ART 2024.04.05

Interview: イラストレーターdokkoiの中毒性があるゆるカワな絵の世界観について

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Takao Ookubo, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

イラストレーターdokkoiが2度目となる個展『Dokkoi Dokkoi DOKKOI SHOW(どっこいどっこいどっこいしょ)』を4月6日(土)から4月28日(日)までの期間、ギャラリー月極で開催。
これまでにくるりやAriesなどのファッションブランドともコラボレーションしてきた経歴を持つdokkoiだが、その独特な世界観が今、沸々と注目を集めている。
自分が好きなカルチャーをサンプリングし、人に求められる形へ変換して表現しているという絵は、ぱっと見のゆるさと可愛さが特徴的。
どのような考えで絵を描いているのかについてインタビュー。

毎日描いて自分を絵をアップデートさせていきました

ーもともとはエイベックスに勤務されてらっしゃって2018年に独立されたんですよね。

dokkoi:はい。約15年ほどエイベックスにいて販売促進、営業、最後はイベント制作も担当していました。とある部署異動をきっかけに独立してイラストレーターになったんです。知り合い伝手に違う会社に入ることも考えたんですけど、1回フリーでやってみようと思って。それで毎日イラストを描いてSNSにアップし続けていたらAries(アリーズ、イギリスのストリートブランド)の人が面白がってくれてロンドンに来いと。それでコラボしてTシャツを作ったら、くるりの岸田繁さんが着てくださって。その繋がりからマーチャンダイズ用に絵を描かせていただいたりしたんです。

ー徐々に活動の幅が広がるにつれて初回の個展『Dokkoi Dokkoi DOKKOI SHOW』開催に至ったんですか?

dokkoi:いえ、個展という形で絵を観られるのは恥ずかしくて興味がなかったんですが、YOSHIROTTENさんに絵をほめていただいてギャラリー月極を紹介してもらいやってみようと思ったんです。やった方がいいのかな? 的な、開き直ったような気持ちはありましたね。

ー展示してきた絵はどのようなものなんですか?

dokkoi:前回も今回も同様なんですが、例えるならYouTubeを開いたときに出てくるサムネイル的なものです。特徴的な場面写真みたいなもので、誰もが知っているようなわかりやすいものをモチーフに選んで描いています。それを誰にとっても手の届きやすい価格帯で展開していますね。

ーとなると、描く対象は何でもよいということになりますか?

dokkoi:そうですね。これを描きたいというのではなくて昔から興味があるものをディグって今の時代感にマッチする形で描いて新たな発見があるようにしたり。他の人から何かお題をもらって描くこともあります。何ならオファーをもらって描いた方が勉強になりますから。

ーそんな中にも、どこか選んでいるモチーフに統一感があるように感じられるというか。dokkoiさん自身に影響を与えたルーツとなるカルチャーは何ですか?

dokkoi:スケートボードが好きでそこが入り口でした。ワールドインダストリーズやガール、ビッチ(すべてスケートブランド)などを多感な10代の頃に知って一気にのめり込んでいって、スティーブ・ロッコ(ワールドインダストリーズを設立したレジェンドストリートスケーター)のインタビューや自伝もチェックしていました。あの時代のギリギリのサンプリングカルチャーには衝撃を受けましたね。ショーン・クライヴァー(レジェンドスケートボードアーティスト)が表現していたことだとかは今だに自分の中にあると思います。

ーそういった影響は今の自分の絵にも投影されている部分はあると思いますか?

dokkoi:いえ、直接的にはないですね。むしろそういった自分に影響を与えたものを消していって自分だけのオリジナルな表現をしなくちゃいけないじゃないですか。そのために下手でも毎日絵を描いて少しずつアップデートする作業を進めていったんです。

ーそのような作業を進めて初回の個展(2023年4月開催)に至ったわけですね。絵がうまくなっていくという実感はあったんですか?

dokkoi:本当にちまちまと進めていって溜まりに溜まった絵を展示販売したわけですが、実際にうまくなっていった、というか購入してくれた人もいてくれたわけなので普通に見れるレベルにはなっていったんじゃないかと思うんです。

ー1年前に行った個展の頃と比較して自分の成長を感じたりもしますか?

dokkoi:毎日描いていると少しずつですけど上手くはなっていくんですよね。それはやっていて面白い点だと思います。今では健康に気をつけながら適度な運動もしながら生きていて退屈さも感じるんですけど、絵を描くという作業自体は面白いし、多分もうちょっといけるかもって。別に自分が1番だなんて微塵も思わないんですけど、もう少し上を目指せるなっていうのは感じますね。個展に来てくれる人がいて自分を絵を買ってくれる人がいるわけなので、時間をかける価値があるなっていう。このまま70歳くらいまで続けていけば随分とうまくなるんだろうなと。

誰かに所有したいと思ってもられるものを描きたい

ーdokkoiさんが描く絵はどこか惹かれてしまうというか。構図のバランス感が魅力的に感じます。

dokkoi:これもエイベックス時代に学んだところがありますね。例えば、アニメ作品を販売する際に何か購入者特典を作ろうとなったとするじゃないですか。そのときに店舗などから意見をヒアリングすると、大体同じような構図のものを求められるんですね。それで、どうやら人が欲しいと思うポーズは狭いゾーンの中に絞られているんだなってわかってきたんです。その他の経験も相まって、人への伝わりやすさや響きやすさには傾向があって、それは美術館に置かれているアート作品にも通じるものがあるってことを肌感的に理解していったんです。いろんなモチーフをうまく構成を変えて時代に合うように組み立てていく、そこがマッチしていないと有名なクリエイターが作ったものであっても響かない。そんなことを自分が描く絵に対しても考えていますね。

