観光産業化したベルリンテクノシーン。毎週末のクレイジーなパーティーや盛大なフェスティバルを目指し、多くの外国人が訪れる。一方、その地下では多様な人種/ジェンダー/セクシュアリティが混じり合うカラフルなクィアシーンが息づいている。そういったベルリンのカルチャーシーンで活躍するクィアピープルたちにフォーカスし、ベルリンのアンダーグラウンドで起こっている新しいムーブメントを紹介する「Berlin Fluid View」。
以下、ベルリン在住のマルチメディアアーティスト、ink Agopがナビゲートする形で進む。
#01は、パーティーでよく見かけて、ジェンダーレスな態度とセクシーなダンスがずっと気になっていたmobilegirl。北米ツアー、アジアツアーが続く多忙な彼女をようやくつかまえ、彼女が住むベルリンの新しいヒップエリアNeukölln(ノイケルン)で会った。「友達も連れてきて!」と頼んでいたら、スウェーデン出身のTOXEと肩を組んで現れた。
—ベルリンに住んでどれくらい?
mobilegirl:私はここに来て3年になる。
TOXE:私はもうすぐ2年くらいかな。
—ここで何してるの?
TOXE:私は音楽を作ってライブをしたり。
mobilegirl:私も同じ。ここに引っ越してきたときはウェブデベロッパーとして仕事していたけど、今は音楽に集中してる。音楽で生活出来るのって素晴らしいと思う! ベルリンは物価が安いからそれが可能だしね。
Mobilegirl Boiler Room Berlin DJ Set
—どこの出身? あなたのファミリールーツを教えてもらえる?
mobilegirl:私はミュンヘン(ドイツの南都市)で生まれてそこで育った。私の両親は中華系ベトナム人で、ベトナム戦争の後にドイツに来た。彼らは別々にドイツに来てここで出会ったんだよ。
TOXE:私はヨーテボリというスウェーデンの街から。中心から遠く離れた小さな工業都市でとてもリラックスしたところだけど、10代にとってはすごくフラストレーションが溜まる街。ベルリンに引っ越して来たことはすごく大きな変化だよ!
—どうやって出会ったの?
mobilegirl:音楽つながりだよね? 私は音楽をはじめる前はビジュアルを作っていたんだけど、彼女は音楽を作りはじめた頃で、彼女のためにビジュアルを作ったんだ。どうやって知り合ったんだっけ? ソーシャルメディアであなたがメッセージくれたんだったっけ?
TOXE:私がミュンヘン出身のプロデューサーMechatokにオンラインで連絡したのがきっかけかな。私はヨーテボリ、彼はミュンヘンに居たんだけど、私たちはオンラインですごく仲良い友達になって、彼経由でmobilegirlとオンラインでつながった。「Hey, are you mobilegirl?」ってね(笑)。リアルで初めて会ったのは、2015年にMechatokとmobilegirlがストックホルムのクラブでプレイしたとき。でも私はプレイ出来なかったの、まだ17歳だったから。
—スウェーデンのクラブは18歳から?
TOXE:たいていは18歳から、でもたまに21歳とか22歳からのところとかもあってすごい厳しいんだよ。そのときはなんとか入れたんだけど、ボディーガードが腕組んで私の後ろに立っていて、アルコール飲まないように見張ってるんだ! すんごい変な感じだったね。
—ベルリンに引っ越してきたきっかけは?
TOXE:インターネットフレンドのほとんどがベルリンに住んでいたから。ここに引っ越してくるのはすごく自然な流れだった。
mobilegirl:ミュンヘンはいかにも“ドイツ”って感じの、政治的にも経済的にも保守的でお金持ちの街で。私はトルコ移民や労働階級が住むエリアで育ったんだけど、教育を受けて中流階級の社会に行くとそこはまったくの白人の世界で奇妙な感じだった。私がベルリンに引っ越してきた一番の理由は、やっぱり音楽。インターネットで出会ったDJのほとんどがベルリンに住んでいたし、ここではクールなパーティーが常にある。だから、自然とここに住む流れになった。
TOXE:地方に住んでいると年に1回のフェスティバルに来るようなビッグアーティストたちが、ここでは毎週末プレイしているから、「ああ、ここの世界に入らなきゃ!」って感じたね。
—第一世代の移民とあなた(mobilegirl)みたいな第二世代の移民との間の、アイデンティティの違いって何だと思う?
mobilegirl:第二世代の私たちは常に2つのアイデンティティのあいだにいる。両親は移民としてすごく苦労してきたから「あなたはベトナム人なんだから学校でも常に良い子でいなさい。他の子より上手くやりなさい。みんなに敬意を持って接しなさい」って厳しく言われてきた。でも10代になってパーティーとか行くようになったら、自分が着たい服を着て自分のスタイルを自分で選択したいって思うようになった。すごく時間がかかったけど、18歳のときに「私はベトナム人じゃない、ドイツで育ったドイツ人だ」と思うようになった。でもここではドイツ人には見えないし、ベトナムに行っても言葉が喋れないから「外国のベトナム人」だし、私はどこにも所属してないという感覚がある。国や文化に帰属している感覚が無いから実験的な音楽を作るようになった。
—TOXEが活動しているコミュニティについて教えてくれる? さっきオンラインコミュニティの話してたよね?
