BEHIND CULTURE|VOL.03
写真家・高木由利子が見つめてきた“撮る”という行為

Text_Daniel Takeda , Photography&Edit_Rio Osugi

BEHIND CULTURE|VOL.03
写真家・高木由利子が見つめてきた“撮る”という行為

Text_Daniel Takeda , Photography&Edit_Rio Osugi

作品が生まれ、シーンとして広がっていくまでの裏側には無数の判断と選択、そしてそれを担う人たちの仕事がある。「BEHIND CULTURE」は、KDDI「au Short」サポートのもと、音楽・映像・ファッション・アートといったカルチャーの現場で、その“裏側”を支えてきた担い手たちに光を当てる連載企画だ。職業や肩書きの紹介ではなく、思考や判断の基準、そして次の時代のカルチャーをどう見ているのか。インタビュアーは、カルチャーのさまざまな側面に光を当てるジャーナリスト/研究者の竹田ダニエル

BEHIND CULTURE第3回は、写真家の高木由利子。ファッション、アートなど領域を横断しながら、長年独自の写真表現を続けてきた高木。近年では、東京都現代美術館で開催された「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展での展示や、写真集『Threads of Beauty』で大きな注目を集めた。写真と向き合う感覚の変化や、長く制作を続ける中で積み重ねてきた視点を紐解く。

Iran_2006年
Colombia_2016年
India_2004年
©Yuriko Takagi ©Christian Dior
©Yuriko Takagi ©Christian Dior
©Yuriko Takagi ©Christian Dior

ーこれまでのインタビューでも語られている部分と重なるところはあるかと思うのですが、改めて、そもそも高木さんが写真というものに向き合い始めた経緯についてお聞きしたいです。もともとはグラフィックデザインやファッションを学ばれていた中で、どういう流れで今の写真表現にたどり着いたのでしょうか。

高木:写真は完璧独学で、誰にもついたこともなく、勉強もしたことないんですね。
その前に実はグラフィックデザインを勉強していて、武蔵野美術大学のグラフィックに行っていたんですけど、3年で中退して、家族でヨーロッパに行くことになったんです。そこからだんだん、「自分はグラフィックじゃないんだな」という気持ちが高まってきて、結局ファッションを勉強することになりました。
ファッションは3年間勉強して卒業して、その後はフリーランスでヨーロッパで8年ぐらい仕事をしていました。その間に、ファッションに対する疑問みたいなものもいろいろ出てきて、自分で写真を撮るようになったんですね。最後の3年間ぐらいは、旅先で自分のために写真を撮るようになって、「これはすごく自分に合ってるな」と思ったんです。
自分が密かにファインダーを覗いてシャッターを押すっていう、その非常に個人的な感覚が、自分にすごく向いてるなと思って。そこから徐々に始めて、本当に独学で今に来ています。

ーこれまでさまざまな場所で人や装いを撮ってこられていますが、最近の撮影の中で「この人を撮りたい」「これを撮りたい」と強く思った具体的な場面はありましたか。また、長いキャリアの中で、被写体への向き合い方やテーマの見つけ方に変化はありましたか。

高木:若い時はいろんな仕事をたくさんしたし、ポートレートも撮ったし、ファッションも撮っていました。でも、ファッションをやめた時に、「もうファッションは絶対撮りたくない」と思って、ファッションフォトグラフィーは避けてたんですね。
ただ、やっぱり基本的に服は好きなので、運命的にまた戻ってきました。その、ファッションをあまり撮らない間に、人体を撮り出して、服を纏ってない人間のヌードを撮ることにすごく興味を持つようになって、ヨーロッパにいる間はずっとヌードを撮っていました。
そうしているうちに、何事もプロジェクトにしてしまうと結構いいんだな、という感覚が出てきたんです。プロジェクト名をつけると、何か事がポジティブな方向に流れていく感じが、なんとなく自分の経験の中であって。だから私はプロジェクト名をつけるのがすごく好きなんですよね。
今も4つか5つぐらいプロジェクトが同時進行してるんですけど、一つひとつがすごく長いんです。始めると、どんどんいろんなことがわかってくるし、同時に「自分は何もわかってなかった」っていうこともわかってくる。だから終わりがないんですよ。
でも、終わりがないっていうのは素敵なことでもあって。そこに結論があるわけじゃないので、撮れるだけずっと撮りたいなっていう感覚なんです。
『Threads of Beauty』も30年間撮ってきて、今回一旦、本という形とエキシビションという形にしたんですけど、本自身がまた旅をしてくれるので、本はすごく素晴らしいなと思っています。


