Edges Ahead – 貝印と探る“その先”のカルチャー
#02 Conversation Issue / あっこゴリラ×haru.×清水文太

photography_Syuya Aoki, text_Yuri Matsui, edit_Takuya Nakatani

Edges Ahead – 貝印と探る“その先”のカルチャー
#02 Conversation Issue / あっこゴリラ×haru.×清水文太

photography_Syuya Aoki, text_Yuri Matsui, edit_Takuya Nakatani

「Edges Ahead=先端のその先」とは、今年111周年を迎える刃物メーカー貝印の掲げるテーマだ。今という時代の“その先”にある景色こそ見たいし、追いかけたいし、フォーカスしていきたいというのがEYESCREAMの姿勢でもあるから、じゃあもう一緒になって探っていくしかない。今に息づくカルチャーの“先端のその先”にあるのはきっと、もっと自由で、情熱的で、リアルな日常の気がする。
「えっ、そもそも貝印って?」となるかもだけど、君の部屋のどこかにもたぶん貝印のアイテムが転がっているから「KAI」のロゴを探してみるのもおもしろいかも。ツメキリだとか、カミソリだとか、包丁だとか、ほらそこに。
毎回、異なった角度から“その先”へと踏み込んでいくシリーズ、その第2回はあっこゴリラ×haru.×清水文太によるConversation Issue。

会話のテーマに据えたのは「体毛」だ。ヒゲなどの体毛を剃るためのカミソリも取り扱う貝印があえて「毛を剃らない自由もある」と切り出して、いまの時代に向きあうことで見えてきた、あぶり出されてきた既存の価値観、これからのあり方。三者三様の視点がときに交差し、ときにすれ違い、ときに響きあう。3人の見据えるそう遠くない未来が、心地よさを伴って立ち現れる現場となった。

自分の身体を通じたメッセージ
びっくりするようなこともやり続けると普通になる

─ひとくちに体毛と言っても、脇毛、腕毛、すね毛、胸毛、眉毛、ヒゲ……など部位や、性別によっても、体毛を剃る/剃らないことに対して、社会のなかでどのように見られるか異なってくると思うのですが、まず皆さんそれぞれの体毛との付き合い方を聞きたいなと。

あっこゴリラ(以下、あっこ):私の場合は、体毛が生えるのがすごく早かったの。小学校のプールの授業のときに「脇毛生えてるよ!」って言われて「私、男なのかな」って思ったりもした。だから当然隠さなきゃいけないものだと思って、全身脱毛に通っていた。2年前くらいから、これまで当たり前だと思っていたいろいろな価値観について徐々に考え直すようになったんだけど、体毛についても、脇毛を生やしているモデルが出ている海外の広告を見たことがきっかけで、生えていることが絶対だめだと思い込んでいた自分に気づいて。それで、『エビバディBO』という曲をつくるのと同時に、自分の身体を通じたメッセージも発したかったから、脇毛を生やしはじめた。

あっこゴリラ『エビバディBO』

清水文太(以下、文太):僕は5年くらい坊主なんだけど、それは高校生の頃に、本で坊主頭のモデルを見て、楽そうだなと思って真似しはじめた。その前まではツーブロックだったから、2ヶ月間くらいは「何かの罰でも受けたの?」とか言われてたけど、しばらくすると「文ちゃんの坊主、普通だね」って言われるようになって。だから、最初はみんながびっくりするようなことでもやり続けていたら普通になるんだなと思った。細かい話だと、めちゃくちゃ長い福毛が肩に生えていて、それはご利益がありそうだから剃らないようにしてる(笑)。あと、ヒゲはオンとオフの切り替えになってるかも。休みが続くとヒゲを伸ばしていて、仕事のときには「よし頑張るぞ」みたいな感じで剃ってる。

haru.:わかる。毛を剃ると、一皮むけた感じがする。

あっこ:業を落とすみたいな(笑)。嫌なことがあると、髪の毛切りたくなったりするしね。

文太:あと僕は、学生時代に運動部に入っていたり、和太鼓をやっていたりしたんだけど、そうすると見えるからって理由で脚の毛を剃ってる人が多くて。

─普段の生活の中だと、男性は脚の毛を剃っていない人の方が多いように感じますけど、所属しているコミュニティによっても違いがあるんですね。haru.さんはドイツで暮らしていた期間が長かったですが、日本との違いを感じる部分ってありましたか?

haru.:ドイツでも、体毛は処理したほうがいいという感覚はあるんです。特に脚は絶対に剃る。でも、みんな腕の毛は「剃る意味がわからない」って言ってそのまま。親の世代になると、脇毛とかも剃らないままプールの付き添いに来るお母さんもいたけど、誰も気にしていなかった。だから、ムダ毛用のカミソリのCMもないわけじゃないけど、日本ほど「女の子は絶対つるすべ肌じゃなくちゃ」みたいな感じではない。アジア人と比べて毛の色が薄い人が多いこともあると思うけど。私自身は、肌が弱くて剃ると肌荒れするから、今は部位によっては脱毛している状態だけど、日本に帰ってきてから、脱毛の広告が多いことには本当にびっくりした。電車に乗ると「毛を抜け」か「英会話行け」って言われてる感じ。

