Edges Ahead – 貝印と探る“その先”のカルチャー
#03 Art Issue / 河村康輔

photography_Shiori Ikeno, videography_Yuichi Masuda, edit_Takuya Nakatani

Edges Ahead – 貝印と探る“その先”のカルチャー
#03 Art Issue / 河村康輔

photography_Shiori Ikeno, videography_Yuichi Masuda, edit_Takuya Nakatani

「Edges Ahead=先端のその先」とは、2019年で111周年を迎えた刃物メーカー貝印の掲げるテーマだ。今という時代の“その先”にある景色こそ見たいし、追いかけたいし、フォーカスしていきたいというのがEYESCREAMの姿勢でもあるから、じゃあもう一緒になって探っていくしかない。今に息づくカルチャーの“先端のその先”にあるのはきっと、もっと自由で、情熱的で、リアルな日常の気がする。
「えっ、そもそも貝印って?」となるかもだけど、君の部屋のどこかにもたぶん貝印のアイテムが転がっているから「KAI」のロゴを探してみるのもおもしろいかも。ツメキリだとか、カミソリだとか、包丁だとか、ほらそこに。
毎回、異なった角度から“その先”へと踏み込んでいくシリーズ、その第3回はコラージュアーティスト/アートディレクターの河村康輔と繰り広げるArt Issueだ。

河村と貝印、その出会いは幼少期にまで遡る。彼の実家が理容室を営んでおり、そこで使われていたカミソリが貝印のものだったと話す。身近な刃物はハサミやカッターよりもカミソリ、という環境で育ったからか、思い返すと「中学の頃、雑誌をスクラップするときもカミソリで切っていた」。彼のアートワークにカミソリの刃が象徴的に使用されることもあるが、そういった経験や愛着が根底にあるのかもしれない。また、女性使い捨てカミソリの定番である「Pretty(プリティー)」シリーズのカミソリは、作品制作において愛用しているというつながりもあったりする(その特殊な使い方は後述)。

今回は、貝印の広告やカタログのアーカイブのみを素材としてコラージュでアートを制作していく、その一部始終を写真と映像で収めた。使用する刃物は貝印製のもの。2020年という新たな年代に入ってちょうど1週間が過ぎた頃、河村のアトリエで撮影を行った。

“切る”ことの愉しさ、気持ちよさ

河村康輔

1979年、広島県生まれ。コラージュアーティスト、グラフィックデザイナー、アートディレクター。アンダーグラウンドな音楽シーンからストリート、ハイファッション、現代アートまで横断的な活動を行う。これまでに「大友克洋GENGA展」のメインビジュアル、「ルミネ×エヴァンゲリオン」の広告ビジュアルなどを手掛ける。2017 年、大友克洋と共作で「INSIDE BABEL」(ブリューゲル「バベルの塔」展)を制作。2019年まで渋谷PARCOアートウォール企画「AD2019」で大友克洋とAKIRAを使用したコラージュ作品を発表。

まずはコラージュのもととなる素材のセレクトから。数十年前の広告やカタログのデータから抜粋し、PC上であらかじめ画像の大きさも調整しながらプリントアウトしていく。現物のまま使えるものも含めて、そこからさらに選び抜きカッターで黙々と切っていく。

今回の企画のために用意されたカッター、カミソリ、ハサミの数々。
L→R
D-001 職専カッターロング ¥800+TAX、S-001 職専カッター小 ¥750+TAX、職専カッター メス刃ホルダー ¥1000+TAX、長柄ゴールドアルファ ¥300+TAX、ビューティーM ¥330+TAX、プリティー 敏感肌用フェイスL ¥300+TAX、SS-110 職専カッター 目透かし ¥500+TAX、DC-050 職専カッター ロング24 セラミックふっ素 ¥700+TAX、L-001 職専カッター大 ¥1800+TAX、7205 ラシャ鋏 205㎜ ¥4500+TAX

