Interview:空音 New Single「B RAGE」
対峙して辿り着いた“認めさせる”ヒップホップ

Photography_Ryusei Sabi
Text&Edit_Maho Takahashi

Interview:空音 New Single「B RAGE」
対峙して辿り着いた“認めさせる”ヒップホップ

Photography_Ryusei Sabi
Text&Edit_Maho Takahashi

自他共に、着実な成長を認める空音が新たに放つシングル「B RAGE」は、ラップと真摯に向き合ったスキルフルな一曲だ。彼のアイデンティティでもある空想的な詩は、現実に寄り添った描写へ。リリシストの才は鋭く研ぎ澄まされ、リアルな心情をメロディアスかつ、情緒的なフロウで綴っている。加えて、ヒップホップ全開なサウンドで作用する、憎いほどユニークな言葉選び。これまでも“怒り(RAGE)”を題材にしてきた空音だが、向けられたヘイトを昇華する表現力には、やはり脱帽してしまう。作詞に対するアティチュードと、クラブツアーを経て見えてきたアーティスト像について。そして、原点となる環境へ戻ったマインドの変化とは。本作をリード曲に掲げる、現在制作中のアルバムの構想を探りつつ、空音の目指す先を語ってもらった。


「ヒップホップの中でも
クラシックな位置づけになる作品」

ー前回の取材(3rd EP『Alcoholic club』(2021年))から約一年ぶりですね。今年3月から現在の事務所〈Broth Works〉へ移りましたが、心境の変化などはありますか。

Interview:空音 3rd EP『Alcoholic club』で示す怒りを凌ぐ新たなスタンスと選択肢

より一層制作意欲が湧いています。今のチームは、以前から共作しているニューリーやこっちゃん(kojikoji)も一緒だし、みんなで過ごせる時間を社長が作ってくれるので、いろんな面で制作しやすい環境です。楽曲に対する根幹の感覚は変わっていませんが、今の方が自由度が高くなったというか、スムーズに作れていて。まさに今回の「B RAGE」もそうですね。

ーこれまでアルバムやEPの冒頭には、ヒップホップマインドの強い曲がきていますが、「B RAGE」はまさにそれを感じさせる力強さと怒りが伝わります。

これまでも“怒り”をテーマにした楽曲は多かったのですが、ヒップホップの中でもクラシックな位置づけになる作品を意識して。今まで以上にやりたいスタイルを表現しました。オールドスクール的なスクラッチに、近年のヒップヒップの要素を足したサウンドにしています。

ー今回もトラックはRhymeTubeさんですが、どのようなやりとりをしましたか。

最初はType Beatでデモを作っていて、それをRhymeTubeくんに渡して。元々のトラックが力強く、すでにかっこよかったので、それに負けないサウンドにしてほしいと伝えました。冒頭でも“this is king sound〜”と入れていますが、ボクシング王者の入場曲のような圧倒的なイメージで。単に怒りをぶつけるのではなく、ちゃんとスキルで魅せたいという意識もあったので、その辺りはリリックにも落とし込みました。

ー以前はもっとSFっぽい表現が多く見られましたが、今作も含めて最近は空音さんの心情が素直に綴られています。

そうですね、現実的なことを具体的に描くようになりました。SF要素をなくすというよりは、空想と現実の差が縮まった感覚というか。その方が伝わりやすいし、今の自分に合っているのか描くスピードも早いんです。矛盾するようですが、一聞して理解できる内容というよりは、文字で見たときに改めて面白いと思える工夫もしていて。単語から連想したり、トラックに合う言い回しを考えたり、最近は好き嫌いなく作詞しています。

ーなるほど。スキルフルなラップの中でも、“B RAGE”と繰り返すフックが印象的でした。

フックの4小節は一番言いたいことを書きました。強調する意味でも“B RAGE”を繰り返していますが、前後のヴァースをスキルフルに詰め込んだので、キャッチーさを残すためにもリピートしていて。空音を聞いてくれる人の中には、元々ヒップホップが好きな層と、「Hug feat. kojikoji」(2019年)で知ってくれたような、普段ラップをコアに聞かない人もいるので、どちらも納得させられるリリックを意識しました。

