MUSIC 2025.09.17

Interview: Mockyとtofubeats、AI時代に問う“人間の響き”。「人間らしさとは物語を語ることだと思う」

Photo by Yvonne Schmedemann
EYESCREAM編集部

カナダ出身で現在はL.A.を拠点に活動する音楽家、Mocky(モッキー)。待望の来日公演が9月22日(月)東京WWW X、9月24日(水)大阪CONPASS、9月25日(木)京都METROと目前に迫っているなか、Mockyにメールインタビューを実施した。インタビュアーは神戸出身の音楽プロデューサー/DJ、tofubeats。2015年に行われたMockyの初来日ツアー、その神戸公演で二人は同じステージに立っている。

AIが“誰でも音楽を作れる”時代を加速させ、生成アルゴリズムが楽曲の速度と効率を飛躍的に高めている今、Mockyはその逆を行く。彼が選んだのは、一本のマイクの前に仲間を集め、ユニゾンで歌う声を古いテープマシンに焼き付けるという、原始的で有機的なやり方だった。AIには絶対に分解できない“人間の響き”を残すこと。今年6月に〈Stones Throw〉からリリースされた最新作『Music Will Explain (Choir Music Vol.1)』は、録音史に連なる実験であり、同時に「2025年の人間の音をどう記録するか」という問いへの彼なりの回答だった。そこにはBee GeesやThe Beach Boys、ブラジルのトリオMocotóから70年代『セサミストリート』に至るまで、時代を越えて受け継がれてきた“声の融合”の系譜が重ねられている。

一方、tofubeatsは2024年発表のEP『NOBODY』でAI歌声合成を全面的に導入。「誰かがいると思って扉を開けたら、誰もいない」という、AI時代にしか生まれ得ない切なさをハウス・ミュージックの文脈でパッケージした。合唱と合成、アナログとアルゴリズム。真逆の方法をとる二人だが、「音楽のちから」を確かめ続けようとする姿勢には確かな共鳴がある。

tofubeats

2015年の共演の際にMockyからtofubeatsに宛てられたサイン入りのレコード

2025年9月、Mockyは6年半ぶりに日本のステージへと帰還する。6人編成のスペシャル・バンドセットで臨む今回のツアーは、ガレージから世界へ広がった彼の「人間の響き」を観客とともに共有する、またとない機会となるだろう。アナログテープに刻まれた合唱のうねりと、フロアに響く声が重なったとき、AIが描く予測とは異なるもうひとつの未来が立ち現れるかもしれない。

AI時代に音楽の“人間性”をどう更新するのか。ここから先は、tofubeatsの問いにMockyが応えた言葉をお届けする。

Photo by Layli Samimi

ーむかし日本の神戸公演で「Key Change」発売時にご一緒したtofubeatsです。時が巡り巡ってこういった形でメールインタビューできて非常に光栄です。あの日のライブも本当に素晴らしく、あの時から今までMockyのタイトルは全て素晴らしく(プロデュースワーク含め)、大好きです。Bandcampで作品を出してくれるところも本当に大好きです。「Eternal Samba」のようなタイトルも楽しみにしています。
その神戸公演で印象的だったのはサポートで一緒に来ていたJoey Dosikで、その数年後に発売される「Inside Voice」をライブの幕間で披露してました。客席で「この曲はなんだ?」と本当に興奮したのですが、数年後リリースされるまで聞くことはできず、本当にやきもきしたことなども思い出されます(笑)。

Mocky:tofubeats、ありがとう! あの夜のことは自分もよく覚えてるよ。本当にありがとう。質問してくれて嬉しいし、また会えるのが待ちきれない!

ー今回さまざまなインタビューで「人間の音を残す」と言っていたのが印象的でした。自分はエレクトロニック・ミュージックをずっと作ってきて、ある機械やパソコンを使うことが多く、よくどこまでが「人間らしさ」なんだろう? と考えることが多いです。生成AIなども一般化する中でMockyの思う「人間らしさ」とは何でしょうか? また、それを大事にしなければならないと思ったきっかけを教えてください。

Mocky:本当にいい質問だね! いろんな答え方ができると思うけど、人間と電気のつながりにヒントがある気がする。僕らの身体自体が電気でできていて、音楽を作ったり録音したりするにも電気が必要だよね。機械を“間違った”使い方をしたときや、偶然のアクシデントからこそ面白い音楽が生まれることもある。そうした“不完全さ”には物語が宿っているんだ。だから最終的に「人間らしさ」とは物語を語ることだと思う。アーティストがどんなやり方であれ、それによって人に届くなら、それが人間らしさだと思う。

ーSNSやAIの登場などで、自分の心の声にシンプルに耳を澄ませて音楽を作ることが日々難しくなっているように感じます。どのようにして自分の声に耳を傾けていますか?

