INFORMATION
EYESCREAM本誌にて、クラシックな名著を現代に生きるクリエイター目線で紹介する企画
「The LIBRARY is OPEN」連載中。
クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらう連載シリーズ『ZINEspiration』。今回は、ファッション、そしてファッション業界に対する愛と皮肉が存分に詰まったZINE『PETRICHOR』(ペトリコール)を今年出版した歌代ニーナに、彼女の世界観が垣間見える自宅でインタビューした。ファッション業界の消費の早さを憂う彼女の紙メディアへの思いとは。
過去にはモデルの経験もあり、ニューヨーク時代にはオープニング・セレモニーやコム・デ・ギャルソンなどのショップで勤務。日本に移り住んでからは、スタイリスト、エディター、ライターとして活動するなど、さまざまな立場からファッションに携わり続けてきた歌代ニーナ。そのなかで蓄積していったアンビバレントな気持ちを吐き出したのが『PETRICHOR』だという。
「これまでファッションの仕事をするなかで『おかしくない?』と感じたことを、全部暴いてやろうと思ったんです。大前提として、今この瞬間にもエイズで死んでいく人や政治的な問題と戦っている人がたくさんいるのがリアルな世界で、基本的には服ってどうでもいいものです。だからといって、ラグジュアリーやアートが無くなるべきではないし、先進国の恵まれた環境に生まれた私たちが、罪悪感を覚える必要はない。だけど、根底において自分のやっていることが、音楽でも絵でもファッションでも必要ではないものだって、作り手がちゃんとわかっていないように思うことが多くて。それに、どうでもいいものだからこそ、どんな風に表現してもいいはずなのに、みんないろんなことに縛られて、表現を抑え込みすぎている。私は服がすごく好きで、どうでもいいものを好きになったからこそ、思いっきりやることが、人の命を預かっていない仕事の美学だと思っています。そういう状況に気づいていない人が多いなと思って、『みんな目を覚まして』という気持ちで作りました」
Instagramでは数多くのフォロワーを抱え、ときに「インスタグラマー」のように認識されることもある彼女だが、『PETRICHOR』を紙のメディアで制作したことには、デジタルの手軽な消費に抗いたい気持ちが根底にあったのだそう。
「紙にした理由はいくつかありますが、心を込めて作ったから、データで消費されたくないという感覚は強くあります。だから、買って読んでほしいという気持ちで、3500円という高飛車な価格にしたんです。逆にそれなりのコンテンツを作ったと思っているので、無料で提供したくないというのもあります。あとページネーションのおもしろさも、WEBではできないことですよね。私は、決してアンチテクノロジーじゃないし、短期的な告知や映像など、デジタルの方が向いているものもたくさんあると思う。でも、やっぱりアートのように人の心を動かすものは、紙の方が伝わると思っているんです」
「まずは『PETRICHOR』としてのトーンセットを示したかった」という0号で提示された世界観、哲学をベースに、新たなクリエイターも加わり『PETRICHOR』の本格的始動となる次号は、今年の秋頃の発売を予定している。
「次は『大人と子供のパラドクス泥沼劇』というコンセプトで制作しています。大人が持つ洗練やエゴ、計算高さと、子供の無邪気さと残酷さ、魂のままでしか生きれない感じを表現したいなと思っています。次号ではよりエロの面も出していったり、挑発的な内容になりそうなので、0号より問題視されるかもしれません。発売に合わせて、ギャラリーでのエキシビジョンもやります。2Dのエディトリアルから派生させて3Dの空間で、雑誌の内容を基軸に、クリエイターとの制作の経過を見せたり、プロップスで空間を作ったり、映像も作る予定です。そうやって次号ではまた少し進化できたらと思っています」
INFORMATION
EYESCREAM本誌にて、クラシックな名著を現代に生きるクリエイター目線で紹介する企画
「The LIBRARY is OPEN」連載中。