FASHION 2019.01.23

Interview: semoh 上山浩征 -ルックと映像で表現するコレクション その発想の源泉を訪ねる-

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph - Haruka Shinzawa, Edit - Ryo Tajima

Semohは2012年の春夏コレクションよりスタートした東京初のコレクションブランドであり、メンズとレディースの双方を展開中。デザイナー、上山浩征氏の哲学が投影されたコレクションは、言葉通りここでしか体験できない”着る”を我々に与えてくれる。そのアイテムは全国のセレクトショップとオンラインで各地にファンを持ち、独特の世界観で進化し続けている。その特徴は何と言っても映像。コレクションの度にルックだけではなくストーリー性を伴った映像で洋服を表現している。ブランドの根底にあるクリエーションについて。映像とルックというビジュアル表現について、デザインするうえでの考え方について。2019SSの最新コレクションを介しながら、上山氏に話してもらった。

新たな表現として自然な曲線が洋服に表れるように

ーsemohについて改めて教えて欲しいのですが、まずは今季、SPRING SUMMER 2019のコレクションについて教えてください。

semohは自宅にいるときの解放感と外出時の緊張感のバランス感に着目していて、その中間地点を探りリラックスできる服作りを目指しているんですが、このコンセプトはシーズン毎に異なるものではなく、常にベースにあるものです。つまりテーマとしては今季も同様です。今までは直線的なシルエットの洋服の方が興味があって作ってきたんですが、今回のコレクションは自然な曲線が服に表れることを意識して作っています。私はそもそもアール・デコが好きなんですが、アール・ヌーヴォーの曲線、自然な曲線はどうなるのか、ということに興味が出てきて。素材選びやアウトラインはそういう考えのもと作っていて、semohの新たな表現を、これまでのものと合わせて、着てくれる人に共有しようと考えています。

ー初めて曲線的な表現を行なったというのはsemohにとって大きな変化だと思うのですが。

そうですね。それは、僕が街に対して大きな変化を感じているからだと思います。結局、その中で自分がどう生きていくのか、ということが根本的な創作活動だと思うんです。大きな変化を時代に感じるし、ちょっとミクスチャーのその先というか。悪い意味ではなくカオスというのを感じるので、それをどう洋服で、しかもリアルクローズでやるのか、というのが僕の中の大きなテーマでやっています。

semoh SPRING SUMMER 2019のルック

ー変化を感じる街というのは東京のことですか?

今まではどこかの街を指していたんですけど、今は街という概念が東京や欧米の主要都市など特定のどこかに限ったものではないと思うんです。日本においても、新しいものが各地で生まれていて、それがSNSを介して、どの街にいるかは関係なく魅力があれば発信して反応がある時代になっていると思うので。だから、それが生まれている場所なんでしょうし、街として機能していなくとも、そういう人がたくさん住んでいる場所であれば、それが街な気もしますね。それでカオスというのを感じるんです。

ー街というかクリエイティブの集合体みたいなことですか?

そう感じますね、つまりコミュニティってことなんだと思うんですけど。それがけっこう完結してきているように感じています。何もなかった時代の村みたいなものなのかな、と思っていて。大きく見ると街なんですけど、その中で色んなルールだとか特色がある。それの現代版。現代は本当に意味のそういう新たなものの始まりの時代だと感じています。コミュニティというものが、単体で活動したり成り立っていると思うときがあります。

自由を表現したSPRING SUMMER 2019の映像

semoh SPRING SUMMER 2019のコレクションムービー

ーそういった上山さんの思いや考えはシーズン毎に制作されているビデオでも伺い知ることができます。今回のビデオにはどのようなテーマがあったんでしょうか?

