藤井道人:けむりのまち
第八回『ほしとすな』一問一答

Photography_Sara Masuda
Text_Michihito Fujii

藤井道人:けむりのまち
第八回『ほしとすな』一問一答

Photography_Sara Masuda
Text_Michihito Fujii

日々映画を作っていく中で忙殺され、失われていく大切なはずの記憶の数々。本連載は映画監督・藤井道人が映画や人、言葉、その瞬間を保管しておくための企画である。「生きていく上で忘れてしまうだろう記憶たちの集積場」をテーマに、様々な出会いを通して、映画が作られていく過程や、映画業界の改善に向かっている様を伝えていく「けむりのまち -Fake town-」。第八回は、毎回多くの反響が寄せられる一問一答。藤井が普段なかなか答えられない読者からの質問に答えていく。

こんにちは、藤井道人です。
酷い残暑の中、日本中をぐるぐると忙しなく走り回っています。今、僕の人生の中で一番未知な経験をしている最中です。まだまだお知らせする日は遠いいかもしれませんが、しっかり大きくなって帰ってくるので、楽しみにお待ちください。
さて、今月の質問、また沢山いただきました。抜粋にて恐縮ですが、お答えしていこうと思います。

ご自身が経験したことをそのまま台詞にしたり、脚本で書かれたことはありますか?

20代にオリジナルで書いていた本は、殆ど自分の経験したことや、会話を元に映画を書いていました。「新聞記者」あたりから、他人の企画や、原作ものが増えていったので、元々あるものに自分を投影させたり、自分の経験した会話や感情を練り込む手法に代わっていきました。来年公開予定のある映画は、殆どが実在の人物との会話を元に脚本を書きました。とても久しぶりのオリジナル映画なので楽しみに待っていてください。

監督は大学に入るまで殆ど映画に触れてこない生活を送ってきたと伺っていますが、脚本家や監督として、努力だけではどうにもならないセンスや才能をお持ちな事は間違いないと思います。生まれながらの才能以外にそういう素養が身についた環境や要因はご自身で何だとお思いですか?

家族の影響が大きいと思います。父は、絵画や美術品が好きで、週末はよく美術館に一緒に行っていました。母は、キルトの先生をやっていて、姉は絵本作家。もともと芸術に纏わることが大好きな家族の中で育ったので僕自身に才能ありませんが、芸術というものに小さいことから憧れがあったのかもしれませんね。

常にChallengeし続けたい様な事を何かで拝見しました。作品を決める際に決め手にしているのは何ですか?!(また監督の中で、此れ迄の作品等で共通して基準になっているコトがあればお聞かせ下さい。)

作品を決める要因は沢山ありますが、ヒットしている原作の映画化だからといって触手が動いた経験は殆どありません。僕の人生は、他人に生かされていると思っています。なので、誰が頼ってくれたか、誰と仕事をするか、作った作品が社会にどのように存在できるか?この三点を一番大事にしています。

いつも楽しく『けむりのまち』を読ませていただいています。質問です『ヴィレッジ』の中に優が「幸せにできなくてごめんなさい」と言うセリフがありますが、『最後まで行く』にも工藤の「幸せにできなくて悪かった」と言うセリフがあります。これは偶然ですか?意図的ですか?何か藤井監督にとって意味がありますか?この共通のセリフの意味が知りたいです。よろしくお願いします。

今年は、様々な理由から作品のティーチインを殆どすることが出来なかったので、こういった質問はとても嬉しいです。ありがとうございます。今年公開された2本の作品は、全く違うようでとどこか似ている世界線を狙っていました。『ヴィレッジ』は、とても狭いコミュニティの中での生きづらさを怒りや悲しみで包んだ作品で、『最後まで行く』は同じく狭いコミュニティの中にいることに麻痺した人々の愚かさを、皮肉を込めて描きました。そんな二作品の中で僕が裏テーマ的に伝えたかったことは「世界は、目の前にあるものだけじゃないよ」という思いです。ネットは広大に見えてとても狭く、そこにあるものが全てであるかのような錯覚に陥ると思います。でも、自分の選択の一つ一つで世界は変わります。そういった思いから、この二本の映画のセリフは意図的につなげました。

ヴィレッジ、最後まで行く、と立て続けに観て、監督の振り幅の大きさに、またまた羨望です。監督の作品には、人間臭い魅力的な男性がたくさん出てくるし、監督の大学生時代からの縁という周りの方々も男所帯だし、いつも男友達とつるんでるイメージなのですが、女性で監督の懐に入れる人はどのような人ですか?監督の作品に出てくる数少ない女性は、さらにマドンナ的な役ではない気がするので、きっと女性に幻想はお持ちじゃないんですね?ヨカッタと、勝手に思っています。これからも作品楽しみにしています。お体も大切になさってください。

アハハハ!!!すいません。男ばかりで。特に幻想は抱いていないんですが、映画と同じで、何歳になっても女性との付き合い方は分かりません。米倉涼子さんや寺島しのぶさんは、もう男女を超えて姉貴!!という感じでとても楽で楽しいですが、女優さんを前にしてしまうと、やはり緊張しますね。監督の懐にはあまり入るべきではないと思いますが、理想は性別を越えて、ニュートラルにディスカッションが出来る人が好きですね。ただ、時代が変わっていく中、女性の描き方はもっと勉強しなきゃなと、日々勉強しています。いつか、そういった作品をお見せ出来るように頑張ります。

横浜流星くんきっかけで藤井監督のことを知りました。いつも素敵な関係だな、出会うべくして出会ったお二人だな…と思っています。質問です。流星君のお芝居に魅了されてからというものなかなか他の方のお芝居をみても心動かされなくなりました…流星君だったらもっとこういう表情見せてくれるのにと思ってしまいます…他にもそれこそ藤井組にも素敵な役者さんはたくさんいると思うのですが、その方たちと比べて流星君の役者としての魅力って身近にいる方として監督としてどういうところだと思われますか?