ー2ヴァース目では、地元・尼崎のことも綴っていますね。

この曲を書くきっかけが、尼崎で同級生と飲んでいるときの会話でした。有り難いことに地元のクルーは認めてくれていて、それが活力になっているけど、その反面もっと頑張らなあかんと思って。尼崎のラッパーと言ったら、一番に思い浮かぶ存在になりたいという想いを込めました。すでにクラブツアーでは披露していますが、2ヴァース目の冒頭の早口パートは毎回盛り上がるんですよ。リリックが聞き取れなくても、スキルに湧いてくれるというか。カッコよければ、ちゃんと認めてもらえると実感したので、僕のライブを初めて見る人も一発で釘付けにできるように、もっとラップをしようと思いました。

「10年、20年後も色褪せない曲を作りたい」

ーライブのパフォーマンスも格段に上がっていますよね。

周りからもそう言ってもらえますね、何より自分が一番それを感じています。制作過程から計算しているわけではないけど、自分が楽しいと思えることをやれば、ライブでも盛り上がってくれるので、ライブ経験を積んだことで無意識にステージを意識できるようになったのかもしれないです。直近のワンマン「ONE Works」(6/19@梅田CLUB QUATTRO)でも、現時点の方がカッコよくなったことを示すパフォーマンスをしたいですね。

ーパフォーマンスやリリック表現もそうですが、フロウも空音さんの魅力だと思います。

聞いていて飽きないように、何種類もフロウを入れています。リリックはナルシシズムでセンスだと思っているので、これまで培ってきたリズム感や他の人にはないグルーヴ感を意識しています。例えば、早口なラップは一見スキルがあるように見えるけど、リリックの中身が伴わないとカッコよくないですし。メロディアスであり、文字に起こしても面白い作品にしたいので。ワードを詰め込むときも言い回しを考えたり、細かいところでライムしています。

ー楽曲のジャンルも、前作のEP『maison skeleto』(2021)から一層に広がった気がします。

前作くらいから、音楽をディグる作業が以前よりも増えて。自分の中で新鮮なサウンドや、音楽の知識がついてきたので、“チルい・エモい”だけでない制作をするようになりました。なので、次のアルバムにもそこは反映されると思いますし、全体的にクールなサウンドにしようと考えています。

ーすでにアルバムの構想もありますか。

リード曲となる「B RAGE」は、ラップに対してストイックに向き合った一方で、リリシストとしても対峙した楽曲なので、次のアルバムではラッパー/リリシストとしての確立したスタイルを示したいです。昔から、リスナーと一緒に年齢を重ねたいと思っているし、最近は10年、20年後も色褪せない曲を作りたいと考えていて。1stアルバム『Fantasy club』(2019)は今聞いても、すごく良い作品だと思うんです。

あれは半分以上がインディーズ時代に完成させた曲を収録しているんですけど、このタイミングで原点に近い環境へ戻ったことで、これまでの作品を超える一枚ができると確信していて。それは前の環境がマイナスだったわけではなく、曲に対する自信を持てるようになったのが大きいと思います。すでに録っている分だけでも手応えがあるので、聞いた人にも伝わると嬉しいです。今秋のリリースに向けて、短い期間ですが濃縮したものを作っていきます。

ー楽しみにしています!最後に、今後のビジョンを教えてください。

ライブ出演の幅を広げたいです。先日、茨城のフェス「結いのおと」に出たときも、ライブハウスとは違った客層でめちゃくちゃ楽しくて。もっとフェスに呼ばれたいと思いました。どんなステージでも負けないプレイができると思うので、ヒップホップのアーティストとの横並びや、異色の人とのツーマンもやってみたいです。

INFORMATION

空音 「B RAGE」

発売:2022年5月31日(水)
販売先:Broth Works LLC.
品番:BROTH – 002
収録曲:全1曲
形態:デジタル
Lyrics by 空音 / Track by Rhyme Tube

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