ART 2025.06.26

Interview : 「支えること」の美学。
─ tsuchifumazu、結成6年目の現在地 ─

EYESCREAM編集部
Text_Shinnosuke Aoki

2019年に結成し、映像を軸に多様な現場と関わりながら活動を続け、野田洋次郎、lilbesh ramko、NewJeans、パソコン音楽クラブといったアーティストのライブ演出やMV制作を手がけてきたクリエイティブユニットtsuchifumazu
映像面から多くのアーティストを支える一方で、国内の映像表現の最前線を切り取る『映像作家100人』に2020年から5年連続で選出されているtsuchifumazuが、ユニット初となるExhibitionを6/28(土)から開催する。
今までとこれからのtsuchifumazuを知れる絶好の機会。そして彼らならではの視点と美意識が濃縮された展示は、映像を超えて観る者の記憶に残るはずだ。
EYESCREAMでは、結成当初から変わらない2人の関係性や制作秘話など、映像作家/ライブ映像演出家として活躍する2人の中身について迫っていく。

Left to Right→Watakemi、Kairi Sato

──お二人の年齢と、ご自身の性格について教えてください。

Kairi Sato:佐藤海里、29歳です。自分はわりと雰囲気で生きていて、フィーリングで生きてきた人間ですね。

Watakemi:Watakemi、31歳です。自分の性格はどうだろう…自分とあんまり向き合ってないな…(笑) ビビリかもしれないです。制作会社でエンジニアをやっていた時期があるんですけど、リスクマネジメントをかなり求められていた経験があって。もともと慎重だったのが、それで加速したような気がします。

──お互いのことは、どう見えてますか?

Kairi Sato:2個違いですけど、良い兄貴分みたいな。僕がついていく感じです。外部とのやり取りとかもやってくれるし、引っ張ってくれるから一緒にいて安心できるし頼もしい存在です。

Watakemi:カイリは天才肌だと思ってます。作業のスピードがものすごく早い。普段からあまり具体的な依頼をしていなくて、こういうの良いよねみたいなことを話しているとドンピシャのものが上がってきちゃう。これがとんでもない早さなんですよ(笑)

Kairi Sato:割と好きなモノは似ているんで脳内の同期率は高いですよね。

──お二人の出会いは?

Watakemi:中高生向けにプログラミングとか映像制作を教える会社で、大学時代にバイトしてたんですけど、そこで出会いました。

Kairi Sato:最初に一緒に何かをやったのは、その会社のクリスマスイベントのVJだったと思います。二人ともVJは初めてだったけど、感覚が近いなと思って、一緒にやろうかってなったのを覚えてます。

──tsuchifumazu結成時のお話を聞かせてください。

Kairi Sato:平成から令和に変わるタイミングで、森ビルのカウントダウンイベントの映像演出を2人でやらせてもらうことになりました。主催の方に「アーティスト名が必要です」と言われて。当時はまだ名前がなかったので、急いで決めました(笑)

Watakemi:それまでにも割と2人で仕事することは多くて、今回を機に決めてしまおうという感じでしたね。

──tsuchifumazuの名前の由来は何ですか?

Watakemi:その当時、TYMOTEさん(現 世界株式会社)の作るモノかっこいいしええよなぁとか、鎮座DOPENESSさんと環ROYさんの“KAKATO”っていうグループが2人とも好きだったり…。それで、なんか「この感じ」良いよねみたいなので色々案だして、最初に出てきたのが冗談半分で「土踏まず」でした。だいぶ“KAKATO”に引っ張られてますね(笑)

Watakemi:当時はVJでやっていくぞという気持ちが強かった。VJはあくまで「支える側」であって、アーティストの縁の下の力持ちになって強靭な土踏まずを作れば、強靭な支えになるよね。だから、足元で支えるみたいな意味で「tsuchifumazu」ちょっとネタっぽくもあったけど、言葉のニュアンスが良くて、そのまま定着した感じです。

──その名前が、結果的に今のスタンスを象徴するものになった?

Watakemi:そうですね。

Kairi Sato:名前ができたことでちょっとずつ輪郭ができてきたのかもしれないです。意味合いもしっくりきたし。

──数々の作品を手掛けてきた現在、あえて当時の作品を振り返ってみるとどう感じますか?

Kairi Sato:根幹にあるものは今と変わりはないです。やりたい方向性だったりとかは、やっぱり昔から変わらないんですよね。言語化がちょっと難しいんですけど、僕らの色みたいなのは昔からずっと継承し続けていて。
当時だとおかもとえみさんの「subway」とかは割と結構ギミックを使ったMVなんですけど、プラレールの上にカメラを載せて、それにCGを合成させてみたいな。ただ普通にこうカメラを回して指示をつけてっていうのではなくギミックじみたものを我々は結構好む傾向にあって、そういうところは今も昔も変わってないんです。

──結成当初から独創的で唯一無二な映像を作られている印象があるのですが、幼少期はどんな環境で育ってきたんでしょうか?