まずは映像を観て感じてほしいのですが、あえて言うのではあれば”自由とは何なのか”といったことになります。自分を変えたいと思う自分もいれば、肯定したい部分もあるのが1人の個人だと思うんですけど、そういう一瞬の連続の中で誰もが生活していて、タイミングで出会っていく。人間誰しもそうなんだよってことを自分も含め、みんなが認め合えたらすごく楽なのにって思うんです。今日は調子悪いんだね、じゃあまた明日みたいな感じで。それをもっと洋服にも込めて、色んな可能性、バリエーションを想定する。それを自己完結できるのが自由だと思うんですが、それを表現しようとしました。だから明確には捉えがたいビデオを作りたいと香田さん(サウンドを担当した香田悠真さん)とキダさん(撮影を担当したキダ ユウトさん)に話しをしたんです。

ー1人の人間が同じ空間の中でそれぞれ違う洋服、表情で繰り返し登場する内容ですね。

そうですね。具体的に撮影したのは1人の人間のディレイですね。明日の自分と昨日の自分は違う形で同じ場所にいる、と。そのリレーが生活だと思うんですけど、生活を撮ってみようという感じでやったビデオなんです。また、今回は音ありきの映像を作りたいと思っていて、それを念頭に置いたうえで香田さんにお願いしました。サウンドだけで、台詞もなくて音によって感情を持っていけるのかどうか、という実験的な部分。観てくれた人がどう心が動くのかを音楽とビジュアルが平等な立ち位置である、ということでやろうとしてスタートしたのが今作ですね。だから音の面では香田さんが細かい部分を作り込んでくれていると思います。どう観ている人を引っ張っていくのかをいつも以上に緻密に。

ーなるほど。semohはコレクションの度に映像を制作されていますが、その理由は何ですか?

その理由の1番は僕がドラマ、映画が好きだということです。人間の生活をドラマとして描いて、観た人が明日も頑張ろうと思えたり共感したり。または観たことがない世界を観せてくれるものとして実写の映像が僕の中ですごく重要なんです。それが幸運なことに周りの方々のお陰で、実現できているんです。僕はただやりたいことを周囲のクリエイターに話して、予算感を伝えて、この中でできることってあるのかな? と。そのできることを話し合いながら模索して、みんなに作ってもらっている感覚です。もちろんルックビジュアルも撮影してくれる人と価値観をシェアしながらやっているんですが、写真がただバーっとスライドして流れているだけではなく、ちょっと止まって観てもらう。かつ、それが洋服を見せたいという宣伝ではなくて、何を伝えようとしているのか、ということを考えてもらう時間を人に設けて欲しいんです。そうしてもらうことで僕の洋服はわかってもらえる気がしています。

ーわかりました。それでは上山さん自身のことも教えて欲しいんですが、洋服作りにはどのように行き着いたんですか?

最初は洋服と、それを取り巻くカルチャーから入っていきました。10代後半の頃からステンシルをやったりしていたんです。Futura(フューチュラ)が好きで。そういう風に音楽や映画、世間でアートといわれているものが好きで興味を持ち、遊びの一貫としてやっていました。初めて仕事として洋服に触れるのは20歳くらいのときでしたね。セレクトショップのお手伝い的な形で入って。そのときは自然な流れとしてステンシルからシルクスクリーンに手法が変わり、キャンバスに絵を描きながらTシャツもプリントしていました。23歳のときに、そのショップがクローズすることになったんですが、ここで働いていた期間に、改めて自分が洋服が好きだということを認識して、その思いは確信に変わっていました。でも学校に通う時間もお金もなかったので、仕事をしながら、それを身につけていこうと思って日本化学繊維協会っていうところに勤め出したんですよ。

ー日本化学繊維協会、ですか?

いわゆる成分表示だとか、生地の試験を行うようなことをやっている協会です。そこで体験したことは、それまでまったく知らない世界であり、洋服にとってもっとも大切な部分でした。その仕事を続けながらTシャツを作り続けて、知り合いのお店に置いてもらったりしつつ。そうこうしているうちに知り合いに声をかけてもらって、実際に洋服を作る仕事をやることになったのが25歳のときです。音楽やスケートシーンに密接なブランドだったんですが、洋服作りの工程をしっかりと体験することができたのが、そのときです。1年ほど、そのブランドで働いて、今度はヨーロッパもののヴィンテージを扱うリプロダクトのブランドの生産の仕事をやることになったんですが、ここが100年前の洋服を100年前のやり方で作るという手法で洋服を作っていたんです。現代のミシンなどを使わずに作ってどう量産品として生産していくのか、という。自分にとっては、その仕事が修行のようなもので、3年くらいやったんですが、そこが僕の洋服作りの決定的なベースになりました。それまでの色んなことが集合体として、しっかりと洋服作りを身につけることができたかなと感じられる時間だったので。ヨーロッパのヴィンテージとかを扱いながら、そこのカルチャーとか歴史、なぜ、その洋服が在ったのか、ということまで調べて作っていたので、常にすべての歴史を勉強しながらやっていたんです。それを続けるうちに、近代文明を自分なりに遡ったな、と。アートの潮流も好きなものの中から、それを遡ることができました。その時代毎にどんな人物がいたのか、何が時代毎に流行っていたのか、ということを。そこまでいくと、自分の生活の中に、自分の生きている時代の洋服をどう生み出すのか、という風に自然に頭がシフトして、そこから自分でsemohを始めることに繋がっていったんです。古いものが好きで、過去を知り、さて、自分たちの時代はどうなるのか、というクエスチョンを形にしていく、という流れでスタートしたんです。

