クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらう連載シリーズ『ZINEspiration』。今回インタビューしたのは、どついたるねんやCOMPUMAなどへのアートワーク提供で知られる、アーティストの沖真秀。「作った人の人となりを感じるZINEが好き」だと話す彼は、どんなZINEを紹介してくれたのだろうか。
ポップでありながらも、妖しさをまとったイラストを描く沖真秀。自分の作品については「あまり思い入れがない」。イラストレーターを志したきっかけも、大阪の大学に通っていた頃に就職活動をしたくなかったという、けして前向きではない理由からだったと話す。
「みんなが就活を始める時期になって、子供の頃に絵を描くのが好きだったことをふと思い出して。何となくそれを理由に上京して、イラストの専門学校に入ったんです。そこからはイベントのフライヤーを描いたり、たまたまもらった雑誌の仕事とかをポツポツやるうちに今に至ったような感じです。ひどいきっかけですよね……(笑)。自分の作品についてもあまり思い入れがなくて、描いたらどうでもよくなってしまうんです。描きたいものをいきなり描くようなこともほとんどなくて、基本的には展示や仕事などの必要に駆られて描く。そういう意味で、ペラペラというか、空虚な絵が多いですね。だから自分の絵について、本心では『作品』と言いづらくて。毎回一生懸命描いてるんですけど、必要に駆られて作っているだけだという後ろめたさがどこかあるんです」
作品によってさまざまなタッチを用いる沖だが、その根底には音楽からの影響があるのだそう。スマーフ男組の故・村松誉啓や、COMPUMAらの薫陶を受け、さまざまな音楽を吸収する中で、音楽を取り巻くファッションやビジュアル、思想などのカルチャー全般に惹かれていったのだという。
「音楽もいろんなものを並行してフラットに好きだし、それ以外においても好きなものがとっちらかってるんですよね。なので、作品も仕事によってタッチがバラバラです。飽き性なので、何か1つのものを追求することに憧れはありつつも、自分ではそれができなくて。でも、1つ1つの作品はバラバラだったとしても、作品を並べたときに、ぼんやりと個人の色が出たらいいなとは思っています」
一貫した美意識はありながらもエゴはない。そんなあり方を感じさせる沖真秀だが、依頼に応えることで、ここまでの活動が続いてきたという彼にとって、絵を描くこととはどんな存在なのだろうか。
「イラストレーターとしての野望みたいなものはあんまりないんです。描いている最中は『めんどくさいな』といつも思うんですが(笑)、絵を描くことはトータルで言ったら楽しい。描き続けられていることに関してはすごく感謝しています。社交的な性格じゃないから、こういうことをやっていなかったらどんな人生を送っていたか、想像がつかないんです。絵を描くことで出会えた人たちや経験できたことが数え切れないほどあります。それで充分です」
【沖真秀がレコメンドするZINE5冊】
ディナミシャイスケ(IG:@shaiske)
『月刊 めりす 2010年8月号』
「この連載で以前、丸目くんが紹介していた、ディナミさんが作ったプーさんのZINE(リンク:https://eyescream.jp/art/12715/)が僕も大好きで、最初にあれが思い浮かびました。なので今回は別のものを紹介しようと思って、これはディナミさんが作り続けていたフリーの冊子なんです。チープな作りだし、載っているビジュアルも意図があるのかないのかわからない。文章も錯乱したような内容で、情念みたいなものを感じるんだけど、なんだかおしゃれだなと思うんです。ディナミさんは寸劇みたいなこともグループでやっていて、内容は下ネタが多いんですけど、それもどうしてかすごくおしゃれに聞こえる。活動のすべてがおしゃれだなと思います。ディナミさんの活動からは本当に刺激をもらっていて、オールタイムベストパフォーマーですね」
フカーツ(IG:@fkirts)
『YULUXUS BLOLOLUG THE ZINE』
「フカーツは友達なんですけど、いわゆるカルチャー好きのカルチャージャンキー。一部で『パーティーバラモン』とも呼ばれてますね(笑)。クラブイベントにもライブにも、アートの展示にもファッション系のパーティーにも、とにかくあらゆるイベントにいつもいる。これは彼が初めて作ったZINEで、Tシャツ型になってて、開くのが超面倒くさい。開くと内側に文章が書いてあるんですけど、自分が好きなものとか、最近行ったイベントについて紹介しているのが、昔の『relax』あたりに影響を受けているであろうモノフェチな感じがして、読んでいて単純に楽しい。形からしてモノフェチ感が出てますよね。フカーツのZINEはどれも彼と普段話すような内容がそのまま書かれていて、彼の飾らなさと、カルチャーへの憧れや情熱みたいなものを感じます」
fukin(IG:@fu_kin)
『インジャードボーイ』
「数年前まで、高円寺でASOKOというスペースをやっていた、fukinという友達のZINEです。fukinは『M A N』という服のブランドのメンバーだったり、『BACON』というユニットで暗躍したり、いろいろな活動をしてますね。これは2、3年前のZINEなんですけど、初めて見たときに一発で感動しました。CGで作ったなんだかよくわからない物体を合成した写真に、詩のような一言が添えてある。その言葉もじめじめしていて、悲しみをはらんでいるんだけど、ギリギリのところで希望を捨て切っていない感じがして、そこがまたグッときます。fukinとは割と付き合いが長いんですけど、アウトプットの妙が常にフレッシュで、ずっと影響を受けていますね。哲学者だと思います」
「タワーブックスで働いていた頃に、加賀美健さんと中村譲二さんのお二人が主催のZINEフェアのようなものをコーナー展開したことがあって、そのときに譲二さんから『沖くんも何か出しなよ』と言われて作ったZINEです。一点物のめちゃくちゃでかいZINEをイベント用に作ったことがあったんですけど、それ以外では、僕のZINEって唯一これだけ。一応ストーリー仕立てで、チカーノギャングのおじさんのとある1日を描いています。ZINEの体裁はキープしつつも、あんまりインスタントなものにしたくなかったので、お話があって、内容のあるものにしたくて。このZINEには珍しく自分の感情が入ってるし、自信を持って作品だと言えるものですね」
どついたるねん(IG:@dotuitarunen)
『どつのZINE 『はやとちり』特集』
「自分がジャケットのアートワークをやったりしている、どついたるねんのZINEです。彼らが赤坂ブリッツでワンマンライブをやったときに、チケットがまったく売れてなかったらしくて、買ってくれた人への特典としてZINEを配っていたうちの1つですね。高円寺の『はやとちり』という古着屋さんについてメンバーが書いてるんですけど、みんな30代なのに、中学校の卒業アルバムの後ろの方のコーナーと同じくらいのIQの低さと純朴さで(笑)。スピード感があるし、『はやとちり』のオーナーのごっちゃんさんのことを大好きな感じが文章に出てて、それがシンプルにいいなと。ふざけてるのに、愛情が伝わってくるのが、どついたるねんらしいと思いました。普段、小難しいものも見たり聴いたりしている中で、いきなりこういうものを見せられるとすごくはっとしますね。本人たちは多分まったく何も考えてないんですけど。すごくZINEらしいZINEだなと思います」
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