[ZINEspiration]Vol.01 ヒロ杉山

photography_Kayoko Yamamoto, text_Yuri Matsui

[ZINEspiration]Vol.01 ヒロ杉山

photography_Kayoko Yamamoto, text_Yuri Matsui

コピー機の普及と、アーティストたちの発信への欲望が生み出したメディア、ZINE。その気になれば、どこまでもイージーに制作できてしまうからこその、ドライブ感と親しみやすさ。そこにはアーティストのエッセンスが詰まっている。
毎回、クリエイティブに携わる人々に、お気に入りのZINEをレコメンドしてもらいながら、ZINEカルチャーの現在を追う。

今回登場してくれたのは、ヒロ杉山。
クリエイティブユニット・エンライトメントの創設者として、アーティスト/アートディレクターとしての活躍はいうまでもなく、日本におけるZINEカルチャーの定着に大きな影響を及ぼしたイベント「Here is ZINE Tokyo」の主催者でもある。
そんな彼がはじめてZINEと出会ったのは1987年のニューヨークだった。

「ニューヨークのプリンテッド・マターという本屋へ行ったら、ホッチキスで止めただけの手作りの冊子がたくさん売ってたんです。それが最初の出会いかな。それ以降、意識しはじめたら、ニューヨークのいろんな本屋さんにちょこちょこ置いてあって、これは面白いなと。あと、その当時は写真集というと、いわゆる大手出版社が作るハードカバーの立派なものばかりでしたが、カメラマンのジャック・ピアソンがペラペラの薄い写真集を出したんです。それもすごく魅力的に思えました」

それまでのアートブックの潮流とは異なる、スピード感と雑然さがもたらす魅力に惹きつけられたヒロ杉山は、すぐに自身でもZINEを制作しはじめる。

「最初に作ったZINEは、自分が撮った写真をまとめた小さなサイズのもので、当時の家の近くにあったコンビニのコピー機で作りました。空いてる夜中に行って、ひたすら何百枚もカラーコピーで両面印刷して。それを友達に配ったら評判がよかったので、同じものをオフセットで再現して、さらに500冊くらい作ったんです」

以降、自身でもZINEの制作を続けるなか、2010年に「Here is ZINE Tokyo」をスタートする。7年間イベントを運営し、日本のZINEカルチャーと並走しながら見えてきた変化はあるのだろうか。

「だんだん“ZINEっぽく”なってきたと思います。はじめは、4、50人に制作を頼むと『ZINEってなんですか?』って人が半分くらいいたんですよ。けれど、あまり規定もしたくなかったから、ざっくりとしか説明しないと、『これZINEかよ』っていうものを送ってくる人もいた。木でできてたりとか(笑)。それはそれでよしとしてたんですけど。この間に本屋にも少しずつZINEのコーナーができてきたし、今は、ZINEっていう概念が浸透してきたと感じます」

回を重ねるなかで「Here is ZINE Tokyo」は活動の場を広げ、タイ・バンコク、香港、中国・深センと、アジアでも開催されている。

「まだZINEカルチャーが普及していない国もあるので、結構とんでもないものが出てくるんですよ。模型だったりとか(笑)。バンコクは、グラフィックデザインのセンスも日本とは少し違うんですけど、クオリティがすごく高くて。香港と深センは、政治的なテーマの作品が多かったですね。日本ではそういったテーマを扱う人がほとんどいないので、文化と歴史の違いを感じました。来年は韓国で開催予定なのですが、今後の目標として、インドも含めたアジア全部の国を集めて、巨大な『Here is ZINE Tokyo』を開催したいと思っています」

「Here is ZINE Tokyo 12」展示風景

今後の展開も期待される「Here is ZINE Tokyo」は、今回で15回目を迎える。

「今年は、過去最多数の52組が参加しています。インドネシアと韓国からの参加者もいて。今回、一般公募枠には200件くらい応募がきました。だんだんレベルが上がってきていて、それこそ“ZINEっぽく”なってきてるんですけど、毎回面白いですね。最終的に10冊へ絞るのが大変でした。
すごく大変なんですよ、このイベント(笑)。事前の準備から終わるまでに3ヶ月くらいかかるんです。年2回あるので、終わった途端、すぐ次、みたいな。それでも、毎回見たことがないものを見られることが幸せで続けています。それに、お客さんが何十冊ものZINEを1時間、2時間かけてじっくり見てくれていると、やっていてよかったなと。
デジタルの社会になったけれど、やっぱりアナログ的なものは人の心を動かすのかなと思っています。質感があって、匂いがあって、そこに作家の想いが詰まっている。そういうものが自分も好きだし、同じように好いてくれる人が世の中にたくさんいるんじゃないかと

