CULTURE 2022.10.11

阪急メンズ東京のアニバーサリーイベントを巡って Vol.02:中田優也(PICEA)×垣内洋輔(阪急メンズ東京)

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photography_Hidetoshi Narita, Text_Keisuke Honda, Edit_Ryo Tajima(DMRT)

今年で11周年を迎える阪急メンズ東京がアニバーサリーイベントを開催。eyescream webの記事「ニート(NEAT)」の参加に続いて、ユニセックスニットブランド「ピセア(PICEA)」の参加が発表された。期間は10月19日から10月25日で、場所は阪急メンズ東京 1階のイベントスペース、メインベースだ。この記事では1回目と同様に今回の取り組みにまつわる経緯や思いについて、トークセッションを交えて紹介していきたい。対談するのはピセアのクリエイティブディレクター中田優也さんと、今回のイベント会場である阪急メンズ東京、6階フロアマネージャー垣内洋輔さん。


Right_中田優也
2013年に文化ファッション大学院大学を首席で修了。オンワード樫山での勤務を経て2016年に独立。2017年、自身のブランドである「ポステレガント(POSTELEGANT)」でデビュー。2019年から「ピセア(PICEA)」のクリエイティブディレクターに就任。

Left_垣内洋輔
阪急メンズ東京 6階 ガラージュ D.エディットのフロア責任者。国内外のブランドをセレクトする売り場のバイイングから販売までのマネジメント管理を一貫して行う。

味わったことのないニットの手触り。ベビーカシミアの魅力

ー阪急メンズ東京11周年企画で行われるピセアとの取り組みについて、展開内容と経緯について教えていただけますか?

垣内洋輔(以下、垣内):内容は2022年秋冬シーズンコレクションのオーダー会のようなかたちでニット製品をご購入いただけます。また、今回は特別に別注アイテムとしてニットグローブなどの小物をご用意していただきました。阪急メンズ東京では取り扱いが初となるブランドなので、お客様からどういった反応が得られるのかとても楽しみです。
 
中田優也(以下、中田):今回の企画は阪急メンズ東京からお声がけいただいたことで実現しました。今までシーズン中の製品をこういったかたちでお披露目する機会はなかったので僕も楽しみにしています。店頭では20型近いピセアのニット製品が並び、白、黒、グレー、ネイビー、ベージュの全5色からオーダーすることが可能です。別注で制作している小物類も含めるとけっこうな型数なので、ブランドのことを知らなかった方にもピセアの世界観が伝わる内容になっていると思いますし、いきなり洋服だと少しハードルが高いと感じられる方でも心地良いニットを実感できる場になっているかと思います。

垣内:私がピセアを実際に見たのは展示会でしたが、素材感があまりにも素晴らしく、これまでに触ったことがないニット製品だと感じました。また、今回ポップアップで展開される厚手のニットにしても、すごく滑らかな手触りで本当に驚いて。それでいて長く着用できるオーセンティックなものづくりが基軸となっている点など、とにかくさまざまな要素から感銘を受けたんです。そこで、イベントも含めてお取り組みをしたい、というのが経緯になります。
 

中田:ありがとうございます。ピセアはベビーカシミア100%のニットブランドで、サイズ展開によってユニセックスに着られる製品になります。ニットのオーセンティックな型をディテールの変化などでモダナイズドしているのが特徴ですが、実はかなり手の込んだこともしています。とても細かい部分ですが、通常のニットウェアにある袖リブの裏などの縫いしろがピセアの製品にはなかったり。ピセアではハイゲージを除いて、その部分を手接ぎ(てはぎ)という技術によってすべて手縫いしているんです。そうすることでよりストレスを感じさせない心地良い服に仕上がります。それがベビーカシミアという良質な素材と重なりあい、5年や10年、そして20年と飽きずに着てもらえる存在になっていくことを意識してデザインしています。

垣内:あの感動的な手触りはベビーカシミアだからこそ実現する、ということですね。


中田:その通りです。ベビーカシミアの魅力というのはやはり特別な柔らかさにあると思います。カシミア生地はカシミアヤギの毛を刈って糸にしていくわけですが、動物の毛も人間の髪の毛と同じように伸びたら切って、また伸びて……を繰り返します。しかし、ベビーカシミアと呼んでいいものは人間でいうところの赤ちゃんのふわふわとした産毛のファーストカットのみなんです。なので、一匹のカシミアヤギから一度しか取ることができない希少性の高い毛となっています。ピセアの製品はそんなピュアな状態の毛のみを使用しています。
 

「心地良さ」はすべての人に共通する

 

ー贅沢な素材を使用しているにも関わらず現実的な価格帯を実現している印象を受けたのですが、その理由はどこにあるのでしょうか?

 
中田:内モンゴル自治区でカシミヤヤギの飼育から毛の採取、糸にしてニット製品にするまでの全工程を一貫して行う生産背景によって今のプライスを実現できています。ニット製品はアウター類になるにつれて使う糸の量は多くなり、それに比例して価格も上がっていくので、ベビーカシミアだけを使ったアウターというのはかなり珍しい存在になります。正直、デザイナーの立場としてもこんなに贅沢なことはないなと思うほどです(笑)。なので洋服が好きな人や、物事の背景に関心の強い知る人なら思わず反応してしまう製品になっていると思います。


垣内:わかります(笑)。これだけの素材を使いながら現実的な価格帯に仕上げられた存在ってそうないと感じました。私自身としても機能性や付加価値を感じるアイテムに惹かれる傾向がありますが、なにより袖を通した際に高揚感を味わえる洋服が好きなので、ピセアに共感する部分は多くあります。中田さんはご自身のブランド「ポステレガント」もやられていますが、素材へのこだわりはもとから強くお持ちですか?


