物語を軸にしたNEWLYのフルアルバム『Not About All』は、前作のビートメイカーとしての顔から一転、コンポーザーとしての一面を浮き彫りにする。内なる不安や感情を独自の解釈で音に昇華した本作は、聴き手の心に寄り添うように静かに語りかけてくる。制作を通して見えてきた自身の変化とは。音と向き合う中で見えてきたNEWLYの心象を探る。
物語を通して、心の声の主を探しにいく
ー『Not About All』の制作はいつ頃から取り組んでいましたか?
前作のEP『NEUE』(2022年2月)の制作と並行して作っている曲もあったけど、元々アルバムの構成があったわけではなかったです。とりあえずインストの曲を書こうと思って作っていました。
ー前作のEPは客演も多く、ビートメーカーとしての力が発揮された一枚という印象でしたが、今作ではコンポーザーとしての魅力が溢れていますね。具体的にどのように制作していきましたか。
まず、アルバムの全体像を30分くらいの尺にしたいと考えていました。1曲目「Poppy Field」が最初にできた曲なんですけど、思ったよりもメランコリックな内容に仕上がって。友達に聞いてもらった時に、『すごい良い』って言ってもらえたし、自分的にも良いとは思っていたけど、アルバムを通してずっとこのテンションで作り続けるのは精神的にしんどいと思って。そこで、構成がある音楽を作りたかったこともあって、アルバム全体の物語を書いたんです。登場人物や出てくる場所、時間なども含めて、ストーリーを決めていきました。
ーそうなんですね。物語はどのように曲へ落とし込みましたか。
物語の展開にそれぞれ曲を当てはめています。2,3曲目では、水平線の先に黒い塔が見えて、それを目指して泳いでいるんです。この黒い塔は、自分の中にある不安感や強迫観念的な感情みたいなもので、僕が人工海洋物恐怖症なのでその感覚と重ねていて。海に浮かぶ人工物を見るとゾワッとするんですけど、それが日常で抱く不安に近いんです。そうした心象を表現したくて、「黒い塔」の描写から物語をつなげていきました。匂いによって内側に閉じ込めた記憶や感情が蘇ることを表現してみました。
ーなるほど。なぜそういった心象風景や物語を起点に制作しようと思ったんですか。
不意に、自分の心の中の声ってどんな声色だろうと思うときがあって。だから、その心の声の主に会うのをテーマにしているんです。1曲目からメランコリックな始まり方をするが故に、色々な物語が展開されていって、最終的に自分の中でちゃんと釈然とした終わり方になってしまって。別にこれを正解として提示したいわけじゃないので、アルバムの名前を『Not About All』(=全てではない)にしました。
ーでは、制作過程で意識したことを教えてください。
今回はほとんど家で録音しました。スタジオでのミックスには全て立ち会って、エンジニアのYoheyさん(Yohey Tsukasaki)と一緒にデモ音源を聞いたり、『この曲のここが良いよね』って話しながら客観的に聞けたから、音の差し引きがしやすかったです。楽器で言うと、今回は自分の中で楽器ごとのキャラクターを決めて作ったんです。例えば、ギターは70年代のミュージシャンで、めちゃくちゃ下手な設定とか、アニメのキャラクターのようなドラマーにしよう、とか各曲ごとにキャラ設定を変えていました。想像するのが好きなだけなので、参加してくれる人には特に伝えたりはしないです(笑)。
ー今回は参加ミュージシャンの方も多かったですよね。皆さんとの制作はどんな感じでしたか?
