MUSIC 2024.08.14

Interview:汐れいら
豊かな想像力が創る誰のことでもない自由な音楽
1st EP『No one』Release

Photography_Cho Ongo、Text&Edit_Mizuki Kanno
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

“この世界のどこかにいるかもしれない誰か”のことを曲にするシンガーソングライター、汐れいら。本日8月14日にリリースした彼女の1st EP『No one』は、鮮やかなメロディを纏った8つの物語が、聴いた人自身の世界をも彩る短編小説集のような作品だ。耳馴じみの良い澄んだ歌声とキャッチーなメロディ、そして類まれなライティングセンスで、若い世代を中心に確かな支持を得る汐れいらに、今作について、彼女自身について話を聞いた。澄んだ瞳でまっすぐ前を見つめる彼女の、不思議な魅力の虜になった。

「自分の思考よりも先に、曲の主人公が世界をどんどん広げていってくれるんです」

ーまずは、汐さんの音楽的バックグラウンドから教えてください。

「家族の影響で、常に音楽が身近にある環境で育ちました。親がよく幼い私を連れて、音楽Barに通っていたんです。そこで流れていた1970年代の洋楽は、いま聴いても懐かしさを覚えますし、好きな楽曲が多いです。歌が好きな母の影響で、私も小学生の頃から、PRINCESS PRINCESSや広瀬香美さんの曲をよく披露していて。周りの大人が褒めてくれるのが嬉しくて、私自身も歌うことが大好きになりました」

「ギターをはじめたのは、高校生からです。あがり症を克服するために軽音楽部に入部したら、途中でギター担当が辞めてしまったので、自然の流れで(笑)。高校卒業後もバンド活動を続けていましたが、趣味の範囲だったので、みんなが同じ熱量を持って取り組むことが難しかったんですよね。そんな時に、新しいバンドに声をかけてもらって、もっと本格的に音楽と向き合っていこうと思っていた矢先、いまの事務所の方にも声をかけていただき…といった感じです」

ーとても素敵な巡り合わせが続いたんですね。いつも曲はどのように制作されているんですか?

「メロディーから作ることが多いです。歌詞はキーとなるワードを決めて、そこから連想させていくような感じなのですが、いつも自分の思考よりも先に、曲の主人公が世界をどんどん広げていってくれて、曲の完成が近づくに連れ、主人公の人間像もどんどん出来上がっていくんです」

ー主人公は架空の人物ということですか?

「はい、曲の主人公は私ではないし、誰でもない。だからこそみんなが自由に主人公になるといいなと思っていて。誰かのことを書くわけじゃないから、言葉を選ばずに言うと、私も無責任に作れるし、みんなも無責任に聞ける。そんな曲を作りたいです。昔から本を読む習慣があって、紙の質感とか、めくる感触とか、本の全部が好きで、本屋さんや図書館に行くとデトックスされるんです。心が疲れたときこそ本に触れて、さらに文章を書くことで、老廃物が出ていくような感覚になるんです」

「また聴きたいと思ってもらえるような、何度味わっても楽しめるようなEPを作りました」

ー1st EP『No one』がリリースされますね。タイトルは、先ほどおっしゃっていた、歌詞の世界観と通じる部分があるのでしょうか?

「はい、誰かのことを歌っているわけではなないので『No one』、その他にも、1st EPなので『ナンバーワン』と読ませたくて『No one』、自分にとって1番の曲を書いていきたいし、誰にも決められたくないという意味での『No one』など。いろんな意味を込めました」

ー新録から過去のシングル作品まで幅広く収録されていますよね。制作中のエピソードなどあれば教えてください。

「ちょっと種類の違うエピソードかもしれませんが、『踊り場のサーカスナイト』は体調を崩したときに書いた曲なのですが、その体調を崩した理由が、ドーナツを12個も食べちゃったからなんです。食べ過ぎました。なので、その日の夜にランニングをしたら、高熱が出て。その具合の悪さからできた曲です。心が悲しい時や体調が悪い時のほうが、曲が思い浮かぶんです。自分のご機嫌を取るために書く、みたいな感覚かな。いい曲ができるとテンションが上がって、元気になれるので。あとは、忘れたくない出来事があった時にも曲を作っています。でも、その内容が歌詞に反映されるわけではなないので、自分だけがわかる記録のような感じです。他の曲は…『備忘ロック』は、両親や周囲の人々から愛してもらった方法で、自分自身も誰かを愛していくなぁと思ったので、それを表現しました」

