ART 2026.10.30

Interview: 藤井萩花 × 長濱治 “好きなものを貫いてきてよかった” 油と鉄の匂いのなかで生まれた“OIL”

EYESCREAM編集部
Photography_Yuichi Akagi, Interview&Text_Ryo Tajima(DMRT)

藤井萩花と写真家・長濱治による写真集『OIL』が、11月6日(金)にmanpan pressから発売される。藤井にとって約9年ぶりの写真集、テーマは<女性の強さ>だ。

長濱といえば、アメリカ南部のブルースマンやバイカー・カルチャーを追い、『HELL’S ANGELS 地獄の天使』でも知られる写真家。その長濱が1974年に撮った梶芽衣子の写真集に衝撃を受けた藤井が、自ら事務所を訪ねてオファーし、この異色のタッグが実現した。舞台はオイルの匂いが染みついた整備工場、BGMはニーナ・シモン。世代を軽々と飛び越えた2人のセッションについて聞いた。

梶芽衣子さんの写真集に衝撃を受けて

ーそもそも、どういう流れでタッグを組むことになったんですか?

藤井萩花(以下、藤井):若い頃から、力強い世界観や男らしい映画、写真に惹かれてきたんです。長濱さんの写真にはすごく生命力を感じていて。それに、長濱さんが梶芽衣子さんを撮った写真集(『MEIKO FANZINE 長濱治による梶芽衣子写真集』)に衝撃を受けたんです。梶さんは『女囚さそり』シリーズですごく好きになって、家にポスターを飾っていたくらい。それで、「撮っていただけませんか?」とお願いしに行きました。

長濱治(以下、長濱):『なんで僕なんかに? 女の子が撮ってくれだなんて珍しいな』と思ったよ。もう80代も半ばで、男を卒業したようなカメラマンが女の子を撮れるのかなって。でも来てみたら、いわゆる“女の子”じゃなかった(笑)。女性っていう感じが全然違う。性別を感じさせない雰囲気があって、これはいいなと。じゃあ久しぶりに撮ってみようかって。

ー長濱さんは、これまで女性を撮る機会は少なかったんですか?

長濱:僕が社会に出たのは『平凡パンチ』ができた年でね。その2年後くらいに『週刊プレイボーイ』ができて、男性誌の仕事はほとんどやった。タレントの色っぽい写真を撮ったりはしたけど、女性そのものを主役にした写真集は、梶芽衣子のあとは数えるほどしか撮ってない。世の中の僕のイメージは、HELL’S ANGELSみたいなドキュメンタリーとかでしょ。男の世界を撮るほうが僕にはぴったりしていた。言うなれば、女のことはわからん、という青春時代だったわけですよ(笑)。でも今はいいじいさんになったから、何でもいらっしゃいと。そこに彼女がハマったんだよ。

ファーストインプレッションでスパッと

ー長濱さんは、萩花さんのどこに“力強さ”を感じたんですか?

長濱:部屋に入ってきたときに一発で。ファーストインプレッションですよ。正直、彼女の活動は詳しく知らなくて。でも会ってみたら、性を感じさせない、削ぎ落とされた佇まいがあった。普通なら「どうも」って挨拶するところを、すっと見惚れちゃったからさ。そのときに「こういう方向だ」というイメージが湧いてくる。いろいろ考えているうちに新鮮味はなくなっちゃうから、第一印象で生まれたインスピレーションを出発点にすると、だいたい間違ってないんです。言ってしまえば“フィーリング”が合ったんだね。彼女は、僕のイメージの世界に珍しく入ってきた女性だから。

藤井:断られたらどうしようと思って、緊張して行ったんですけど。

長濱:好々爺だったでしょ?(笑)

藤井:怖い人だったらどうしようと思っていたけど、すごくフラットに何でも話してくださって。長濱さんのこれまでの歴史をたくさん聞かせてもらいました。事務所も写真だらけで、毎回圧倒されるんです。

長濱:あれは整理中の“ゴミ写真”だから(笑)。全部捨てられたら気持ちいいんだけど、今もどんどん増えてて困ってるんだよ。

ありのままの自分で長濱さんの世界に入りたかった

ー撮影はどんな雰囲気でしたか?

