Interview:上野大樹
日々を紡ぐ-人の心を揺らす音-
EP『光り』Release

Photography_Hiroki Asano、Text_Chie Kobayashi

Interview:上野大樹
日々を紡ぐ-人の心を揺らす音-
EP『光り』Release

Photography_Hiroki Asano、Text_Chie Kobayashi

“みんなの日々が、僕のうた”を掲げ、自分らしくいられる音楽を描くシンガーソングライター、上野大樹。エモーショナルな声と“共感を集める歌詞”で音楽ストリーミング、TikTokなどを中心にZ世代から支持されている彼が10月9日にリリースしたNew EP『光り』は、誰もが知っている景色、感情、葛藤、希望、そこから生まれる「思い出を照らす」という願いを込めて作られた。そんな彼の楽曲に対する思いを中心に彼自身について聞いた。

「長い音楽人生を楽しむためには、同士を増やしていきたい」

──7月、8月に初の主催2マンライブ「招宴」を開催されました。対バン相手は“憧れの人”がテーマで、映秀。さんと関取花さん。初のツーマンライブはいかがでしたか?

自分は、ライブをやるようになったのがコロナ禍だったので、これまでワンマンライブしかしてこなかったんです。去年も20公演を超えるワンマンライブをやりましたが、ワンマンライブは一人で作り上げるものなので、単純に誰かと1日を作るということがすごく楽しかった。“音楽で繋がる”ということを初めて感じました。

──裏側も含めて、じっくり他のアーティストのライブを見ることも初めてだったと思うのですが、何か気づきや学びはありましたか?

単純に自分も楽しんでいて、そういうことをあまり考えていなかったというのが正直なところなんですが……(笑)。でもMCが面白いなと思いました。歌が上手なのはみんな当たり前。それだけじゃなくて、その場の空気感を捉えるということを考えたときに、こういう見せ方もあるんだというのは勉強になりました。

──なるほど。でも何よりも上野さんにとって大事だったのは、好きな人とライブをやるということだったんですね。

はい。単純に友達を増やしたくて。一緒にライブをしたり、ふらっと飲みに行って意見交換したりできる友達が欲しかった(笑)。長い音楽人生を楽しむためには、同士を増やしていきたいなと思って。

──実際、今回共演したお二人とは仲良くなれましたか?

なりました! 急に深夜に電話が来たり、飲みに行ったり。関取さんには「アンメット ―ある脳外科医の日記―」の原作マンガを貸しています(笑)。

──ではドラマ「アンメット ―ある脳外科医の日記―」オープニング曲「縫い目」のお話を聞かせてください。上野さんにとって、ゴールデンタイムのドラマタイアップは初めてでしたが、最初にこの話を聞いたときはどう思いましたか?

すごくうれしかったです。とはいえ、どの時間帯か、どんな作品かということに関わらずいいものを作りたいと思っているので、「ゴールデンタイムだから」という特別な気持ちはなかったです。毎回タイアップのお話をいただいたときに感じる「さぁ、できるかな」という、いつも通りの不安を感じました。

──タイアップはよく手がけられていると思うのですが、それでも不安に?

はい。もちろん楽しみはありますけど、「しっかりとしたものができるかな」という不安は毎回あります。それも込みで楽しみですが。

──そんな「縫い目」はどうやって作り始めたのでしょうか?

最初にドラマのスタッフさんと打ち合わせさせていただきました。その上で、原作を自分の中に落とし込んでいく形で作りました。ただ難しかったのはドラマの監督やプロデューサーさんから「上野さんの新境地を」と言われたこと。だから全部で5曲くらい作ったんです。最初に3曲くらい作って、「まだいける!」と言われてあと2曲作った。そうやっていろいろ寄り道をしたぶん、本当に新境地に辿り着けたなと思っています。

──実際「縫い目」は、それまでのオーガニックで優しい印象の上野さんの楽曲とはまた違う、シリアスでミステリアスな1曲ですよね。新境地ということで、どういったことを意識して楽曲を作っていったのでしょうか?