ー今回、汐さん書き下ろしの小説が掲載されたブックレットも素敵で、個性豊かなクリエイター陣とのイメージビジュアルが、楽曲の世界観に花を添えてくれていますよね。

「どの楽曲も素敵なデザインに仕上げていただきました。1曲目の『糸しいひと』をお願いした写真家の北岡稔章さんには、私の初めてのアー写も撮影していただいていて、1st EPでもこうしてまたご一緒できて嬉しいです」

ー「糸しいひと」の楽曲の世界観と北岡さんの優しいお写真がとてもマッチしていますよね。

「この曲では、愛情の編み方は人それぞれだけど、一人ひとりほどいてみたり、誰かと一緒に編んでみたりする様子を表現しています。昔、音読みと訓読みを調べてみたことがあって、音読みは『それだけでは意味のわからない読み方』、訓読みは『それだけでも意味が成立する読み方』というような違いがあるんです。それって愛情も一緒だなと思って。わかりやすい愛情表現をする人がいれば、わかりにくい人もいる。この曲中に出てくる男の子の愛情は音読みのようにわかりにくくて、女の子は訓読みのように直球。なので、2人のその愛情表現の違いを、音読みと訓読みを使った歌詞で表現しています」

「愛は、音読みは“あい”だけど、訓読みでは“いとしい”なので、それは女の子には伝わらない愛だな〜とか、こたつに入りながら考えて書きました。この曲は去年の年始に作っていて、その年を良い一年にするためには、良い曲をどかっと作ることが一番だなと思って、『糸しいひと』と『うぶ』を作ったんです」

ー男女の複雑な心情を表現する言葉のギミックが素晴らしいですね…!

「飽き性がゆえに、一発で理解できてしまう歌詞だと、自分自身の満足度を上げられないので、曲が一生完成しないんです(笑)。リスナーにも、何回か聴いてもらって、ブックレットも読んでもらった上で、また聴きたいと思ってもらえるような、何度味わっても楽しめるようなEPを作りました。これも、自分の飽き性の部分に繋がってくるんですけど、他者からも自分自身からも、イメージを固定されたくないと思っていて。楽曲の雰囲気をバラバラにしているし、歌い方も変えているんです」

ー今作を聴いたリスナーはきっと何回も味わって、自分なりの物語に辿り着くと思います。

「他者の意見に触れることで、共感したり否定したり、“自分”が作られていくと思うんです。私はそこに携わりたくて、皆さんが“自分”を確立するための道具として、私の曲を使ってくれたら嬉しいなと思います。私の音楽は、日常に寄り添うというより、たまに思い出してもらう存在でありたくて、アクセサリーのような感覚で聴いて欲しい。無くても生きていけるけど、たまに付けると気分が上がるような、そういう音楽がちょうどいいんです」

ーアーティスト活動を続けていく上で、この先も大切にしたいことを教えてください。

「楽しさを忘れない。あと夢を持たない。夢があると通過したら終わっちゃうので、ずっと99%の気持ちで追い続けていきたいです」

INFORMATION

1st EP『No one』

2024.08.14 Release
https://erj.lnk.to/7wE6v6

M1 糸しいひと
M2 味噌汁とバター
M3 うぶ
M4 踊り場のサーカスナイト
M5 グレーハートハッカー
M6 Darling you
M7 備忘ロック
M8 笑ってベイビー
– Bonus Track CD only –
M9 Darling you (弾き語り)
M10 味噌汁とバター(弾き語り)

HP_https://ushioreira.com/
Instagram_@ushio_reira

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