2014-15年秋冬、KIDILLをデザイナーとしてスタートさせてから、インスタレーションやショーでも、東コレやパリコレにおいても、末安弘明は終始自らの出自であるハードコアパンクを突き通してきた。ところが、2027年春夏パリ・コレクション後のリポートで取り沙汰されたのはパンクカルチャーからの脱却・解体……その真意を問う。さらには、本人によるアイテム解説も。

まずはとにもかくにもメディアで評価を受けていたセンセーショナルな“パンクからの解放”とは、どういう翻意なのか本人に問いたかった。
「そこまで大袈裟な変化ではないんですけど(笑)、KIDILLを立ち上げて12年、パンクシーンの通好みもメジャーどこも含めて、モチーフとしてもコラボレーションにしてもやり切ったんじゃないかと振り返ったんです。で、パンクファッションとその系譜の正当性や真正性は一旦端に置いて、それに囚われないアプローチで服作りしたというのが趣旨です」。
デザイナーの末安はどこまでも啓示的なインスピレーションにまみれているのだろうと私見していたのだが、「先シーズン(2026年秋冬)を終えた後、作りたい服が一切なくなったんです。今まではそんなこと全然なかったのに、何かこれはヤバいなと……。でも、いざ次を考えて、スケッチを描いたり、違ったら破ったりしていたら、これは面白いかも、こういうのはイケるかもって発想が湧き上がってきた。思い起こせば、昨日の自分はS、明日の自分はMと、SとMとが内省的に同居しながら構成していったような気がします(笑)」と、スランプがあったことを屈託なく語る。去る6月23日にパリコレで発表した2027年春夏のテーマは“CHAOTIC DISCORD”。これには“不一致”や“不協和音”という意図が込められている。パターンメイキングに複数のダーツを入れたジャケット、パンツ、シャツはシルエットにうねりのあるの歪みを繰り返す。セットアップのデニムは約300個に及ぶ安全ピンによりカットアウトを縫合した上、割れる塗料を多層コーティング。原寸を大きく逸脱したスケールのタータンチェック、骨の手が上半身を包み込むドレス、立体的な棘が総柄になったラテックスMA-1ジャケット。「これまでの年月を経た創造性の集積が今回なんだと思います」。それらすべてがコレクションピースではなく、セールス対象。象徴的なアイテムについて、自ら解説してくれた。


「安全ピンや缶バッジを取り付けてから、製品加工で塗装しました。だから、着る度に塗料が剥がれてくるし、クラックが激しくなるし、デニムも色落ちしてくるし、経年変化が起こります」。カラーリングはインディゴデニム×ホワイトペインティング、インディゴデニム×ピンクペインティング、ブラックデニム×ブラックペインティングの3バリエーション。


「生地にプリントするのではなく、あえてグラフィックを印刷したペーパーを貼り付け、さらにクリアな顔料を上塗りして定着させています。これも着込むことで浮かび上がってくる個人差が狙い」


「『進撃の巨人』がサンプリングでもあって、巨人に掴まれる悪夢がストーリー(笑)。手の骨は人体模型を忠実に再現しています」


「ラテックス(ラバー)を素材に、どうしても拘束衣やボンデージがモチーフのアウターを作りたくて。こだわったのは型崩れしない棘。でも、空気が抜けたり入ったりするから、トゲトゲが当たっても痛くない。これで満員電車にも乗れます(笑)。手掛けてくれたのは、過去に何度かアクセサリー制作をご一緒した東京・池袋発プロフェッショナルラテックスブランド「Kurage」(https://www.kurage.tokyo/)のデザイナー木戸茂成さん」


