ART 2023.07.02

Interview: cobird 2つの顔を組み合わせた作品が織りなす個展“マ グ シ ョ ッ ト”とは何か

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Takao Ookubo, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

6月17日よりギャラリー月極で現代美術家cobird(コバード)による個展『マ グ シ ョ ッ ト』が開催されている。cobirdは、印刷した紙などを縦横の短冊状にカッターで切り刻み、手作業で織物の組織のように1本づつ交互に差込みながら形成されるコラージュ作品を主に発表を続けている作家だ。今回、展示されているマグショット(逮捕写真)シリーズは活動初期から制作し続けてきたものであり、過去のアーカイブから新作までが並ぶ内容となっている。パッと想像できるコラージュとは、また一風変わった作品群について、そこに込められた思いをインタビュー。

HIPHOPからの影響が自然と表れたコラージュ

ー6月17日からギャラリー月極でスタートした個展『マ グ シ ョ ッ ト』についてお伺いしたいと思います。まず、この『マ グ シ ョ ッ ト』はシリーズでcobirdさんが制作し続けてきたものなのだそうですね。

cobird:はい。最初に作ったのは7年前くらいで、今回はその作品も入り口の方に展示しています。このシリーズもそうなんですけど、私はプリントアウトした紙を縦横の短冊状に切って、布のように組み合わせるウィービングという手法で作品の制作を行なっています。この『マ グ シ ョ ッ ト』では、人物の正面と横顔のポートレートを使って、1つのコラージュ作品を作っていますね。

ーマグショットシリーズの素材には犯罪者の写真を使用されているのだとか?

cobird:そうですね。題材に選ぶのは各国で犯罪者が逮捕されたときに、その人を判別するために撮影した正面と横顔の写真になります。今回の個展では、それだけではなく『マグショットプロジェクト』と題して、現代の表現者の肖像写真をコラージュした作品も同列に展示しています。マグショットシリーズは、自分の中でライフワークのように何となく続けてきたものだったんですけど、あるとき、今回展示している作品のようにレジンを使ったマグショットシリーズを発表したときに、多くの人が興味を持ってくれた経緯があります。なので、1度しっかりと発表の場を設けたいと思って、今回の個展に至りました。

『マグショットプロジェクト』と題されたシリーズ。現代のストリートカルチャーを象徴するミュージシャンやデザイナー、アーティストなど様々な表現者たちの肖像写真をコラージュした作品も同列に並ぶ

ーこのマグショットシリーズは、cobird:さんのシグネチャー的な存在とも捉えられます。正面と横顔を組み合わせるという発想は、どういうところから出てきたんですか?

cobird:もとを辿ると、私がオカルトや怪談話が好きだっていうのがあるんですよ。ネットの有名な怪談で『師匠シリーズ』というのがあるんですが、その中でこの世ならざるものは左右対称の顔になろうとするという話があって、そこにちょっとしたヒントがあったんです。人間は左右非対称な顔をしていますし、人の形自体を認識する仕方を考えたときに、逮捕写真の正面と横顔だけで判別できるっていう考え方も不思議だなと思って。そういった思考から、こういう形でやろうという考えになっていったんです。

ー怪談やホラーがベースというのが非常にユニークです。その後、マグショットシリーズを制作していくうちに、キュビズムとの接点を見出されたんですね。

cobird:そうですね。キュビズムも、 目で見たものだけじゃなくて内面であったり、人間という存在をリアルに写実するにはどうしたらよいのかという研究から、モチーフを幾何学的形体にしたり、解剖学を使って内面をトレースしたり、という発想や表現になったことを知って意識するようになりました。オカルトではないにしろ、どこかしらスピリチュアルな話にも通じるところがあって面白いと思って。

ーなるほど。キュビズムとマグショットの共通点が偶然あったというわけですね。

cobird:はい。ただ、偶然も必然も大差ないと考えています。というのも、私は現代美術をやってるんですけど、HIPHOPだとか他のサブカルチャーからすごく影響を受けていて、 そのメソッドや概念、哲学などについて、何かしらの共有性があると思っているので、そこを見出していく行為が、ときに偶然にもなるし、裏を返せば必然であるのかなって気がしています。そのように現代美術はすごく間口が広くて逃げ場のある世界だと思うので、私みたいなタイプにはぴったりだと思いますね。そこは今回、個展をやっていても感じました。

