藤井道人
日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。映画監督・藤井道人がそんな映画や人、言葉、瞬間を保管しておくための企画「けむりのまち -Fake town-」を始動させた。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく。第四回の舞台は台湾。夢見た地での撮影を終え、目にした風景や湧き上がった感情を書き落とす。
『再見』
分かりやすく、僕は燃え尽きた。
20代から夢見ていた台湾での映画撮影を終えて、言葉たちを書いては消し、書いては消し、10日ほど経った今、ようやくまた言葉に戻す作業を始めている。
台湾は、祖父が生まれた地である。国際的な複雑な問題を抱えながらも、台湾に住んでいる人たちは愛と敬意に満ちていて、とても穏やかだった。沢山の色と、音と、匂いに満ちていて食や、歴史、アート、ライフスタイル。それぞれにしっかりと「個」がある場所だった。
台湾の仲間との映画製作は、どこか10年前のBABEL LABELで我武者羅に映画を作っていた時と似た感覚を覚えた。台湾は、日本よりも先に色々な労働に関するインフラが整備されていて、詳細は割愛するが撮影時間は12時間と決まっていて、次の日の撮影までは12時間空けなくてはいけない等、様々なルールが徹底されていた。撮影に入る前は、このルールに馴染めるかと少しドキドキしていたのだけど、撮影して一週間もすると、組全体にリズムが出来てきて「何故今までこうやって映画を作らなかったのか!」と深く反省するほど心身共に健康なまま撮影を終えることが出来た。(なんと、ご飯は毎食8種類から選択するのだ!)
映画が完成してから、またしっかりと映画についての回顧録は書くとして、今回の旅で一番強く思ったことがある。
「人は、相手のことをどれだけ受け入れて、理解して仕事が出来ているのか」
台湾の仲間たちとは、言葉や文化の壁があったからこそ、判例に倣わず(というよりは判例がなく)、注意深く相手の想いを聞いて作品作りが行われていたように思う。
僕らはあまりにも、なんでも知っている気になっているんじゃないのか。
色んな事を自分の物差しだけで判断して、決めつけているんじゃないのか。そんなことを思った。
「一つ一つの出来事をより客観的に、冷静に、そして親切に」
そうやってこれから映画を作っていけたらいいな。と次回作のロケハンの車内でこうやって備忘録として書き残している。
謝謝。再見。次は、もっとパワーアップして帰ってくるからね。
と、センチメンタルな気分でいたら、腰痛、そして重度の鼻喉風邪に苛まれ、寝たきりの生活を強いられていたが、最近ようやく復調の兆しが見えて来た。プロとして、大変ずさんな体調管理に反省しきりだ。
『ヴィレッジ』の公開が4週目に入った。観に来てくれた沢山の皆さま、本当に有難うございます。
生前の河村プロデューサーとの目論見通り、沢山の意見が飛び交う作品になったと自負しているし、主演の横浜流星の演技を沢山の人が絶賛してくれているのは本当に嬉しい。しかし強気にGWに興行をぶつけたものの、波に乗ることが出来ず、応援してくれた皆さまの期待に応えられない部分があったことは正直とても悔しい。まだまだ上映をしてくれている劇場もありますので、未見の方は是非劇場でご覧ください。
これからも流星とは二人三脚で映画を発表していきたいと思うので、次回作もお楽しみに
そして今週の5月19日からいよいよ、もう一つの新作映画『最後まで行く』が公開となる。
こちらの主演は岡田准一さん、そして綾野剛さん。『ヴィレッジ』とは真逆のアプローチで、
一秒も飽きることがないエンターテイメント作品を目指した。主演の岡田さんとの出会いは自分にとってもとても大きなものになったし、もう一人兄貴が出来たような喜びを覚えた。そして過去最強の『狂った綾野剛』を撮れたと自負している。
僕のキャリアの中でも「喜劇」という新しい扉を開けてくれた愛すべき作品。
絶対に損はさせないので映画館で観てほしい。何卒宜しくお願いいたします。
上半期(と言ってもまだ5月)は『インフォーマ』にはじまり『ヴィレッジ』『最後まで行く』と作品の発表が重なり、表に出ることが多くて心身ともにとても疲弊した。
観客の皆さまとも、ゆっくり話す時間が無くなって、なんか、ちょっと嫌な感じだ。反省。
下半期は会社のこと、自分のこと、家族のこと、もう少し向き合って行こうと思っている。
本当に出来るかはわからないけど、思っては、みる。
今は、次回作の準備中です。なんだかんだ、クランクインまで3年くらいかかったな。
長かった。必ず、面白い映画にします。
楽しみに待っていてください。
次回は、久しぶりに質問にお答えさせていただこうと思います。
どんな質問でも構いません。お待ちしております。
藤井道人
※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。