Interview:ニューリー 『NEUE』
ステージを見据えた音の作り込みと狙う偶然性

Photography_Yuki Aizawa Text&Edit_Maho Takahashi

Interview:ニューリー 『NEUE』
ステージを見据えた音の作り込みと狙う偶然性

Photography_Yuki Aizawa Text&Edit_Maho Takahashi

ジャジーなビートメイクで魅せるニューリー。トラック提供をはじめ、プレイヤーとして楽曲への参加やライブサポートをこなす中、最新EP『NEUE』を本日2月23日(水)にドロップした。ドイツ語で“新しい”を意味するタイトルを冠した本作だが、これまで培ってきたスキルを新たな解釈で落とし込みながら、ニューリー“らしさ”が研ぎ澄まされている。
演奏者の側面を活かしたオリジナリティ。客演に迎えた鎮座DOPENESS、チプルソ、NF Zessho、JIVA Nel MONDOと互いのグルーヴを昇華させ、今作唯一となる自身のインストトラックではそれに劣らぬストイックなビートを示した。プロデュースやライブを経て、新たに見えてきた考え方とは。今後さらなる成長を遂げるであろう彼の今を訊く。

「プレイヤーごとの動きをイメージした
音の抜き差し」

ーまずは、音楽活動をはじめたきっかけから伺っていきたいと思います。小学5年生からギターを始めたそうですが、元々音楽への興味はありましたか。

「小学生の頃は、剣道や書道など色々な習い事をさせてもらっていて、ギターはその中のひとつでした。ギター教室の広告を見てやってみたいと思って。先生がプロのジャズギタリストだったので、そこではじめてジャズの魅力にも触れ、オリジナリティのある音の出し方などを学びました。音楽的なことはもちろん、今の自分の価値観は先生からの影響が大きいかもしれません」

ー高校ではバンドも組まれていたそうですね。

「中学校に入るタイミングでギター教室は辞めましたが、この頃から音楽をちゃんと好きになって。高校で再会した小学校の友達と音楽の好みが似ていたので、軽音楽部で一緒にバンドを組みました。オリジナル曲をやっていたので、作曲やアレンジを担当するうちに、ギター以外の楽器のことを考えたり、音楽理論やアンサンブルを感覚的に捉えるようになったのだと思います」

ープレイヤーからコンポーザーを目指すきっかけは?

「ジャズに触れている中で、インストバンドとかのビート感をミックスしたら面白そうと考えていたら、ヒップホップとジャズを織り交ぜたジャンルがあることを知って。生楽器の音に機材で打ったビートを合わせた質感が、自分の中でフィットしたのだと思います。そこからビートメイクの機材だけで曲を作ったり、楽器を弾かないライブのスタイルにも惹き込まれていきました」

ービートメイカーであり、楽器も弾けることの強みはなんだと思いますか?

「自分で弾けると、頭の中でこの人ならこうやって弾くだろうとか限りなく自由な形で引用できるし、オリジナルの音やメロディで持っていけるのが強みだと思います。もちろんサンプリングの文化や質感は好きですが、曲のキーやメロディにハマるものに限界はあると思うので。機材や理論に縛られず、オリジナリティのある音を作りたいですね」

ーでは、今回のEP『NEUE』について。5曲中4曲に客演を迎えていますが、どのように制作を進めましたか。

「基本的にはデモを送って、それに乗せてもらう感じでした。そこから完全にビートを作り直したものもあるし、デモ通りに進んだ曲はほとんどありません。制作自体は2年前から始まって、客演の皆さんとはその間に現場などで出会っていって。純粋にファンでもあるし、最初はこの人と作ってみたいという気持ちでオファーしたけど、制作していく上でお互いのスタイルを合わせるなら、普段その人が出している音楽とは違うグルーヴを表現したいと思って作りました。リリースの時期を設定してからは、まずチプさん(チプルソ)との「Cunning Paper feat. チプルソ」から取り掛かりました。デモ段階から自分の中で納得のいかない状態で、ずっと奥底にしまっていて」

ーそこからどのように仕上げて行ったのでしょう。

「再び引っ張り出してからは、試行錯誤を重ねて。最初のデモはシンプルなドラムを乗せた曲でしたが、途中でドラムなしの状態のデモを聞いたら、ない方がカッコよかったので後半にかけてドラムや全体の音を増やしていく構成に変えました。最終的に残ったのはアウトロのメロディだけで、あとは全く別ものになっていますね」

ーそれぞれ客演の方とテーマの共有などはしましたか。

「送ってもらったラップに対してどうグルーヴするかという感じだったので、自由に作ってもらいました。強いて言えば、コロナ渦などを経て、今の皆さんを知りたいと伝えて。JIVAさん(JIVA Nel MONDO)からは、サビは歌とラップのどちらがいいかを聞かれたので、ラップをお願いしました」

ー「Movement feat. JIVA Nel MONDO」はビートとフロウが心地良いです。

「元々はライブで自分の好きな曲のリミックスをやりたくて作ったビートでしたが、ライブの演奏中にJIVAさんの声がめっちゃ合いそうだと直感的に思って、オファーの際にビートを送りました。最初はローズ・ピアノにエフェクトをかけた浮遊感のまま進むトラックでしたが、もう少しポップさというか、自分の普段聞かないスタイルを折り混ぜたいと思って。友達に借りたクラシックギターで跳ねた感じの音を録って落とし込みました」

