Interview:にしな「スローモーション」
天性の歌声が紡ぐ狂気とポップの狭間

photography_Domu、Styling_Lee Yasuka、Hair&Make_Chika Ueno、Text&Edit_Mizuki Kanno

Interview:にしな「スローモーション」
天性の歌声が紡ぐ狂気とポップの狭間

photography_Domu、Styling_Lee Yasuka、Hair&Make_Chika Ueno、Text&Edit_Mizuki Kanno

1月26日にニューシングル「スローモーション」をリリースしたにしな。静けさの中で躍動する、ある種、狂気のような感情を、彼女の代名詞である心地の良い歌声と鮮やかなサウンドで、ノリの良いポップチューンへと昇華した楽曲だ。にしなにとって飛躍の一年となった昨年、ふと、彼女に宿る不思議な魅力について話を聞いたことがあった。真っ直ぐに相手を見つめる眼差しや、ひとつひとつの言葉のチョイス。柔らかい雰囲気の中に垣間見える芯の強さ。彼女自身の人を惹きつける力が、多くの人の心を掴む音楽を生み出す所以なのだろう。2022年はにしなのさらなる躍進の年になる。それを確信した取材となった。

「激情的で早いんだけど、ゆっくりにも見える。そんな感情の動きをイメージした」

ーにしなさんにとって2021年はどんな一年でしたか?

「初めてアルバム『odds and ends』を出して、初めてワンマンライブを開催して、初めてフェスにも参加できて。“初めて”ばかりの一年で、その分、悩んだり苦労することも多かったけれど、次へと繋がっていく、大切な一年だったなって思います。やっぱりZepp Tokyoでのワンマンが一番印象的だったかな」

ー私も「hatsu」で初めて生のにしなさんの歌声を聴いて、心が震えました。EYESCREAMにも昨年、初めてご出演していただきましたよね。そわんわんさんには会えました?

EYES LIKE YOU #06 にしなに、恋する。

「まだなんです。今年こそは(笑)」

ー2022年一発目のシングル「スローモーション」がリリースされましたね。

「この曲は、“心”が先というよりも、“こういう曲が作りたい”っていう大枠となる作品があって、まずはその曲の分析から始まり、自分の感覚に落とし込んで作った楽曲なんです。そういった経緯の中で、この曲の内容を簡潔にまとめると『浮気されたら、浮気したい』みたいなことがテーマ。私がもし、恋人に裏切られて傷つけられたと感じたら、好きだからこそ、彼にその気持ちをわかってほしい。でも言葉にして伝えたところで、それは表面上での理解であって、ほんとの意味で、同じ気持ちにはなれないんじゃないかなって思うんです。それだったら、私を傷つけてくれた順番通りの手順で、同じことをして伝えたい」

ー愛してるが故の狂気ですよね。実際に口には出さなくても、多くの人が心の中で、一度は思ったことのある感情だと思います。ちなみに、“どういう曲を作ってみたい”と思っていたんですか?

「“少女性”を持った曲を作りたいと思っていました。椎名林檎さんの『ギブス』がすごく好きな曲で。あんなに色気があってかっこいい女性だけど、その中に垣間見える“少女性”みたいなのが素敵だなって。まずは『ギブス』を自分なりに分析して、そこに自分の中にずっとあった感情を混ぜてばん!と作りました。弾き語りの原曲自体は結構勢いで作りましたが、アレンジに時間がかかったので、全体で見ると制作期間は長かったのかな」

ーアレンジャーの方とは、どんなやりとりがあったんですか?

「椎名さんの楽曲が持つ、ギターの音が際立った生の雰囲気もありつつ、宇多田ヒカルさんのような打ち込み感もある感じ。その中間に落とせたら、この曲はいいんじゃないかなっていうイメージは最初から私の中にあって、それをはじめにアレンジャーさんにも伝えた記憶があります。原曲自体も、打ち込みのトラックに歌詞をはめながら書いたりしていたので、完成した楽曲もイメージのままではあるんですが、自分の感覚的な部分をうまく言語化して伝えるのが難しくて。どうしても、私から出てくる言葉は抽象的になりがちで、そこをアレンジャーさんと一致させていく作業に、時間がかかってしまいました」

ー歌詞をよく見ると、先程の話にもあったような狂気を感じますが、サウンドの印象は打ち込みのリズム感も相まって、ポップで耳馴染みの良い楽曲ですよね。今回、新しくチャレンジしてみたことなどはありますか?

