個として輝くために。Ren Yokoiと村上虹郎の歩む道筋:Motivators Vol.04

Ren Yokoiによるマンスリー対談シリーズ「Motivators」の今回のゲストは俳優・村上虹郎。村上淳とUAの間に生まれたその境遇は、Zeebraを父に持つRenと重なる。親から受けた影響や、一般的な日本の教育とは異なる環境で形成された価値観。Vol.1のJESSEに続く二世同士の会話は、“個の輝き”をキーワードにした興味深いものとなった。

ーこれまではRenさんがよく知っている方との対談が続いていましたが、今回は初対面の相手となります。ところでお互いの両親同士の交流ってどうなんでしょう?

村上虹郎(以下、村上):存在は知ってると思いますが、それ聞いてくるの忘れた!

Ren Yokoi(以下、Ren):俺も(笑)。

ー村上さんは、高校時代にモントリオールに留学していましたが、そのきっかけは音楽だったと聞きました。

村上:そこはなんとなくなんです。理由がないと行かせてもらえないかもなというくらいで。Renくんはインター(インターナショナルスクール)出身ですよね? ということはバイリンガル?

Ren:むしろ日本語の方がつたなかったする(笑)。「あれ? 日本語だと言いたいことが言えないぞ?」って。

ー日本語だとナンパできないそうですね(笑)。

Ren:どっちにしてもナンパはからっきしです。

村上:そこは言語じゃなくて気持ちの問題だと。

Ren:やべえ。俺いきなり虹郎くんにやられてる。

村上:まあ、僕もできないですけど。

ー虹郎さんが通われていた学校についても、教えてもらえますか?

村上:シュタイナー学園という、なんとも不思議な学校。競争社会や情報社会に触れさせない教育というか。まず通信簿も教科書もないんです。

ーそれは驚きです。

村上:もちろん数学も国語もあるのですが、情報的な社会や理科の進み具合はめちゃくちゃ遅くて。公立の学校で同年代の人たちがやってることなんてまったくわからなかった。基本的には、外で体を動かして、体にいいものを食べて、ナチュラルな思考でいること。テストとかでバチバチに競争するのではなく、個の豊かさを大事にしようって。

Ren:すげえ。おもしろいね。

村上:生活しているとニュースやいろんな情報にも触れるわけで、完全には難しいんですけど。インターはどんな感じでした?

Ren:インターもインターで、いろんな国籍のヤツがいるから面白いよ。

ー虹郎さんがおっしゃった”個の豊かさ”は、インターもシュタイナーも近い気はするのですが。

村上:そうかもしれないですね。僕らの場合は”誰が一番輝いているか”が大事だと思うんです。

Ren:うん、そうだね。

ー今、二人ともにその“輝き”が仕事になっていますよね。

Ren:自分から表現しないと何も生まれないんですよね。いろんな国籍のいろんな考えを持ったヤツらが一つのところに集まる。そこで自分を出さないと「お前はなんなの?」ってなって、友達もできない。そういう状況が今のパフォーマンスに直結している部分はあると思います。

村上:モントリオールの学校に通い始めたばかりの頃、授業で映画『グリーンマイル』を観て、次の時間はそれについてディベートをしたんです。みんな立ち上がって必死でディベートしていて、「グリーンマイルについて、そんなに思うことあるの? なんだこれ?」と。その状況も理解できなかったし、言葉もよくわからないし、もう大変でした。

Ren:わかる。最初は「あれ? なんだ?」ってなるよね。

村上:まず1回ひよる。

Ren:うんうん。

村上:日本人って特にそこが弱い。同じアジアでも中国人や韓国人ってそうじゃないと思うんです。日本は自分を出すということが制限されてしまってる風潮はありますよね。それが奥ゆかしさや品でもあるんですけど。

Ren:うちの家族は超アメリカン。日本じゃねえなって思ってた。

村上:それくらいでやっと世界と対等っていう見方もできるし、いいじゃないですか。うちは意外と二人ともすごく日本人的。

ーUAさんは大阪出身で、村上淳さんは東京出身ですよね?