ー「Pocket Talk feat. NF Zessho」はピアノのループが印象的でした。

「先にピアノのフレーズがあったので、自分で弾いた音色に質感を出すために一度サンプラーに落とし込んで。SP-404内のエフェクターを使って、刺のある冷たい音に仕上げました。今作はあえてノイズを残すことが多かったです。偶然性にヒップホップの面白さがあると思うし、それが聴き馴染みのない音としてアクセントになるので。リズムの部分で言えば、ピアノのループ上に力強いドラムを乗せていましたが、最終的に疾走感のあるドラムがマッチしました」

ーなるほど。鎮座DOPENESさんとはBASIさんのアルバム『切愛』(2019)の収録曲「普通」以来、何度か制作していますね。

「鎮さんとの「リズムとフロウ feat. 鎮座DOPENESS」は、客演4曲の中では最後に作りました。ピアノのメロウさとサンプリングっぽさを出しつつ、ピアノループの上にボトム感あるドラムとベースを乗せて、流れるようだけどどっしりしたサウンド感を意識しました。イントロ部分は違う曲でも使っていたものを持ってきて繋げています」

ー「Cogara」は今作唯一のインスト・トラックですが、どういう意図で作られましたか。

「客演の4曲が揃ったタイミングで、この完成度の中に自分だけの曲もちゃんと入れたいと思い、スキットのような聞き流せる曲でなく、ニューリーらしい聞き応えのあえる音源を目指して。ライブでの演奏も意識しつつ、何度も一から作り直して、最終的にライブで巡っていた石垣島と福岡のホテルでメロディが生まれました。ちなみに曲名は、大阪でよく行くお店“こがらや”から取っていて、制作に追い詰められているときにみんなで行ったのが印象に残っていて付けました(笑)」

ーそうだったんですね(笑)。アイデアは遠征中に浮かぶことが多いですか?

「今までは家でギターやピアノを弾きながら、コードの雰囲気から自然と浮かんだメロディを乗せていましたが、ライブで各地を巡るようになって、その土地で出会った人や景色に感化されたり。家の中では気づけない発見がありました」

ーそんな発見もあった中で、今回新たな試みなどはありましたか。

「大きく何かを変えたというよりは、曲を作る上で意識するポイントが変わりました。デスクトップでトラックを作っていると全体像を見失いがちになるので、パート毎にステージを想像するようにして。バンドっぽい考え方というか、プレイヤーごとの動きをイメージしながら音の抜き差しをしました。ビートの中でアンサンブルを考えた上で、ヒップホップらしく聞かせるために、細かくグリットも調整したり。ライブで楽器を持つようになって、より具体的に構想できるようになったと思います」

ーライブでの経験を昇華していますね。楽器の練習などもされていますか。

「あまりしていなかったけど、最近はリズム感を鍛える基礎練をしています。今まではドラムでグルーヴを作ることが多かったですが、今回はベースで全体のグルーヴやメロディラインを作ったので、めちゃくちゃ弾きました。ドラムは差し替えもあったけど、ベースは最初から決め打ちで音を作りましたね」

ーその中でもニューリーさんらしさはどのように出しましたか。

今までニューリーのサウンドだねと言われても、自然にやっていたことだから正直“らしさ”がわかっていなくて。最近はアーティストのプロデュースやサポートなど、少しずつスキルを磨いてきたし、弾ける音のボキャブラリーも増えてきたので、それをちゃんと落とし込むために、改めて自分の音と向き合いました。さっき話した全体を考える意識だったり、最終作業で曲を作り上げていく過程で、自分らしさを探究できたと思います。

ー逆にプロデュースのときに心がけていることは何でしょう。

「我を出さないようにしています。アーティストに寄り添って、どういう音にしたいのかを自分なりに解釈して作ることが好きなんです。ボキャブラリーが増えてスキルも上がるし、アーティストごとに言葉のニュアンスや音に対する感覚が違うので、対話するのが楽しい。逆に、そこで生まれたイメージを自分の作品で表現してみたり。どちらの制作も好きですね」

ー素敵ですね。最後に今後の目標を教えてください。

「ライブではベースやギター、ピアノを演奏して音源とは異なるスタイルにアレンジして演奏しているので、もっとみんなに観たり聞いてもらいたい。あとは、ビートテープって短い曲を多く収録しているイメージがあるけど、もっと一曲が長くてもいいと思うんです。最近はいろんなジャンルを聞くようになったので、それを落とし込みつつ表現できたらいいですね。ひとまず、4月に開催するワンマンライブを楽しみにしていてほしいです」

INFORMATION

ニューリー 『NEUE』

発売:2022年02月23日(水)
Label:Broth Works
Format:CD/Digital(DL/ST)
https://ultravybe.lnk.to/neue

収録曲
01. Movement feat. JIVA Nel MONDO
02. Pocket Talk feat. NF Zessho
03. Cogara
04. リズムとフロウ feat. 鎮座DOPENESS
05. Cunning Paper feat. チプルソ
Produced by ニューリー

ニューリー “NEUE” Release LIVE

開催:2022年4月3日(日)
会場:表参道WALL&WALL

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