Kairi Sato:栃木のすごい田舎の出身なんですけど、自転車で30分漕がないとコンビニもないみたいな。実家が金属加工の工場をやってて、小さい頃からモノ作りには触れていました。そこに転がってる金属の端材で遊んだり。

Watakemi:僕は3歳から9歳くらいまでアメリカのミネソタ州に住んで現地校に通っていたんですけど、あんまり治安の良くないエリアだったので、基本的に家の中で遊んでましたね。レゴとか絵を描くとか。あとアリの観察も好きで、捕まえて巣を作ったりしてました。

──なるほど。今の制作の原型になってるような気がします。

Kairi Sato:そうだと思います。最初に金属の端材とかで遊んだときに、なんとなくこれかっこいいなって思える形ができたことがあって。

Watakemi:僕もレゴとかアリの巣とか、延々と一人で何かを積み上げるみたいな時間が好きだったんです。今もそういう集中の仕方をしてる気がします。

──学生時代はどんな日々を過ごしていたのでしょうか。

Kairi Sato:中学まではサッカー部で、高校に入って陸上部に入ったけどすぐ辞めて、生徒会に入りました。高校が家から遠くて、原付で通ってたんですよ。片道11kmくらい。その間、ずっと音楽聴いてましたね。自分の好きな曲だけを入れたプレイリストを作って、それを永遠に聴いてました。

Watakemi:小学生の時は水泳をやってて、高校ではアメフト部でした。当時アイシールド21が流行っていて始めましたね(笑) でも骨の関節が柔らか過ぎて指を骨折して、鎖骨も折って、脱臼して、みたいな…。怪我した時は他校のリサーチに良く行っててそれは結構面白かったです。まぁでも接触プレーはやめてそこからバンドをやるようになりましたね。

──音楽との出会いは?

Watakemi:高校の時に鎮座DOPENESSさんを見て衝撃を受けたんです。MCバトルで「こんな自由な表現があるんだ」って。なんか独特じゃないですか。それで日本語ラップにハマって、そこからバンドでライブもしたりしていました。

Kairi Sato:僕は小さい頃は割とメジャーなJ-popとか聞いてましたけど、周りに音楽好きが多かったんで、自然と影響を受けてました。SkrillexとかThe Chemical Brothersとか、Daft Punkとか…そういう海外のエレクトロを学生の頃からよく聴いてますね。一つのプレイリストをずっとリピートしてひたすら聴いてました。

──お二人での制作は、どのように進めているんですか?

Watakemi:結成当時は、MVとかVJは、まず自分が方向性を考えて、グラフィックの素材を沢山準備して、それをカイリが色んなモーションをつけて、そこから詰めていくっていう流れが多かったです。

Kairi Sato:ワタケミさんが出した方向性をもとに、じゃあこうかな?って試していく感じでしたね。ワタケミさんの中に、あらかじめ「こういうのが好き」っていう引き出しがあるので、そこに近づけるというか。あとはやっぱり感覚が近いので、お互いを信頼して制作を進めています。

Watakemi:ここ数年は僕もCGのソフトに触れるようになったし、カイリも当時以上に色んなことができるので、案件ごとに1人で最後まで終わらせることも多い。出来上がったモノに文句だったり反対意見を言うことは無いですね。

──当時感じたフィーリングが合うなっていうのは間違っていなかったんですね。

Kairi Sato:そうですね。

Watakemi:あるアーティストのワンマンのお仕事で、楽曲に合わせてリファレンスをお互い持ってくるんですけど…その時に2人して同じような画像を持ってきて(笑) そういうのが多々ある。大きくブレることはほとんど無い。

Kairi Sato:打ち合わせでイメージするのはこんな感じだよね?で、リファレンス持ってくる時には大体一緒です(笑)

──過去作で印象深い、分岐点になった作品はありますか?

Watakemi:僕はMANONさんの「GALCHAN MODE」です。CGのソフトウェアに興味を持ち始めてそれを沢山勉強して駆使して、初めてMVにしたのがこの楽曲。そこに重ねる実写とかエフェクトの部分はカイリが作ってます。その当時から「僕がすっぴんを作るからカイリはお化粧をお願い」っていう感覚がありました。

Kairi Sato:全部好きなんだけどなぁ…(笑) その中でも割と印象に残っているのはやっぱりパソコン音楽クラブさんのワンマンの“Love Flutter”が自分の中では、やり切った感・多幸感・満足感がありましたね。生カメラを使ったりメンバーのお二人と演出やプランを擦り合わせていく中で、すごく色んな可能性を感じてそれをうまく形にできたライブだったので、かなり印象に残っています。

Watakemi:パソコン音楽クラブさんとは年齢構成も似ていて、相性がすごく良い気がしています。僕らも映像作家だから色々アジャストしながらやってるんですけど、

Kairi Sato:その中でもパソコン音楽クラブさんは割とドンピシャって感じですよね。

──クライアントワークやコラボレーションで、大切にしていることは?