今までは、トラック数を増やさず、「隙間を作って言葉や歌に対して楽器がアプローチをしている」曲が多かったんですが、今回はしっかりトラックを作りこんで、いろいろな音が聞こえるようにしました。そこがドラマのミステリアス要素ともリンクするかなと思ったので。実はさっき言った「もっといけます」と言われた打ち合わせの日、家に帰った瞬間に「縫い目」がパッとできたんです。何かゾーンに入っていたような感じだったのかなと思います。

──では「縫い目」がドラマで実際に流れているところをご覧になっていかがでしたか?

本当にいいところで使っていただいて。オープニングだけじゃなくてドラマ中の挿入歌としても使っていただいたり、インストバージョンを使っていただいたり。これまでもいろいろタイアップ曲を作らせていただきましたけど、ここまで作品と一体になっている感じは初めてでした。出演者の皆さんもラジオでレコメンドしてくれたり、SNSなどで歌ってくれたりしたそうで、ドラマの制作チームに入れてもらった感じがあって、すごくうれしかったです。

──劇中で「縫い目」のインストバージョンが流れたところ、すごく良かったですよね。

はい。そういう意味では、自分の中での音楽の可能性みたいなものも広がりました。

──いろいろなものに引き出されるようにして「縫い目」が完成しましたが、ご自身ではどのような手応えがありましたか?

自分らしさみたいなものを、自分で勝手に決めつけていたなと思いました。新しいことをやっても、ちゃんと自分らしさは担保されるんだなとわかったので、自分の音楽にもっと可能性を見出していいのかなと。ワクワクしましたし、これからはいろいろ試してみようと思いました。

「音楽家として変わった自信がある」

──そして「縫い目」も収録された新作EP『光り』が完成しました。EPを作るうえで構想などはあったのでしょうか?

僕は普段からライフワークとして曲を書いていて。その中から、コンセプトに合うような曲を選んでいきました。

──そのコンセプトというのは?

「縫い目」で新境地に挑戦したことは、改めて自分らしさを見つめ直すきっかけにもなりました。だからこそ、昔歌っていたような大きな家族愛といった温かいものをテーマにした作品にしようと思いました。というのも、今まで歌ってきたものをパッケージすることで、「縫い目」で僕のことを知ってくれた人に対して「上野大樹とはこういうアーティストです」って提示できるんじゃないかと思ったから。視点や歌詞の内容はこれまでと地続きなんですけど、「縫い目」を含めてタイアップをいろいろ重ねたことで、特にサウンド面やアレンジ面でレベルアップを実感していて。だから音楽性としては昔と比べてかなり良いものになっているんじゃないかなと感じています。

──ご自身でレベルアップを感じているというのはすごく良いですね。

はい。去年メジャーデビューして1年間でワンマンライブを20本くらいやったのですが、自分の中では音楽をしているという感じがあまりなかったんです。僕は音楽をやるまでずっとサッカーをしていて、音楽を聴いてこなかったから、「ルーツがない」ということがずっとコンプレックスで。ギターも弾けるし、歌も歌えるし、曲も作れるけど、音楽家という自称がないという気持ちがずっとあった。だからちゃんと音楽家になろうと思って、この1年、音楽の勉強をして、音楽を突き詰めてきたんです。人間としては変わっていないけど、音楽家としては変わった自信がある。そういう意味でも、このEPは自信作です。

──いろいろな音楽を聴いたり、突き詰めたりするなかでも自分らしさを失わないでいられた、ブレないでいられたということだと思うのですが、ご自身では自分らしさというものはどういうものだと捉えていらっしゃいますか?

僕はみんなが歌にするほどでもないような小さな感情を歌いたいんです。思い出したときに「うっ」となる感じのことを書きたい。もちろん大きな感情を歌ったら共感性はついてくると思うし、それが“バズ”と呼ばれるものなのかもしれないけど、それよりも僕は誰かに言うほどでもないような感情、見過ごしてしまうような感情を歌いたい。小さい感情だからって共感性がないわけじゃないし、そういう小さい感情を歌にして、みんなを肯定していきたいと思っています。

──思い出して「うっ」となることを曲にすること、歌にすることは、上野さんにも何かをもたらしますか?

