日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。第十四回は、恒例となった一問一答。藤井が普段なかなか答えられない読者からの質問に答えていく。
こんにちは。少しずつ、あたたかくなってきましたね。
僕は、映画『青春18×2 君へと続く道』の台湾公開初日を終え、台湾からそのまま京都ロケハンに合流し、東京に戻る新幹線の中でこの文章を書いています。余韻……余韻が全然ない!!台湾ではホテルと劇場の往復で一歩も街を歩くことが出来ず、感謝を伝えたい人たちにも会えず…。少し不完全燃焼な渡台でしたが、まずはシュー・グワァンハンやチャンチェン、果耶ちゃん、スタッフたちと会えただけでも良かったとしましょう。
『パレード』の配信が始まりましたね。沢山の感想、本当にありがとうございます。
さあ次は『青春18×2 君へと続く道』が始まります。是非楽しみにしていてください。
では、今月も質問に答えていきたいと思います。
Netflixー新作、パレード拝見しました。リリーフランキーさん演じるマイケルの、初めのシーンは瓶に入った”星の砂”の話で、キーとなる映画館の名前が”hoshisunaza”、またこの連載の一問一答回は”ほしとすな”と、節々で繋がりを感じますが、なにか縁のある思い出があるのでしょうか?
すごく、ストレートな質問ありがとうございます。今回の映画は、ある映画プロデューサーの死から生まれた映画です。そのプロデューサーの名前は河村光庸。映画会社「スターサンズ」の創設者でした。
『パレード』には、河村さんや、スターサンズに纏わるものがとても多く出てきます。棺桶の中に、彼が好きだったものをなるべく多く入れてあげたい。という思いからです。
普段、映画はビジネスの側面からしても、大衆にどう届くかということを考えなくてはいけない場合もありますが、今作は、一切考えず、個人的感情に身を委ねて撮ることが出来ました。
その面では、Netflixには本当に感謝しています。次回作は結果でお返ししたいとも思っています。
ー「けむりのまち」毎回興味深く読ませていただいています。監督は仕事(映画)のこと以外を考えること(考える時間)ってありますか?(笑)いつも映画のことを考えているように見えるので。
毎回読んでくれてありがとうございます。映画以外のことを考えている時間はとても短いですね。
でも、家族といる時間や、仕事終わりに一人で馴染みの店でお酒を飲むときは違うことを考えていると思います。でも、それも全て、次の企画に使えるぞ!とか思ってしまうんですよね。ダメなやつです。
でもあと3年くらいでそんな生活も終わりだと思うと、今はそれでもいいやとも思えます。
ー失恋したことはありますか?また、失恋した際はどうやって立ち直りましたか?
失恋まみれですよ! 僕からすると、俳優やスタッフにオファーを断られたことすら失恋ですから。
興行や評価に、目標が届かなかったことも失恋。でも失恋の数だけ学びがあって、次こそは!と思うんでしょうね。実際の対人での恋愛で失恋した場合は、仲間と朝まで酒を飲んで騒いで前向きな気持ちになっていた気がします……多分。笑 昔すぎて記憶がございません!
ー藤井監督はどんなおじいちゃんになりたいですか?河村さんが理想のおじいちゃん像でしょうか。河村さんはご自身のレクイエムである‘’パレード‘’を観て何と仰っていると思われますか?