ー「この人は撮るべきだ」と思う瞬間は、どこで判断されていますか。見た目や服だけではなく、空気感のようなものも含めて見ているのかなと思ったのですが、実際に高木さんが惹かれているものについて聞かせてください。
また、写真に写る“身体”というものは、その人自身だけではなく、文化や環境も含んでいると思いますか。これまでの撮影で、それを強く感じた経験があれば教えてください。

高木:“格好良さ”って、実は佇まいから来てるんですよね。
もちろん骨格だったり、民族による肉体的な違いはあるんですけど、その民族が持っているプライドだったり、生き様だったり、自然との関わり方だったり、そういうものが全部その人の佇まいとして現れてくる。
今って、私たちの90何パーセントが携帯電話を持って、こういう(背中が丸まった)姿勢になっているじゃないですか。もうこれは美しくないんですよ。どんなにいい体つきをしてようが、美しかろうが、その佇まいがどんどん美しくなくなってしまってる。
だから、私は単純にビジュアルの違いを見てるわけではなくて、その人がどう存在しているかを見てる感じなんですよね。

ー最近は自然現象を撮るプロジェクトにも取り組まれていますが、「これを撮りたい」と思う瞬間はどういう時に訪れるのでしょうか。
例えば植物一つをとっても、光や色、形などさまざまな要素がある中で、高木さんがシャッターを切る決め手になっているものを聞いてみたいです。

高木:「chaoscosmos」というプロジェクトなんですけど、カオスとコスモスを組み合わせた造語なんです。自然の不可思議を、レンズを通してでしか見れない現象として撮るっていうプロジェクトで、今すごくハマっています。
花って世の中にいくらでもあるわけですけど、プロジェクトがあることで、自分が今どういう植物をどう撮りたいかっていうことにフィットするものが見えてくるんですね。
例えば100も200も花が咲いていても、そのうちの一つ、「この花を撮りたい」って思う瞬間がある。向こうも「私だよ、私だよ」って言ってるような気がするんですよ。
だからお互いに引き寄せる。片思いじゃなくて両思いなんです。単純に「綺麗だな」で撮ってるうちは起きないんですよね。だから私はプロジェクトがすごく重要だと思っていて、気づきっていう行為なんだと思います。
毎日見ている花でも、ある時ちょっと違うことに気づくわけですよ。「これってこうなってるんじゃないか」とか、「枯れたらどうなるんだろう」とか、「土に落ちたらどうなるんだろう」とか。そこから全部気になってきて、観察し始めるんです。
私はよく「MMM」って言ってるんですけど、“マジカル、ミステリアス、ミラクル”。その3つが同時に起きる時ってあるんですよ。それが起きない限り、そんなに面白いものは撮れないので。

ーファッションデザインを学び、実際につくる側を経験された上で、今は撮る側として長く活動されていますが、撮影現場で「デザイナーだったからこそ気づける」と感じるポイントはありますか。

高木:やっぱり服をよく知ってるので、素材とかテクスチャーがすごく気になるんですよね。
私はすごい素材フェチなんです。服だけじゃなくて、何でもテクスチャーが気になってしょうがない。この服はテクスチャーを見せたいのか、フォルムを見せたいのか、透明感を見せたいのか、動いた時に綺麗なのか、ストンと立ってる方が綺麗なのか。一着ずつ見ながら考えてるんです。
だから、「この服のポートレートを撮ろう」っていう感覚なんですよね。人を撮ることと、服を撮ることが私の中では結構重なっていて、この服をどう撮ったら一番魅力的に見えるか、っていうことをずっと考えています。
今振り返ると、グラフィックをやって、ファッションをやって、写真に来たことって、全部遠回りじゃなかったんですよね。全部ちゃんと役立っていて。私はよく「シャッター以前」っていう言葉を使うんですけど、シャッターを押す前のすべてが、シャッターを押させてると思ってるんです。
だから、大げさに言うと、その人の生き方とか生き様が、シャッターを押させてるんですよね。

ー30年以上撮影を続けてこられた中で、カルチャーや写真を取り巻く環境も大きく変わってきたと思います。
特にここ数十年で、「これは決定的に変わった」と感じる部分はありますか。また、デジタル化によって、写真というものとの距離感はどう変わったと思いますか。