そうですね。僕は本当に社会性がなくて。ポストを開けられないし、毎日同じ電車に乗るとか無理だし。でもそんな僕でも、音楽があれば、いろんな人と関わることができて、自分の居場所があると感じられる。単純に、音楽が楽しくてやっていますけど、そのために意地でしがみついている部分もあるし、音楽を続けていくためにもっと売れたいという気持ちもある。だから音楽とずっと向き合っているのかなと思います。

──話をEP『光り』に戻します。1曲目で表題曲でもある「光り」は、おばあさまが亡くなった際に書いた曲だそうですね。

はい、家族というテーマは、昔書いていたのですが、最近は書いていなくて。もう一度、書いてみたいなと思っていた。別に、これを歌にしたからといって、自分が救われるわけでも、救われないわけでもないんですが、いつかは絶対に巡り来ることではあって。自分は歌を書いているので、こういう機会をもらえてよかったなと思います。

──亡くなってしまったおばあさまのことを歌っていますが、悲しみや寂しさを歌うのではなくて、温かい気持ちが綴られている印象です。

はい。祖母が亡くなって思ったのは、亡くなったからといって会えなくなるわけじゃないということ。物理的には会えなくなりますけど、想えば会える存在になった。僕は兄弟とも両親ともすごく歳が離れているので、祖母とも、例えばおばあちゃん子だったとか、そういう距離感ではない。だけどやっぱりそれでもいなくなると寂しくて。ただ……この曲は母親目線で書いたような気がします。

──先ほど、家族の曲を改めて作ってみたいと思ったとお話しされていましたが、実際にすごく近い方について曲を書いてみて、他の曲とは何か違いは感じましたか?

いや、特に変わらないです。完成したら、あとは他と同じようにこれからも歌い続けていくだけなので。曲によって何か思い入れが変わったりすることはほとんどないですね。

──曲を作るのはライフワークだとおっしゃっていましたが、まさにその通りというか。日常に起こったことを、曲にしていくことは上野さんにとってはすごく自然なことなんですね。

そうですね。ちょっと芸人さんに似ているのかなと思います。「何かにぶち当たったら曲にすればいいや」っていう考え方で。

──エピソードトークみたいな。

そうそう。自分がそれを歌うことで、失敗してしまった人や躓いてしまった人を、肯定して、少しでも背中を押せる。そう思うと、失敗することも自分の務めだし、それをしっかり曲にすることも自分の務め。みんなと同じように生きている中で、自分は歌にするという役目をもらっているような感覚です。

──5曲目「ベティ」の「流れに身を任せるうちに 心が削れてしまう」という歌い出しは、まさに共感して救われる人も多いんじゃないかなと思いました。この曲は上京したお友達に向けて書いた曲ということですが、どのような気持ちを歌にしたのでしょうか?

友達の実家で飼っていたワンちゃんが亡くなってしまいそうで。友達は東京に住んでいたんですけど、ワンちゃんの様子を見に、1ヶ月に一回くらい実家に帰っていたんです。その姿を見ていろいろ考えてしまって。死というものを目の当たりにして会う機会が増えるとか、忙しい生活があるから忙しくない朝が幸せに思えるとか。そのギャップを歌にしたいなと思いました。

──歌詞は、他の曲に比べて距離の近い言葉遣いです。そこは意図的ですか?

はい。意図的です。というのも、この曲はレコーディングして、その友達だけに送ったんです。

──実際にお友達に送ったんですね。

はい。家でピアノを弾いて、ギターを弾いて、自分でミックスもして、歌詞もちゃんとPDFにして(笑)。その友達だけに響けばいいと思っていたので、楽な気持ちで書きました。そういうこと、よくやるんですよ。会ったことない人のことももちろんだけど、そうやって身近な人を曲で幸せにできるのは自分の特権だなと思うので、これからもそういう曲作りは続けていきたいです。

──よくお友達に曲を送るとのことですが、それはいつ頃からやっていることなんですか?