TOXE:うん、私は早い時期からオンラインで活動を初めた。私の世界はコンピューターの中にあって、13歳くらいから常にオンラインの世界に居て、音楽ベースのサークルで世界中の人とつながるようになった。それはとても広い世界だけどすごいスピードでつながっていった。オンラインで出会ったほとんどの人が今はベルリンに住んでいる。
—具体的には何を使ってるの? SoundCloud?
mobilegirl:うん、私はSoundCloudでたくさんの人と出会った。
TOXE:SoundCloudは使っていたけど、今ゆっくりフェードアウトしていってる感じ。
—へ〜、じゃあ次は何が来てるの?
TOXE:う〜ん、、、今はunder constructionって感じかな?
mobilegirl:でも、私はインターネットで出会った人はそんなに多くないかな。友達が誰かをリアルで紹介してくれてつながっていった方が多いね。
TOXE:ベルリンは小さな街にすごい人が集まっているから、ランダムに出会っていくよね。
mobilegirl:ベルリンは「村」だもんね。ちょっと隔離された特別な場所って感じ。
TOXE:そうそう、「村」だよね。
—将来、住んでみたい街はある?
mobilegirl:私はNYに住んでみたい。NYの街のエネルギーが好き。資本主義的なエネルギーがあって、みんなすごくハードに仕事していて、でも簡単には打ち解けないヨソヨソしい感じもあって、いろんな面があるけど強烈なエネルギーに毎回インスパイアされる。何もかもがすごく高いから、取り敢えず数ヶ月住んでみたい。
TOXE:私はもうちょっとここに住んでいたいかな。それかどこかNYみたいな大都市。
—自分の音楽スタイルに影響を受けたものは? mobilegirlはベルリンテクノからそんなに影響を受けてないって言ってたよね。
mobilegirl:そうだね、子供の頃は10歳年上のいとこがR&Bやヒップホップを聴いていて、彼女から影響を受けたかな。だから大きくなったらヒップホップクラブに遊びに行くようになった。音楽って、仲間意識というか社会活動でしょ。テクノやハウスのパーティーにも探検しに行ったけど、ドイツ人ばかりで自分がアウトサイダーって感じがして居心地が悪かった。ヒップホップクラブには、いろんな移民背景の人種の人がいて、多様性があってカラフルだったからよく遊んでいた。その後、インターネットでSoundCloudとかでいろんな音楽を聴くようになって、もっと自分の好きな音楽を探求していったって感じかな。
TOXE:私はSoundCloudやYouTubeで音楽を聴いてきたから、お店みたいに「ハウス」とか「テクノ」とかジャンル分けされないじゃん。インターネットでランダムに音楽を聴いて気に入った曲をプレイリストに入れて聴いていたから、ジャンルってあんまり意識しなかったかな。すべてがごちゃ混ぜになっちゃってる感じ。
TOXE Boiler Room Berlin Studio DJ Set
mobilegirl:私のつくるほとんどの音楽はビデオゲームにすごく影響を受けてる。
—どんなゲームしてたの?
mobilegirl:一番好きだったのは「Zelda」。Zeldaの音楽にはすごく影響を受けた。みんな知ってるし、すごく特別なゲームだよね。今日着てるTシャツもZelda(笑)。今ハマってるのは「二ノ国」。日本のだよね? でも実は音楽はあんまり好きじゃないんだ(笑)。たまに音をオフにしてプレイしている。スタジオジブリのじゃない? たぶん。
TOXE:私は「SSX」っていうスノーボードゲームをすごくやってた。サウンドトラックもクリエイティブで大好き。後は「Tony Hawk」のスケートボードゲームもよくやっていた。
mobilegirl:Nintendo 64 の「Wipeout 64」も。未来的なレーシングゲームでサウンドトラックも大好き! 音はアシッドテクノって感じ。
TOXE:レーシングゲーム大好き〜!
—ビデオゲームの音楽をつくってみたい?
mobilegirl:それが私の夢! つくってみたい!
TOXE:私もやりたい!
mobilegirl:魅力的だよね〜。ゲーム音楽って複雑に色々な要素を含んでいる。ストーリーを伝えるテクニックが必要だし、映画的なんだけどドラマティックになる必要はないし、でも失敗や挫折したときの辛いムードを伝えるのも重要。ときには内容をストレートに伝えたり、すごく気分的な雰囲気(moody atmosphere)になるから、もうビデオゲーム音楽って大好き。壮大な企画だよね、ビデオゲーム制作って。ビデオゲームの音楽制作の話あったら、私たちに連絡して!
(mobilegirlは2018/11/24 @ WWW Xに来日が決まっている。TOXEはちょうど10月に来日したばかりだ)