藤井道人
日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。映画監督・藤井道人がそんな映画や人、言葉、瞬間を保管しておくための企画「けむりのまち -Fake town-」を始動させた。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく。第二回は、藤井が普段なかなか答えられない読者からの質問に答えていく。
こんにちは、藤井道人です。
連載、第二回目ですね。思った以上に反響をいただいて恐縮です。
自分のためとはいえ、それでも読んでくださる方がいて、それが届いているのは嬉しいです。ありがとうございます。ご質問も、かなりの量がきていたと聞きました。なので第二回目は予定を変更して、いただいた質問にお答えしていこうと思います。
ー藤井監督が20代の苦しかった時代、売れなかった時代に映画以外で生活をしていく事は難しかったとお察しします。その時代に、映像製作以外のお仕事でアルバイト等も含めて、経験されていらっしゃいましたら、どんなお仕事をご経験されてきましたでしょうか?
「映像以外のアルバイトは殆どしたことが無くて、強いて言うなら一人暮らし時代に、料理を作れない僕は、地元の焼き肉屋に賄いを食べるために少しだけ働いていました。ただ、全く使い物にならず迷惑ばかりかけていましたね…。
映像の仕事は沢山やりました。アダルトビデオのモザイクをつける仕事、パチスロの番組のディレクター、CMのメイキング、ホラーDVD、ダンスのドキュメンタリー、Vシネマのカメラマンなどなど。どの仕事も、コツを掴むと面白く、飽きることはなかったです。映画監督として生活ができるようになったのは30歳になってからです。」
ー忙しい中での健康管理法や映画以外でのストレス解消法はございますでしょうか?
「健康管理法は、逆に教えてほしいくらいでして、いつも体調は悪いです…。是非皆さま教えてください。ストレスを感じることは殆どないのですが、コロナ前は一人で旅行に行くことがストレス解消法でした。知らない街、知らない人たちに会うことで、自分を見つめ直すことが出来て、周りの人にも旅はお薦めしています。」
ー藤井監督は学生の頃から撮影をしていきましたが、今までで悔しい思いをした作品はどれですか?それは制作途中のことでも、予算的なことでも、人間関係のことでもいいのですが…ピンチをチャンスに変えてきた藤井監督作品からは、どれも真剣勝負で作られているので、裏の個人的な思いは計り知ることが出来ません。その時の思いなどもお話しいただけると嬉しいです。
「悔しい思いは、毎作品少なからずあるのですが、悔しさの原点はデビュー作の「オー!ファーザー」です。スタッフ、キャスト、環境に何か文句があった、という訳ではなく僕の実力不足を痛感した作品でした。「オー!ファーザー」を機に、再び修行のためにインディーズに戻りました。そこからの3年間の修業期間が今の僕を作ったと自負しています。撮影から、音の編集、CG、予算管理まで学び直しました。」
ー藤井監督の映像作品には、監督自らオリジナルストーリーを書いているもの、原作が他にあるもの、プロットが与えられるものなど様々ありますが、自分で一からストーリーを創る場合、通底して表現しようとしているものや想いはありますか?
「イチからストーリーを作る場合も、どこかしらから、なにかしらのオーダーがあるので純粋なオリジナル映画は「青の帰り道」「デイアンドナイト」以来作ってはいないのですが、いつも意識していることは「時代精神」「斬新さ」「客観性」です。「時代精神」とは、何故今この作品をやるのか?という自らへの問いかけから生まれるもので、一番大切にしていることです。
「斬新さ」は、自分との戦いですが、見たことのない映画を作りたいという思いから心がけています。「客観性」は脚本を書くうえで一番大事にしていることで、観客席に自分を座らせるイメージです。エゴイスティックになっていないか、観客と対話が出来ているかを意識しながら、時には寄り添って、時には突き放す様に本を書いていきます。」
ー自分のやりたいことが分からないときは、まず何をしますか。私は大学を卒業してからずっと同じ会社で仕事を続けていますが、これが自分のやりたいこと、楽しいことではない気がしています。
「やりたいことが見つかるまで「何もやらない」のはどうでしょうか。その間は沢山の人と会ったり、いろんなところに行ったり、おいしいものを食べたり。心が豊かになれば、自分のことが客観的に見えて来て、言葉が正しいか分からないけれど「自分の役割」のようなものが見えてくるのでは?と思っています。誰のものでもない、ご自身の人生なので、無理にやりたいことを見つける必要もないと思います。僕は大学で出会った仲間や、幼馴染のお陰でやりたいことを見つけました。同じように社会に属してから「やらなくてはいけないこと」にも出会いました」
ー監督の飾らない言葉が大好きです。映画作り以外に興味はありますか?剣道はもうやらないのですか?内に秘めたものはもの凄く熱いのに、優しく、控えめでいられるのは何故ですか?
