VISIONS OTHER STORY:小袋成彬 INTERVIEW

VISIONS OTHER STORY:小袋成彬『僕は歌わなきゃ駄目だったんだ』と強く思いました。歌い続けなきゃいけないと思っています

Photography Kiyotaka Hamamura text&edit Kenichiro Yanagi

VISIONS OTHER STORY:小袋成彬 INTERVIEW

VISIONS OTHER STORY:小袋成彬『僕は歌わなきゃ駄目だったんだ』と強く思いました。歌い続けなきゃいけないと思っています

Photography Kiyotaka Hamamura text&edit Kenichiro Yanagi

先月デビューCD『分離派の夏』をリリースし、大きな話題をよぶ小袋成彬。先月発行された雑誌EYESCREAMのインタビューでは、新進音楽レーベルTokyo Recordingsの代表――裏方としての意識が強かったはずの彼が、何故歌うに至ったのかを中心に語ってもらったが、特別編となる今回のEYESCREAM WEB版インタビューは『分離派の夏』という作品について語ってもらった。友人の語りが何故収録されているのか。日本語詞。作品に登場するいくつかの地名。そして、東京について。

(友人の語りについて)100%同意ではない。でも、避けては通れない、無視できないこと

―素晴らしいデビューアルバムですが、まず序盤と中盤に、小袋さんの友人の語りが入っていますよね。これが作品を考えるうえでのヒントにもなっていると思うんですが、どうしてこの構造に?

「どこから着想を得たか、ということですよね。僕、最初に買ったCDがYMOの『サーヴィス』で、三宅裕司さんの率いるS.E.T.がコントをしてたんです。だから『CDというものには語りが入っているものだ』と思いこんだんですよね」

―(笑)。

「もちろんそれが誤解だってことはすぐわかりましたけど、強く印象に残ったんです。あとはケンドリック・ラマーの 『To Pimp a Butterfly』で、ケンドリック・ラマーが2パックと疑似対談をしてるじゃないですか。それ、アイデアも文脈も素晴らしいなと思って、僕もどこかで取り入れてみたいなと頭の片隅で考えてたんです。ただ、友人と会話をしてた時に、実際作品に収録したような話を彼らがしていて、『いいな』と思ったんです」

―何故「いいな」と思ったんでしょうか。

「『僕は言えないけど、彼らなら言えること』ですよね。僕は『芸術とは』って語るつもりはさらさらないし、いまだによくわからないんです。でも、彼らの言うことにはおおむね――80%くらいですけど(笑)、同意してるんですよ。僕のアルバムにとって重要なことを言ってくれてるな、と思って録ったんです。経緯としてはそんな感じです」

―すごく近しい友人が、このアルバムの重要なところに肉薄したことを語っていて、それがそのままアルバムの一部になっていて、現在では非常に特異な文体のアルバムだと思います。小説で言えば書簡体小説を読んでる気分というか(笑)。

「なるほど」

―小袋さんの楽曲が、彼らの発言への返答のようにも思えますしね。

「繰り返しますけど、彼らの話してることについて100%同意ではないんですよ。でも、避けては通れない、無視できないことだなとは思いました」

―ただ、そういう構成だと曲順決めも難しそうですね。

「曲順は曲が全部出そろってから、後で決めたんですけど、そこまで悩んでないですね。1日で決まりましたから。ただ、曲順ありき、この物語ありきで作った曲があるわけでもないんですけど」

―凄いですね。一筆書きでスゴい絵書いた、みたいな感じじゃないですか?

「どうでしょうか。その例えに倣って言えば、もともと一筆書きになるように組んでいったというところがあるんじゃないですかね。僕の操作が入ってるんだと思います。あんまり同じ曲ばかり作ってもつまらない、というのもそこに作用していると思うし。だから、絵というより自分にとってはモジュールっぽい感じなんですよね。カッカッカッって、組み立てていく感じなんですよね。その結果一筆書きのように見えるのは喜ばしい限り、ですけど」

“Lonely One feat. 宇多田ヒカル”のサビのフックでちょっとだけ英語を使ってはいますけど、僕から出てきたものはほぼ日本語だった

―アルバム前半部が英語タイトルの曲が多くて、後半に日本語タイトルが増えますよね。

「そこはあまり意識してないですね。単純に並べた時の字面の感じとかがあったんじゃないかと」

―そうなんですか? 前半部は現在のあなたの視点が描かれた楽曲が多くて、友人の語りを境にして、過去を見つめているような視点の曲が増えていきますよね。

「……言われてみるとそうですね」

―これも操作なしですか? これら、通して聴くと大変グッとくるポイントなんですが。

「ありがとうございます。でも、そこは僕は意識しなかったですね」

―英語タイトルはありますが、英語詞で唄おうという思いはなかったんですか?

「“Lonely One feat. 宇多田ヒカル”のサビのフックでちょっとだけ英語を使ってはいますけど、僕から出てきたものはほぼ日本語だったので、そのままですね」

―なるほど。「出てきたもの」と言えば、小袋さんの歌詞には地名が多く出てきますね。新宿、渋谷、グアム、苗場、茗荷谷。友人の語りもロンドンや、スペインを旅する中でのものです。

「それも自分では気づいてなかったんですけど、今回のインタビューで多くの人に指摘されたことですね。自分は旅をするのが好きですし、そういうところが出てるんじゃないかなと思います」

―「旅をしてる時に聴くといいだろうな」と思いながら聴きました。

「そうかもしれない。でも、国内は首都圏で収まってます」

―どこかに行きたいとは思ってるけど、心身ともに身動きが取れずの都市生活者の心にもすっと寄り添う曲になってると思います。

「ありがとうございます」

―小袋さんの東京の描き方は「今の東京、最先端の東京を描く」というのとは違って、淡々とした色合いをしていて、それが功を奏していると思います。

「そうかもしれない。僕は東京っ子ではないですが、首都圏で育っているので、それほど強い憧れを抱くというようなことはなかったですしね。大学は池袋だったんですけど、家から電車で20分でしたから。東京は単に遊び場の一つ、という感じです」

―じゃあ、「Tokyo Recordings」の由来は――?

「響きがカッコいいからっていうのと、商標登録されてなかったっていう現実的な理由です。大学を卒業して独り暮らしを始めたので、『上京して”Tokyo Recordings”を作った』と書いてあったりすると、なんだか東京に凄く憧れを抱いてるみたいに思われることもあるんですけど、実際のところはそんな感じです」

―なるほど。そんな小袋さんの物の見方や人との距離感が、見事にこのニューアルバムに反映されてるなあと思いました。

「そうなんですね。なかなか自分ではわからないものですね」

―ただ、少なくとも自分が「歌を歌っていく人間なんだな」ということについては――。

「それは間違いなくそうです。『僕は歌わなきゃ駄目だったんだ』と強く思いました。歌い続けなきゃいけないと思っています」

INFORMATION

『分離派の夏』発売中

http://www.sonymusic.co.jp/artist/nariakiobukuro/

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