心の底から、河村さんのような人にはなりたくないですね!笑
あんなに、せっかちで、攻撃的で、元気な老人は珍しかったと思います。
僕は、河村さんと真逆のおじいちゃんになりたいです。老後は穏やかに、仙人のように人里離れたところで暮らしたいです。
『パレード』どうなんでしょうね……。「いいねえー。グーですよグー。俺、泣いちゃったよ!!(全然泣いてない)」とか言いそうですね。
ー脚本を書いたり、今年は初めて映画監督として長編映画を撮るのですが、プロデューサーとの雑談で私が「ラ・シオタ駅の列車の到着」を知らないことにびっくりしていて「今度映画史の講義しましょう」と言われました。映画の歴史、美術、カメラワーク、脚本、芸、演技についてなど……映画学校に行ってないので独学となるとどこから手をつければ?となっています。おすすめの本とか勉強する為の何かご存知ないでしょうか?よろしくお願いいたします。
「ラ・シオタ駅の列車の到着」は僕も見たことないですね。それを知らないと死んでしまうものなどないと思いますので、僕は気にしなくてよいと思います。まず映画監督という仕事は、辛くなったら続けられないと思います。どう楽しむのか?どう続けていけるのか?それを考える方が意味があると思います。
独学は確かに遠回りではあると思います。映画は個人競技ではなく、人が集まるところに映画は育つと私は思っているからです。でも、もう長編映画を撮れるのならば、プロデューサーが貴方の実力を認めたのなら、学校には入る必要はないと思います。
その上で「ラ・シオタ駅の列車の到着」が自分にとって必要なら摂取すればよいと思います。
善意なのか、マウントなのか謎ですけど、そのプロデューサーに貴方が好きな最近の作品を紹介してみてください。きっと知らないと思います。
ー映画の制作現場では信頼関係が大切だと聞いたことがありますが、藤井監督が大切にしていることやこれだけは譲れないこと、こだわりなどあれば知りたいです。
ぐるぐる、色々なことを考えたのですが、最近は「ありがとう」「ごめんなさい」をしっかり言える作品作りが一番大事だなと改めて思いました。
監督の譲れないこどわりにスタッフを巻き込むのではなく、目指すものが、スタッフ全員のこだわり、譲れないことになってくれることが今は目標です。
ー藤井監督の撮る写真も好きなのですが、映画とは別で写真集など出される予定はないですか?
写真!!いやぁ……写真は、とても下手というか、周りに上手い人が沢山いるから、写真はやらないと思います!写真は、撮るのも撮られるのも苦手です…。
ーご自身の作品への第三者の感想は読まれますか?
昔は読みました。すっごいエゴサーチとかしていましたね。でもなんだか文字って不思議で1000の賞賛より1の悪意(批評ではなく)にメンタルが持っていかれるんですよね…。
なので近年は、Twitterもやめてインスタで皆さんが送ってくれる感想を読んだりするくらいになりました。
編集中・執筆中など完成前に人の意見を聞く機会を増やして、公開したら観客の皆さまにお渡し。っていうマインドが一番平和で楽しいということを実践しています。
ー作品に必要な人材をオーディションで採用する時、どんな部分を一番重視していますか?既に有名な俳優さんの場合ではなくまだ無名の人材を発掘する場合。(藤井監督のお眼鏡にかなうようこれからも励みます!!)
オーディションは、ほぼ入ってきた瞬間に決まります。(僕の場合は)理由はシンプルで「その人なのか、その人ではないのか」だけだからです。髪型、服装、立ち方、声のトーン、目の動かし方。そのすべてを見ています。自己紹介の後のお芝居に移ってから、ギアを入れてももう遅いのになぁって思うこともあります。他のオーディションに参加したことはないのですが、自分の映画のキャストを選ぶときはそこを見ています。 でも色んなパターンがあると思います!いつかお会いできますように。
ー藤井さんこんばんは。毎日お疲れさまです。富山県に住むフツーの会社員です。
ずっと娯楽もなく数十年過ごしていましたが、藤井監督の作品に心奪われていたところ、エキストラでエイヤー!と参加し、その時に見た現場、スタッフの方がとても素敵で、人生が180度かわりました。藤井監督の撮影での富山、石川の素敵な思い出をぜひ教えてほしいです!
わ!富山!!最近、よくお邪魔しています!撮影に参加してくれて本当にありがとうございます。
そして、現場を楽しんでもらえたのなら良かったです!
石川・富山の皆さんは、とても僕たちに対して距離が近いなと思いました!いつもニコニコ近くにいてくれるというか。撮影自体が物珍しいのもあると思うんですけどね!僕は、お酒が好きなので、北陸のお酒は沢山飲み、〆に富山ブラックを食べていました!
映画が完成したら、また是非ご挨拶に伺わせてくださいね。
一日も早い、復興を心より祈っています!
ー藤井監督の光の演出がいつも素敵だと思ってます。こだわりがあったら教えて下さい。
ありがとうございます。
実際の光を作ってくれているのは、撮影の技術チームの力が大きいと思うんですけど、脚本を書いているときに、「光を探そうとした人たち」を描くことが多いからだと思います。社会との折り合いがうまくつかない人たちが、僕の映画には沢山出てきます。しかし、そのほぼすべてのキャラクターは、どんな過去や障壁があっても生きることに一生懸命です。幸せになりたい。
そして僕もそう願っているからこそ、その願いが脚本となり、スタッフが素敵なトーンを作り上げてくれるんだと思います。
※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。