Interview: にしな初のアニメタイアップ曲「シュガースポット」が示す、幸せになるための思考回路

Photography_Goku Noguchi
Text_Masahiro Saito
Hair&Makeup_Eriko Yamaguchi
Styling_hao

Interview: にしな初のアニメタイアップ曲「シュガースポット」が示す、幸せになるための思考回路

Photography_Goku Noguchi
Text_Masahiro Saito
Hair&Makeup_Eriko Yamaguchi
Styling_hao

ミュージシャン・にしなが、10月25日に配信シングル「シュガースポット」をリリースした。NHK Eテレアニメ『ドッグシグナル』のエンディングテーマとして書き下ろされた同楽曲は、「儚さと狂気」をその天性の歌声に滲ませ支持を得てきたにしなの新境地を感じさせる、お茶目で騒がしいポップナンバーだ。今回は、「明るい曲を書くのは苦手」と語る彼女がリスナーの背中を押す本楽曲に込めた思いや、アニメ作品へのアプローチについてインタビュー。その言葉からは、幸福を掴み取るための彼女なりの哲学が垣間見えた。

ーニューシングル「シュガースポット」リリースおめでとうございます! アニメ『ドッグシグナル』のために書き下ろされた楽曲とのことですが、制作はいつごろ始まりましたか?

書き始めたのは夏前あたりですね。ライブハウスツアー『クランベリージャムをかけて』を終えて、8月頃にレコーディングしました。

ー情報量の多いアレンジやスピーディーなビート感がこれまでのにしなさんのイメージを覆すような、新鮮なサウンドが印象的な楽曲ですね。

knoakさん(本楽曲の編曲を担当)にアレンジをお願いする中で、アニメのエンディングに合うようなドタバタ感を加えたいなと思ってサウンドを組み立てていきました。

ーにしなさんの歌唱も、リラックスしていてフレッシュです。「こんなに楽しそうに歌えるんだ!」と驚きました。

レコーディングでは、ローに余裕を持って歌える方法を模索していた気がします。元々歌に対して前傾姿勢になってしまいがちなところがあるんですけど。

ー前傾姿勢?

昔からの癖で、物理的に目の前にマイクがあるからそこに向かって歌うことでつい視野が狭くなってしまって。そうなると歌声が苦しそうに聴こえてしまうんですけど、今回はそういう曲じゃないなと。9月にリリースされたGeGさんの「EDEN(feat. にしな, 唾奇)」をレコーディングしたときに、GeGさんがロー感を大事にしながら録ってくださって、その声が自分でもすごく気に入っているんです。その時の感覚を思い出しながら歌いました。

ー初のアニメタイアップですが、新たなリスナーに楽曲が届く可能性も制作の中で意識していたのでしょうか。

それはあまり考えていなくて。せっかく心を込めて作品を作っている人にご依頼いただいたので、そこに力添えできる曲を作りたいという気持ちが強かったです。

ーそれでも結果的には、慌ただしい日常を送る多くの人が共感できる普遍的な楽曲になったと思います。

アニメは毎回違うエピソードが描かれるじゃないですか。でも、エンディングテーマは毎週同じ曲が流れる。だから、色んな人、色んなストーリーにハマるような楽曲を意識して取り組んでいます。

ーアニメ『ドッグシグナル』ではドッグトレーナーと犬の交流を描かれますが、「シュガースポット」では作品から人間同士のコミュニケーションにも通ずるヒントを抽出しようとしているようにも感じました。

アニメをより良いものにする楽曲にしようとは思っていたんですけれど、その一方で作品のテーマに寄り過ぎないバランス感は大切にしていました。別に犬のことだけ歌った曲にしたいとは思っていなかったので。色んな生き物に対して、生きてる人に対して、亡くなってる人に対して、自分自身に対して……対○○が限定的になりすぎないようにしたいなと考えてました。