村上:親父も生まれは大阪なんですけど、東京育ちのシティボーイ。母親は対極、今はド田舎に住んでいます。

Ren:うちの家族は絶対田舎には住めねえなあ。

村上:ずっと東京ですか?

Ren:そうだね。

村上:めちゃ都会の人だ。今も実家暮らし?

Ren:20歳からひとり暮らし。うちはアメリカンな色は強いけど日本的なルールも持ってる。だから日本男子としてキメるところはキメようって感覚で家を出たの。


ー村上さんは東京にはどれくらい?

村上:沖縄にも住んでいて、東京のことは俳優の仕事をしっかりやろうと思って住みはじめてからようやく、ですね。最初は、渋谷がジャングルというか、よくわからないことが蠢いていて、すごく広く感じました。

Ren:ああ、渋谷に関して見方が違うわ。

村上:ずっと東京にいたら渋谷が広いって思わないですよね?

Ren:むしろ狭いと思う。

村上:僕も今は狭いと思う。最先端ではあるけど窮屈な場所。

Ren:この企画でJESSEと対談したときに、渋谷は”先っちょ”だって言ってて。

村上:あ、それ読みました。表現者としてはそこにいないといけない時期もあるだろうし、いなくても何かを築けるようになったらいいですよね。自分から求めるんじゃなく、求められるようになったら一人前だと思う。

Ren:あまりそこにいすぎると、自分で自分が何なのか、わからなくなるときがあるのはたしか。でも一番遊んできた地元みたいなもんだし、カルチャーを作る場所だとも思う。親父もそこに根を張ってやってきたんだろうし。

村上:Zeebraさんや僕の両親が若い頃、90年代の渋谷はまた違ったでしょうね。

Ren:その頃がどんなだったか気になるよね。当時の人から聞く話だと、やりたい放題やっている人たちがそこら中にいる、みたいなイメージ。そこに自分がいたらどうしてたんだろうってよく思う。当時と比べて今がどうなのか、どっちが良いか悪いかなんてわからないけど、見える景色は違うわけで、俺も肌で感じたかったな。

村上:僕らよりももっと孤独で、孤高というか、自分を磨いて何かを極めようって人たちが集っていたようなイメージはあります。

ーいろんなカルチャーの自由度が高まって、ときにそれぞれがクロスオーヴァーして、刺激的なことがどんどん生まれてきたのが90年代だったように思います。Zeebraさんも村上淳さんもUAさんも、その時代を生きた重要人物なわけで。

Ren:作り上げてきた人たちの言葉って重みがあるし、その姿を近くで見られたことはすごい恵まれていると思います。だからこそ、自分もなんとかしねえといけねえなって。でないと顔合わせできない。親父に負けねえように、という気持ちはありますね。

村上:結局、今は両親と近い仕事をしてるんですけど、芸能人になるとは全然思ってなかった。映画を好きになったのは、僕は僕としての魂がそこに落ちて出会ったから。だから、僕の場合、家族はあまり関係ないんです。

Ren:とはいえ、影響はあるよね?

村上:はい。間違いなく。それが今の自信にもつながっていると思います。でも、音楽もそうだと思うんですけど、芝居って親は関係ないんです。スクリーンに情報が出るわけではないから、とにかく輝いたもの勝ち。

Ren:うん、パフォーマンスをするのは自分だもんね。

村上:だから、親とのつながりとなると、音楽の方が強いかな。自分が好きなものは、親が教えてくれたものばかり。家に音楽が溢れていたので、音楽に飢えてはいないんです。そこはこれから変わってくるのかもしれないですけど。だから、ここはRenくんに聞きたかったことなんですけど、僕は(同じく音楽が溢れていた環境で育ったRenが)DJをやるって感覚がわからなくて。

Ren:シンプルな話で、俺にとってDJは表現方法のひとつ。元々は家族と近いヒップホップの畑にいたんだけど、そこからハウスやテクノに出会ったことが本当に衝撃だった。ダンスミュージックってこんなにすげえんだ! って。「TAICOCLUB」で石野卓球さんのDJを体験したことがきっかけなんだけど。音の一つひとつが、シーンとか状況のなかでマジックになる。

村上:なるほど。

Ren:そういう自分の気持ち、”個”を見せたい、見せなきゃいけないって思うヤツがアーティストだしエンターテイナーだと思っていて。それは役者も同じだと思う。

ー村上さんにとって演じることの魅力って何ですか?

