観光産業化したベルリンテクノシーン。毎週末のクレイジーなパーティーや盛大なフェスティバルを目指し、多くの外国人が訪れる。一方、その地下では多様な人種/ジェンダー/セクシュアリティが混じり合うカラフルなクィアシーンが息づいている。そういったベルリンのカルチャーシーンで活躍するクィアピープルたちにフォーカスし、ベルリンのアンダーグラウンドで起こっている新しいムーブメントを紹介する「Berlin Fluid View」。
以下、ベルリン在住のマルチメディアアーティスト、ink Agopがナビゲートする形で進む。
Candy Magazineの撮影現場で出会ったRein Vollengaは、ウェアラブルな彫刻を作るオランダ人アーティストだ。Reinの作品はミッテ地区のHVM8ギャラリーや、クロイツベルクのXavier Laboulbenneのギャラリーで見ていた。またはレディー・ガガのミュージックビデオやファッションウィークのランウェイでも。ウェディング地区(※1)の道端でよく出くわすReinのスタジオは、私のスタジオのすぐ近くにあった。クロイツベルクの伝説と言われるゲイバー、Bar Rosesの創始者Gabriellaと、ベルリン・クィア・シーンでパフォーマーとして活動するReveRsoと一緒にReinのスタジオで撮影、そしてReinにインタビューした。
—このスタジオは、以前は何だったの?
ここはウェディング地区の隠れたセックスシネマだった。ここではたくさんの違法なことが起こっていたよ……売春とかね。ある日オーナーが突然失踪してここを受け継ぐことになったんだけど、そのまんまの状態だったから自分のアートのためにここを作り変えるのは大変だった。残念ながらまだそのときの霊が残っているように感じるけど……彼らとは時間をかけて友達になったよ。
—ウェディングって、ベルリンの他のエリアと比べてどう?
ベルリンに10年以上住んでいるけど、ずっとクロイツベルクで遊んでいた。働いていたところがベルリンのナイトライフの中心だったしね。ウェディングに引っ越したことで、ベルリンのなかで匿名性と自由をまた取り戻したと感じている。ベルリンってエリアによって強烈な個性があってバライティに富んでいて……いまだに何度も何度も驚かせてくれるよ。
—最近はどこに出かけてる?
去年はパンコウ(※2)とシャルロッテンブルク(※3)を探索していた。いわゆる「旧ベルリン」をね。すごく古い建築物やシャルロッテンブルク宮殿のような美しい城に出会えるエリアで、すごくインスパイアされたよ。
Gabriella Murray
クロイツベルクの伝説と言われるゲイバーRosesの創始者。25年に渡りベルリンのクィアシーンを見てきた。
ReveRso
ベルリンのアンダーグラウンド・クィア・シーンで活躍するパフォーマー。世界中の都市でパフォーマンスを行うほか、ベルリンではビデオパフォーマンスやさまざまなミュージシャンとコラボレーションを行っている。
The Beauty of ReveRso Trailer
—最近、気に入っているものは?
シューネベルク(※4)のゲイバーやセックスクラブにあるようなガラクタみたいなローカルチャーから、ボーデ美術館で見られる中世ヨーロッパ美術、プロイセン王国時代のシャルロッテンブルク宮殿のようなハイカルチャーなもの、歴史的なものと現代社会の側面、その対比がすごく気に入ってるね。
—今はどんなプロジェクトに取り組んでいる?
インディペンデントショートフィルムの制作に参加しているよ。映画を面白く見せるための彫刻だけでなく、制作のあらゆる面で関わっている。自分の芸術的関心は彫刻を超えて遠くにあるってことに、このプロジェクトを通して時間をかけて気づいた。もうすぐ情報公開されるよ。
—Reinの作品は、何から影響を受けている?
伝統的な芸術形式、アフリカの芸術、中世の芸術、それだけじゃなくて昆虫、スーパーマーケットの大量生産された包装、SF映画、大自然を撮ったドキュメンタリー……。
—ベルリンに住んでることで、作品に影響を受けていると思う?
絶対にあるね。環境が自身の行動に影響を与えるって確信している。自分は自分のアートそのもので、自分のアートは自分の行動の影響下にある。また自分の行動は周りの環境、つまりベルリンにある。人間って結局、原始的な選択をする存在だと思うよ。
—Reinの彫刻の制作プロセスを教えてくれる?
スタジオの飾り棚に、無秩序にたくさんのオブジェを集めてくるんだ。そこから組み立てはじめる。すごく大まかな感じで切断したりくっつけたりして。いい形状が見つかったら統合して、エポキシ合成樹脂で表面を覆っていく。そこから手作業で形を加えることもあるね。仕上げに研磨とツヤ出しを手作業で何度も何度も行って、最後に未来的な仕上がりにするために表面を塗装する。すごく伝統的な手作業のプロセスだよ。自分の手で作品を作る工程がすごく好きなんだ。
—Reinの作品にはどんなファンタジーがあると思う?
それは分からないよ……見る人の脳内で起こっていることだからすごく興味深いけどね。
※1 Wedding(ウェディング):ベルリン中心部の北側に位置するエリア。東ベルリンだったミッテとパンコウに挟まれた旧西ベルリンエリアで、トルコ人、アラブ人、アフリカ人、東アジア人など移民が多く住む地域。失業率が高く社会福祉を受けている人が多い、ベルリンで最も貧しい地域のひとつで、最近では賃貸料の安さから多くのアーティストや学生が住み始めている。
※2 Pankow(パンコウ):ウェディングの北に位置する旧東ベルリンエリア。昔の大使館や旧東ドイツ時代の重厚な建築物が多く残り、元東ドイツ人が多く住む。
※3 Charlottenburg(シャルロッテンブルク):ベルリンの西側に位置するコンサバティブな高級商業エリア。高級ブティック、老舗百貨店、レストラン、劇場が立ち並ぶ。
※4 Schöneberg(シューネベルク):古くからのゲイの街としてゲイバーやコミュニティがあるエリア。70年代にはデヴィッド・ボウイも住んでいた。