ーこれまで孤独感やモヤモヤした感情を言葉にすることでリスナーから共感を集めてきたにしなさんですが、7月にリリースされた「クランベリージャムをかけて」や今回の「シュガースポット」では、暗い感情を抱えた状況からどうサバイブするか、どう幸せを掴み取るかという方向に表現がシフトしている印象です。

意識して変化させているわけではないですけど、確かにそうですね。自分自身にそういう言葉を向けたいのはもちろん、応援してくれるファンの方や楽曲を楽しんでくれる人たちにとって、何か少しでもプラスになったり、日々を生きやすくなるような音楽を届けられたらいいなって。色々な方と出会うにつれて、その気持ちは膨らんできてるかもしれないです。

ー「シュガースポット」は、成熟したバナナの表面に現れる茶色い斑点のことですよね。

はい。最初にタイアップの話をいただいて、日曜日に放送されるアニメだから、ネガティブな気持ちを少しでもポジティブに転換させて、月曜日からも頑張れるような曲にしたいなと。この曲は人のそばかすから着想を得ていて、私はそばかすって可愛いチャームポイントだなと思うんですけど、それをコンプレックスだっていう人も多いじゃないですか。で、実はシュガースポットもバナナのそばかすって呼ばれることがあるんです。見た目は悪く見えるかもしれないけど、本当は一番甘くて美味しいタイミングだよっていう表れで。それがネガティブをポジティブに変えるというテーマに近いと思ったので、曲名にしました。

ーネガティブもポジティブも捉え方次第、という発想が楽曲の根底にあるんですね。歌詞の中では、その考え方が「カンチガイ」という言葉をキーワードにして表現されています。

結局、人の気持ちなんて完全にはわからないし、見る角度によって世界の形って変わるものだと思うんです。だったら、都合が良い方に勘違いしてもいいんじゃないかという気持ちがあって。そうやって、ふざけ半分で自分の後ろ向きな部分を前向きに変えていく感覚が、今の私には合ってるなって。

ーリリース発表時、Xにて「明るい曲を書くのは苦手」というコメントを掲載していました。

周りの人には、「大丈夫、元気書こうとしてもどうせネガティブになるから」って言われて(笑)。やっぱり純度100%の太陽みたいな曲は書けないし。でも、書こうとしても書けないぐらいのバランス感が自分らしさなんだろうなと捉えてます。それに、言葉が100%明るくなかったとしても、音で明るい世界を作れるのが音楽の素晴らしさだと思います。

ーそんなにしなさんが、今回のような明るい楽曲を制作しようと思ったきっかけはあるのでしょうか。

以前から自分なりに前向きな部分を楽曲に散りばめてはいたんですけど、その割合を増やしてみようかな、みたいな。私と同じように、あんまり明るい曲を書くのが得意じゃないっていう先輩のミュージシャンとの会話の中で、「自分の願望や希望を書いていくといいらしいよ」って話を聞いたのがきっかけになってるかもしれないです。暗い状況を明るく感じられるようにするにはどうできたらいいか、どういうマインドになれたらいいか、っていう希望。

ーということは、「シュガースポット」が生まれたことでにしなさん自身の心の在り方にも変化が?

変化というよりは再確認ですかね。「結局、自分の捉え方次第だよね」っていう感覚は元からあったんですけど、日々の中で忘れちゃうものなので。

ーなるほど。誰もが幸せになるために、そのシンプルな発想はすごく大切だと思います。

幸せってやっぱり捉え方次第だなと思います。世界中を幸せにしようとするのは大変かもしれないけれど、きっと一人一人がみんな「自分は今幸せだ!」と思えたら、こんなに争いも起きないかもしれないし。幸せって、自分の脳内で塗り替えられることだから、嫌なことも「勘違いじゃない?」って変換できる思考回路が大切なんじゃないかな。

ー改めて、「シュガースポット」をこんな人に届けたい、こういう人に聴いてほしいというビジョンはありますか?