流星は、他人の比べたことはないですが『作品を信じる力』が人一倍強いと思います。監督が求めていることに妥協無く向き合う。そういった姿勢が、僕は大好きです。ボクサーの役が来たからといって、プロライセンスを取ろうと思うところが凄いですよね。僕は、僕の撮りたい流星しか撮れないので、個人的には、テレビも配信も、もちろん映画も他の沢山の監督や脚本家、俳優部と出会い、素晴らしい作品を生み出し続けて欲しいと思います。彼も9月16日に27歳になりましたね。大人になっていく流星を見るのも、楽しみの一つです。

映画やドラマや作品を観る時、何も考えずに観ますか?それとも監督目線で観ますか?

映画やドラマは、本当に「気分」で選んでいます。マイリストに時間のある時に沢山チェックを入れておいてその日に観たいと思った作品を観ていく感じです。今は「ムービング」に激ハマりしています。

藤井監督の映画やドラマで出てくるタバコを吸っているシーン…人間味溢れるようなシーンが多く、人物像には欠かせないものだと思っています。こだわりはありますか?

煙草は、様々な演出に使えるのでとても好きです。孤独感の表現や、セリフがないシーンでもタバコを吸うことで表現できることもあると思いますし、銘柄でキャラクターを強くしたりできることが利点だと思います。

いつも映画を見終わったあと、お話の終末のところで監督の想いを感じます。それがしっくり来るときもあるし、考えて納得するときもあるし。脚本を書く時、終末をまずイメージして臨むのか、また書いているうちに大きく変わることがよくあるのか、脚本づくりで今思っていることをお聞きしたいです。青の帰り道で監督を知って、映画の見方が変わり、人生が豊かになりました。これからも連載楽しみにしています。

終わりを決めて脚本を書くことは殆どありません。登場人物と対話しながら、一緒に困難を共有しながら、書き続ける中で結末をどこにするかを探っていく感じです。『青の帰り道』嬉しいですね。あれからもう7年も経ってしまいました。これからも頑張ります。

監督の人生を一本の映画にするとして、理想とする‘’死に方‘’はどんなイメージですか。映画のラストシーンはどんな映像になるのでしょうか。

現場で死にたいですね。と書いてみましたが、だいぶ迷惑ですね。撮影止まるし(笑)

オファーが引きも切らないと思いますが、潤沢な予算と3年の準備期間が用意され、ゼロから好きに作ってよいと言われたら、今、誰との、どんな作品が浮かびますか?

そういう作品を計画中です。先のことになりますが、是非楽しみにしていてください。

藤井組の綾野剛さんが毎回人間臭くて好きです。毎回、監督の演出通りですか?

演出ですが、剛さんとは一緒にキャラクター作りをしていくことが多いので、現場で大きくブレることはありません。

私は将来、映像作家と写真家になりたいと思っています。babel labelの皆さんが創り出す作品たちが大好きで、いつかbabel label に入りたいと思っています。どうしたら入れますか。

うまく答えられないのですが、運と縁だけだと思います。あと、自分にしかないと言い切れる突出した個性。

今まで藤井監督作品に出演された俳優、または出演されていなくても接したことがある俳優の中で、特に緊張を感じたのはどなたでしょうか。いらっしゃればぜひ複数人あげていただきたいです。

まだ公開されていない作品の俳優さんなのですが、緊張しすぎて、口から心臓出るかと思いました。他だと、舘ひろしさんです。

次に綾野剛さんに何か役を当て書きなさるとしたら、どんな作品のどんな役になさりたいですか?

ありがとうございます。やっぱり「クレイジー剛」が観たいですよね。これからも剛さんとは観る人に刺激を与えるような作品を沢山作って行きたいです。

うまく答えられていない部分もございますが、今月はこの辺で。
秋から冬にかけて、人生における大きな山場の撮影があります。
無事、その高い山を越えれるように頑張ってきます。
来月は、対談を予定しています。誰にしようかな。
それではまた。

藤井道人

※本連載にて、藤井道人監督への質問を募集。
監督が一問一答形式でお答えするので、
聞きたいことや気になることがある方は、
こちら宛にお送りください。

藤井道人:けむりのまち 第一回『夜たちの備忘録』

藤井道人:けむりのまち 第二回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち 第三回 対談:横浜流星 ー映画『ヴィレッジ』をめぐってー

藤井道人:けむりのまち 第四回『再見』

藤井道人:けむりのまち 第五回『ほしとすな』一問一答

藤井道人:けむりのまち第六回 対談:川上智之 ―同い年の2人が語る映画とカメラと互いの未来―

藤井道人:けむりのまち 第七回『ENDING NOTE』

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