中田:僕の洋服作りはいつも素材から入るので、もともとそこへのこだわりは強いかもしれませんね。素材から入る理由は、洋服である以上見た目の良さや着心地の良さも大事な要素としていますが、それ以上に「長く愛用している服」や「毎日着たい服」などと言われることに喜びを感じるからです。これは自分の中で「ご飯がおいしい」と同じような意味でとらえています。好みとなると柄や形などによって分かれていきますが、「おいしい」は全員が共通して感じられることだと思っていて。この価値観を表現する服作りを考えた末に、素材から入るというプロセスがありました。ピセアの場合はニットやベビーカシミアといったキーワードに特化しているブランドなのでポステレガントとのすみわけはついていると自分では思っていますが、どちらも自分がデザインをしているので似てくる部分がきっとどこかしらに表れていることでしょう(笑)。


 

ー今さらですが、ピセア(PICEA)というブランド名にはどんな意味があるのでしょうか?

中田:ピセアはクリスマスツリーのような針葉樹の種類を指す、木の名前です。売り上げの一部から内モンゴルでの植樹活動をしていることもあって、そこから取られています。

垣内:サステナブルやジェンダーレスについては本質的なものとして、また社会の潮流としても強まっていますよね。私の場合も売り場で女性がメンズ服を買われていくケースが増えてきた実感を持っています。中田さんが手がけるブランドのコンセプトではないにしろ、そういった思考とどこか共通した部分を洋服から感じます。

中田:そうですね。特別な意識はないんですが、おそらく長く着るために洋服がどうあるべきかを考えているからだと思います。時代によってタイトなシルエットが流行することがあればまたその逆もあったりと、似た現象が繰り返されていく流れのなかでも、服作りにおいて変わらない領域がデザイナーそれぞれにあります。僕の場合だとそれは素材に対する追求で、結果的に男女差を問わないものだった、ということなのかなと。なのでジェンダーレスやサステナブルを強く意識した感覚はないんですよね。昔から古着が好きで、それこそおしゃれな女性が軍モノの太いパンツをかっこよく着こなすスタイルは僕にとってベーシックな存在だったこともあり、それと同じように自分で作る洋服は誰でも素敵に着てもらえるように作ってきたつもりです。ピセアにしても2019年に僕がデザイナーとして参加してから今年で4シーズン目になりますが、良質な素材を通じて「良い服を長く着ること」を伝えることができるブランドだと思っていますし、これからもそうありたいと考えています。
 

新鮮なモノを通じて対話を楽しむ空間

 

ー今回のイベントの舞台は阪急メンズ東京になりますが、お二人それぞれ、現在の百貨店にはどのようなイメージをお持ちですか?

中田:百貨店はある一定の基準をクリアしているセレクトのセンスが詰め込まれた場所であり、色々な商品が安心して見れる場所、でしょうか。働かれている方を目の前にしてあまり偉そうなことは言えませんが……(笑)。垣内さんはいかがですか?


垣内:そんなことありませんよ(笑)。百貨店に身を置く私の立場からすると、洋服に関しては今は本当に二極化しているように感じます。たとえコロナ禍でもおしゃれを楽しみたいマインドを持った人は売り場まで足を運び続けてくれていますし、自分が着たいものや好きなブランドを身につけてどこかに出かけたい人が徐々に戻ってきていると店頭を見ていて実感しています。一方で、洋服自体にお金をかけず、室内環境での充実だったり、食事やコスメにこだわるなど、内面に気を配られる男性は百貨店でも増加しています。広くとらえれば同じファッションですが、お金をかけるポイントには以前と違いが表れているように感じます。また、キャンプをはじめアウトドアを趣味に持つ人が増えていたりと、休日をいかに楽しむかという点に重きを置く方も増えています。多様な選択がある現代で、変化していかなければならない点も多くありますが、 本来百貨店というのは衣食住を網羅している空間になります。だからこそ、昔も今もモノの魅力を伝えることでブランドのことを知らなかったとしても気に入って購入してくださる方が一定数いらっしゃいます。なので個人的には、かたちだけにとらわれず、常に新しい物事をお客様に届けるのが百貨店の役割のようにとらえています。流行も大切な要素のひとつかと思いますが、お客様が店頭で新鮮な気持ちになれるような発信に仕方を考え続けていきたいと思っています。最後に、イベントはメンズの店舗での実施になりますが、ご家族連れのお客様もたくさんいらっしゃいますし、女性のお客様でも気軽にお越しいただければ嬉しいです。

INFORMATION

PICEA POPUP STORE

10月19日(水)~10月26日(火)
12:00~20:00(平日)、11:00~20:00(土日・祝)
*10月26日(火)1階メインベースは19:00閉場
at 阪急メンズ東京 メインベース
阪急メンズ
https://www.hankyu-dept.co.jp/mens-tokyo/
https://www.instagram.com/hankyu_mens_tokyo/

阪急メンズ東京・ガラージュD.EDIT
https://www.instagram.com/garage_d_edit_hankyumens_tokyo/

PICEA
https://www.picea.co.jp
https://www.instagram.com/picea_cashmere/

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