「明日、めんどくさいな」という人に聴いてほしいです。それで何かを得られなくても別に構わなくて、少しでもハッピーが垣間見える状態になってくれたらいいな。「明日も頑張ってやるか」ぐらいの気持ちになってくれたらいいなと思います。

ー人生の、「明日もこれで頑張れる」という繰り返しの1ピースになるというか。

なったら嬉しいですね。

カットソー ¥19,800(RHODOLRION×Americana)シューズ ¥68,200(NEEDLES/ともに NEPENTHES WOMAN TOKYO tel_03-5962-7721)
スカート ¥39,600(NON TOKYO/tel_03-6432-6079)ニットキャップ ¥9,315(DIAGONAL/MUSINSA GLOBAL STORE web_https://global.musinsa.com/) その他スタイリスト私物

ー来年2月から4月にかけては、12,000人以上を動員する過去最大規模のワンマンツアーが開催されます。

タイトルをどうしようかとか話し合ってる段階なんですけど、今の自分のモード的にはシンプルな内容になる気がしています。優柔不断なので、日々いろいろなことで迷うんですけど、あれもこれも試して、最終的には最初のフィーリングに戻ってくることが多くて。恋愛で悩んでいても、結局は「好き」っていうシンプルな気持ちに帰ってくるみたいな。それをどう表現するかが難しいけど、単純さがテーマになるツアーにしたいと考えてます。(※その後、ツアータイトルは『Feeling』に決定)

ーツアーの中で、「シュガースポット」はどのように響くと思いますか?

実はレコーディングの時に、2番のAメロの歌詞を悩んでいて。別のフレーズも考えてたんですけど、よりライブのイメージが見えてきた「死ぬまで何回も / 間違えてばっかだけど」を採用したんです。いろいろ間違えるけど勘違いで楽しんでいけたらいいじゃん、っていうムードをみんなで一緒に感じられる曲にしたい。「楽しかったね、明日からまたお互い頑張ろうね!」って言い合えるようなライブになったらいいなと。

ー「シュガースポット」をきっかけに、にしなさんの表現の可能性がさらに大きく広がったと思います。今後どのような楽曲に挑戦したいですか?

「EDEN」に参加させてもらってからは唾奇さんの曲ばっかり聴いてるし、今まで以上にヒップホップを聴くようになったので、自分の楽曲でもラッパーさんを客演に迎えたり共作したりしてみたいです。それと、純度100%のポジティブな曲も、人に歌ってもらうなら書けそうな気がするんですよね。例えばアイドルさんとか、みんなの光みたいな人に歌ってもらえることがあれば、「L・O・V・E!」みたいな感じの曲を書いてみたいです。別人格として(笑)

INFORMATION

にしな 「シュガースポット」

https://nishina.lnk.to/nishina

にしな2024年ワンマンツアー
2月12日(月・祝)北海道 Zepp Sapporo OPEN 17:00 / START 18:00
2月19日(月)大阪 梅田CLUB QUATTRO OPEN 18:00 / START 19:00
2月23日(金・祝)福岡 Zepp Fukuoka OPEN 17:00 / START 18:00
3月4日(月)東京 恵比寿LIQUIDROOM OPEN 18:00 / START 19:00
3月15日(金)愛知 Zepp Nagoya OPEN 18:00 / START 19:00
3月24日(日)広島 広島CLUB QUATTRO OPEN 17:00 / START 18:00
3月30日(土)大阪 NHKホール大阪 OPEN 17:00 / START 18:00
4月6日(土)宮城 仙台Rensa OPEN 17:00 / START 18:00
4月13日(土)新潟 LOTS OPEN 17:00 / START 18:00
4月20日(土)香川 高松オリーブホール OPEN 17:00 / START 18:00
4月28日(日)東京 NHKホール OPEN 17:00 / START 18:00

オフィシャルHP:https://nishina247.jp/

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