CULTURE 2020.05.27

橙 [dai-dai]as photographed by TAIGA NAKANO vol.03 折坂悠太

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Styling― RIKU OSHIMA Hair&Make― Minami Tsukayama Edit─Shu Nissen

vol.03 折坂悠太 / シンガーソングライター

平成という時代は、どんな色をしていただろう。
俳優 仲野太賀がカメラを構え、平成に生まれた表現者たちの素顔と向き合う。

橙[dai-dai] vol.00 太賀
橙[dai-dai] vol.01 池松壮亮
橙 [dai-dai] vol.02 菅原小春
橙 [dai-dai] vol.EX KID FRESINO

※このインタビューは、EYESCREAM 2019年6月号掲載の同連載の撮影に際して行われたものです。

“キャンバスに描いた絵より、パレットの方が美しいこともある”

仲野太賀:この企画は、平成生まれ縛りでやっていて、ちょうど折坂さんは平成元年生まれ。そして平成の終わりに「平成」という曲を出しているじゃないですか。この企画にぴったりなうえに、そもそも単純にファンなんですよね(笑)

折坂悠太:本当ですか!?

仲野太賀:折坂さんの楽曲に、いつも勇気付けられています!この連載の初回を撮影したスタジオでは、『あけぼの』をずっと流していました。なかなかライブでは直接拝見できていないんですけどね。実は会場まで行ったのに、本当にうっかりしていて、一日間違えてることに気がついたこともあって(笑)

折坂:え~(笑)嬉しいですね!何で知っていただいたんですか?

仲野太賀:まだ『平成』も出る前に、友達の映画監督が「この曲で俺は新しい脚本をかけそうだ!」って折坂さんを教えてくれたんですよ。彼も折坂さんのファンです!

折坂:よろしくお伝えください。仕事くださいって(笑)やっぱり太賀さんは音楽が好きなんですね。新しい一万円札の人が鈴木慶一に似てるってさっき話していた時も、「はちみつぱいの鈴木慶一ですよね」って言ってたじゃないですか。ムーンライダーズじゃなくて、はちみつぱいを出すあたり、この人相当聴いてるなって思いました(笑)

仲野太賀:それは、たまたまムーンライダーズが出てこなくて、はちみつぱいが先に出てきちゃいました(笑)折坂さんはいつから音楽をはじめたんですか?

折坂:中学生くらいですかね。僕ほとんど学校に行ってなかったんですよ。中学で海外に行って、日本に帰ってきてからも2日か3日くらいで辞めちゃって。地元のフリースクールに通っていました。そこに倉庫を改装した溜まり場みたいな場所があって、みんなで楽器を持ち寄って、遊んでいたのが音楽を始めたきっかけですね。最初はドラマーで、RCサクセションとかやってました。

仲野太賀:なんだか秘密基地みたいで、めちゃくちゃ楽しそうですね!

折坂:楽しかったです。だから、人前でやるライブに出るようになったのはわりと最近ですね。それまではずっと身内だけに見せるライブしかやっていなくて。

仲野太賀:え!そうなんですね!よくぞ世の中に出てきてくれました!(笑)

折坂:見つけてくださって、ありがとうございます(笑)

仲野太賀:いわゆるアーティスト活動はしていなかった中で、外の世界へ出て行こうって思ったきっかけはなんだったんですか?

折坂:一緒にバンドをやっていたボーカルの女の子が外のライブに出るようになって、それがすごく悔しかったんですよ。俺もやってやる!って思って、そこからですね。オープンマイクっていう、3000円払って30分もらうみたいな制度があって、それに出るようになりました。

仲野太賀:じゃあ、そこの秘密基地出身のアーティストが他にもいたりするんですか?

折坂:いや、趣味とか遊びでやっている人がほとんどで、今はもう僕以外音楽をやっている人はいないですね。

仲野太賀:そうなんですね。いろんなアーティストの方がいらっしゃると思うんですけど、聴いたことのないようなルーツで。

折坂:だから、いわゆる界隈みたいなのがないんですよね。大抵の人が、高校生の頃からライブハウスに出ていた繋がりなんかで、仲良い人たちっているじゃないですか。でもあんまり僕はないというか、ただ人と仲良くなれないだけなのか(笑)

仲野太賀:折坂さんの曲を聴いて、何が衝撃だったかって、誰にも似ていないと思ったんですよ。僕は世界各国の音楽を聴いてるわけではないんですけど、邦楽に絞ったとしても個性があるし、それでいて、いろんな音楽的要素が合わさっているように思ったんです。

