Breakthrough Music for 2019 #06 NTsKi

気づけばテン年代、最後の年。音楽シーンを振り返ってみてもいくつもの潮流/トピックスがあって、そろそろ総括もしたくなってくる頃だけどそれよりも“これから”に目を向けたい。「未来は過去のなかにある」とも言うけれど、いやだからこそ未来を見据えることが結果、過去(やそこに横たわる文脈)を知れることにもつながるんじゃなかろうか。ということで、本特集「Breakthrough Music for 2019」では、来たる2020年代に向けて、EYESCREAMが追いかけていきたいホットな新世代たちにフォーカス。その音楽や存在そのものでもって、今という時代をブレイクスルーしていくミュージシャンの動向から、2019年とその先を眺めていくことにしよう。

#06 NTsKi

甘く乾いた歌声と、独自の言語感覚で紡がれるリリックを乗せた、多彩な音楽性をはらむトラックが聴く者の耳に余韻を残す、SSW / プロデューサーのNTsKi。昨年は、ミニマルで不穏な気配を漂わせる「Fig」、DYGLのYosuke Shimonakaがギターで参加した「Labyrinth of Summer ~真夏のラビリンス~」などをリリースし、ロンドンを拠点にするDJ / プロデューサーのCoucou Chloeの来日公演や、渋谷WWWβで開催された「ALL Shanghai ⇄ WWWβ Tokyo exchange program 上東 Vol.2」などライブへの出演も重ね、着実に存在感を示してきた。
普段は京都に住んでいる彼女が東京へ訪れていたタイミングで行われた取材当日、撮影中にフィルムチェンジなどで少し間が空くと、都度居心地の良い場所を探すようにふらりと歩き出す様子は、自身の感覚に真摯に向き合い続けてきた彼女の活動の軌跡とも重なるようだった。

音楽を作って歌うことしか自分を癒す方法がなかった

―今は京都にお住まいなんですよね。

はい。でも、京都市内ではなくて、もっと北部の山奥のほうですが。高校を卒業してからは、写真をやっていこうと思って、東京で写真の勉強をしていたんですけど、そのあとイギリスに引っ越して。2年くらいマンチェスターに住んでから、また京都の実家に戻りました。

―まずはNTsKiさんのこれまでの音楽活動についてお聞きしたいです。

子供の頃までさかのぼると、小学生の頃に合唱隊に入っていて、歌うことはずっと身近にありました。「将来の夢」みたいなものを書くときには、「お花屋さんと歌手」って書いていて、思い浮かぶメロディーをずっと鼻歌とかで口ずさんでいました。マンチェスターにいる間、毎日友達の家に集まっていたんですけど、やることも特になくて。周りにトラックを作っている人やミュージシャンが多く、ラップをしている人もいたので、英語でラップをしたことはなかったけれど、「ラップしたい!」と言ったら、「やればいいじゃん!」と言われたので、そのノリでラップを始めました。

―YouTubeやSoundCloudでは2013年から音源を発表されていますね。

そうですね。でも当時は共作だったし、本当にちょっと1曲作ってみたような感じで。ちゃんとひとりで曲を作り始めたのは、日本に帰ってきた2016年あたりです。だから自分の認識としては、2017年に「NTsKi」名義で初めて自分の曲を人前で披露したあたりから音楽活動が始まったと思っています。

―その時期に本格的に音楽活動を始めようと思ったきっかけなどはあったのですか?

自分の音楽活動をドラマティックなものにしたくはないのですが、母親の死の宣告、友達の死、恋人の裏切りという大きな出来事が重なった時期があり、音楽を作って歌うことしか自分を癒す方法がなかった。別に音楽を作ったからといって解決しないし、完全に癒されることはないんですけどね。

確かに戦っている感じはあるかもしれない

―音楽が身近にある環境と、人生の大きなうねりによって音楽と向き合うようになっていったのですね。

マンチェスターにいる間は、ひとりで音楽を作るというよりは、友達と集まって曲を作ったり、ホームパーティーで即興ライブをしたり、友達のバンドと一緒に演奏したりしていました。特に、2014年にAldous RHと一緒にライブをしたことは今でも忘れられなくて、魂のまま「歌う」というのはこんなに気持ち良いことなのかと気づかされました。マンチェスターでは毎日本当に何もしていなかったけれど、ライブをしたり、ライブを見たりしてきたことは、今振り返ると音楽を作る上でのバックボーンみたいなものになっているのかもしれない。今もその流れの中にいる感じで、自分がミュージシャンだという自覚はあまりなくて。でもそのわりには、さっき(取材当日のフォトグラファーだった池野)詩織ちゃんが私のことを「戦ってる感じがする」って言ってくれたけど、確かに戦っている感じはあるかもしれない。

―「戦っている感覚」について少し詳しくお聞きできたらと思います。

同世代のミュージシャンだとか、同じイベントに出演する人だとか、そういう特定の人と戦っているつもりはないです。さっき言ったこととも関係してくるのですが、自分に起きた出来事と対峙しながら音楽活動をしていくというのは、もう、戦うしかないですよね……。今は歌うことや曲を作ることに興味が向かっているけど、方法はなんでもいいのかなとも思います。写真をやっていた頃は写真だったし、映像を作ることでもいい。でも、音楽をやっていたら、写真も映像も全部できるので。