時代性を取り出しやすいもの=音楽だった

ーsemohは今回のビデオにしてもそうですが、音楽と非常に密接だと感じますが、どんな音楽が好きですか?

自分が17、8歳の頃はアブストラクトというジャンルが出てきていた時代でした。特にUNKLEは良く聴いていましたね。ジャケットをFuturaが描いていということもあって、そこで繋がっていったんです。いわゆるオルタナと呼ばれるジャンルには先駆者がたくさんいると思うんですが、僕がすごく好きだったのはDinosaur Jr.(ダイナソーJr.)のルー・バーロウ(Ba)で。あとはBECK(ベック)の初期作『Mellow Gold』とか。あのローファイ、宅録な感じが好きでした。パッケージとして完成される前のものに惹かれていたと思いますね。完璧ではないけれど、そこにジャズとかブルースとか。それ以外の音楽の魂が感じられるものに。今、考えてもアブストラクトにはかなり傾倒していましたね。言葉では表現できないけど、そこに何かある、というものに惹かれていて、完全に今も影響を引きずっている。自分の表現の根底にあると思います。

ーそういった音楽が身の回りにあったのであれば、ストリートカルチャーにも密接だったのではないですか?

身の回りにありましたね。だからsemohに関しては、そういう匂いを漂わせたくないんです。無味無臭のものへの憧れがあったので。というのも、僕が真逆のすごくマニアックなものが好きだったから、そうじゃない部分に自分が作った服は託したいという気持ちが、きっとあるんです。だからsemohの洋服では分かりやすいパロディ、オマージュは基本的にはやらないようにしています。

ー具体的な服作りはどのように行なっているんですか?

洋服を作る時は何か特定のものを目の前に置かないようにしています。自分が通ってきた道というのはベースにはなってしまうんですが、その中で何となく今、自分が感じている感覚はどこに近いのか、と考えながら、その気分に近しい音楽を選んで聴く。そして、その洋服はどんなものかを考えながら絵を描いていくんです。バーっと描いて、着ることにリアリティがあるものを目指して1回目の編集作業に入っていく、という流れです。1番最初は本当に、なんでもない、ただの疑問です。子供の頃に考えていたようなことですね。手が4本あったらどうしよう、とか。そういうものを描くこともありますけど、結局はそういう服を作っても意味がない。じゃあ、そういう要素を出すために何を残していくか、ということを編集していく感じなんです。だから考えていることに関しては突拍子もないかもしれませんね。ただ音楽だけに関しては、自分の考えに合うものを探している気がします。時代性を取り出しやすいのが自分の中では音楽であることは間違いないですね。

ー音楽がsemohの服になっていくような感覚に近いですか?

そうありたいな、と。今はもうちょっと色んなものを取り込みたいと思っているんですけど、そうやってチャレンジしていた時期も長かったんですよ。今は、昔よりは楽しんで作っているので、挑戦というより共有に変わってきている感覚ですが。こうしてブランドを何年もやっていると、買って着てくださるお客さんもいらっしゃるわけなので、皆さんとどれだけ気持ちをシェアできるのか、という感覚に変わってきたな、という感じがあります。

ー着てくれる人と同じ文化を楽しむことに喜びがある?

そうですね。僕が知らない人が着てくれたときにどうなるのか? という楽しみがありますし。僕が分かりにくい提示の仕方をしていることは自覚しているんですが、それまで興味を持っていなかった人に知ってもらえて、それを感じてもらえたら面白いと思うんです。

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