Kairi Sato:クライアントワークはやっぱり相手の要望があるので、当たり前ですけどリファレンスと大きくかけ離れ過ぎないというか。最終的には相手が求めている以上のクオリティで仕上げることを大切にしています。

Watakemi:その方のリサーチにはある程度時間をかけますね。どういうSNSをやっていて、最近何を投稿しているのかとか今までどういうモノを作ってきたのかとか。使える素材は引っ張ってきたりもします。ホスピタリティじゃないけど痒いところに手が届くようなチームでありたいです。

──初めてのExhibitionについても聞かせてください。

Watakemi:今回の展示は、結成6年になるタイミングで色々なお仕事をさせていただく中で作品数がかなりたまってきました。それを一度振り返れる機会。尚且つ、自分たちが今後やっていきたいことを皆さんに見せることができる機会があったら良いよねっていう、話し合いなどの経緯があります。こういうのは大体5周年とかでやると思うので6年目にっていうのが良いのかどうかは分かりませんが…(笑)

Kairi Sato:前に一回やろうって時があったんですけど、流石に忙しい時期すぎて(笑)

Watakemi:あれも確か、4年目の時だよね(笑)

Kairi Sato:展示物としては、今までのアーカイブであったりグラフィックが数点、ポスター展示、あとはお互いが作ったハードウェア系の展示とアパレルグッズを用意してます。

──空間の見せ方で工夫している点はありますか?

Watakemi:まずは僕らが何をやってきたのかを最初に提示します。一緒にお仕事をさせていただいていた方々もおそらく知らない作品があると思うので、そういうこともやってたんだって言う発見をしてもらえると嬉しいです。そこから新作を並べているので、個展をぐるっと1周すれば“tsuchifumazu”が丸裸になるようになっています(笑)

──オープニングパーティーで、過去のコラボアーティストの出演についてはどういった思いがありますか?

Kairi Sato:すごい感動的な瞬間になるなとは思っていて。今まで僕らが関わらせていただいた皆さんが、一同に会するっていうのはなかなかないことだし今回面白いと思っているのが、ジャンルも結構多種多様というか。
絶対に同じところに並ばないアーティスト同士が参加してくれるので、そこはすごい面白いなと思っています。

──当日のライブVJについて伺いたいのですが、私の当日の楽しみが…(笑) テーマだけ聞いてもいいですか?

Watakemi:投影手法はちょっと変わってるかもしれないですね。新しいわけではないですが、普通にVJをしない。というのがテーマの1つでもあります。

Kairi Sato:見せ方に工夫をしてます。ただ単に映像を見せるだけだとつまらなかったので、ちょっと変えました。お楽しみということで(笑)

──tsuchifumazuとしてのこれからは?

Watakemi:有名になるぞ!というよりは、目の前のアーティストとどんどん盛り上げていきたいです。やれることをやっていくっていうスタンスで続けたいです。

Kairi Sato:そうですね。そのアーティストやその空間にあった映像だったり演出案をしっかりと提供したい。

Watakemi:まずは自分たちが面白いと思えるものをやっていきたい。あとは下の世代に何かを渡していきたい。継承じゃないですけど後世に伝えていきたいですね。年がら年中そういう人は募集してます(笑)

Kairi Sato:興味があって、しっかり僕らと同じ目線を持ってやってくれるような方であれば、ウェルカムです!

──インタビューは以上です。お二人の活躍をこれからも楽しみにしています! ありがとうございました。

Watakemi・Kairi Sato:ありがとうございました!!

INFORMATION

tsuchifumazu

Instagram:https://www.instagram.com/tsuchifumazu_/
HP:https://tsuchifumazu.com

【”tsuchifumazu” Exhibition 2025】
開催日程: 2025年 6月28日(土) 〜 7月5日(土)
営業時間:14:00~20:00(最終日のみ17:00まで)
開催場所:ANewFace(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-1-14 LE REVE 1F)
入場料:無料
協力:CANTEEN / EDP graphic works

【tsuchifumazu” Exhibition 2025 Opening Party】
出演アーティスト:
パソコン音楽クラブ、おかもとえみ、どんぐりず、lilbesh ramko、hirihiri、MANON、LAUSBUB (B2B DJ sets)、DJ KRO & Cecum (Chilly Source)
suzkikenta、Yudai Ishii (SpaceJamz)、Taichi Nagaoka、saeko、Shoichi Okatake (Nwung Nwung)、Takemi Inagaki
VJ:tsuchifumazu
https://t.livepocket.jp/e/tsuchifumazu_exhibition2025

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