たとえば写真で、スタジオで必要なノウハウや露出とかを完全に理解していなくても良い写真が撮れるように、音楽も今はある程度知識さえあれば、譜面がかけなくても、楽器があまり弾けなくても、機材やソフトウェアを使ったら、テレビゲームをするような感覚で曲ができちゃう。私もそういう感覚で最初は曲を作り始めました。つまり曲作りをする中で、自分で自分が何をやっているのかあまりわかっていない状態というか。何をやっているのかわかっていないので、ひとつの曲にまとめることができるようになるまでは結構時間がかかりましたね。今でもすごく時間がかかりますが……。けれど、「Fig」のようにメロディーが思い浮かんで、ビートを作って、曲の形ができて、ミックス、マスタリングをする作業も入れて、2日間くらいで完成した曲もあります。

―曲作りはどのようなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

そのときの環境や自分の気持ちに左右されることが多いですね。 私が作っている曲は共通点として、基本的にポップスだと思っている。ただ、「これはJ-POPでしょ」と思って完成した曲を友達に聴かせると「全然J-POP感ない」って言われたりするんですけど。まあでも、「私の曲ってこういう感じです」と言えるほど、まだリリースもしてないんですけどね。

私にできることを実行していきたい

―音楽的にはどういったところから影響を受けましたか?

影響……。多分私くらいの世代って、完全にひとつのものから影響を受けていることがあまりないですよね。同じ世代でも人によって聴いてきた曲が全然違うし。だから、メタリカとかすごいなあと思います。あの歳まで音楽を続けていたら、絶対に違うことをやりたくなりそうなのに。

―(笑)。

ママがシャーデーのCDを全部持っていたので、小さい頃よく車の中で聴いていて、今でもシャーデーは好きなんですけど、それだけに影響を受けているかというと違う気がするし。ティーンのときにはロック以外の音楽はあまり聴いていませんでしたが、マンチェスターで仲が良かった周りの子たちはティーンのときにグライムやヒップホップを通ってきた子たちが多くて。その影響でグライムを聴き始めて「めっちゃめちゃカッコいいな!」と思い、ハマりましたね。

―音楽以外のカルチャーで影響を受けたものってありますか。

ガーデニングとか好きです。夏には野菜を育てたり。音楽には反映されてないですけど(笑)。

―去年はいくつかのリリースがありましたが、ご自身にとってどんな年でしたか。

以前、写真を撮っている友達が、初対面の人に対して「フォトグラファー」とは名乗りづらいと話していて。私もそういうときに、「バンドやってます」とか「ミュージシャンです」って言えなくて。黙っていると周りの友達が説明してくれたりするんですけど。去年1年かけて、ミュージシャンと名乗ってもいいのかなと、ほんのちょっとだけ思えるようになりました。

―1月には新曲「1992」も公開されましたね。

この曲を作ったときは、「生まれたままに戻りたい」という気持ちがあったんです。あとは、SFや特撮が好きなので、タイムトリップみたいな感覚について常に考えていたことから生まれた曲です。

NTsKi – 1992

―NTsKiさん自身が監督を務めている「1992」のMVについても教えてください。

小さい頃、ママに連れられてたまに行っていたバーを覚えているのですが、きらびやかで、床が80年代っぽい市松模様で、すごく印象的なお店だったんです。みんながカクテルを持って、いろんな場所で立ち話をしているけど、会話の内容はわからなくて、私は黙って椅子に座ってその様子を見ている。そんなイメージが何となく頭の中に残っていて。MVでは、その感じを再現したいなと思いました。うろ覚えだし、似たような光景を夢で見たりもしているから、あとから補正した記憶かもしれないですけど。

―中里周子さん率いるNEWPARADISEがディレクションされたファッションも印象的です。

周子さんとは共通の知り合いがいて、以前から「MV撮りたいね」って言われていたんです。今回のMVを作るにあたって、これは絶対周子さんにお願いしたいなと思いました。撮影にも周子さんがディレクションした「POWER ∞ SPOT」を使わせてもらいました。

―最後に、2019年はどんな年にしていきたいですか。

音楽活動を始めてから今にかけて、ただ純粋に「やりたい」「歌いたい」「ラップしたい」という思いを実行してきました。今は始めたばかりで、まだまだ音楽でやりたいことがたくさんあるので、引き続き目の前にある、私にできることを実行していきたいと思います。

INFORMATION

NTsKi

NTsKi「1992」
7インチが限定店舗、オンラインで発売中。「1992」のオリジナルヴァージョンと食品まつり a.k.a Foodmanによるリミックスが収録

【取り扱い店舗】
JET SET / disk union / FILE-UNDER RECORDS / FLAKE RECORDS / Second Royal Records / BOY / AVYYS Online Shop
AMINO ACID bandcamp
https://amino-acid.bandcamp.com/album/1992

[LIVE SCHEDULE]
2019/3/10(日)京都METRO
2019/3/21(木・祝)CIRCUS Tokyo
2019/3/25(月)渋谷WWW

http://ntski.com
Instagram: @ntski
Twitter: @NTsKiiii
SoundCloud: https://soundcloud.com/ntski

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