Breakthrough Music for 2019 #12 The ManRay

気づけばテン年代、最後の年。音楽シーンを振り返ってみてもいくつもの潮流/トピックスがあって、そろそろ総括もしたくなってくる頃だけどそれよりも“これから”に目を向けたい。「未来は過去のなかにある」とも言うけれど、いやだからこそ未来を見据えることが結果、過去(やそこに横たわる文脈)を知れることにもつながるんじゃなかろうか。ということで、本特集「Breakthrough Music for 2019」では、来たる2020年代に向けて、EYESCREAMが追いかけていきたいホットな新世代たちにフォーカス。その音楽や存在そのものでもって、今という時代をブレイクスルーしていくミュージシャンの動向から、2019年とその先を眺めていくことにしよう。


L to R_コガ コウ (Ba), アサト タクロウ (Gt, Vo), オオキ リョウスケ (Dr)

#12 The ManRay

3人組ロックバンド、The ManRay。2014年に結成し、メンバー編成を変えながらも自身の音楽を追求し続けてきた彼らが、ついに1stフルアルバム『Naked』を完成させた。そこに鳴るのはガレージロックやオルタナティブといったサウンドを基軸にブルースやソウルなどの侘びを盛り込んだ独自のロックになっている。2019年現在にあって、こんなに渋く、かつストレートなロックをベースとしながら男らしい骨太な音を聞かせてくれるバンドはいない。実に色気がある、だけど男くさいだけじゃなくて都会的。Spotifyをはじめとするサブスクでも話題を集中させる彼らに、アルバム『Naked』を介して、その音楽性、バンドの成り立ちについて語ってもらった。

3人編成であることを重視して制作した1stフルアルバム

ーはじめまして。バンド名はやっぱり、あのMan Ray(芸術家:マン・レイ)から来ているんですか?

アサト タクロウ:そうですね。もう何回も聞かれている質問ですが(笑)。Man Rayっていう語感が良いのと、自分がイギリスに留学しているときに、Man Ray展を見に行ったんです。それがずっと脳裏に残っていてバンド名にしたんです。

コガ コウ:バンドはタクロウが帰国してからスタートして、僕は結成後に加入したんですが、すでにThe ManRayという名前でしたね。

ータクロウさんは、なぜイギリスに留学されていたんですか?

アサト タクロウ:期間は1年間ほどだったんですけどね。英語圏の国で生活してみたかったんです。それでオーストラリアに行くかどうか迷っていたところ、一緒にいた友人からイギリスを激しく推薦されまして。彼はイギリスに行った経験があり、The ClashやThe Libertinesを一緒に聞いていた仲だったんですよ。ロンドンから少し離れた街に滞在していました。ファッションや音楽、クラブカルチャーも盛んなところでフリーマーケットも開催されてたりする場所で、DJの人達と住んで音楽教えてもらいながら、クラブに連れて行ってもらいながら生活してましたね。フォトグラファーとか、色んなことをやっている人と知り合って。

ーその経験は、アルバム『Naked』にも影響を与えているのではないでしょうか?

アサト タクロウ:あると思います。経験は残るものですし、イギリスでの経験を経てクラブミュージックを本格的に好きになった部分もあるので、空気感や匂いとして表現する音楽に影響を与えていると思います。

ーそうですよね。では、改めてThe ManRayの成り立ちについて教えてもらえますか?

コガ コウ:僕とタクロウが同じ大学で、タクロウとリョウスケが繋がりをもっていて、という感じです。今では3人組なんですが、結成当初は6人いたんですよ。タクロウの地元、沖縄の友人もいたりして。徐々にメンバーが減り、リョウスケが加わって今の編成になりました。

ー大学では、どのように出会ったんですか?

コガ コウ:前にいたメンバーにいきなり道端で話しかけられたんですよ。「同じ大学だよね?」って感じで。そこから仲良くなり、明大前でタクロウと、もう1人の友人とルームシェアしていた時期もあったんです。その部屋に、The ManRayに繋がる人間が集まっていたんです。大学だった頃は、特に音楽活動を積極的に行なっていたわけではなくて、遊んでいたわけなんですけど。


2017/06/24 公開


2019/08/05 公開

ー2017年にリリースされた1st EP『You will be mine』と今作『Naked』では、音楽的な意味でも、かなり異なるように感じます。2014年にバンドを結成されて、活動をスタートした最初の数年間は、どのような音楽をやろうと考えてらっしゃったんですか?

