[ZINEspiration]Vol.11 歌代ニーナ

photography_Kayoko Yamamoto, text_Yuri Matsui

[ZINEspiration]Vol.11 歌代ニーナ

photography_Kayoko Yamamoto, text_Yuri Matsui

クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらう連載シリーズ『ZINEspiration』。今回は、ファッション、そしてファッション業界に対する愛と皮肉が存分に詰まったZINE『PETRICHOR』(ペトリコール)を今年出版した歌代ニーナに、彼女の世界観が垣間見える自宅でインタビューした。ファッション業界の消費の早さを憂う彼女の紙メディアへの思いとは。

過去にはモデルの経験もあり、ニューヨーク時代にはオープニング・セレモニーやコム・デ・ギャルソンなどのショップで勤務。日本に移り住んでからは、スタイリスト、エディター、ライターとして活動するなど、さまざまな立場からファッションに携わり続けてきた歌代ニーナ。そのなかで蓄積していったアンビバレントな気持ちを吐き出したのが『PETRICHOR』だという。

「これまでファッションの仕事をするなかで『おかしくない?』と感じたことを、全部暴いてやろうと思ったんです。大前提として、今この瞬間にもエイズで死んでいく人や政治的な問題と戦っている人がたくさんいるのがリアルな世界で、基本的には服ってどうでもいいものです。だからといって、ラグジュアリーやアートが無くなるべきではないし、先進国の恵まれた環境に生まれた私たちが、罪悪感を覚える必要はない。だけど、根底において自分のやっていることが、音楽でも絵でもファッションでも必要ではないものだって、作り手がちゃんとわかっていないように思うことが多くて。それに、どうでもいいものだからこそ、どんな風に表現してもいいはずなのに、みんないろんなことに縛られて、表現を抑え込みすぎている。私は服がすごく好きで、どうでもいいものを好きになったからこそ、思いっきりやることが、人の命を預かっていない仕事の美学だと思っています。そういう状況に気づいていない人が多いなと思って、『みんな目を覚まして』という気持ちで作りました」

Instagramでは数多くのフォロワーを抱え、ときに「インスタグラマー」のように認識されることもある彼女だが、『PETRICHOR』を紙のメディアで制作したことには、デジタルの手軽な消費に抗いたい気持ちが根底にあったのだそう。

「紙にした理由はいくつかありますが、心を込めて作ったから、データで消費されたくないという感覚は強くあります。だから、買って読んでほしいという気持ちで、3500円という高飛車な価格にしたんです。逆にそれなりのコンテンツを作ったと思っているので、無料で提供したくないというのもあります。あとページネーションのおもしろさも、WEBではできないことですよね。私は、決してアンチテクノロジーじゃないし、短期的な告知や映像など、デジタルの方が向いているものもたくさんあると思う。でも、やっぱりアートのように人の心を動かすものは、紙の方が伝わると思っているんです」

「まずは『PETRICHOR』としてのトーンセットを示したかった」という0号で提示された世界観、哲学をベースに、新たなクリエイターも加わり『PETRICHOR』の本格的始動となる次号は、今年の秋頃の発売を予定している。

「次は『大人と子供のパラドクス泥沼劇』というコンセプトで制作しています。大人が持つ洗練やエゴ、計算高さと、子供の無邪気さと残酷さ、魂のままでしか生きれない感じを表現したいなと思っています。次号ではよりエロの面も出していったり、挑発的な内容になりそうなので、0号より問題視されるかもしれません。発売に合わせて、ギャラリーでのエキシビジョンもやります。2Dのエディトリアルから派生させて3Dの空間で、雑誌の内容を基軸に、クリエイターとの制作の経過を見せたり、プロップスで空間を作ったり、映像も作る予定です。そうやって次号ではまた少し進化できたらと思っています」

