが出場したのは『全道高等学校軽音楽大会』という大会で、2020年にはその新人大会で準グランプリ、翌年の2021年に優勝を果たしたんです。
ーそして、いわゆるスカウトの声などもあって、本格的に音楽活動をすることになり、メジャーデビューへと繋がっていったわけですよね。大会にはオリジナル部門で出場されていたということですが、その頃から作曲は二瓶さんだったんですか?
二瓶:そうです。最初に作曲したのが中学の頃で、クラスで歌詞を書いている友達がいたので、曲をつけてあげたんです。それが「How is the weather?」っていうタイトルなんですけど。
一同:(笑)。
二瓶:そんな経緯はあるんですけど、ちゃんと作曲を始めたのは名無し之太郎を始めてからです。
ーこれは、各インタビューで聞かれていることだと思いますが、バンド名の名無し之太郎にある“太郎”は中野さんのあだ名だったんだとか?
中野:そうなんですよ。本当の名前とはまったく関係ないんですけど。何も考えずに名付けちゃって今に至るっていう。
ーでも、そのアノニマス(匿名)なバンド名はミステリアスで、何かを特定しない分、音楽性も気になると思います。そういった匿名性が、表現する歌詞や音楽に影響を与える部分はありますか?
林:私の場合、バンド名を意識しながら制作することはないと思います。特に歌詞に関しては、いろんな解釈ができるように考えたり、人が心の中に持っている相反するものや、矛盾した感情などをテーマにしたものが多いですね
二瓶:歌詞はそうだよね。楽曲という面でいくと、匿名性というわけではないですが、やっているジャンルについて考えるとロックでもないし、これと言って断定できないようなところがありますね。
ー皆さんがインスパイアを受けてきた音楽について教えていただけますか?
二瓶:僕自身のルーツという意味では、ジャズやフュージョン、ファンクだったりします。編曲に関してはサイモン&ガーファンクルやABBAなどがバックボーンにありますね。メロディが好きなのは槇原敬之さんやaikoさんで、その辺りがミックスされているのが、名無し之太郎の楽曲だと思います。
高橋:ずっとクラシックピアノをやってきたので、完全なルーツはショパンやベートーヴェンになりますね。小学生の頃はみんながSEKAI NO OWARIさんを聴いていて、それをきっかけにクラシック以外の音楽を聴くようになっていきました。
中野:僕はベースを弾き始めたのが軽音楽部に入った高校の頃で、そこから音楽をちゃんと聴き始めたんです。その頃から好きなのが「ずっと真夜中でいいのに。」です。「秒針を噛む」や「お勉強しといてよ」だったり、ベースが際立っている楽曲が多いじゃないですか。それで今も参考にしながら聴いています。
林:私は幼少期に童謡を習っていて、4歳の頃からコンクールに出演させてもらっていたので、そこがルーツになります。ただ、童謡に関しては音楽として捉えるというよりも、自己表現という意味で向き合っていたと思います。音楽を聴くという意味だと、母が洋楽好きでグラミーアーティストのコンピレーションを聴いていたり、父がサカナクションさんやback numberさんを聴いていたので、その辺りを幼少期から耳にしてきました。今は洋楽を聴いていることが多いですね。シーアさん(Sia)とかテイト・マクレーさん(Tate McRae)とか。ダンスミュージック寄りの楽曲も好きです。
ー楽曲制作はどのように行われているんですか?
二瓶:楽曲ごとに自分の中でリファレンスを立てて、そこから自分らしいサウンドに落とし込むことが多いです。インスト曲としても成立するくらい作り込んでからメロディを乗せていくので、一風変わった曲になっちゃうんですよ。その辺り、変になり過ぎないようにメンバーにも手伝ってもらって、聴きやすいように構成を考えていくんです。

平成生まれならではのノスタルジックなメロディ
ー2025年発表のアルバム『名箋』を聴くと、ロックなものもあればカテゴライズできない楽曲も多く収録されています。特に印象的だったのが、どこかノスタルジックなメロディです。90年代~00年代のJ-POPを彷彿させられるような曲も多いですが、そういったJ-POPや歌謡曲を意識したりはしますか?