あっこ:すごいよね、あれ。

あっこゴリラ
ドラマーとしてメジャーデビューを果たし、バンド解散後、ラッパーとしてゼロから下積みを重ねる。2018年に“再”メジャーデビューを飾り、1stフルアルバム『GRRRLISM』をリリース。現在はJ-WAVE「SONAR MUSIC」のメインナビゲーターも務めている。

haru.
東京藝術大学在学中に、インディペンデント雑誌「HIGH(er)magazine」を編集長として創刊。2019年6月、株式会社HUGを設立。取締役としてコンテンツプロデュースとアーティストマネジメントの事業を展開し、新しい価値を届けるというミッションに取り組む。

清水文太
スタイリストとして、水曜日のカンパネラや千葉雄大といった著名人のほか、企業広告やブランドのスタイリング、アートディレクションも手がける。コラムの執筆やDJ/ライブなど音楽活動もスタートさせ、多岐にわたる活躍を見せている。

─そうした広告や、映画やドラマに出てくる女性像の影響って大きいですよね。

haru.:女の子に毛が生えないと思っている男子っているじゃないですか(笑)。中学生の頃、実際同級生にそういう男の子がいて、驚愕しちゃって。生理用品を見たことがない男の子がいたりするのも、テレビドラマとかにあまり出てこないからなんじゃないかと思うし。そういうところで女性が毛を剃るシーンや、脇毛の生えているキャラクターが自然に出てきたりすると変わってくるかもしれない。

あっこ:10年前くらいのドラマとかバラエティって「女のこういうところがだめ」ってあげつらうコンテンツが多かったよね。あの影響はかなり強く残っている気がしている。ああいうコンテンツがあったのと同じくらいの年月、そうじゃない考え方を発信しないとバランスが取れないと思う。今、私たちが話しているようなことに対して「従来の価値観でうまく生きられない、はみ出た人たちの言い訳でしょ?」って思っている人もいるから。自分自身も「こういう女いるよね」って馬鹿にするようなコンテンツに爆笑してたし。自虐が面白いと思って、自分を守っていた。

文太:その価値観が当たり前だった時代は、クリエイターの中でもそういうものをつくらないと仲間はずれにされたり、仕事を干されちゃうかもしれないっていう恐怖心があったと思う。僕自身はそういうものをつくらないようにしたいけど、防衛本能が働いた結果だと思うから、当時そういうコンテンツをつくった人たちのことを否定はせずにいたいな。

あっこ:防衛本能はしょうがないよね。動物だし。

「特別であれ」みたいな圧
人と一緒であることを恐れなくていい

─毛を剃ること/剃らないことも含め、多くの人とは違う選択をして生きようとすると、心が折れてしまうことも多いですよね。

あっこ:みんな根本に、「恥をかきたくない」という感覚があると思う。ただ、その恥の基準をどこに置くか考えたときに、私自身は、世の中や他の人と違う選択をすることは恥じゃなくて、自分の気持ちに嘘をついてしまうことのほうが恥だった。だから私は、常に自分が好きな自分でいたいということを大前提にしているかな。

文太:僕も自分で思っていたのと違う見られ方をしてしまったり、自分に嘘をついてしまったかもしれないと思う瞬間が生きているなかである。そうなったときに、本当の自分でいられるために、どう対応しようか、繰り返し考え続けることが大事なのかなって。そうじゃないと本当の自分がわからなくなってしまう。

あっこ:自分の身の回りでいえば、脇毛とか生理に関しては、発信しているうちにみんなの感覚が変わってきた実感があるんだよね。例えば生理中に「だるい」とか言えるようになったし、いい意味でまわりからも生理の話をすることについて、気を使われなくなった。

haru.:私の親会社は普通に「ビジネス!」って感じのベンチャー企業なのだけど、その会社にいる人たちも、例えば生理や女性の権利に関することが、広告やメディアで話題になっているという認識はみんなどこかにあると思う。でも、実際に私みたいな存在がオフィスにいて、リアルな場で生理やサニタリーショーツについての話を定期的にみんなとしていくことがすごく大事だなと思っていて。半径5メートル以内の人たちに伝えていく作業というか。

あっこ:うん、わかる。言ってしまえばこの対談もそうなんだけど、メディアを通じてこういう話をしていると「そういうカテゴリの人」みたいに扱われてしまうことがあって。「あっこゴリラといえばフェミニズム」みたいに構えられちゃって、息苦しく感じることもある。だけど、私が話しているうちに、半径5メートル以内にいる人たちは脇毛や生理について、フラットになっていっているから、人の考えを変えたりほぐしたりすることは可能なんだなって、自分の身体で実験してみて思った。