最後に、ヒロ杉山が考える、ZINEとは。

「ZINEって大抵は自分ひとりで作るので、作家のセンスが全部出てしまう。だから、かっこつけられないし怖いけど、そこが面白い。作家そのものがまるまる出るものじゃないかと思っています

【ヒロ杉山がレコメンドするZINE5冊】

バリー・マッギー「LARCENY」

「シルクスクリーンの作品ですね。製本もいい加減だし、紙もいろいろな厚みのものが使われていて。発売された当時、プリンテッド・マターで数ドルで購入したんですけど、今では数万円するみたいです」

ジャスティン・サムソン「collage and sculpture 2004-2005」 

「ジャスティン・サムソンは立体の作家なんですけど。このZINEは中の紙が全部緑で、モノクロで印刷されている。表紙だけはシルクスクリーンで4色刷り。これもプリンテッド・マターで購入したと思います」

半沢健「無題」

「このZINEは「Here is ZINE Tokyo」に出してもらったものです。まずサイズ感がよくて。スナップが無造作に並んでいるんですが、一冊見ると作家の嗜好性がわかる。彼の脳内を見ているような感じがするんです」

大竹伸朗「LTD」

「82年に発売されたものですね。まだZINEっていう概念が浸透してないころだったかもしれない。大竹さんは本作りがうまいんです」

ヒロ杉山「against the dessin 2002-2015」

「『Here is ZINE Tokyo』のために、2015年に作ったものです。タイトルの期間(2002〜2015年)に描いていたドローイングを集めました。僕は本作りのなかでも、とくに台割りを考えるのが好きで。台割りフェチなんです(笑)。普段は絵を描いたりデザインをすることが多いですけど、本には時間軸があるので、そういう点は映像に近いですよね」

ヒロ杉山率いるエンライトメントがキュレーションする「Here is ZINE tokyo 15」は、トーキョーカルチャート by ビームスで7月12日まで開催中。

INFORMATION

Here is ZINE Tokyo 15
Curated by ENLIGHTENMENT

会期: 〜2017年7月12日 (水)
会場: トーキョーカルチャート by ビームス
〒150-0001東京都渋谷区神宮前 3-24-7 3F
TEL : 03-3470-3251
営業時間:11:00-20:00
www.beams.co.jp
※7月6日(木)は定休日、7月12日(水)は18時まで。

■ 出品作家
新井萌美 / 伊藤桂司(UFG) / 磯部昭子 / edenworks / 大河原健太郎 / 尾角典子 / 岡田将充(OMD) / 岡沢高宏(CLS) / 加藤崇亮(Enlightenment) / 北沢美樹 / 黒田 零 / SALOTEZUMO / 鈴木シゲル(THE ME) / 高橋 毅 / タケノウチレミ / 田島一成(mild) / タナカノブコ(SARUME) / 田中力弥(rockin’on) / 千原徹也(れもんらいふ) / 手島 領(螢光TOKYO) / 時吉あきな / tony & annie / 永瀬由衣(れもんらいふ) / 中村和孝 / ののか / 平井豊果 / ヒロ杉山(Enlightenment) / 本忠 学(HONCHU GRAM) / 益山航士 / 松井正憲(Enlightenment) / 間仲 宇 / 水野仁輔(AIR SPICE) / 充-mitsu- / 峯山裕太郎(Enlightenment) / 見増勇介(intext) / RYAN CHAN / LESLIE KEE / 若木信吾 / Natasha Gabriella Tontey(UNKNOWN ASIA Prizewinner)

■ Korean Guests
Curated by WooChi Jeon (Eloquence)
Coordinated by ShinHae Song (TANO International) / 庄野裕晃 (ubies)

Googyeonggeori: Sight / ORDINARY PEOPLE / Don’t Panic seoul by D’amusements

■ 一般公募入選作家
ancco & koyubi / 井手瑞季 / 伊原菜摘 / 長村マリン / otokonokoto / SET&SETTINGS / ドキドキクラブ / Panasony / 山本 郁 / ヨダヒロユキ

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