【歌代ニーナがレコメンドするZINE5冊】

吉岡里奈
(IG:@yoshioka_rina33
『Eat it』

「吉岡里奈さんのことは、少し前にCANNABISのヒマワリに誘われて見に行った展覧会で知りました。私、食にまったく執着がなくて。生きるためにしかたなく食べてるけど、本当はお腹が空かなければいいのにと思っているくらい。食べものって汚く思えてしまうんです。でも、きれいなものがあまり好きじゃないから、食べものにまつわるビジュアルは、逆に汚いものとして結構好きで。これは、昭和風のジャパニーズエロ全開の女の子と、食べものが描かれていて即買いでしたね。乱れているように見えるというか、エゴで突っ走ってる感じがしていいなあと思ってます」

Michael Costiff
『Bored?』

「ニューヨークに住んでいた頃に、モノ作りのフォーマットの参考として、布にイラストを刺繍している、というビジュアルに惹かれて買いました。マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドがブティックの『SEX』を作った経緯や、どんな子たちがお店の周りでハングアウトしていたのか、パンクスがどうやって生まれて、そこからセックス・ピストルズに繋がっていったのか。そんな当時の経緯が、SEXの店員の男の子を主人公にして書かれてるんです。内容は結構さらっとしてるんですけど、意外と歴史の勉強になったし、それをZINEにしてるのがいいなと。あまりにゆるすぎるDIY感もおもしろかった。でも、端っこがすぐ取れてバラバラになっちゃうから、よくのりで貼り直してます」

『KUTT vol.1』

「『KUTT』はニューヨークで作られたZINEで、いろいろな人のエッセイやダイアログを通じて、リアルで自然体なレズビアン事情が書かれています。セクシュアリティの揺らぎに対する告白も、かなり赤裸々に書かれていて、みんなレッテルを貼るのが大好きなようで『ノンケ』だ『ゲイ』だって分けたがるけれど、本来そう簡単に定義できるものじゃないと思うし、そんなことについても考えさせられる内容ですね。このZINEが発行された2002年は、まだドラマの『Lの世界』もなかったし、今よりもさらに社会的に彼女たちが受け入れられてなかった。そんなレズビアンコミュニティがもっと小さくて閉ざされていた時代の何も着飾ってない感じが表れていて、ヌードも載ってるし、セックスの話もしてるんですけど、全体に生々しくなく少女的でピュアな感じがする。紙の選び方とかもいいし、レズビアンに興味がない人でもおもしろいZINEだと思います」

Jason Dill
(IG:@jason_dill
『dream easy』

「これはかなりかなりレアなZINEですね。SupremeとFucking Awesomeのジェイソン・ディルが、2011年に作ったZINEで、多分100部以下くらいしか作られていないはず。彼が自分で撮った写真を何の説明もなく延々と載せているんですけど、何を思っていいのかわからないくらい、本当にラフに作っている感じ。プライベートでなかなか表にでないような写真ばかりで、ニューヨークのアートシーンを牽引する人たちもちょっとずつ写っていたり。マーク・ゴンザレスとかに比べると、『有名な裏方』のような感じで、あまり私生活を発信をしていなくて、ちょっとミステリアスな部分があるジェイソン・ディルの日常が垣間見える感じですね」

GLAMHATE
(IG:@glamhate
『VAMPYRE』

「GLAMHATEというブランドは、汚いものにフォーカスして、フェイクを通してリアルを表現しているスタンスが、『PETRICHOR』に近いと思っています。これは、今年の4月に渋谷のマンションの一室でやっていたエキシビションの紙版ですね。詩や、映像の1コマのようなものも入っているんだけど、DIYとは思えないくらいハイクオリティで。GLAMHATEのデザイナーの藤原大輔は、内面的にも外面的にも芯が通っていて、奥深さがある。女物の服も着るし、メイクもするし、でも性格はその辺のノンケの男より遥かに男っぽい、新型の人種だと思っています。これまで同世代で気が合うクリエイターって、あまりいなかったんですけど、彼とは出会えてよかったですね。今後とも一緒に何かしらの形でやっていきたい人です」

INFORMATION

EYESCREAM本誌にて、クラシックな名著を現代に生きるクリエイター目線で紹介する企画
「The LIBRARY is OPEN」連載中。

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