ギャラリー月極の中央に配置された作業デスク。椅子が置かれており、さながら取調室的な雰囲気が漂っている。

作品のモノとしての魅力や強度も高めていきたい

ーHIPHOPからも大きく影響を受けたということですが、そこについて教えていただけますか?

cobird:これはデザインの方法に関わってくる部分もあるんですが、私たちが若い頃に、ちょうどMAC G3が出回っていたような時期だったんですけど、その頃からパーソナルにデザインが作れる時代になって私も、フライヤーやCDジャケットのデザインなどをやっていたんですよ。そこで、サンプリングというと綺麗なんですけど、ネットから引っ張ってきた情報をトレースしたり、パロったり、というシミュレーションニズム的な方法を当たり前にやっていた世代だったと思うんです。そのカット・アンド・ペースのやり方が今思えば非常にHIPHOPのサンプリングカルチャーと親和性があるなと思って。そこから、最近では影響を受けたルーツとして、HIPHOPにおけるサンプリングとは何なのかを考えるようになったんです。

ーいわゆるHIPHOPの起源などについても改めて考えたという?

cobird:はい。最初に2枚のレコードを交互にかけて曲間をループさせてダンスミュージックにしていくーーという流れはすごく美しいようにも見えるんですけど、そのブレイクを繋ぎ合わせてHIPHOPっていうものが発明されていったというところが私には面白くて、すごく野生的だし遊び心があるし、同時に無慈悲だなと思ったんですね。もとの楽曲はさておき、自分が気持ちいいと感じる部分だけを組み合わせて違う音楽を作り上げてしまうということが主体だと思うんですけど、私のコラージュ方法もそこを美学にしているんです。素材として使う人物がどんな人間なのか、何の罪状があるのかは知らず、自分の作りたいように人間の顔として組み合わせて再構築するということに何のストーリー性もない。そこにHIPHOPのサンプリング手法と通じるものを感じました。自分にもフィットするし、もともとそういうカルチャーの中で育ってきたから、今こういう手法になっていったんだと思います。

ー作品についてはどう制作を進めているんですか?

cobird:ある程度、PCでドラフトを組むので制作に取り掛かる段階で完成形の8、9割はビジュアルとして見えている状況でスタートしますね。ただ、ウィービングは小さな空間の集まりで、厚みがあったりパーツがうまく組み合わせられなかったりというのがフィジカルであるので、微妙にデータと異なる部分が出てくるっていうのが楽しみの1つでもあると思いますね。まぁ、実際の作業は淡々とやるだけなので、苦痛で退屈なときもあるんですけど、やっていくうちに完成が見えてくるし、そこでデータと違う魅力が出てくることもありますね。いつもではないんですけど、たまに、ですね。

ー改めて、cobirdさんが作家として目指すもの、表現したいものの根底にある考え方について、可能な範囲で教えていただけますか?

cobird:現代美術においては、特に何を作るのか、何をしたいのかっていう概念や言葉も大事だと思うんですけど、やはり半分は、モノ自体の魅力であったり、強度であったりってことが必要だと自分でも思っていて、そのバランスだけは大切にしていきたいですし、自分はそういう作家でありたいと思います。今はメディアや手法の選択が実に多種多様で、デジタルも踏まえて幅広くやる方もいれば、すごくオーセンティックにペイントだけやられる方もいらっしゃいますけど、どちらかというと私は後者の方かなと。手を動かして制作しながら10年を経て、モノをどこまで強く作れるか、それと表裏一体となる言葉をどれだけ紡ぎ出せるのかってことを突き詰めていくいんだと思います。

ーギャラリー月極での個展は7月9日までとなりますが、今後の活動については、どういった予定がありますか?

cobird:9月頃に名古屋へ巡回したり、他の場所での開催や展示についても少しずつ話を進めています。そのようにして、このマグショットシリーズは今年中に何回か巡回展をしたり、新しい作品を出していきたいと考えていますね。

INFORMATION

cobird Solo Exhibition『マ グ シ ョ ッ ト』

会期:2023年6月17日(土) – 7月9日(日) ※月火水休廊
開場時間:14:00 ~ 20:00(木/金/土) 13:00 – 19:00(日)
入場:無料
会場:月極
東京都目黒区中央町1丁目3-2 B1
https://tsukigime.space/
@tsukigime.space
@cobird1432

POPULAR