藤井:長濱さんは、私がずっと憧れてきたカッコいい男の世界を撮り続けてきた人。作り込まれた世界観より、ありのままの自分でその世界に入りたかったんです。実際、「萩花が好きなものを着てこい」という感じで、何を着るかも決まっていなくて。2回のスタジオ撮影では全部私服、ヘアメイクさんもいなくて、すっぴんで撮りました。今の自分をちゃんと表現してもらえたと思います。長濱さんのサックスを持って撮ったりもしましたね。

長濱:ジャズが好きでね。ニーナ・シモンっていうジャズシンガーが好きなんだよ。

藤井:打ち合わせで「普段どんな曲で踊るのか」という話になって、私もニーナ・シモンの曲で踊っているんです、と話したら、お互い大好きだとわかって。撮影中もずっとかけていました。私はウエスタンブーツが好きなんですけど、長濱さんも若い頃からずっと履いていて、好きなものの共通点がすごく多かったです。

長濱:この写真なんか色っぽいでしょ。男もののシャツにブリーフみたいなのを合わせてる。このセンスの良さ!

藤井:80~90年代の映画で、女性が男の部屋で男ものの服を部屋着にしている、みたいなのが好きで。私、家では本当に男もののパンツを穿いて生活しているので(笑)。スタイリストの服部さん(服部昌孝)に「ブリーフみたいなのを穿きたいんです」とお願いして、そういう自分のリアルを表現しました。

長濱:いいセンスしてるなと思ったね。他の人がやっても似合わない。あなただけのものだよ、そういう世界は。

彼女をどこに置こうかと考えてオイルの場所に

ー表紙のロケ地はどんな場所なんですか? ガレージのように見えますが。

藤井:古い車やバイクを整備・レストアしている工場で、持ち主の方の趣味部屋みたいな場所もあって。レコードやガスマスクなど、いろんな年代のカルチャーが詰まっていて、めちゃくちゃ面白かったです。地元のバイク乗りはみんな知っている場所らしくて。

長濱:僕は泥くさい、油くさい場所が好きだからね。

ー撮影期間はどれくらいだったんですか?

長濱:スタジオが1日、2日か……。

藤井:全体で3日ですね。

長濱:そうだったね。どこに彼女を置こうかと考えて、置いたのがこの“オイル”の場所。本当に油まみれになってますよ。

藤井:タイヤを噛んだり、鉄をくわえたり、本当に初めてのことばかりで面白かったです(笑)。

ーまさに『OIL』というタイトル通りですね。

藤井:コラージュしたレイアウトの上に実際にオイルを垂らしたりもしているんです。タイトルは、撮影後に長濱さんの事務所で打ち合わせを重ねるなかで、アートディレクターの方が「“OIL”ってぴったりじゃないですか?」となって。Originality、Identity、Loopの頭文字で“OIL”、という意味も考えてくれました。

長濱:僕が「オイルっぽいので行きたい」と言ったら、そんな洒落た意味を作り出してくれた。すべてが最初から決まっていたようにしっくりきたね。

こういう写真は彼女でなきゃ撮れない

ー特に印象深いカットは?

藤井:私は見開きの、ちょっと不気味な感じの写真です。

長濱:プレス機みたいな機械の上に、首をポンと乗せた写真ね。その横顔がすっきりきれいで、萩花のなんとも言えない、人をストーンと切るような感じがしているというかね。こんな写真、普通は「嫌だ」って納得しないでしょ(笑)。彼女でなきゃ撮れないんだよ。本全体のイメージがこの工場がなんですよ。あと、和装は萩花がやりたいと言ったもの。そこは物わかりのいいじいさんカメラマンとして「いいよ」って。おじいちゃんが踏ん張っても仕方ないから(笑)。

ー和装をやりたかったのは、やはり梶芽衣子さんの影響ですか?

藤井:それもありますし、『極道の妻たち』がすごく好きで。

ーなるほど!

