HIPHOPとひと言で括ってしまうのはちょっと解釈違いなのかもしれない。と思うほど多角的なクリエイションを発揮している気鋭のラッパーがいる。覆面ラッパー、TEMBA(テンバ)。8月17日にはOzworldを客演に迎えたコラボシングル「Dip feat. OZworld」を配信リリースしたが、本楽曲がiTunesヒップホップ/ラップチャートで4位を獲得したということもあって、いよいよ音楽シーンの注目度が高まってきたようだ。同時にアート制作活動も精力的に行なっている。TEMBAとは、どんな存在なのかについて。まずは、「Dip feat. OZworld」からチェックしてみたい。
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まず、エキゾチックな雰囲気を醸すイントロのメロディで一気に引き込まれてしまうのだが、そこからTEMBAのラップがリズミカルかつメロウに流れ、ワンダーランドへ誘うようかのごとくOZworldがメロディを投げかける。非常に表情豊かな曲調はHIPHOPミュージックにおける、どのジャンルとも異なっていて、エレクトロな要素もチラリと垣間見られる。角度を変えれば、ものの見え方が変化するのと同様に「Dip feat. OZworld」は多面性を持った楽曲だと考えられる。この制作背景からTEMBAという謎のアーティスト像が持つ個性について、プロデューサーであり、TEMBAが所属するレーベルMNNF(モノノフ)主宰のRyosuke “Dr.R” Sakaiに話を聞いた。
Ryosuke “Dr.R” Sakai
「まず、フィーチャリングで楽曲を作ろうという話をTEMBAとしていく中で、OZworldの名前が挙がってきました。TEMBAにはHIPHOPという側面だけではなく、アート表現といった活動の幅もあり、そういった意味合いでもOZworldと親和性があると感じられて、コンタクトを取ったんです」(Ryosuke “Dr.R” Sakai)
実際の制作風景というのがちょっと変わっていてトラックをRyosuke “Dr.R” Sakaiが作り、TEMBAが楽曲コンセプトを設けたうえで、OZworldへパスするという流れを踏まなかったのだそう。
「セッションのようなやり方で作りたくて、TEMBAとOZworldにスタジオへ来てもらい、ビートやシンセを鳴らして、彼らの反応を見ながら制作を進めるスタイルで作っていきました。私の場合、海外でも制作をするのですが、そういうセッション形式の制作が多いです」(Ryosuke “Dr.R” Sakai)
あのインパクトあるイントロは、パッと聴いて「あの曲だ!」とすぐにわかるような特徴的な楽曲にしたかったというRyosuke “Dr.R” Sakaiの考えもあって作られたシンセリフ。その音色に対して、TEMBAとOZworldが「ヤバい」と反応したことで、「Dip feat. OZworld」の楽曲作りがスタートした。そんなトラックの細部を作り込んでいく作業を行なっている間、後ろのソファではTEMBAとOZworldが同時進行でリリックの世界観をどう構築していくかについて話し合う。
「私がTEMBAと話したときに彼が言っていたのが、こうやってスタジオの中で何をどう作って表現していこうかと(OZworldとも)話し合っていること自体が良いことなんじゃないか、ということでした。作り上げる過程を共有しながら楽曲を構築していくことに、価値を感じたと話していたので、そう思ったのであれば、その気持ちをリリックに落とし込んでいけばいいのではないか、といった話し合いがあったんです」(Ryosuke “Dr.R” Sakai)
そのようにして、完成された楽曲に対してコンセプトを乗せるのではなく、制作過程というプロセスそのものに標準を合わせた楽曲を作りたいという気持ちがリリックを生み出していくことになった。ゆえに、「Dip feat. OZworld」で歌われている歌詞は、このスタジオ内で起こったことに対する感情表現のインプロなのかもしれない。同時に、制作しているときが1番楽しい。それをずっと続けていくといった思いも込められているのだろう。<Dip in the Pain>のリリックからは、制作過程に伴う産みの苦しみ、創作家として生きていく痛みなども含めて、すべてを飲み込んで表現をしていくという決意表明めいた面持ちが見える。
TEMBAが歌うリリックで特に印象的なのが<100% 濃厚にえぐる本質 選べ Diamond, Gold chainより 価値ある独自のTaste>という一節だ。ここには、かねてよりTEMBAが追求している「物事の本質とは何か?」という考えが表れている。見た目だけで表現を判断するのではなく、その奥にある本当の価値は何か? を歌う姿勢は2021年にMNNF移籍第1弾楽曲として発表された「HOW MUCH?」からも感じ取れる。
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本質追求というTEMBAが打ち出すアティチュードは、そもそも覆面をした彼の姿を見れば一目瞭然だ。
「昔から自分が表現したいものにルックスが関与してくるということが、TEMBA自身、窮屈に感じていたんです。だから顔を隠して音楽やアートを表現し、固定概念ない状態で本質に目を向けてほしいと考えて、外見という情報をシャットアウトさせているんです」(Ryosuke “Dr.R” Sakai)
この考え方はTEMBAが表現するアートにも徹底されている。例えば、“世の中の「正解」を疑い、「タブー」に挑戦するポップアップ・アートフェア”として、2021年1月に日本橋で開催されたグループ展『Gallery of Taboo』に初出展した際は、「CONDENSE presents “HOW MUCH?” ー天⾺的破壊ー」を掲げ、訪れた人が壁を壊すことで成立していくという作品を展示した。ちなみに「Dip feat. OZworld」のジャケットアートワークもTEMBA本人が手がけている。その他にもMNNFグッズのデザインなども担当。
NFTもトレンドを通り越え、当たり前のアートピースとして存在する現代。表現における本物は何か、その本質はどこにあるのかを自ら見極めろと表現を展開するTEMBA。実際に、「Dip feat. OZworld」の世界観を現実に投影させるオリジナルARコンテンツ を制作しており、ここではVR/AR/MRクリエイティブプラットフォームSTYLYと共に独自のデジタルアート施策を展開している。
また、Manhattan Recordにてアートインスタレーションを実施。このデジタルアート施策でも使用した、QR付きのカセットテープ型ステッカーを使用して「本質はそこにない」というメッセージを織り交ぜながらリアル×デジタルがクロスオーバーするようなアート展示を展開。
今後、もしかしたら真新しい形でライブを行ったり、驚くような展開をしていくのかもしれない。その覆面の下は誰なのかなんていう憶測をするのではなく、TEMBAの音楽とアートを正面から受け止め、自分の感性がどう反応するのかを探っていただきたい。