村上:映画によって、いろんな人の人生を演じることになる。ってことはオールマイティーな仕事なんです。だから本来はどんな人とでも仲良くなれるというか。演じることそのものが(コミュニケーションのための)言語なんです。

ー村上さんの最新出演映画『AMY SAID エイミー・セッド』も観せていただきました。村上さんが登場する冒頭のシーンは、物語のはじまりを予感させる、かなり重要な役割ですよね。「夢が化石化した」という村上さんのセリフがどれだけしっかり伝わるか。演じるうえで大切にしたことは?

村上:脚本には自分のやるべきことが詰まっているんです。その読解力や勘、あとは経験があれば強いですよね。

Ren:そこはDJをする上で必要なことに近いかも。その場の空気を読んで、お客さんにどう楽しんでもらうか。

『Amy said』予告編

村上:でも台本の読み方なんて誰も教えてくれない。日本は演劇をしっかり学んだ上で、そこに立ってる人って少ないイメージがあります。でも、だからこそオリジナルが生まれやすくもあると思うんですけど。

Ren:俺も親父から音楽のやり方を教わったわけじゃないし、でもずっと近くで見てきた、というのは事実だから。あと、今回虹郎くんと話すにあたって、今まではただ楽しいものとして観てきた映画を、その作り方みたいなところから意識するようになったのは、すごくタメになった。

村上:それで言うと、僕は音楽には疎いし、例えばヒップホップは全然わからないですが、映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』はめちゃくちゃ面白かった。

Ren:俺の名前は、それこそそれにも出てくるMC Renからきてるからね。それを知ったときはグッときたなあ。

村上:そうなんだ。でも、あそこに出てくる音楽のことは何の知識もなかったけれど、すごいなって。映画ってそういう思ってもみない発見を与えてくれる。

Ren:いやほんと、今日はありがとうございます。どんどん自分を磨いていきたいね。

村上:こちらこそ。でもほんと、ここからでしょ。

「Motivators」

Vol.01 : JESSE
Vol.02 : 野村周平
Vol.03 : AI
Vol.04 : 村上虹郎
Vol.05 : 安澤太郎(TAICOCLUB)
Vol.06 : Ryohu × KEIJU as YOUNG JUJU
Vol.07 : DJ DYE(THA BLUE HERB)
Vol.08 : CHiNPAN
Vol.09 : Daichi Yamamoto

INFORMATION

■村上虹郎

出演する映画『AMY SAID エイミー・セッド』(村本大志監督)が2017年10月28日より渋谷ユーロスペースにて公開

『AMY SAID エイミー・セッド』
http://amy-said.com
三浦誠己、渋川清彦、中村優子、山本浩司、松浦祐也、テイ龍進、石橋けい、大西信満、村上虹郎、大橋トリオ、渡辺真起子、村上淳
音楽:jan and naomi テーマ曲:「AMY SAID」(大橋トリオ)  
監督/脚本:村本大志 脚本:狗飼恭子 企画・製作:佐伯真吾
プロデューサー:関友彦、田中和磨 制作:株式会社コギトワークス
日本/2016/カラー/96分 
配給:ディケイド 宣伝:フリーストーン 

■Ren Yokoi

2017年10月25日(水) SQUEEZE @ 渋谷Camelot
2017年10月28日(土) WOMB & HALLOWEEN -RADIO SLAVE “Feel The Same” ALBUM TOUR- @ 渋谷WOMB
2017年10月31日(火) SHEL’TTER Halloween PARTY supported by NYLON JAPAN @ 渋谷Contact
2017年11月6日(月) World Connection -BEAT CITY- @ 渋谷Contact
2017年11月11日(土) THE OATH @ 青山OATH
2017年11月16日(木) BLACK ON IT @ 渋谷Music Bar BPM
2017年11月22日(水) SQUEEZE @ 渋谷Camelot

Instagram:@renyokoi