Mocky:自分の声を聴く、というよりも、むしろ一緒に演奏する仲間やコラボレーターの声に耳を傾けるようにしている。たとえひとりでサンプラーを使ってベッドルームで音楽を作っていても、友達とジャムしたり一緒に演奏したりする経験はすごく役に立つ。そこに自分自身やみんなの姿が映し出されて、それが自分の音楽に結実していくんだ。僕はコミュニティというものの大ファンで、音楽って結局は“いつもコミュニティを持ち続けるための口実”なんじゃないかと思ってる。つながりこそが大事で、誰かが作り、誰かが聴く。最低限それがあればいいんだ。

ー自分の場合は読書がそれなのですが、好きな本や最近読んでいる本、読んでいてハッとした文章などはありますか? 歌詞についてもとても意識があると思うので、本以外でも、どういったところから歌詞のアイデアやイメージを得ているか知りたいです。

Mocky:John F. Szwed(ジョン・F・スウェド)によるSun Ra(サン・ラ)の伝記『Space is the Place』をおすすめするよ。そこに出てくるサン・ラの言葉に、僕の音楽の姿勢がよく表れてる。“Make a mistake and do something right.(ミスをして、それを正しいことに変えろ)”。つまり、ただ計画したことをやるんじゃなく、その瞬間に存在していることが大事なんだ。新作の曲「Today Years Old」の歌詞にもあるように、本当の意味で“今ここ”にいることがすべてだし、そうすれば間違った音なんて存在しない。

Photo by Layli Samimi

ー本作の「Walking」はとても印象的でした(「Walking」というフレーズを最初聴いたとき「Mocky」と言ってるのかと思いました)。自分は坂道の多い街の出身で、いつも歩きながらアイデアを考えていたし、歩いているときに人間は一番幸せを感じられると思っています。車社会のL.A.で(行ったことないのですが)こういった曲を思いついた理由があるのでしょうか? また、車社会のなかでなぜ歩くという選択をしていたのでしょうか?

Mocky:実は、アルバムのイントロだから、数人のシンガーたちに「Mocky」って聴こえるように言ってもらったんだ(笑)。でも実際は“Walking”。なぜならアルバム全体が「人間を最も人間らしくするもの」をテーマにしているから。二本の足で歩くことは、人間を定義する特徴のひとつだし、脳を刺激するという意味でも人間らしさの根幹に関わるものなんだ。確かにL.A.は完全に車社会だけど、アルバム制作中は運転に本当に疲れていて、毎日セッションの前に長い散歩をしていた。そのとき、この“Walking”のチャントが何度も浮かんできたんだ。

ー今作を作る上で重要だったレコーディング機器や楽器・アウトボードについて教えてください。

Mocky:クワイアの録音は、歌手たちをひとつのマイクの周りに集めて行った。伴奏もヘッドホンもなく、ただ空っぽの部屋にシンガーと一本のマイクとテープマシンだけ。みんなが同じ音をユニゾンで歌ったとき、誰の声が誰なのか分からなくなる瞬間があって、そのとき声がひとつに溶け合っていると気づいたんだ。こうやってテープに録ることで、AIには絶対に分解できない音を作ることができた。技術的な話になるけど、声をひとつにブレンドして一本のマイクに通すと、コンピューターには誰の声か判別できない。ハーモニーをつけた途端にそれは不可能になる。だからこそ、古いM7のマイクやAmpexのテープマシンが、AIと対抗するうえで決定的に重要だったんだ。

ーこれまでさまざまなアーティストと仕事をしてきたと思いますが、良いアーティストだと思う人たちに共通するものはありますか?

Mocky:定義が難しいけど、僕が一緒にやってきて楽しかったり、心から尊敬しているアーティストには共通点がある。それは「弱さを見せることを恐れない」こと。音楽を作るっていうのは、社会で生きるために自分がまとっている“鎧”を少しずつ剥ぎ取って、その下にあるものを見て、そこに共鳴する真実を見つけて、それを他者と分かち合うこと。そうすることで理解や思いやり、つながりが生まれる。それは親密なソングライターでも、ノイズコアのバンドでも、ラップアーティストでもいい。制限なんてないんだ。あるとしたら、自分自身への思いやりの限界だけだと思う。

