MUSIC 2025.06.29

「今という瞬間をもっと素直に感じたい」Chilli Beans.が放つ軽やかな新作EP『the outside wind』

EYESCREAM編集部
Photography_Hiroki Asano, Edit&Text_Chie Kobayashi

Chilli Beans.が新作EP『the outside wind』を完成させた。これまで背負ってきたものを下ろして「今という瞬間をもっと素直に感じたい」という軽やかなモードで作り上げたという本作について、また7月クールのアニメ「地獄先生ぬ〜べ〜」のEDテーマ「ひまわり」について、3人に聞いた。

──ライブツアー『upside down tour』が始まりました(※取材は6月上旬に実施)。「Chilli Beans.のダークとポップな部分を、反転する世界観で楽しんでもらいたい」という想いが込められたツアーとのことですが、実際どのような内容になっているのでしょうか?

Maika:昼のパート、夜のパート、ちょっと落ちるパート……みたいな感じに分けて、映像の演出も使いながら去年12月にリリースしたミニアルバム「blue night」の曲たちを披露しています。今回初めてキーボードのサポートの方にも入ってもらって、5人で演奏しているので、音の奥行きみたいなものも出て、楽しくやれています。

Lily:私たちもそうだし、お客さんも、新鮮に感じてくれているんじゃないかなって思います。中でも「stressed」は、これまでとは違った面が出せているような気がする。

Maika:そうだね。あと「Raise」みたいにもともと鍵盤が入っていない曲も印象変わるよね。より航海っぽくなったなと思います。

──バンドにとってもリスナーにとっても、様々な発見のあるツアーになりそうですね。そんなツアーの終盤、6月25日には新作EP『the outside wind』がリリースされます。収録曲のうち「tragedy」はモード学園の新テレビCM「ぜんぶやっちゃえ」篇のCMソングで、4月にデジタルリリースされています。専門学校のCM曲でありながら、「悲劇」という意味の単語が冠されているところにChilli Beans.らしさを感じました。この曲ができた背景を教えてください。

Lily:個人的に、モード学園のCMソングって、歪んだロックな曲という印象があって。木村カエラさんの「TREE CLIMBERS」とかサカナクションの「夜の踊り子」とか。だから私たちもそういう歪んだカッコいい曲を作りたいと思ったところから曲を作り始めました。学生さんは夢を持ってモード学園に入ってくるだろうし、自分も夢を追いかけてきた経験がある。そのときの気持ちは今も変わっていないなと思ったので、そういうものを曲にしたいという思いもあって。

──歌詞はどのようなイメージで書いていったのでしょうか?

Moto:Lilyが曲を作る時点で、「夢を持つと苦しいこともある」とか「他の人をうらやましく思う」「自分の気持ちがわからなくなる」というイメージを決めていたので、歌詞もそれに沿って書いていこうと思いました。はじめにLilyが入れていたメロディのイメージに「guess」という言葉が入っていて、そこから“誰に問いかけてもわからない答えを探している”みたいなイメージが出てきて。そしたら、「白黒みたいに、色が少なくてシンプルな感じだったらこんなにも頭の中ぐちゃぐちゃにならないで楽になるのかな」と思ったので、そういうことを組み合わせて書いていきました。

──夢を見ることや夢を持つことって、一般的には明るいこと、希望と歌われることが多いと思うのですが、そこで「苦しい」とか「うらやましい」というものが出てきたのはどうしてなのでしょう?

Lily:学生って、周りと比べてしまう時期だと思うんです。学校は「自分の特徴は何だろう」ということを、知りたくなくても考えざるを得ない場所だし。特にモード学園はファッションなどに興味があって、個性を出したいと思っている子がたくさん集まる。その気持ちは自分もわかるんですよね。好きだから音楽をやりたいけど、人と比べざるを得なくて。今でも比べちゃうときあるし。それ自体は自分を知るきっかけになるし、成長もできるし、いいことだと思うんですけど、やっぱり苦しいじゃないですか。特に学生さんはナイーブになる人も多いんじゃないかなって思って。

──ちなみにChilli Beans.の皆さんは、ここに来るまでの道のりで、「好きだからこそ苦しい」「夢があるからこそ苦しい」と思った経験はありますか? 