文太:大切なのはまわりの人の理解と、自分の思いを伝える力だよね。「これが当たり前だよね」という同調圧力があったときに、それをぶっ壊すのって勇気がいると思うんだけど、「僕はこう思っている」「僕はこうやって生きている」と言い続けていれば、いつかは聞いてもらえるはずだから、継続は大事。僕は最近、スタイリングの仕事以外にも文章を書いたり、音源を作って配信したりしようとしているんだけど、そうやってファッション以外の仕事を発信していくときに、あっこが「フェミニズムの人」と言われてしまうように、スタイリストの僕が音源もつくっている、みたいにラベリングされてしまうことがある。それでも僕は発信したいし、自分はこうやって生きていきたいという思いがあるから続けている。

─先ほど、日本の電車は脱毛の広告が多いという話がありましたけど、それ以外でも「こうあるべき像」みたいなものを求められているように感じてしまうことってありますか?

haru.:最近広告とかを見ていて「特別であれ」みたいな圧を感じるんですよね。「普通じゃダメ」って言われているような感じがして、そういう風潮にちょっとした違和感はある。

あっこ:「多様性」という言葉が一人歩きしている気がするよね。

haru.:そういう広告に出てくる人の髪の毛がわかりやすくカラフルだったりとかね。もちろん髪の毛がカラフルなことを否定するわけじゃないんだけど、そういう形で「多様性」と謳われたときに、結局自分は当てはまっていないなと。私は雑誌が好きだから、昔から女性誌も男性誌も買って読んでいたけど、10年前くらいの女性誌って「モテ特集」みたいなものが多くて。女性誌だから自分が言われているように感じちゃうんだけど、自分にはその雑誌が理想としている女の子像は当てはまらない。かといって最近の「多様性のあるべき姿」みたいに打ち出されているような像とも違うし、結局どこにも居場所がないなと思う。だけど、そうやってどのサンプルにも当てはまらない私が、私のままでいるという状態をいろんなところで見せていくことが大事。日々そういう戦いをしている。

あっこ:今の話、超わかるな。私も住所不明だし。

文太:最初にこの対談の話を聞いたときも、どうして貝印がこのメンバーでこういう企画をやるのかなと思ったの。いまってジェンダーがどうこうとか、多様性がどうこうみたいな広告が流行っているけど、そういう文脈に乗っかるような企画だったら受けなかったと思う。だから体毛についても「こうしなければならない!」というよりはフラットにいられたらいいな。

あっこ:従来のあり方を否定するんじゃなくてね。だから、人と一緒であることも恐れなくていい。全員が脇毛を生やした方がいいって言いたいわけじゃなくて、人はそれぞれ違うよねということが、もっと浸透すればいいな。自分でそう言いつつもそうじゃない方に引っ張られちゃうことがあるからこそ大事だなって日々思う。もっと選択肢を増やしていきたい。

haru.:毛の処理をしていないと、一人の女性として認めないぞっていう風潮はやばいよね。誰かが毛を剃ることを選択しようがしまいが、関係ないはず。その人がその人であるだけで価値があることなのに。剃っていなかったら一人前じゃないと感じさせてしまうような価値観を発信しているメディアはおかしいと思う。

文太:例えば女の人は地図が読めないとか言われるけど、それって小さい頃からそういう風に植え付けられているから、結果的に男の人の方が地図を読む機会が多くなるだけで。体毛もきっと一緒。僕も女の子の脇毛を見るとやっぱりびっくりはするのね。でもそれがなんでかと言うと、今までまわりにいる女の子が「女の子は剃らなきゃいけないよね」って小さな頃から言われて、当たり前に脇毛を剃っていたからだと思う。その割合が変わっていって、脇毛が生えている子も増えていったら、きっとなんとも思わないんだろうな。

あっこ:私の場合も、体毛についての最初の気づきが、笑われたりからかわれたりした経験だったから。小さい頃のそういう経験ってすごく大きいから「毛を剃らないことはすごく恥ずかしいことなんだ!」という認識になっちゃってた。

文太:そういう経験をすると大人になるまで思考が固まっちゃうよね。

あっこ:今はいろいろな価値観が変わる過渡期だよね。でも私たちはそういう呪いを解いていく世代だと思う。

haru.:うん。これから生まれてくる赤ちゃんや下の世代の子たちが、もっと生きやすい世界にしていきたいよね。

INFORMATION

Edges Ahead – 貝印と探る“その先”のカルチャー
#02 Conversation Issue / あっこゴリラ×haru.×清水文太

あっこゴリラ
12月7日(土)大阪、12月20日(金)東京にて、あっこゴリラプレゼンツのスーパーエンパワーメント祭典『GOOD VIBRATIONS』が開催。2020年2月12日には5曲入りE.P.『ミラクルミーE.P.』の発売が決定。

haru.

清水文太
音楽制作をスタートして以降の半年間でつくられた曲をまとめた1stアルバム『僕の半年間』を11月にリリース。各種サブスクリプションで配信中。

貝印
https://www.kai-group.com/
https://www.kai-group.com/store/

Edges Ahead – 貝印と探る“その先”のカルチャー#01 Skate Issue / SOUSHI

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