ー観る人への響きやすさも考慮して描かれているわけですね?

dokkoi:そうですね。あと、自分で絵に関しても他の人の作品にしてもそうですけど、足りないところにけっこう気づくんですよ。トレンドが移り変わる中で、何を求められているのか、そこに対してアプローチできているのかどうかという点は意識していますね。そこに自分で気づけているから、まだ伸びしろはあるんじゃないかって思います。

ーdokkoiさんとしては個展を繰り返し行ないながら、時代に求められる自分らしい絵を展示していきたいと考えてらっしゃるんですか?

dokkoi:いえ、そういうわけでもないです。やはりフリーになっていきなり絵だけで生きていくのは無理だったんですね。でも、YOSHIROTTENさんが面白がってくれたからこそ月極で個展も開催できるわけで、自分にとっては現段階でやれるならやりたいという案件なんですよ。今やイラストレーターとしてTシャツなどのグラフィックもやったりしていて、徐々に変わっていきたい気持ちはあるんですけど、けっこう会社員的な心持ちで絵やグラフィックに取り組んでいます。

ーやはりエイベックス時代の経験が今の活動に大きく活かされているわけですね。

dokkoi:あると思います。実際にやってみて、自分みたいにクライアントの意見を取り入れながらバランス感を重視してやる人って意外と少ないんだなって思ったんです。求められるものを締め切り厳守で仕事をする人という意味で競合が少ない立ち位置かもしれないですね。絵やグラフィックを始めて5年ほどなので、会社員で言えば20代後半くらいの気分ですよ。入社して5年が経ってだんだんと慣れてきて自分からいきたい部署を探すような気持ちなのかもしれません。アーティストはこんなこと言わないのかもしれないですけど、僕の場合は会社員をやっていてよかったと思います。あの15年はかなりありがたい時間でした。

ーでは、今回の個展『Dokkoi Dokkoi DOKKOI SHOW』に展示している絵についても教えてください。

dokkoi:来てくれる人が好きそうなものを展示しています。例えば映画『タクシードライバー』だとか。有名で誰もが知っていそうなものをモチーフにしていますね。知られていれば何でもいいという意味ではなく、有名なCDジャケットのアートワークなどを見たときに心が動かされるものは絵に描いてもいいだろうなって考えます。映画にしても単純に有名なシーンを描くというのではなく、どこをサンプリングするのか、というところは意識しています。あとはどういうタッチで描いたら面白がってもらえるかってことですね。その上で所有したいものを描きたいという気持ちがあります。自発的に描きたい何かがあるというわけではなくて、それを手にしてくれる人のことを考えて描いていますね。

アーティストではなくイラストレーターとして何にでも携わりたい

ー実際のところ、dokkoiさんは自分の肩書きについてどう思われていますか?

dokkoi:このレベルではとてもじゃないけどアーティストとは言いたくないんですよ(笑)。だから聞かれたらイラストレーターと名乗っていて、絵にもグラフィックにも何にでも関わっていきたいんです。単純に絵が上手くなりたい、カッコいいグラフィックを作りたい、という気持ちは強いですね。自己表現を突き詰めるというよりも、みんなにほしいと思われるデザインでTシャツを作ったりしたいですし、その点を極めていきたいです。

ーでは、やりたいことと言うと作品作りをひたすら続けるということではなく?

dokkoi:やりたい案件はファッションと関連するもので、Tシャツにしたらカッコいいであろう絵を描きたいです。描きたいものという意味では、そういうものを描きたいですね。どうやって絵でサバイブしていくのかって作戦を考えるのが楽しいです。

ーでは、そういった作戦を練るうえで、今後dokkoiさんの作風や方向性も変化してく可能性があると考えられますか?

dokkoi:やっぱり絵の評価はしてほしいから研究は常にしていますね。流行やトレンドに流されずブレずに進み続けるカッコよさもあると思うんですけど、僕の場合は時代の流れに合わせて、正解を探して自分をそこにハマるように変えていきたいという気持ちがあります。今は作風が変化してく過渡期にありますね。

ー時代感も研究してやっていくというのはdokkoiさんならではの活動指針だと思いました。

dokkoi:とは言っても流行りをそのままやるというわけでは全然ないです。今は手描きで絵をやる人口は減ってきていると思います。オリンピックでいえばフェンシングみたいなゾーンに入っているのかもしれません(笑)。自分としてはそういう競技人口が少ないところでやっていきたいんです。

INFORMATION

Dokkoi Dokkoi DOKKOI SHOW

2024年4月6日(土) – 4月28日(日) ※月火水休廊
開場時間:14:00 – 20:00(木 / 金 / 土) 13:00 – 19:00(日)
入場無料
月極 & メグロネオン
東京都目黒区中央町1-3-2 B1
http://tsukigime.space
Instagram : @tsukigime.space

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