Lily:3人とも同じ学校(音楽塾ヴォイス)に通っていたんですが、そこに通っているときは特に思っていました。通っている人たちは、年齢も、入るタイミングもバラバラだから、いろんな人がいるんです。同じクラスの人でもすごく上手な人がいたりして。そのときは、人と比べて苦しいなと思っていました。

──どうやってその時期を乗り越えたのでしょうか?

Lily:乗り越えた、のかな……? わからないですけど、自分にしかできないものがきっとあるはずだと信じて、とにかく探しました。

Maika:私もヴォイスのときかな。ヴォイスに入る前は「音楽大好き!」「絶対に音楽やる」って、何も知らないからこそ、キラキラした世界に恋焦がれていたんですけど、実際に始めてからが現実なんですよね。勝ち負けじゃないのに「これだけ練習してもあの人には勝てないかもしれない」とか、そういう目で見ちゃったりして。あと、いろいろなオーディションを受けてたんですけど、オーディションにも年齢制限があって「もうこのオーディションは対象外になったんだ」とかそういうことを実感したときに「本当に叶わないかもしれない」って思ったり。そういうときに、夢を追うことってしんどいだなって思った。だからこそ「tragedy」の歌詞に共感しました。

──Maikaさんはその時期をどうやって乗り超えましたか?

Maika:私もLilyと同じで別に乗り越えてはいなくて。ただ目の前にあることを頑張ったみたいな感じだった気がします。とにかく自分にできることをやって、少しでもいいから進むみたいな。

──お二人とも、そこで辞めるとか諦めるという選択肢にはならなかったということですよね。

Maika:そうですね。「やめられなかった」っていう感じですかね。やめたくなかった。

──Motoさんはいかがですか?

Moto:うーん、音楽だと自分の本当の気持ちを伝えられる気がするんです。もどかしいことがあっても曲にしたら自由になれるみたいな。

──音楽を作ることで気持ちを発散させたり、前に進めたりしたと。

Moto:うん。曲ができたらワクワクするし、それをメンバーとか身近な人に聞かせて「いいね」って言ってもらったらうれしい。そうやってここまできた気がする。

──では話を「tragedy」に戻します。「tragedy」を演奏するうえでこだわったことやアレンジで気に入っているところを教えてください。

Lily:この曲は音数を減らしているんですが、すごくシンプルなのに、勢いが感じられる。そこはすごくいい感じにできたんじゃないでしょうか。

Maika:うん、そう思う。

──強さを出すために、あえて音数を減らした?

Lily:伝えたいことを音にしたら、それで十分だったみたいな感じ。これ以上足さなくてよかったみたいな。

Moto:私は空間的な感じが好き。Aメロは浮いている感じもするし。サウンドで感情の起伏がある感じがいいなって思う。心がじりじりしている感じもして。

Maika:私、この曲がすごく好きで。ライブでやっていても超楽しいんですよ。2人が今話したこととかぶっちゃうんですけど、浮いているようなところもあれば、地に足がついているようなところもあって。感情が混沌としていて自分も混乱している感じがサウンドにも出ていて、演奏していても、コーラスを歌っていても、自分が曲になっているみたいな感じがします。

──4曲目の「pineapple!」はとびきり夏を感じさせるキュートな1曲。前半3曲が内省的な曲だからこそ、特にこの曲の明るさは際立ちますが、この曲はどのようにできたのでしょうか?