「中国語を入れてみたことですね。歌詞は狂気をはらんでいるかもしれないけど、みんなが一緒に歌いやすいポップな曲にしたくて、サビ頭で英語、中国語、日本語みたいな。口ずさみやすさを意識しました」

ー本楽曲のリリースと同時に解禁になったミュージックビデオも、独特な世界観の素敵な作品ですよね。今回、映像作家のUMMMI.さんに監督を依頼した経緯を教えてください。

「ミュージックビデオの監督は毎回、自分でも探しつつ、周りの方々に提案していただくことも多くて。その中で、UMMMI.さんが撮る映像の色味と質感が、なんとなく『スローモーション』のイメージと一致するなと思ったのがきっかけだったところから、この曲が持つ“狂気感のバランス”をうまく表現していただけるんじゃないかなと思って、ご一緒させていただきました。ポップと狂気の間みたいな。そこが大きかったですね。UMMMI.さんとの打ち合わせのときに、なんとなく、『スローモーション』っていうタイトルの通り、早くなったり、遅くなったりのスピード感を操れたら面白い映像になるんじゃないかっていうアイディアはお伝えして、あとはUMMMI.さんの中にあるストーリーを広げてくださいました」

ー話は少し戻ってしまうのですが、タイトルを「スローモーション」にしたのは何故だったんですか?

「これも私の抽象的な表現になっちゃうんですけど、部屋に飾ってある花瓶が、喧嘩している最中に落ちちゃったとして、床でパンって割れた瞬間、水がワーって流れるのってすごく一瞬の出来事だけど、スローモーションに見えるっていうか。この曲の中での感情の動きには、そんなイメージがあって。激情的で早いんだけど、ゆっくりにも見える。そこからつけました」

ーなるほど!ここに出てくる男性が浮気した人ってことですよね?

「この曲は、私の中で実は1番と2番で一緒にいる男性が変わっているんです。1番で一緒にいた人が元々付き合っていた人、2番は1番の男性を経て浮気をした人。2人の男性が最初は私を埋めようとして連れ去るんですけど、気付いたときには立場が逆転しちゃっている話です」

ーだから2人の男性が出てくるんですね。撮影自体はどうでしたか?

「とにかく寒かった(笑)。風力発電の場所で撮影をしたので風は強いし、気温も低いなか、ほぼ布一枚まとうみたいな格好だったので、『死ぬのかな〜』って思いながら撮影していました(笑)。でも、ミュージックビデオを作ることで、毎回、自分だけでは描けなかった奥行きが楽曲に生まれるので、すごく楽しい作業だなと思います。自分自身の楽曲への理解も深まる。今回もいい作品を作ってもらいました」

ー4月にはワンマンの開催も決まっていて、2022年もすでに忙しそうなにしなさんですが、今年新しくチャレンジしたいことや抱負などあれば教えてください。

「今年はいろんな帽子を集めて被りたい! あとは料理がうまくなりたい! 香りものが好きだけど、これだって思うものに未だ出会えていないので、ユニセックス感のある好きな香りを見つけたい!…..とか、しょうもないのだったら、いっぱいあります(笑)。音楽の話では、自分が歌わない前提で曲を作ってみたい。男性に歌ってもらう想定で、作るのもいいかもしれません。あとは、今はギターで曲を作っているので、キーボードでも挑戦してみたいなとか。音楽ではやってみたいことがちらほらあるので、ひとつずつチャレンジしていきたいです。今年、私は年女なんです。寅年の獅子座なんで、実はめちゃめちゃ野獣なんです(笑)。でも普段は猫被りな人間なので、『能ある鷹は爪を隠す』って言うけれど、今年はちゃんと牙を剝いて、見せつけていきたいなって思う。ライブは特に。もちろん着飾らずに、ありのままで楽しむっていう意味でも、生えている牙はちゃんと見せていきたいです」

ニットドレス¥110,000、Tシャツ¥29,700、スカート¥55,000、スニーカー¥62,700、リング¥20,900、ブレスレット¥37,400(全てエムエム6 メゾン マルジェラ / マルジェラ ジャパン クライアントサービス tel_0800-000-0261、url_maisonmargiela.com)

INFORMATION

にしな
「スローモーション」

2022.01.26 Release
https://nishina.lnk.to/slowmotion

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