アサト タクロウ:当初は、メンバーがハマっている音楽がそのまま出ている感じでしたね。Flying LotusやToro Y Moi.といったエレクトロニカな音楽を聞きつつ、さっきKogaが話していた明大前でルームシェアしていた仲間たちが、みんなロック好きだったのでOASISやThe Liberteens、Stereophonicsを聞いて。それらがミックスされた感じが強く出ていましたね。最初はキーボードで作曲することも多かったので。今はベース、ギターから作っている感じです。

ーどのタイミングで、よりルードでジャジーなロックサウンズに近づいていったんですか?

コガ コウ:メンバーが3人になって、やれる幅が限られてきたという現実的なこともあるし、ライブでインパクトがある魅力なサウンドというと、やっぱりロックですからね。変に意識せず、自然に変化していった感覚です。

ー今作『Naked』が初のフルアルバムとなるわけですが、名前が挙がっているThe LibertinesやTHE STROKESといったガレージロック・リバイバルの頃のバンドが鳴らしていたロックの雰囲気を強く感じました。みなさんのルーツとなる音楽は何ですか?

コガ コウ:もちろん、THE STROKESも大好きなんですが、音楽の入り口にあったのはGREENDAYなんですよ。パンクからSUBLIMEを経てレッチリ(Red Hot Chili Peppers)を聞きつつ、The LibertinesなどUKのロックに触れて。そこからTHE BEATLESを聞き直し、大学中はハウスからソウルを知り、色んな道を辿ってきましたね。レゲエも好きだしThe Stone Rosesも聞くし、という感じです。ベースはThe ManRayに入るときにベーシストがいなかった、という理由で始めたんです。やってみた結果、自分の性に合う楽器だな、と感じましたね。地道にこつこつと鍛錬していくような楽器なので。

ーちなみに、好きなベーシストは誰ですか?

コガ コウ:Pino Palladino(ピノ・パラディーノ)というスタジオミュージシャンですね。D’Angeloの音源にも参加しています。もちろんFlea(フリー、Red Hot Chili Peppersのベーシスト)も好きです。世界中のカッコいいベーシストの良いところを自分に取り入れて昇華させていきたいと考えながらやっています。

オオキ リョウスケ:自分は中学の頃からドラムをやってるんですけど、当時は洋楽を全然聞いていませんでした。最初は邦楽のメロコア、世代的なこともあってELLEGARDENとかを聞きながら、遊びでコピーとかをやっていたんですよ。高校に入って軽音楽部で知り合った友達が洋楽に詳しくてレッチリとかを教えてもらったんです。そこでYouTubeでライブ映像を見て、すっかり音楽にハマっていって。今、ジャンルで言うと1番好きなのはファンクですね。James Brownにはかなり影響を受けています。でも、ルーツと言うとレッチリかもしれないですね。

アサト タクロウ:高校の頃はメロディックパンクをよく聞いていました。GREENDAYとかBLINK-182、MxPx、Sum 41、BUSTEDなどなど。ブラックミュージックは大学に入ってから聞くようになったんです。Curtis Lee MayfieldやMarvin Gayeとか。みんなでルームシェアしていた家ではThe Chemical BrothersやColdplayがかかっていましたし。雑多ですけどジャズも聞くし、ひと通りのジャンルを聞いてきました。

これからの基礎であり真っ直ぐな気持ちを注ぎ込んだ

ーなるほど。ロックをベースに様々なジャンルを体験されてきた3人ですが『Naked』はかなりルーツロックに近しい空気感がありますよね。でも、しっかりと今っぽい。オールドになり過ぎないように時代感を考えて制作されたんですか?

アサト タクロウ:いえ、時代感やトレンドというのは、あまり考えていないですね。THE BEATLESとか好きだった頃の自分たちのような、昔の要素が今作には出ているのかな、と。

コガ コウ:ドラムのリズムに気を遣っているので、その辺りに新しさを感じられたのかもしれませんね。The ManRayの楽曲は基本的にはタクロウがDTMで制作していて、それをバンドでアレンジしていくやり方なんですけど、タクロウがけっこうHIPHOPも通っている人間なので。

アサト タクロウ:そこは地元の感覚が染み付いているのかな、と。沖縄はやっぱり西海岸の要素が強いんですよ。僕もSnoop Doggや50 Centが好きですし、ノリとして自分の中にありますね。沖縄の人はみんな持っているんじゃないかなって思うんですけど。

ー作品全体を通して、ギター、ベース、ドラムの基本形態を軸にしたミニマルなサウンドで楽曲が構成されているのもカッコいいと思いました。

コガ コウ:前提としてライブで出来ないことはあまりやりたくないっていうのがあって。ギターを重ねるにしても1本とか、コーラスもできる範囲でやろうとして制作したんです。今作に関しては鍵盤も入れなかったですからね。

アサト タクロウ:この3人になってから制作した楽曲がメインに収録されているので、よりストレートでシンプルな構成になっていると思います。

コガ コウ:アルバムの最後、10曲めの「C’mon baby」に関しては、まだメンバーが6人だった頃、つまり結成当初からあった楽曲なんですよ。それをレコーディングし直して収録しています。

ーそういう意味ではThe ManRayの歴史が詰まった1stフルアルバムと言えるのではないでしょうか。自分にとって『Naked』はどんな存在になったと感じていますか?