Maika:「just try it」「tragedy」「pain」の3曲は収録されることが決まっていて、「最後の1曲どうしよう」という段階で「夏にライブで盛り上がる感じの楽しい曲が1つあったらいいよね」という話になって。だったら一旦いろいろ考えるのをやめて、楽しい曲を作ってみようって思ったんです。私、夏が好きで、あとはパイナップルが好きで。海も好き、海で見るサンセットも好き……と、好きなものをいろいろくっつけて考えていたら、“海で君と見るサンセットがパイナップルに見える”というシュールだけどかわいい情景が浮かんで。そこから制作を始めて、2人に聞いてもらって「こういう情景を思い浮かべて書いたんだよね」と言ったら、そこからもにが歌詞の世界観をうわっと広げてくれて。さらにそこにLilyがファンクっぽいギターのカッティングとか、ロマンチックなギターとかを入れてくれて……とんでもない曲ができあがりました(笑)。

──Motoさん、Lilyさんは、この曲を聴いて、どんな印象を受けて世界観を広げていったのでしょうか?

Moto:シュールでいいなって思いました。すごく盛り上がるとかじゃなくて、自分たちのノリ方でノっているみたいな。“別にカッコはつかない、うまくいかないけど、最高!”みたいな。うまくいかないのが最高なんじゃなくて「最高の私がうまくいっていない」みたいな感じのイメージで。そこからこの歌詞ができました。飾ってない自分たちになれそうな曲だなって思いました。

Lily:なんかこの曲を聞いたときに「何でもいいよ」「好きに演奏しなよ」って言ってくれている感じがして。いろいろ遊んでみました。

──ということは、この曲の制作は楽しかったんじゃないですか?

Maika:はい。レコーディングも楽しかったよね。終わったあとみんな踊って。

──みんなで踊ったんですか?(笑)

Maika:はい。その姿はしっかり激写されていました(笑)。

──様々な感情を歌ったEPになりましたが、『the outside wind』という作品はどんな1枚になったと思いますか?

Maika:いい意味でさっぱりしているなって思います。無理してないし、心地がいい。

──「blue night」が夜っぽい作品だったから、今作はあえて明るいものにしたのかなと推測したのですが、そこは意図的ではない?

Moto:はい、意図的じゃないです。自然と、今まで感じてきたことを下ろしたみたいな。

──どうして下ろしたんだと思いますか?

Moto:いらないかもって思ったんです。大事でもありますけど、もうちょっと自由に、風みたいな感じで爽やかに笑って過ごすのもいんじゃないかって。目標や夢に夢中になったり、譲れないものがあったりするんだけど、最後は身一つになる。そう考えたら、今という瞬間をもっと素直に感じたいなって。“今を見る”みたいな感じ? なんかそうしたら良さそうだなって思った。

──実際、下ろしてみていかがでしたか? 良かったですか?

Moto:うん。素直に、大事なものは大事にして、今一緒にいる人と今を楽しんでみる。時々悲しくもなるけど、「いや、楽しもう」って思って、でもまたもどかしくなって、でも「楽しみたい」って思う。そういう4曲が、「the outside wind」の収録曲です。

Lily:ライブでも、今の気持ちをそのまま出せそうな曲たちです。

──さらに7月クールのアニメ「地獄先生ぬ〜べ〜」のEDテーマを担当することも決まりました。この曲はどのようにできたのでしょうか?

Moto:ぬ〜べ〜先生が背負っているものはきっとすごく膨大で。そんな先生を生徒はみんな信頼していて。そういうものをサウンドで表したのが「ひまわり」です。このジャケットの夕日のイメージだよね。

Lily:そう。みんなで話して、歌詞では生徒の純粋な感じを出して、サウンドで、先生が背負っているものを表せたらいいよねって。

Maika:「隣で言わせてまた明日!」のところ好きだから、説明してほしい!