折坂:多分、普通の人だったらいろんなコミュニティの中で揉まれていくものかもしれないけれど、僕は閉ざされた空間で、音楽をやっていない人たちの中に居たから、音楽について話せないわけじゃないですか。なので、そこでどんどん自分が聴いたものを、自身の中で煮詰めていった時間がルーツになっているんです。だからかもしれません。なんていうか、無人島で育った人みたいな(笑)

仲野太賀:あははははは!そうなんですね!(笑)

折坂:一緒にバンドやろうって声をかけてくれた人もいたけど、ジャンルが違ったりで。そういう環境だったから、自分で掘っていくしかないし、煮詰めるしかなった期間が結構長かったんですよ。今考えると、そういう時間はすごく大事だったと思いますね。だからこそ、初めてやったオープンマイクのお店で、なんだこの人は?って思ってくれたみたい。あと、僕がちょうど高校生くらいの時にYoutubeが発達して、今まで見られなかったライブ映像とか、MVとか自分の好きなものが見られるようになったのも大きいですね。人と合わなくても音楽が作れたので。

仲野太賀:なんだかすごく腑に落ちます。『平成』のリリースインタビューを拝見して、素敵だなと思ったのは、寂しさについての話でした。”私たち”ではくくれない。みんながみんな同じではなくて、バラバラなんだけれども、誰しもが生まれ持った寂しさを抱えているのは一緒。そういう意味では”私たち”としてくくれるだろう、っておっしゃっていましたよね。今日のお話から、無人島にいたようなルーツで、一人で深掘りしていた時期があったという点でも、なるほどな、と思いました。

折坂:みんな繋がっているようで、実は孤独感って今の時代の方が強いと思うんです。それは、あまり時代を共有できないから。もっと前の時代であったら、戦争があったし、そこからどう立ち直ってきたかとか、どう生きてきたかって、共通の体験として、大きいくくりで話せることなんだと思います。でも平成に関しては、震災はあったけれど、当事者だったのか、別の場所にいた人なのか、どこに居たかで、全然認識が違うじゃないですか。現代は、価値観がバラバラだから孤立していくし、それは根深く断絶として残っていく気はしています。

仲野太賀:そうですね。平成が終わって令和になっても、ある種の孤立がより深くなっていくような。

折坂:にもかかわらず、そこから目を逸らして、表層だけ一致団結している感じは、根深い溝を何も解消できないまま進んでいくようにも思います。

仲野太賀:確かに。ただ、そこに真っ向から逆行すべきなのか、時代の流れに沿ってある程度乗った方がいいのか、曲がりなりにも、表現者としては、僕も立ち位置ってものを考えたりするんですけどね。

折坂:やっぱり音楽であろうと、演じることであろうと、スタンスとして考えることはあるだろうし、そういう風におっしゃる太賀さんはやっぱり信頼できるな人だなって思います。

仲野太賀:ちょっとでもいいから介在して欲しいんです、自分たちの作るものが。

折坂:今ニーズってすごく言われるじゃないですか。どこにニーズがあるか、とか。それを使うようになったのって最近のような気がしませんか?誰に向けてやるかみたいなこととか、ターゲットがどこなのか、とか。

仲野太賀:昔はなかったのかもしれませんね。

折坂:あったとは思うんですけど、もうちょっと老若男女分け隔てなかったのかもしれない。例えば紅白歌合戦を見て、歌謡曲に対してみんなが、この人ね、この歌ね、みたいに共有される楽曲が今は少なくなってきていると思います。誰かに向けて音楽をやるのなら、目の前の人たちもそうですが、うちのばあちゃんでも、”良いな”って思える音楽をやりたいという想いが念頭にありました。だから僕は昭和歌謡に憧れがあるのかもしれないですね。

仲野太賀:時代で共有される音楽に。

折坂:そうです。時代で共有できる表現にアクセスできる方法はないかなって。

仲野太賀:自分も俳優をやりながら、そこは悩みどころですね。日本映画だったり、ドラマや舞台もそうで、それこそニーズが偏ってきているような気がします。雑草魂じゃないけど、こういうのも他にあるんだぜ!って伝えたい。インディペンデントとメジャーって形で解離していることがそもそもおかしくて。マイノリティに響くものが、もっとマスに開かれるべきだし、それをするために役者としての自分自身はどっちに行くべきなのか、そういう指針問題は常に考えます。

折坂:僕は、どっちの方向にも極端に突き進んでいくことができないかな?って思っているんです。最近感じるのは、今、メジャーと言われるジャンルって、ものすごく狭くて、実は響くところもすごく狭い。例えば、音楽で言えば、ニルヴァーナってバンドがありますよね。

仲野太賀:はい!カート・コバーン!