ーコラボレーションしてきたなかで、とくに思い出に残っているエピソード、制作現場の物語などあれば、教えてください。

Mocky:ずっと前、Jamie Lidell(ジェイミー・リデル)と一緒に仕事をしていたときのこと。僕が楽器を録音していると、彼がスタジオから出ていったんだ。何だろうと思ってたら、彼はゴミ箱とその上に錆びたチェーンを持って戻ってきた。それを新しいパーカッションにして、ガシャガシャ鳴らしたり叩いたりして音を探したんだ。その瞬間が今も忘れられない。当時はクレイジーに思えたけど、新しい音を探す執念こそが大事なんだって学んだよ。あの経験から「電子音楽はアコースティックにだって作れる」と気づいたし、それ以来、自分も“まだ存在していない音”を録るためにどこまでも突き詰めるようになった。

ー最後に、AIを積極的に使うアーティストと一緒に作品を作るとしたら、どんな実験に挑戦してみたいですか?

Mocky:ははは。いい質問だね! 面白いのは、渡辺信一郎監督のアニメ『キャロル&チューズデイ』の劇伴をやったとき、ストーリーが“AIが音楽制作を支配する”という設定だったこと。僕の役割は、人間的なスコアで「音楽を通じて人間性を見つけていく」2人のキャラクターを描くことだったんだ。それから数年後に、実際にAIがこれだけ浸透した現実を生きてるのは不思議な気分だよ。

質問に答えるなら、例えばピアノ・ベース・ドラム・サックスのパートをそれぞれAIに担当させて、4台のコンピューターを“フリージャズ”みたいに互いに反応させて演奏させてみたい。僕はコードやリズムを与えて、それをDJや指揮者みたいに操るんだ。そういう実験なら、過去を映す鏡として面白いものが生まれると思う。でも未来を知りたければ、結局は自分の内面を見つめるしかないと思うね。

MOCKY Japan Tour 2025

[Band Members]
Mocky(Vocals/Drums/Keys)
Vicky Farewell(Keys)
Tylana Enomoto(Violin/Vocals)
Megiapa(Vocals)
Yoshiro Atsumi | 厚海義朗(Bass)
Hirotomo Kauai | 河合宏知(Percussions)

[東京公演]
日程:2025年9月22日(月・祝前日)
会場:WWW X
時間:Open 18:00 / Start 19:00
料金:前売 6,000 yen(別途 1drink)
チケット:
e+ https://eplus.jp/mocky2025/
ZAIKO https://wwwwwwx.zaiko.io/e/mocky2025
出演:MOCKY (band set)  / Guest act: んoon
公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/019084.php

[大阪公演]
日程:2025年9月24日(水)
会場:CONPASS
時間:Open 19:00 / Start 19:30
料金:前売 5,000 yen(別途 1drink) / 当日 6,000 yen(別途 1drink)
チケット:e+ https://eplus.jp/sf/detail/4374070001-P0030001
出演:MOCKY (band set) 
公演詳細:https://www.conpass.jp/7687.html

[京都公演]
日程:2025年9月25日(木)
会場:CLUB METRO
時間:Open 19:00 / Start 20:00
料金:前売 5,500 yen(別途 1drink) / 当日 6,000 yen(別途 1drink)
チケット:e+ https://eplus.jp/sf/detail/4374210001-P0030001
出演:MOCKY (band set) 
公演詳細:https://www.metro.ne.jp/schedule/250925/

INFORMATION

Mocky 『Music Will Explain (Choir Music Vol. 1)』

Release Date: 2025.06.27(Fri) 
Label: Stones Throw
Listen: sthrow.com/musicwillexplainchoirmusicvol1 

Tracklist: 
1. Walking (Theme) 
2. Just a Little Lovin’ 
3. Infinite Vibrations 
4. Walking 
5. Today Years Old 
6. Choir Beat 
7. Music Will Explain 
8. 1000 Goodbyes 
9. Animal Noises 
10. Music Will Explain (Reprise) 
11. Wiggle Room 
12. The Outer Limits

tofubeats『寿司スナイパーオカミ Original Sound Tracks』

Release Date: 2025.08.01(Fri)
Listen: https://orcd.co/sushisniperokami 
Instrumental & Acapella available on Bandcamp: https://hihattjp.bandcamp.com/album/original-sound-tracks 

tofubeats Japan Tour 2025 supported by SLEEPY TOFU

10月03日(金)宮城県・仙台darwin-
10月19日(日)HIHATT LLC 10th Anniversary Party @ 東京都・恵比寿The Garden Room
11月01日(土)石川県・金沢REDSUN
11月08日(土)愛知県・名古屋CLUB QUATTRO
11月09日(日)京都府・京都MUSE ※SOLD OUT
11月16日(日)東京都・恵比寿The Garden Hall
詳細:https://www.tofubeats.com/tour2025 



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