Moto:先生はいつも生徒のために戦ってくれるんです。だけどケガをしちゃって明日会えないかもしれないっていう場面があって。だけど生徒たちは先生のことを信じているから「また明日ね」って言いたい。明日も笑顔で会えるって信じたい。そういう生徒の思いを込めました。

Maika:サウンドは先生視点で、歌詞は生徒視点というのが面白いなって思っています。しかも、デモの時点から好きな曲だったけど、レコーディングでさらにカッコ良くなったんです。レコーディングを経てロックになった、って言うのかな。レコーディングしたものを聞いたときの「はっ!」っていう気持ちを今でも鮮明に覚えています。アニメの映像にあわせたティザー映像もすごく感動したので、アニメの放送が楽しみです。

──最後に、ツアーにリリースにと多忙な最近だと思いますが、「the outside wind」の制作時、もしくは最近影響を受けたカルチャーや感銘を受けたエンタメを教えてください。

Moto:最近、インストの曲をよく聴くんですけど、インストって言葉がなくて直接的に何かを伝えてくるわけではないのに、聴いていたら悲しみを感じたり、果てしない気持ちになったりする。音楽ってすごいなって思いました。アニメとかでも、戦うシーンに付いている音楽一つで印象が変わったりして。

──確かにそうですね。

Moto:あと、最近聞いているのはmgkとトリッピー・レッドのコラボアルバム「genre:sadboy」。このアルバムに入っている「struggles」っていう曲は、「うまくいかない」「疲れた」っていうことだけを淡々と歌っていて。「今だるいからだるい」みたいな。その感じがすごくいいなって思って。音楽ってそういうことだなって思いました。

──言葉のないインスト曲と、反対にただただ「疲れた」と歌うだけの曲と。音楽の本質みたいなものを感じているんですね。

Moto:うん。なんか「今自分が感じているのはそういう感情なんだよ」って包み隠さず言ってくれるから、共感して救われるなって思いました。

Lily:私はRachel Chinouririの「What A Devastating Turn of Events」というアルバムを、最近ずっと聴いています。私はUKのカルチャーが好きで。音楽も服装も、言葉の訛りも。自分が惹かれるものはなぜかUKなんですけど、Rachel Chinouririも知らずに聴いたらイギリスのシンガーで。やっぱり自分が惹かれるものはUKなんだなって思いました。

Maika:私は今モードが2つあって。1つはミュージカル。もともとミュージカルは好きなんですけど、映画の「ウィキッド ふたりの魔女」を見てから、ずっとそのサントラを聴いていました。インストの話のあとで反対のことを言うんですけど(笑)、ミュージカルってセリフが歌になっているじゃないですか。それこそ「これから遊びに行こう」っていうだけのことを、ものすごい重厚感で歌う。その一瞬の感情をすごく大事にしている感じがして清々しいんですよね。聴いているだけで、そのキャラクターと同じ気持ちになれるし、いいなと思って、昔好きだったミュージカルのも聴いています。もう一つのチャンネルは、さらっと寄り添ってくれる音楽。特にタイのWIMというアーティストの曲はよく聴いています。この人も、淡々と幸せを歌っているんですよ。「今、君と一緒にいられることが幸せなんだ」みたいな。

──先ほど、今のChilli Beans.は“今”を素直に歌うモードだとおっしゃっていましたけど、聴いている音楽もそのモードのものなんですね。

Maika:音楽ってそういうものだよなって本当に思う。今、あなたが恋しいから「恋しい」って歌うとか、今つらいから「つらい」って歌うとか。理由なんてなくていいんですよ、そういうものを出せるのが音楽なんだよなって。

Moto:自分を大きく見せるものじゃないんですよね。小さい自分も出せるのが音楽なんです。

INFORMATION

Chilli Beans. digital 5th EP『the outside wind』

Release Date:2025.06.25(Wed.)
Label:A.S.A.B
【Tracklist】
1. just try it
作詞・作曲・編曲:Chilli Beans.
2. tragedy
作詞・作曲・編曲:Chilli Beans.
3. pain
作詞・作曲・編曲:Chilli Beans.
4. pineapple!
作詞・作曲・編曲:Chilli Beans.
【HP】
https://chilli-beans.com

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