アサト タクロウ:やはり3人の編成で音を出しているっていうのが、今までと根本的に違うところですね。人数が少なくなった分、例えばライブにおいても、メンバー1人あたりの存在感がないと成立しないし、気が抜けないのが面白いなって思うんです。それがこのアルバムで土台を作れたのかなって。まずは基礎ができた印象です。

オオキ リョウスケ:レコーディングの最初とかは緊張感やプレッシャーもあったんですけど、自分からしてみれば、The ManRayのメンバーになって初めてのレコーディングであり、リリースとなるので思い入れは深いです。

コガ コウ:うん。思い入れは深いよね。漠然とは考えながらも、音楽で飯を食っていこうって本気で意識して話し合ったうえでの初めてのアルバムなので。今作が完成した以上、今まで以上にアクセルを踏んでいきたいと考えています。

自分たちの音楽で世界を見ることができたら

ー『Naked』という楽曲も収録されていますが、アルバムタイトルには、そういった思いや決意を込めているんですか?

アサト タクロウ:そのまま”裸”と捉えていただければ、と思うのですが、それこそライブ中に裸になれるくらいの勢いでやるっていう誓いを立てているってことと、こうして音数の少ないロックを表現していることが『Naked』に繋がっていると思います。

コガ コウ:収録曲からタイトルを選ぼうと言い出したのは自分なんですよね。シングルカットじゃない曲がアルバムタイトルになっているのって、昔のロックバンドの作品には、よくあったじゃないですか。そういうのを経験してきたので。ある種、王道的な選択ですが、なにせ1stアルバムですし、奇をてらったことをやろうっていう発想も今の自分たちにはなくて。このメンバーで素直に出た感じだと思います。気持ちを注ぎ込もうって真面目な感じでした。

アサト タクロウ:タイトルを『Naked』にしよう、と3人でなったときに、すんなり決まったんですよね。特に反対意見もなかったです。ちなみにジャケ写も、今回のアー写も『Naked』にちなんで上半身は裸なんですよ。アー写は上にジャケットを羽織っていますけど。

The ManRay アーティストフォト

アルバム『Naked』ジャケットアートワーク

ーそうなんですか! このアー写のファッションもそうなんですけど、The ManRayはファッション的にもソリッドですよね。好きなブランドやスタイルはありますか?

オオキ リョウスケ:僕は今日もキャップがそうなんですけどRUDE GALLERYが好きです。男らしいプロダクトが多いですよね。

コガ コウ:自分は洋服は古着屋で買うことが多いですね。Supremeとか、王道のストリートブランドのアイテムもルックを見ると、やっぱりカッコいいなって思うんですけど(笑)。よく行く古着屋は明大前のWILKOっていうショップです。けっこう映画からファッションの影響を得ることが多いですね。例えば、70年代のアメリカ映画とか。やっぱり、あのトラッドな感じがカッコいいじゃないですか。洋服もそうですし、車とかも。チェット・ベイカーのことを描いた『ブルーに生まれついて』って映画とか、本当にカッコいいと思います。

アサト タクロウ:自分の場合は、多くの人がそうだと思うんですけど、古着とハイブランドにストリートを混ぜつつ、自分がカッコいいと思っていれば……ってところですね。

ーでは最後に、The ManRayが今後、目標としていることを教えてください。

アサト タクロウ:バンドとして目指すのは、1つの形に捉われず、その時々に楽しいと思うことを音楽に落とし込みながら、自分たちで見つけたフィルターを通して、アップデートさせて届けていくことですね。あとは海外の音楽フェスとか、そういうものに出演してみたいですね。

コガ コウ:そうだね、コーチェラとか出てみたいよね。映像を見ていても思うけど、ヤシの木ばっかりの場所に、あんなに大勢の人が集まって最高だろうなって思う。USもUKも好きなので日本だけじゃなく、海外でも活動していきたいですね。それが実現できたら、本当に最高だし楽しいと思います。

オオキ リョウスケ:やっぱり海外ツアーはいいよね。そんな風に自分たちの音楽を持って、世界を見てみたい。それを目指していきたいですね。

9月28日(金)には東京・表参道WALL&WALLにてリリースパーティーを開催するThe ManRay。この音楽はライブでこそ伝わるもの。是非見ていただきたい。
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