vol.02 菅原小春 / ダンサー,女優
平成という時代は、どんな色をしていただろう。
俳優 太賀がカメラを構え、平成に生まれた表現者たちの素顔と向き合う。
橙[dai-dai] vol.00 太賀
橙[dai-dai] vol.01 池松壮亮
“「ダンスしてる小春にしかできない演技だよね」って言わせられたら最高だなって思います”
太賀:今回、菅原小春さんを撮りたいと思ったきっかけは、純粋にダンスがかっこいいと思ったからなんです。ダンスについては、詳しくないんですけど、菅原さんの表現には、ダンスの枠をぶち破る凄みを感じていて、元気がない時に夜な夜なYoutubeで見ながら、エネルギーをもらっています。どんどん引き込まれて、高揚してくるんですよ。気づいたら手に汗握って、iphoneびちゃびちゃみたいな(笑)
菅原:ありがとうございます。私のダンスは一人格闘技みたいなところありますからね。
太賀:己と戦っているんだなって見ていて思います。それってすごいことですよね。僕たち役者は、あくまで人の言葉を借りながら、決められた設定や状況に自分の人生を乗っけて、表現しているんですよ。逆にダンスって、きっと言葉にできない感情だったり、定義できないものを体現していくような仕事なんじゃないかなと思ってて。それを、菅原さんのダンスは、有限なはずの体一つで、めちゃめちゃ豊かに届けてくれる。だから、是非会ってみたかったんですよ。
菅原:実は、私小さい時に事務所に入って、演技レッスンとか受けたことがあって。それが太賀さんと同じスターダストなんですよ。今でも宣材写真とかあります。
太賀:え!じゃあ、僕の先輩だ。
菅原:原宿歩いている時に声かけられて、演技や歌の勉強しながら、ちょろちょろっとお仕事させてもらってました。でも、当時は演技のレッスンが合わなかったんですよね。どうしても枠にはまって何かをさせられてるって思っちゃって。昔から、表現することは大好きだし、自分のここ(心)にあるものは異常に熱いのに、言葉があまり上手くないから、どうしたらいいんだ!って。でも演技は無理だなって思ったからこそ、ダンスに没頭できたんです。
太賀:そうかー、スターダストは逃した魚がでかいなこれ。その後、LAに単身渡米したんですよね?
菅原:日本嫌だなって時期があって、海外に飛び出したんですけど、最初はどうしても言葉の壁を感じましたね。こんなに人とコミュニケーションが取れないんだって、すごく孤独な時期もありました。でも言葉がなくても、私がいい踊りをすると、みんな受け入れてくれた。最終的には、ダンスは全ての壁をぶち破れるし、自分にとって言葉以上のものだなって自信になりましたね。
太賀:菅原さんのパフォーマンスの中で特に、単独公演の映像がすごく印象に残ってます。音楽の生演奏に、喜びや孤独などの感情をあてがった演目で、そこには、まさに言葉以上の表現がありましたよね。音から衣装、メイクなども自身で演出したと聞きました。
菅原:そうですね。音は、例えば「ベッドに寝そべっていて、光がこんな風に差してくるイメージ」って伝えて、弾いてもらったりしながら、「そうそう!」みたいな感じで少しづつ作り込んでいきました。すごく面白かったですよ。
太賀:菅原さんのアイディアで始まった企画ですもんね。
菅原:そうそう。お金も自分で工面して、衣装も買い付けたり。その時の為に貯めてきたお金はちゃんとあったから、しっかり自分に投資したいと思って。
太賀:面白いですね。僕ら役者は圧倒的に組織の中に居るんですよ。集団芸術というか、みんなで一つのものを作ることの美学というか。だから、衝動を大切にしながら、一人で何でもやれてしまう菅原さんにリスペクトを感じていて、どこか憧れもあるのかもしれない。もちろん様々な方と共演されているダンスもありますけど、しっかり存在感を出していますよね。スティービーワンダーとか。
菅原:あのCMは「合成でしょ?」ってよく言われました(笑)みんなが思うダンスってやっぱり、添え物なんですよね。でも、「誰々の後ろで踊ってたよね」って言われても、幸せは感じない。せっかくなら、ちゃんと駆け引きのできる添え物でありたいというか。花を綺麗に照らす光になるんじゃなくて、同じように綺麗な花として並ぶべきだなって思いながらずっと踊っていました。けど、もうそんなカリカリしてないですよ今は。
太賀:これは一緒に仕事をする人は頼もしいわー。そうか。紅白の時もそうですよね。手前にしか目が行かなかったし。
菅原:あれはね完全にフロントダンサーになっちゃったから(笑)太賀さんは、踊らないですか?踊りは興味あります?
太賀:事務所に入りたての頃ダンスレッスンもやらされましたけど、自分の才能のなさに心が折れて、すぐに行かなくなりました(笑)でも、下手ながら一生懸命踊ってたんですよ。そしたらレッスンで一緒になった子たちとすごく仲良くなれて。踊りのピュアな部分の可能性を感じた瞬間でしたけど、自分には、ちょっとできないやって思いました。(笑)菅原さんは、演じることには興味ないですか?
菅原:今はぐるっと一周して演じることに、とっても興味があるんですよ。内から出るものをただ出せばいいってことでもなくて、もっと繊細な行為なのかなって見る側としては思っていて。自分のハートだけの問題じゃない。それってどういうことなんだろう?って興味があるんです。
太賀:本当ですか!是非やって欲しいですね。流石に俺が踊るわけにはいかないから、お芝居じゃないとなかなか共演するのが難しいなと思うので(笑)
菅原:体が動くからきっと絶対そういう役になるじゃないですか。ダンスの映画とかね。それはそれでやりたいですけど、理想としては、例えば全く動かない、座っているだけの役なんだけど、「これはダンスしている小春にしかできない演技だよね」って言われたら最高だなって思います。
太賀:最高ですね。動と静の対比っていうのはやっぱり表現の面白さでもありますよね。
コート¥182,800、シャツ¥140,800、中に着たドレス¥107,500、首に巻いたスカーフ¥118,500 (すべてANN DEMEULEMEESTER) リフト エタージュ tel03-3780-0163 シューズ スタイリスト私物
菅原:いつか共演したいですね。演じることについてよく考えているんですけど。太賀さんにとっての演技のスパイスって何かありますか?
太賀:僕自身は、スパイスのありかを探していくと、結局行き着く先は、半径1メートルくらいの世界だったりするんですよね。普段自分が抱えている思いとか、目の前にいる人の仕草にスパイスを感じています。
菅原:すごく分かります。私もダンスの基礎は全部染み付いているから、身近な人の表情だったり仕草だったりをよく見ています。
太賀:いろんな発見や広がりがありますよね。そういうものって、曖昧で、移ろいでいくものじゃないですか。人を色で表現するとしたらこの人は赤!みたいに、単色な人は絶対いないと思っていて。みんなもっとグラデーションがあるし、青だったのが急に赤になったりもする。この人、昨日と言ってることちげーなってのもそうだし。その分からなさが人に対する愛情だと思うし。そんな曖昧さが表現できれば、そこに人間が映る。僕はそう思いながらやっています。
菅原:なるほど。人を見ている時もカメラの視点なんですね。やっぱり役者ならではの感覚があって面白い。
太賀:菅原さんの女優デビュー、楽しみにしています。今年はダンスの公演はやらないんですか?
菅原:やりたいなと思うんですけど、まずは、女優への挑戦に集中したいですね。その経験をダンスにもフィードバックして良い公演ができたらなと思っています。
太賀:観に行きますね!
菅原:是非是非。旗持って観に来てください(笑)