高木:一番、40年前、50年前と今と違うのは、たぶんすべてがスピードアップしてることですよね。
昔はフィルムで撮って、現像するまで見れなくて、すごいリスクもそこに含まれていたし、お金もかかることだった。でも、デジタルになってから今に至るまでがすごく早かった。
だから今の若い方って、「カメラ」って言うとデジタルカメラのことなんですよね。フィルムカメラっていう言い方をする。それが私にとってはすごく面白くて。フィルムカメラって、ある意味過去のものなんだけど、若い人にとっては逆に新しいもの、エキサイティングなものになってる。それがちょっとチャーミングだなと思うんです。
私自身、デジタルが出た時は「デジタルは写真じゃない」と思っていたし、自分がデジタルをやるなんて夢にも思ってなかったんです。しかも、デジタルカメラで撮ったものをPCでしか見れないってことも知らなくて、カメラは買ったけどPCは持ってなかったんですよ(笑)。
でも、そんな私でも、あっという間にコンピューターなしでは生きられない人間になってしまった。今はほとんどデジタルで撮ってるんですけど、時代が変わっていくことに反抗しながらも、それを受け入れながら楽しむっていうことも、この年になってやっと覚えてきた感じですね。
もちろんフィルムで撮った写真が一番美しいとは思っています。でも、それに執着し続けるのか、それとも違う楽しみ方やチャレンジをするのかって考えた時に、私は後者かなと思っています。
ただ、そのデータ化されてしまったことは、すごく大きな変化だと思っていて。写真って、“物として存在する”っていうことがすごく重要だと思うんですよね。
だから今、展覧会をする時も、「物として愛おしい」っていうことをすごく意識しています。単にデジタルプリントを出すだけじゃなくて、どういう形で見せるかをずっと試行錯誤してるんです。

ー逆に、どの国や地域でも共通していると感じる、人が撮られる時の感覚やしぐさはありますか。
また、今のように写真や映像が大量に消費されていく時代の中で、それでも変わらない“写真を撮る喜び”のようなものがあれば聞かせてください。

高木:人間は何故か光を通して見るものに魅了されるんですね。あと、写真を撮られることって、実はみんな結構好きなんだと。もちろん「NO」っていう人は撮らないですけど、カメラを向けられることで、自分だけにフォーカスが来る。その感覚って、やっぱり特別なんです。
スマホでカチカチ撮るのとは違って、ちゃんとカメラを据えて、カメラを通した関係性ができる。それがフォトグラフィーだと思っていて。
私は結構、カメラも見たことがないような人が住んでいる場所に行って撮ることもあるんですけど、鏡すらない生活をしてる人たちでも、シャッターを切られることを嫌がるわけじゃない。むしろ喜びにつながる瞬間があるんですよね。
だから、写真の基本的な喜びって、やっぱりファインダーを覗いて、自分しか見てなくて、誰にもシェアしてなくて、それでシャッターを押すっていう行為なんですよ。
私はそれを“密儀”って呼んでるんです。自分1人でニコニコして、宇宙の一部を切り取るっていう快感は、誰にも渡したくない、自分だけのもの。
今って何でもすぐシェアしますけど、シェアして本当に楽しいかって、どうなんでしょうっていうのがあって。私は途中経過を絶対に見せないんです。コマーシャルでも出さない。全部自分で持ち帰って、自分で編集したい。
どの写真を選ぶかっていう“選ぶ”行為も、実は50パーセントぐらい大事だと思っていて。
いっぱい撮った中で、自分にとってどれを出したいか。その選択ってすごくエネルギーのいる仕事なんですよね。

ー写真や服、人を通して、これまで一貫して伝えようとしてきたものは何ですか。
そして、短い動画やイメージが大量に消費されていく今の時代に、そうした手触りや実在感のあるものを、どうやって届けていけると考えていますか。

高木:多様化が進んで、そのインフォメーションの渦の中に私たちがいる中で、「何が自分にとって幸せか」を知ること、探し当てることが、今一番大きなテーマだと思ってるんですね。
私がやってるプロジェクトは、服を着ている人たちだったり、服を着てない人たちだったり、植物だったり、自然現象だったりするんですけど、それは全部つながっていて。どうして私たちは存在していて、どうしてこういう肉体を持ってこの世に生まれて、生きて、消えていくのか。
その「知りたい」っていう感覚が根底にあって、芸術って存在してるんじゃないかと思うんです。
写真に出会って、そこの入り口にちょっと入れてる感じがして。それが私にとっては幸せにつながってる。私の作品を見た人が、何か感づいてくれる。入り口になったらいいなと思っています。
結局、言いたいことは一つ。幸せ論なの。

インタビューの様子はau Shortで映像でも楽しめるのでぜひチェックしておこう。

INFORMATION

BEHIND CULTURE VOL.03 高木由利子

◼︎高木由利子
https://www.instagram.com/yuriko_takagi_photo/

◼︎au Shortについて
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