藤井:岩下志麻さんにも憧れているので。着物は祖母から譲り受けたもので、お祝いごとでも着ているんです。私も自分で着付けができるようになりたいと思っていて、これを見た若い人が「着物ってきれいだな、自分も着たいな」と思ってくれたらいいな、という思いも込めました。

自分の好きなものを貫いてきてよかった

ーこの写真集を、どんな人に見てほしいですか?

藤井:私自身、流行りやみんなが言う“かわいい”に、感覚的にはまれなかったんです。若い頃は「こっちにしたほうがいい」と言われることもあったけど、好きなものを貫いてきてよかったと、この本ができて思えました。だから、たとえばK-POPが好きな女の子やアニメが好きな男の子にも見てもらって、私とはまったく違う感覚で受け取ってもらって、その人の何かを刺激できたら嬉しいです。みんながかわいいと言うからかわいい、という価値観が溢れる現代だからこそ、自分が好きな感覚を大事にするきっかけになってほしいです。それに、紙で出せることもありがたくて。

長濱:そこは重要だね。やはり紙だね。

藤井:ええ。ちゃんと手に取って見てほしいです。いろんな紙媒体がなくなっていくなかで、紙の良さを大切にしたいと改めて思えるきっかけにもなりました。

自分の意思を貫き通せる強さを持っておきたい

ー最後に、お2人にとって“女性の強さ”とはどんなものでしょう?

藤井:私は自分を強いとは思っていないんです。32歳になって、出産も経験して、自分より大事な子どもたちがいることで、徐々に強くなれていくんだろうなと今すごく感じていて。見た目の強さではなく、人生を重ねるなかで育っていく、軸の根本的な強さというか。今の自分の女性らしさ、男性らしさ、強さを、この写真集ではリアルに写してもらえたと思います。昭和の山口百恵さんや中森明菜さんのような芯の強い女性に憧れてきたので、自分の意思を貫き通せる強さは、これからも持っておきたい。この本で、等身大の藤井萩花を感じ取ってもらえたら嬉しいです。

長濱:常々思うんだけど、女の子のほうが強いんですよ。女性が強い社会のほうが平和なの。だって、子どもを産むのは女性でしょ。しかも今は、いろんな分野に女性が進出している時代でしょ。ポテンシャルがすごくあるんだよ。だから僕は、女性をいつも尊敬してる。街を行く女性には、おばあちゃんでも若い子でも頭が下がるよ。家でも女房に「お前、強いよなぁ」って年中言ってるけど、「何言ってんのよ」って返される(笑)。女房にはかなわないね。懺悔ですよ(笑)。

INFORMATION

藤井萩花×長濱治 写真集『OIL』

発売日:2026年11月6日(金)
価格:5,500円(税込)
発行:manpan press
https://manpanpress.stores.jp/items/6ab636984e1d4ab141fc284a

発売記念サインイベント

日時:2026年11月1日(日)
会場:代官山 蔦屋書店
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/art/57113-2107190929.html

PROFILE

藤井萩花(ふじい・しゅうか)
1994年生まれ、大阪府出身。Flower、E-girlsのパフォーマー、2017年にパフォーマーとしての活動を終了。現在はファッションを中心にモデル・アーティストとして活動。ジュエリーブランド「ROLE MODEL」、アイウェア・アパレルブランド「EL MARIACHI」、ベビー・キッズアパレルブランド「NATURAL BORN」などのプロデュースも手がける。
https://www.instagram.com/shukafujii_/

長濱治(ながはま・おさむ)
1941年、名古屋市生まれ。多摩美術大学彫刻科卒業。広告、雑誌、ファッション、ポートレートの第一線で活躍。1970年代よりアメリカ南部のブルース・ミュージシャンやバイカー文化などを取材し、『暑く長い夜の島』(1972)、『HELL’S ANGELS 地獄の天使』(1981)、『THE TOKYO HUNDREDS 原宿の肖像』(2014)、『Cotton Fields』(2020)など多くの写真集を発表。
https://www.instagram.com/osamunagahama/

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