レコーディングのときには、参加いただく方の楽器パート以外は出来上がっている状態にしていたので、入れてほしい箇所を決めてお願いして。ある程度メロディーラインもできていたので、その中で皆さんそれぞれのオリジナリティを出していただきました。普段からセッションに慣れている方々だったので、スキルや即興性も素晴らしくて、イメージ通りスムーズにいきました。ピアノをお願いしたTENDREさんは、かねてより一緒にやろうと話をしていたこともあり、彼が骨折中に片手でピアノを弾いているストーリーズを見て、それがすごく良かったので(笑)、改めてお願いしました。
ーそれぞれの楽器も素敵でしたが、ボーカルも溶け込んでいて心地よかったです。
ボーカルをお願いしたLil SummerやMadness Pin Dropsも、イメージをすぐ汲み取ってくれて。楽器的にボーカルを入れたかったので、「Waterscape」で言うと歌詞は半分くらい日本語が入ってるんですけど、言い回しの気持ち良さを探りました。
ー今回はNEWLYさんのボーカルも入っていますよね。
はい。少し抵抗感はありましたけど、「Poppy Field」で初めて自分のボーカルを入れてみました。あと、この曲のイントロには沖縄でフィールドレコーディングした音も使っていて。ある程度の機材を持って欲しい音を録りに行く時もあれば、iPhoneで日常音や会話を録ったりもしていたりして。それらを使ったりしています。 実は「Proust」には母の声が入っていて。この曲のメロディーは生まれたばかりの姪っ子に聞かせようと実家でギターを弾いたときのものなんです。
ーそうだったんですね。ちなみに、6曲目『Until Healed Pt.1』と7曲目『Until Healed Pt.2』はパートで分かれていますが、意図を教えてください。
長い1曲にしようと思っていたけど、物語の場面が変わるから、違うアプローチをしたかったんです。何より、ここまで聞いた人を置き去りにしたくなかったので、だんだん上がっていく様子を誘導したかったというか。パートで分けても、流れで聞くと1曲に感じられるようにしたかったです。
普段の自分とのギャップを図れる
指標になるように
ーアルバムのラストを飾る「Moda」はどのように作られたんですか。
オチのイメージはできていたけど、納品ギリギリの状態だったんです(笑)。なのでレコーディング当日にyuyaくん(yuya saito)を呼んで、こういう曲を書きたいって伝えて、2人でスタジオに入りました。セッションしながら、2人で『いける、いける!いいじゃん』って、その場のアイデアを採用したのがすごい楽しかったです。僕は楽しい時に楽しいって言える性格じゃないので、新鮮だったし、自分の中の変化も感じました。
ー前作ではビートが骨太な印象ですが、今作はインストでの表現が際立っています。
前作は客演の方のラップやボーカルに合わせてビートを作っていました。言葉を使う音楽に憧れがあるけど、自分は言葉ではなく音で寄り添う形が合っている気がしていて。悩んでいる人に対して「大丈夫だよ」と言うことができない性格なのでただ一緒に過ごすことで、相手が自分で気づいたり行動するのを待つ。それが自分らしい寄り添い方だと思うし、そういう意味で今回はインストで表現しています。
ー最近はDJもやられていますが、その経験を通じて音楽の向き合い方などは変わりましたか?
毎月MUSIC BAR BOUNCEでDJをやらせてもらっています。スケートビデオに使われる音楽や友人が教えてくれる音楽が好きで、純粋に音楽を共有する力を養っています。元はそういうのができるタイプじゃなかったので、いいきっかけになった。そういうコミュニケーションのおかげで、自分の中で音楽のボキャブラリーが増えて。それを取捨選択するために、今作では物語を書いたのもあります。
ーそんな変化や今回のリリースを経たライブが今から楽しみです。
音の変化もそうだけど、自分の心の変化が大きい気がします。今回多くのミュージシャンに参加してもらったり、ライブにサポートを迎えるようになったのもそうで。自信がなくても、自信あるように振る舞うように意識したというか。結果的に自信につながっている気がします。最近のライブでは、必ず数名のサポートミュージシャンと一緒に演奏しているので、セッションやアレンジも楽しんでほしいです。
ー最後に、今後の展望を教えてください。
今作を通して、自分の中では過去と未来のことを整理できたので、今後はもっと今にフォーカスしたいです。今に集中するというか、その瞬間が幸せなら『幸せだな』って、その場で言えるようになりたいです。その時の気持ちやタイミング次第で、見る景色とかも見え方が違うと思うんです。瞬間をもう少し大切にしたいなって。だから今作は、そういうときに普段の自分とのギャップを図れる指標になるような作品になったら嬉しいです。
INFORMATION
『PRIDE POTATO』
開催:2024年12月7日(土)17:00-2:00
会場:笹塚ボウル
LIVE:
・民謡クルセイダーズ
・NEWLY
・GALBE
DANCE:
・Special showcase
DJ:
・RENKEN
・Haruto & Takeru (Onomatope)
・YUN & itOha
・Mikito
・KAZUYA
・Ryoto Mizue
・天日音頭
FOOD:
・寄合
・KABUTO
・CBN Cookie
LIVE PAINT:
・蝶千
POPUP:
・Seeyoulater. ×ヨーメーン
Door:3,500yen /U25-2,500yen (身分証提示)
19時までのご来場で1 drink ticket
Instagram:@pride___potato