VISIONS:芳根京子 INTERVIEW
from EYESCREAM No.178

Photography—Kotori Kawashima Styling—Daisuke Fijimoto (tas) Hair&Make—Izumi Omagari Edit&Text—Shigemitsu Araki

VISIONS:芳根京子 INTERVIEW
from EYESCREAM No.178

Photography—Kotori Kawashima Styling—Daisuke Fijimoto (tas) Hair&Make—Izumi Omagari Edit&Text—Shigemitsu Araki

『愚行録』『蜜蜂と遠雷』の石川慶監督が、SF作家ケン・リュウの短編小説「円弧(アーク)」を映画化。テーマは誰もが一度は夢見て、遠くない未来に実現するかもしれない“不老不死”だ。それは『未来惑星ザルドス』(1974)や『永遠に美しく…』(1992)のようなカルト作でもパンドラの箱として描かれてきた。
石川は、いかにその世界像を現代劇として成立させたのか。共同脚本に『愛がなんだ』の澤井香織、『未来世紀ブラジル』モードの美術は我妻弘之、音楽は世武裕子と、一分の隙もないスタッフが名を連ねる。
EYESCREAM最新号では、石川がここまでこだわった最大の理由─ 芳根京子に話を訊いた。WEBではその一部をお届けする。

きっと私は年齢を重ねるごとにこの作品を観る

―― いやぁ、名作の誕生ですね。不老不死を扱ったSFですが、SFらしくない大胆なアプローチが功を奏しています。芳根さんへの石川監督の絶対的な信頼なしには成り立ちません。最初のオファーに即答されなかったそうですが、その後監督からどう説得されたのですか?

「石川さんはその時の“今”の自分を全部受け止めてくれたんです。オファーをいただいた22歳の自分は自信がなくて、この仕事を辞めるという選択肢も生まれていた時期でした。石川さんとはドラマ『イノセント・デイズ』(18)でご一緒した時の信頼があって、マネージャーさんにも言っていないような話までさせていただきました。石川さんは『今の不安定なままの芳根京子を見たい』から『最高のスタッフを集めました』って言ってくださったんです。全員で支えますって。そこまでしていただけることの幸せ。背中を押された半分、やらざるを得ない半分(笑)。正直なところ、決めた時はそんな感じでした。最初から、わかりました、100%でやります、とは言えなくて。ゼロだった自信がぴょこっと出てきて、このチームで闘いたいって思えました」

―― リナ役にどう取り組まれましたか?

「外見は30歳で中身は89歳という女性をどう表現するのか、石川さんと話し合いました。処置を受けて、声帯も変わらず、筋肉の衰えもない。89年生きればだいたいの経験はしている。でも体は元気。だから何をするにも最短距離を見出せる知恵と技を持っている。そんな心の余裕が見えたらいいんじゃないかという話になりました。主に10代、30代、90代の3ブロックがあるのですが、それぞれ役の作り方を変えました」

―― 具体的にどう変えましたか?

「後半は子どもがいるという設定で救われました。自分にも母性ってあるんだなって思わされました。娘のハルには本当に助けられました。10代、30代が難しかったです。でもやっているうちに『わかった!』って気がする日があって、石川さんに伝えたら『軸が一緒だったら大丈夫』って言われて、そこから思い切って役に入り込みました」

―― ダンスにも挑戦されていますね。三東瑠璃さんの振付も印象に残りました。プラスティネーションの“あやつり装置”は映画史に残るシーンだと思います。

「プラスティネーションは寺島しのぶさんが先に舞われているのを見て、『ここまでカッコよくもっていかないといけない』と沸き立ちました。振付は、動きの角度をご指導いただいて、装置が置いてある近辺で撮影する時は、どうしたら綺麗に見えるかずっと練習していました」

―― 前半のキーパーソンは寺島さん演じるエマです。リナはエマの背中をみて成長しますが、寺島さんの印象は?

「撮影で体力的にも精神的にもしんどい時に、しのぶさんは『明日は私を早い時間にしていいから芳根ちゃんの時間遅らせてあげて』と気遣ってくださいました。撮影期間に私の誕生日があったんですけど、泣いているシーンが多かったので、目元用のマッサージ器をくださったり。前半ブロック、エマがリナの心の支えであったように、しのぶさんは私の心の支えでした」

―― 後半のキーパーソン、利仁役の小林薫さんと、原作にはないキャラクター・芙美役の風吹ジュンさんとの共演はいかがでしたか?

「薫さんと風吹さんが車椅子で外を回るシーンがあって、台本を読んだ時から、あのお二人で想像すると泣けました。後半ブロックは、あのお二人の空気感で包まれていると思います」

―― 後半は撮影スタイルも変わります。

「前半は創り物という感じで、後半はずっと手持ちカメラでドキュメンタリーのようで、1つの物語の中で何作品も観ているような不思議な充実感があります」

―― ポーランド出身の撮影監督であるピオトル・ニエミイスキはどんな撮り方を?

「ピオトルはカメラマンとしての圧がない。カメラはそこにあるけれど、シーンに馴染んでくださるんです。監督との関係性も素晴らしくて、ピオトルは言葉が通じなくても、なぜかいいタイミングで振りを変えられると石川さんは仰っていました」

―― お好きなシーンは?

「薫さんと風吹さんの『生まれ変わっても私を見つけてね』というセリフのシーンです。リナとしても私自身としても胸が締め付けられました」

――最近、未来を描く作品はほぼディストピアなんですが、本作はそうじゃないのも新鮮です。

「観終わって、噛み砕いて、自分の中に落としこんだ時に、ブワッと涙が出てきて不思議な作品だと思いました」

―― 役者、カメラ、美術、脚本のほとんどが完璧なのに、どこか違和感を持たせる映画的な編集で、時間を置いて観返す度に発見がある工夫が施されています。後世に残る作品の中で演じることは、不老不死を体現しているとも言えます。役を生きる、とはどんな感覚ですか?

「きっと私は年齢を重ねるごとにこの作品を観る気がしていて、20代、30代、40代で観え方が違うと思うんです。そう考えると10年後、20年後も観たいと思える作品にしないといけないし、残るということは嬉しい反面怖いこと。主演でやらせてもらうということに、今だけじゃない責任を感じます」

dress ¥55,000, blouse ¥49,500, skirt ¥49,500
SHIROMA(SHIROMA tel _ 03-6411-4779)
ear cuff (left) ¥16,500, ear cuff (right) ¥16,500, shoes ¥17,380
YELLO(YELLO tel _ 03-6804-8415)

INFORMATION

『Arc アーク』
6月25日(金)全国公開
監督・編集:石川慶
出演:芳根京子、寺島しのぶ、岡田将生、
倍賞千恵子、風吹ジュン、小林薫
(2021 /日本)127分・ワーナー・ブラザース映画
©2021映画『Arc』製作委員会

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