コロナ禍くらいからですね。コロナ禍で人に会えなくて暇だったときに始めて。タイアップとはまた違う書き下ろしのような感覚で。その人の近況を調べるためにインスタを見たりしながら、手紙をしたためる感覚で曲を作っています。

──しっかり調べて。まさに書き下ろしですね。

はい。でも“その人みたいな人”は、実際にたくさんいると思うんです。だからそれを世に出すことで、また別の誰かの共感を生むかもしれない。そう思っています。最近タイアップも多かったし、メジャーデビューのタイミングでもいつも以上に気合いを入れて作っていた部分があったのですが、この曲にはラフさというか、肩の力が抜けた良さがあるなと思って。音楽ってもっと幅広いものでいいんだなって再確認するきっかけにもなりました。

──EP『光り』は改めてどのような1作になったと思いますか?

今までの自分の積み重ねてきたことをしっかり出せたし、だけどそれをいやらしく全部詰め込むんじゃなくて、必要ないものは削ぎ落として、いいものができたなと思います。それに、自分には優しさだけじゃなくて、怒りやいろいろなことに対するフラストレーションもある。そういうこともわかってもらえる1作になったかなと思います。「縫い目」でたくさんの人が自分のことを知ってくれましたけど、「もっと知ってもらいたい」とか「もっといろんなライブをやりたい」という願望もあるので、そういう理想に1歩でも近づけたんじゃないかな。

──本作を作る際に、自分の成長も感じているからこそ昔と同じテーマで歌ってみたいと思ったとおっしゃっていましたが、今作の中で、今の自分だからこそできたこと、以前の自分じゃできなかったなと思うことは何かありますか?

余裕ができたかも。今までは曲を作っている段階で何かしら答えやたどり着いた感じが欲しかったんですけど、ライブを重ねていくと、ライブで曲の解釈が広がっていくんだなということに気づいて。「これから長い時間をかけてもっと曲を完成させていこう」と思うようになった。だから今の28歳のタイミングで持っているものを出しつつ、その先どう変化していくかということも楽しめるような曲作りができるようになったかなと思います。

──では最後に、上野さんのパーソナルについても聞かせてください。プロフィールによると、深夜ラジオがお好きだそうですね。

芸人さんが好きなんです。僕らミュージシャンと同じで、答えがないものを目指して走っている感じ、そのドキュメンタリー感が好きで。見ていてヒリヒリするし、励みにもなります。

──お笑いやネタが好きというよりも、お笑い芸人さんの姿勢や生き方がお好きなんですね。

そうです。そもそも人のエピソードとかを聞くのが好きで。芸人さんのラジオだと、毎週それを聞かせてくれるじゃないですか。些細なことや失敗話でもそれを笑いに変えてくれる。自分もそういう人でいたいんですよね。人間らしいところもあって、でもプロフェッショナルな部分はものすごくカッコ良いというところで、芸人さんをすごく尊敬しています。あと写真を撮るのも好きなんですけど、それもそこに至る過程が好きで。最近はハートマークを集めているんですが、そのハートマークを探すことが楽しくて。例えば木と木の間の光が指しているところがハートマークだったり、水たまりがハートマークだったり。“隠れミッキー”的な感じで、自然発生的な隠れハートマークを探すんです。さらに、それを人に話すまでがセット。結局は人と話すことが好きなんですよね。

INFORMATION

上野大樹 EP『光り』

発売日:2024年10月9日(水)
配信リンク:https://uenodaiki.lnk.to/hikari

収録曲
M1. 光り
M2. さよならバイバイブラックバード
M3. 縫い目
M4. 景色
M5. ベティ

LIVE info
光り -hikari- tour

10/19(土) 宮城・誰も知らない劇場
17:30開場/18:00開演

11/02(土) 愛知・新栄シャングリラ
17:30開場/18:00開演 

11/08(金) 福岡・福岡 ROOMS
18:30開場/19:00開演

11/23(土) 大阪・梅田シャングリラ
17:30開場/18:00開演

12/13(金) 東京・下北沢シャングリラ
18:30開場/19:00開演

チケット:https://uenodaiki.lnk.to/hikari_tour

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