今季のコラボは朋友であるKIDS LOVE GAITEとHIZUMEも継続、新たにJUICY COUTUREとの取り組みが実現した。「90年代後半がリアルタイムな世代にとっては、当時のギャル文化や雑誌『egg』、それに浜崎あゆみさんはまさにそのまんま時代だったじゃないですか。そんなにあのカルチャーに精通していたわけでもないんですけど、その頃のファッションスタイルの代表格だったジューシークチュールのベロア×ラインストーンのトラックスーツを今こそ、アレンジしてみたいなと直感で思ったんです」。オリジナルは着丈が短く、脚に沿うピチピチのレッグラインだが、KIDILLらしさはうさ耳を付けながらも、ユニセックスで着られるルーズなプロポーション。「飛躍しすぎかもしれないですけど、自分の中では浜崎あゆみさんがジョニー・ロットンに思えるんですよね(笑)。アイドルというか、偶像というか」。ダブルヘッドなビッグベアのバックパックは27SSのムードである“違和感”のアイコン。「ロリータたちが背負っているようなテディベアのぬいぐるみバッグを双頭にして、子供くらいのサイズに大きくしちゃえって(笑)。もちろん、実際に荷物も入れられます」


ブラウスのフロントを飾る「ガーリーだけれど、毒っ気のあるデスメタル感が気に入っている」と末安が話す印象的なアートはギリシャ・ラリサを拠点に活動するイラストレーター、アマンダ・エム・ヤンソン(@amanda_mjnssn、@littlesuicidecandy)の描き下ろし。今年6月には広島「LE METTÉ GALLERY」のグループ展に召喚され、12月には大丸東京店のアートギャラリーにてエキシビションを開催予定。https://littlesuicidecandy.net/


コレクションの創作過程を聞くと、「まずは1ヵ月半くらいをかけて、ラフスケッチとディテールを、フロントだけじゃなく、バックやサイドも含め、ひたすら自分の手書きで書き上げます。ジャケットばかりが目立つなと思ったら、トップスやスラックスに移ってみたり、アクセサリーを足してみたり、そうやって全体像のバランスを取りつつ、デザイン案をまとめる」、それからトワルやサンプル作成に臨むんだそう。「過去のパンクの焼き直しを作っても、パリで発表すべきものではない。新しいパンクじゃないと、楽しんでもらえない。パンクを進化させることにずっと意識を向けています。今季、そこからの不完全な乖離も、『パンクスを継承するために、何が必要か?』を考えた結果なんです」
Q&A
◼︎創作の刺激:ハードコアパンク、サイバーゴス、秋葉原のオタク文化、中野ブロードウェイ
◼︎好きな食べ物:和洋問わず甘いもの。
◼︎飲酒:友人とご飯を食べに行った後でも徹夜で仕事をするために止めました。
◼︎喫煙:たばこに洗脳されていた自分が嫌で禁煙中。
KIDILL Brand Archive
Theme / Inspiration
2027年春夏メンズ:CHAOTIC DISCORD
2026-27年秋冬メンズ:HEAVEN
2026年春夏メンズ:SPIRITUAL BLOOM
2025-26年秋冬メンズ:FORMAL ANARCHIST
2025年春夏メンズ:999
2024-25年秋冬メンズ:WHATEVER HAPPENED TO PUNK!
2024年春夏メンズ:HERESIE CHILDREN
2023-24年秋冬メンズ:ENFANT TERRIBLE
2023年春夏メンズ:HELL HAUS
2022-23年秋冬メンズ:THE OUTSIDER
2022年春夏メンズ:INNOCENCE
2021-22年秋冬メンズ:DESIRE
2021年春夏メンズ:IDOL
2020-21年秋冬メンズ:FUCK forever
2020年春夏メンズ:DOUBLE DARE
2019-20年秋冬メンズ:TOKYO PUNK CHIC
2019年春夏メンズ:LOST GENERATION
2018-19年秋冬メンズ:NEW ROSE
2018年春夏メンズ:NEW CHAOS
2017-18年秋冬メンズ:HOLY UNBLACK
2017年春夏メンズ:SAD PARADISE
2016-17年秋冬メンズ:SUGAR BOY
2016年春夏メンズ:UNNOISINESS
2015-16年秋冬メンズ:IMPERFECT RHYME
2015年春夏メンズ:偶像(アイドル)
2014-15年秋冬メンズ:MADNESS LOVE REASON