CULTURE 2026.10.06

Report: 「Ryuichi Sakamoto & Tin Drum | KAGAMI+」に合わせた特別プログラム「New Balance Day」 “Craftsmanship”をキーワードに新たなクリエイションを生みだす

photography_Masahiro Yoshimoto, text_Tsuyoshi Kizu
EYESCREAM編集部

2026年9月11日(金)、ニューバランスはグラングリーン大阪にある文化装置、VS.(ヴイエス)にて開催中の日本初上演「Ryuichi Sakamoto & Tin Drum | KAGAMI+」に合わせ、特別プログラム「New Balance Day」を開催した。これは、生前の坂本龍一がCM出演や楽曲制作などでニューバランスと密接な関係にあったことを背景にし、作品体験、トークショー、演奏を実施することで次世代へつなぐ“Craftsmanship”を分かち合うことを目的としたもの。この記事では、当日の模様をレポートする。

まずプログラムのオープニングを飾ったのは、アンバサダーとして迎えられた音楽家・江﨑文武によるトークショー。聞き手を務めたのは、坂本龍一と生前から関わり、坂本が所有した機器や蔵書などの遺産を次世代に継承するプロジェクト「sakamotocommon」の発起人の一人として活動している伊藤総研だ。

さっそく今回の目玉である「KAGAMI+」についての感想を尋ねられた江﨑は、「通常のコンサートやアーカイヴ映像ではけっして見られない場所を見つめられる」として、端的に興奮を語った。また、実際にピアノを演奏する坂本龍一を至近距離で見られたことで、演奏家としての彼の凄みを再発見する時間でもあったという。

「KAGAMI+」のアーカイヴとしての独自性について話が及ぶと、江﨑は「身体の使い方が全身のものとして残っているのは、すごく価値のあること」と奏者としての視点から説明。自身もWONKのライブで3Dの演奏データを記録した経験を語り、「教育的な方向に使えそうだと感じた」と、こうした身体性のアーカイヴが持つ可能性についても示唆した。

坂本龍一が長年ニューバランスを履き続けてきたことから生まれた「New Balance Day」のコンセプトについては、気に入ったものを長く使い続けることに対しての共感を示しつつ、ミュージシャンが一般的に想像される以上に歩いていることも指摘。ツアーやリハーサルでの移動による足腰の負担はかなりハードだという。だからこそ、「素敵なスニーカーと出会えたら」と希望を語った。

会場からのQ&Aも挟み、この日江﨑によって演奏されたのは2曲。旅をしながら制作された楽曲と、この展示でも取り上げられている坂本龍一と高谷史郎によるインスタレーション作品「TIME, TIME」を体験したことに触発された楽曲だ。どちらも未発表のナンバーながら、時間の移ろいを抽象的かつ叙情的に封じこめたアンビエント色の強いサウンドスケープを生みだしており、その澄んだ響きは会場の空気を静謐なものにしていた。そこでは何よりも、坂本龍一が遺したアートによるインスピレーションが次の世代に連なっていくことが証明されいたように思う。

そしていよいよ、実際に「KAGAMI+」の作品体験の時間に続く。これは特殊な透過型ヘッドセットを通じて、坂本龍一の演奏が空間のなかに立ちあがるきわめて先鋭的な複合現実(MR)作品で、坂本が最後の4年を通じてアメリカのクリエイティヴ・スタジオTin Drumと作りあげたプロジェクトだ。「New Balance Day」のコンセプトである『魔法と共鳴せよ。』も、まさに魔法のようなこの作品と響きあうものだ。

参加者に特別なヘッドセットが配られると、会場となる部屋の中央の何もない場所にグランドピアノと坂本龍一が出現し、まるで実際におこなわれているように演奏が始まる。本当に不思議な感覚だ。移動して様々な角度から観賞することも可能なので、実際に近づいてみると、手足の動きだけでなく身体の呼吸感までが詳細に記録されていることに驚かずにはいられない。「Energy Flow」や「Merry Christmas, Mr. Lawrence」といった代表曲の演奏があり、また光の粒子が空中に浮かんだり写真作品がバックグラウンドに投影されたりとヴィジュアル面での演出もあり、唯一無二の幻想的な世界が生まれていた。

実際に体験して強く感じたのは、「sakamotocommon」での取り組みも含め、坂本が自身の芸術的な試みを後世に遺したいという想いを強く持っていたアーティストだということだ。自己表現という側面ももちろんあるが、何より、自分の作品が次世代の芸術家にヒントやインスピレーションを与え、新たなアイデアが生まれることを信じていたのだろう。






その後の自由内覧では、展示されていた坂本龍一+高谷史郎による「TIME, TIME」や坂本の演奏データをピアノの自動演奏として再現した「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2026」といった作品を、参加者たちが思い思いに体験することができた。

この日の「New Balance Day」には、それぞれ坂本龍一とゆかりがあった京都精華大学、京都市立芸術大学、関西大学の学生たちも招待された。これも、次世代とのつながりを大切にしていた坂本の想いと共鳴するものだ。参加者が感じたことをメッセージとして残すコーナーは多彩な言葉で埋め尽くされており、多くのひとがこのプロジェクトに感銘を受けたことが一目でよくわかる。





また会期中は、連動企画として「KAGAMI+」のオフィシャルショップである「The Lab.」で坂本が愛用していたニューバランスシューズも展示されている。長年の深い関係がよく伝わってくるし、イベントのオフィシャルグッズやCD、レコード、書籍の販売・展示もあり、ファンにとってもぜひ押さえておきたい場所と言えるだろう。

全体を振りかえってみると、“Craftsmanship”をキーワードとした今回のプログラムは、クリエイター同士の共鳴が新たなクリエイションを生みだすことを、多彩かつ刺激的な試みで示していたように思う。坂本龍一の芸術的遺産がこれからも、多方面に受け継がれていくだろうと実感できた一日だった。

(問い合わせ:ニューバランスジャパンお客様相談室 0120-85-7120)

INFORMATION

Ryuichi Sakamoto & Tin Drum | KAGAMI+

会期:2026年6月27日(土) – 10月12日(月・祝)
会場:VS.(大阪市北区大深町6-86 グラングリーン大阪 うめきた公園 ノースパーク)
時間:10:00〜20:00(日時指定制)
公式サイト:https://vsvs.jp/

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