折坂:あのバンドって普通にTシャツにもなれば、ロックの殿堂みたいな感じで、めちゃくちゃどメジャーじゃないですか。ちょっとニルヴァーナ好きっていうの恥ずかしいくらい。

仲野太賀:確かに。

折坂:でもその裏にあるのって実はものすごいアンダーグラウンドの文化ですよね。いろんな人のライブを見てきて思うのが、油絵を描いていて、パレットにいろんな絵の具を出していくうちに、実際にキャンバスに描いている絵よりも、パレットの方が美しいってことがあるなって、僕は思っているんです。

仲野太賀:ほーーーー!

折坂:外に見せるキャンバスと、内に秘めたパレットがあって、どちらを突き詰める人もいるんですけど、ニルヴァーナのようにパレットが垣間見えるものが、すごく普遍的なものになるような気はしてるんですよね。だから『Nevermind』で、すごくマスに受け入れられた。最初から綺麗な絵を描こうと思うよりも、パレットの方をしっかりやってこそ、より輝くというか。オセロの角を取ったような、もう動かせない位置にある普遍的な作品って、僕はそういう経緯を経て生まれると思っていますね。

仲野太賀:面白いですね。映画も俳優もそうだと思います。役者でも、マスに人気で、かつパレットから初期衝動のカオスが匂う人って居て、そういう人は圧倒的に信頼できる。だから折坂さんの、どっちにも行くと言い切る感じ、めちゃくちゃかっこいいですね。それって超理想だし、正しいあり方な気がします。

アウター¥70,000、Tシャツ¥14,000/ともにAcne Studios、パンツ¥25,000/Acne Studios Blå Konst(Acne Studios Aoyama tel_03-6418-9923) ローファー¥68,000/ADIEU(EDSTRÖM OFFICE tel_03-6427-5901)

折坂:とはいえ、僕は本当に周りに恵まれていて、ストレスなくできているんですよね。今度はこういうの作ったら?みたいなのも全然ないし、何も言われないんで。もっといろいろ覚悟してたのに、こんなことあるんだって思いました。これからあるのかもしれないですけど。(笑)

仲野太賀:それはきっと、折坂さんがその立ち位置を勝ち取ったんだと思います。マスもアングラも両方を担おうとしている折坂さんが自由を感じられているというのは、自分にとってすごく希望になりますね。僕も頑張って勝ち取りたいです。なんか、息苦しさってあるんだよなぁ。黒い力とか、誰か悪者がいるとかって話じゃないんですけど。

折坂:いや、でも悪者は居ると思いますよ(笑)だからこそ、純粋な表現者は、アンダーグラウンドの方に居場所を見い出すんだと思います。でも僕は、逆にダサいことをどんどんしていこうと思ってるんですよね。そういう部分においてはプライドみたいなものがあんまりないので。もし悪者が本当に居るなら、そういう黒い力も借りて、やっていこうと思ってるし(笑)だって、僕らが使っている音楽の機材だって、元は戦争のために作られていたり、兵器を応用したものもいっぱいあるんですよ。

仲野太賀:あーそうなんですね。

折坂:音楽を作るソフトとかって、結構そうなんです。だから、いくら戦争反対って言っていても、結局自分たちが使っている技術は、そういうものから生まれている。ただ、そこも承知の上で、そんな歴史も超越した、普遍的な表現に昇華したいと考えています。発せられた歌が心に響けば、聞き手には純粋に忘れらない体験になるわけじゃないですか。それはもう、何かの権威とかそういうものを飛び越えて、ずっと残るものだと思うんで。そこは何にも侵せない部分のはず。

仲野太賀:聖域ですね。

折坂:そうそう。それを唯一できるのが、芸術表現だと思います。なんの力を使ってでも、多くの人に届けて、時代の空気を作るというか、結果的にそういうことをやろうとしてるんだろうな、っていうのはありますね。

折坂悠太

平成元年、鳥取生まれのシンガーソングライター。2013年よりギター弾き語りでライヴ活動を開始。第11回CDショップ大賞2019にて『平成』が大賞の“青”を受賞。2020年4月1日に最新シングル「トーチ」が配信リリースされた。


仲野太賀

平成5年生まれ。東京都出身。13歳で俳優デビュー。カメラに魅了されたのは小学生の頃。2020年2月7日に公開された映画「静かな雨」でダブル主演を務めた。「今日から俺は!!劇場版」が7月17日に公開予定。
https://www.stardust.co.jp/section1/profile/nakanotaiga.html

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