「剣道は…実は2012年に事故にあってしまい、右足に30センチほどのプレートが入っていて、運動をすることが出来ないのです。本当はやりたいんですけど、走ることも出来ない人生になってしまいました。まあ、映画が作れているのでプラスマイナスゼロだな!とポジティブに捉えています(笑)映画作り以外は、全く興味がないのですが、綾野さんや岡田さんと出会って、食の重要性や、日本文化について深く知りたいと思うようになってきました。(まあ、これも映画に応用することになると思いますが…)
優しく、控えめな部分だけ取り上げると、藤井組の面々が、大きく首を横に振ることは確定しているので、否定しておきたいです!(笑)初めての人とは、距離があるので、相手のフィールドには入らないように心がけています。同じ組になれば徐々に、感情を出すこともありますし、我儘も毎日のように吐きます。それを許してくれるというコミュニティに甘えているんでしょうね。なので、お詫びにしっかりと結果で返すように心がけています」
ー藤井監督が映画監督として歩んでこられた中で、ずっと大切に抱えていらっしゃる感覚であったり、言葉であったり、心の中に留めて置かれているようなものを、よければお伺いしたいです。
「「ALL or NOTHING」という言葉を一番大事にしています。日本語でいうと「100か0か」全員が、そうである必要は一切ないのですが、監督と言う職業柄、やると決めたら100までやる。やりきらないと0と同じ。そういう気持ちで映画に向き合っています。
映画は「生き物」のような芸術なので、ヒットや賞は時の運ですが、監督として妥協しないという姿勢は、努力でなんとでもなります。そういった意味での「ALL or NOTHING」です。良い子はマネしないでください」
ー藤井監督は役者さんを背中から撮ることが多いように感じます。これにはなにか深い意図があるのでしょうか?
「元々は、メキシコの映画監督、アレハンドロゴンザレスイニャリトゥの影響から来ています。彼の作品のバックショットが美しく、登場人物の人生を追体験しているような没入感がありました。なので、自分の作品でも、主観的にその人物の感情を捉えたいときはバックショットを用います。あと、背中ってなんか色っぽくて好きなんです。」
ーもし今、お金はいくらでも出すから、なんでも好きな映画を撮っていいよ、とハリウッドから言われたら、どんな映画が撮りたいですか?
「日本人しか撮ることが出来ない「様式美、伝統、精神」を捉えたエンターテイメント作品を撮りたいです。僕が、ハリウッドかぶれの映画を撮っても嘘はすぐにばれると思うので。日本人であることを、誇れるような、世界に通用するエンターテイメントを模索しています。でも、オファーって、何が来ても本当に嬉しいんですよ。選ばさせていただける立場になった今でも、企画提案の日はいつもワクワクしています。」
ークランクイン前に必ずやることありますか?ルーティーンみたいな。
「台本の一番後ろに、作品に込めた思いや、意気込みを書きます。500文字程度かな。撮影って長いので、たまに心がぶれてしまうこともあるんです。そんな時にその初心を見返します。「おい、藤井、ちゃんとやれよ」と自分に言っているようなイメージです。」
初回の質問コーナーは以上になります。
中々、芯をついた質問が多く、正しく答えられているか自信がないのですが、そこはご容赦ください。
今月から、長い映画作品に入ります。色々とチャレンジが多い作品でワクワクしています。
「最後まで行く」も完成しました。早く、そちらも皆さまにお届けしたいです。
その前に「ヴィレッジ」ですね。マスコミ試写が毎回満席でパンクしているようで沢山の感想をいただき嬉しい限りです。こちらも早く観ていただきたい作品です。来月は、ゲストが来ます。それもお楽しみに。
藤井道人
※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。