「壁紙を切る」ことだけを考え、内装職人のためにつくられた「職専」シリーズから、医療用メスの製造技術を応用したカッター、74年デビューというロングセラーカミソリのビューティーM、自動車メーカーの製造ラインにおいてレザーシートの断裁にも使用されている縫製ハサミなど、ひとくちに「刃物」といってもさまざまだ。「365日中350日くらいはカッターをさわっている」という河村は、刃物について話し出すと止まらない。紙を切るときの音、切った際の紙の断面の違い、カッターの刃先の角度や刃の厚み。自身の思い描く仕上がりに近づけるための、通常の使い方ではないアクロバティックな使用方法などなど。アーティスト同士で集まったときには「作品についてというよりは、道具の話ばかりしている」というのも頷ける。

刃物を手にとり、ひとつひとつ切り心地を試していく河村。「これは切ったときに気持ちいい」「紙への馴染みもよくて切りやすい」「直線もカーブも切りやすいけど細かいところはいけないか……」。なかでも絶賛したのが職専カッター 目透かしだ。普段はプロユースのニッチな製品だが、「刃の厚みが薄くて、直線や曲線はもちろん細かいところまで自由が利く。ぐらつきもないですね。グリップの位置もちょうどよくて、持ったときに鉛筆に近いからか、手に馴染んで切りやすい。『紙を切っている』という感覚もあって、かつ紙に引っ張られていかないのがいい。使いやすいカッターって、(切りやすいように向きを変えたりと)あまり紙を移動させなくてよくて。これがまさにそう。切るときの音もいいですね。(アナログ制作する際の道具として)定番になりそう」。気がつくと後半はこればかり手に取っていたのがなによりの証拠だろう。

職専カッター 目透かしの刃先を注意深く観察する河村。100分の1ミリ単位のわずかな刃の厚みの違いも、切り心地の感触で把握していた。

今回の作品には最終的に使用されなかったが、普段から上の写真のように「プリティー」シリーズのカミソリを使用しているそうだ。「紙を一度しわくちゃにして、そこにできたシワの跡を立たせたいときに愛用しています。“プリティー”という名前なのにまったくかわいくない使い方をしている(笑)。めちゃくちゃ便利ですね。とくにマユ用のもの(プリティー アイブロー)が、(肌への負担を少なくするための)ガードのピッチがちょうどよくて。紙の擦り切れ方が思い通りに出る。ガードの一部だけを切って改造したりもします。ドラッグストアとかで見つけたら箱買いしてますね」。

“切る”の向こう側にあるもの

素材をひと通り切り終えると、コラージュがはじまる。直感的/即興的に。マスキングテープで仮止めしながら、ときに重ね合わせるところに切れ込みを入れたりもしながら、組み立てていく。足りない要素があれば再び探し、切る、貼る。無音のなか、紙の繊維が切られるときに発される音は、カッターの種類によっても違っていて、その音の数々に観ているこちらも引き込まれていく。ずっと観てられるなこれは……という没頭の果てに、気がつくと外はすっかり暗くなっていた。

“切る”という行為自体には、なにか特別な意味合いがある気がする、といったことを河村も話していたが、そこに在るプリミティブな気持ち良さっていったい何だろう。河村の“切る”を観ていて感じたのは、音楽そのものに似ている、ということ。音楽とは言語より古くからあるコミュニケーション手段だ。となると“切る”の向こう側にあるものとはつまり、人と人(や万物)のあいだに宿るもの、そこから生まれる表現/歓び。……というのは、飛躍しすぎだろうか。

今回制作されたアートの原画は、3月7日(土)に原宿THE CORNERにおいて行われる〈Edges Ahead〉POP-UP EVENTにおいて展示される(入場無料)。同ポップアップは、「Edges Ahead」シリーズの#01〜03に登場した面々が出演予定のほか、この日しか手に入らないコラボレートアイテムの数々も鋭意製作中だ。詳しくは近日アナウンスしよう。

INFORMATION

Edges Ahead – 貝印と探る“その先”のカルチャー
#03 Art Issue / 河村康輔

・河村康輔
https://www.instagram.com/kosukekawamura/

貝印
https://www.kai-group.com
https://www.kai-group.com/store/

※本企画において、メーカー推奨ではない方法/用途で刃物を使用している場面があります。ご使用の際は取り扱いに十分ご注意ください。

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Edges Ahead – 貝印と探る“その先”のカルチャー#02 Conversation Issue / あっこゴリラ×haru.×清水文太

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