二瓶:メロディラインに関しては、僕らが平成生まれなので、子供時代に聴いていた音楽からの影響はあり、実際に平成感が落とし込まれていると思います。あとは、林が童謡を習っていたこともあるので、民謡っぽさも意識したりしますね。
ー名無し之太郎は2024年2月に「我儘」でメジャーデビューしたわけですが、1stアルバムをリリースすることで、自分や取り巻く環境にどんな変化がありましたか?
中野:物体として自分たちの音源を手にしたのが初めてのことだったので、改めてミュージシャンになったんだなという実感がすごくありました。それまで、もしかしたらサークルの延長線みたいな感じで捉えていた部分が自分のどこかにあったかもしれないんですが、ようやくプロ意識が芽生えた気がしました。
高橋:僕はリリース後のワンマンツアーが大きかったですね。自分たちのためだけに会場に来てくれるお客さんのことを思うと、しっかりとライブのクオリティを考えなくてはいけないと思いましたし、ステージに対して自分をどう調整していくのかなど学ぶことが多かったです。これまでと一歩違う世界に来たんだって思いました。
林:やはりフロントマンとしてどう振る舞っていくのか、という点はすごく考えるようになりました。メンバーと話し合ったり、周りからアドバイスをいただく中で、どうやったら自分の思いをちゃんと伝えられるかという部分は、パフォーマンスの面も含めてすごく大切にするようになったと思います。
ー林さんは特にオーディエンスに相対するパートにいるわけなので考えることも多いですよね。歌詞はどのように考えているんですか?
林:今は詞先と曲先の両方が混ざっている状態で、『名箋』収録の楽曲は曲先が多いですね。まずは二瓶が作ってくれた曲を自分の世界観に落とし込んで、そこから自然発生的に出てくるものを歌詞にしています。
ー歌詞を書く上で、どういったものからインスピレーションを得ていますか?
林:小説ですね。小学校の頃から1週間に一度、図書館に行って限界まで本を借りて読んでいました。当時から好きな作家さんは東野圭吾さんや伊坂幸太郎さんで、好きな本を繰り返し読んでいます。『加賀恭一郎シリーズ』とか、有名なものは何十回も読み返しています。とにかく活字に触れていることが多いですね。あとは散歩が大好きで、次の予定がない日は長距離を歩いて帰宅したりしています。目黒から横浜まで歩いたりとか。流れていく風景に触れていると歌詞が浮かんでくることも多いです。私が書く歌詞は内省的で自分との対話が主な部分にあるので、ただ歩くだけの時間が結構大切です。あと、文字自体が好きなので、音楽を聴いて歌いながら、白紙にバーっと文字を書き続けたりすることもありますね。

ーだからこそ林さんならではの独特の日本語を歌詞として表現できるんでしょうね。今年の4月には対バンツアーがあり、6月には『名無し之太郎 2nd ONE-MAN TOUR 2026』がありますね。どんなツアーにしたいですか? また、今後どう活動していきたいですか?
高橋:前回のワンマンツアーから約1年なので、その分の成長が伝わるようにクオリティを上げていきたいですし、それに伴って動員も増やしたいですね。それに、何かのきっかけで初めて僕らのライブに来てくれた方が、しっかりとファンになってくれるようなライブを展開していきたいです。
中野:名無し之太郎はギターレスバンドで、林以外に動きながらパフォーマンスできるメンバーが自分しかいないので、お客さんからどう見えたらかっこいいかを考えながら、アップデートしたバンドの姿を見せることができればと考えています。
二瓶:とにかく会場に笑顔が溢れるような空間を作りたいので、セットリストも練っていきたいと思っています。それは作曲にも言えることで、ライブに向けた楽曲作りを進めて、お客さんとの掛け合いを想像しながら制作して、それをうまく実現させていきたいですね。徐々にライブにも慣れてきた時期なので、自分たち本位ではなくお客さん目線に立って考えていこうと思います。
林:ツアーに関しては全日ソールドアウトさせたいですね。個人的な目標としては、フロントマンとしての経験が足りていないので、そこを考えながら、変な謙虚さは捨てていこうと思います。謙るのではなく、ライブを盛り上げてお客さんを私たちの世界へ連れ込んでいくことが大切だと思うので、その部分を充実させていきたいと思います。何より自分が楽しみながら、みんなも楽しんでもらえるものにできればなと。そんな思いで頑張ります。