ブルックリンのパーティーで夏になると恒例の話題、それは招待制の野外レイヴパーティー、Sustain-Release。NYのダンスミュージックに興味がある人ならば聞いたことがある人も少なくはないはず。今年は誰が行くのか、キャビン泊かテント泊か、誰がプレイするかなんて会話を友人に会う度にすることになる。キャンプ嫌いの私なんかは「行きたいけどテント泊がイヤだなぁ」とか文句を言っていると、必ず誰かがうちのキャビン使っていつでも寝ていいからなどと説得してくれる。Sustainは、巨大パーティーであると同時に同窓会だ。親しい友人、毎年ここで会う人も、フロアで見かける顔見知りもすべてが一堂に会する。ブルックリンのダンスミュージックシーンまるごと大移動の週末だ。
そんなお祭りが2020年1月25日、注目のDJ達と共に渋谷Contactにやってくる。主宰者でありDJ /プロデューサーのAurora Halalは、Sustain-Releaseはただのフェスとは一線を画すと語る。それでは世界中で評価されるこのイベントの魅力とは一体何なのか。現地でのフォトレポートとともにAurora Halalへのインタビューをお届けする。
-はじめに、これまでどのようにキャリアを積んできたか、主宰するSustain-Release(以下、Sustain)を始める前はどんなパーティーをやっていたかなど教えてください。
まず、2010年にMutual Dreamingというパーティーを始めたの。90年代から続いていたシーンが1度終わってからしばらく何も起こっていなくて、今みたいなNYのダンスミュージックシーンが始まろうとしていたころのこと。Mutual Dreamingではイタロとかミニマルウェーブ、ブギー、ディスコみたいなリバイバル系をかけてて、友人のDJをブッキングするのが楽しかった。開催場所はいつも変なロケーションを選んでいて、まだすごくアンダーグラウンドな雰囲気があって。ちょうどそのくらいからL.I.E.S.RecordsやWhite Materialといった新しいレーベルがブルックリンで立ち上がって、その周辺のアーティストたちが最初にショーをやったのもこのパーティーだったりして、とてもエキサイティングだった。私が自分で音楽を作り始めたり、ちゃんとDJし始めたのもちょうどこのころ。まぁとにかく、時間が経つとともにパーティーも少しずつ変化していったけど、Mutual Dreamingでは、クリエイティブな面でブレのないユニークなアーティストをブッキングするように心がけていた。それに加えて、ライティングを使ったインスタレーションや音響設備など、DIYな雰囲気を大事にしてきた。そこから、今年で7年目となるSustainに発展していった。Sustainは、今でもスポンサーをつけずにDIYを貫いていて、前に参加したことのある人からインビテーションを貰わないと参加できない招待制を保っていて、そういったルールをちゃんと守ることによって自分たちが理想とするパーティーができていると感じてる。
-Sustainはどういうイベントか、もう少し教えてもらえますか?
毎年9月、週末を通して行われる1000人限定のレイヴパーティーで、子ども用のキャンプ場が会場なのでダンスミュージックの大きなパーティーでありながらも子どもの時に行ったキャンプのように賑やかで濃密な体験ができる。宿泊用のロッジは二段ベッドだしね。あとは、会場内にはプールもあるし、湖ではカヌーに乗ったりもできて、こういった素朴な自然体験と強烈なダンス体験のコントラストもおもしろいポイントだと思う。体験だけではなくて視覚的にも、美しい自然とネオンの光がうごめく未来的なダンスフロアというコントラストも最高なの。まだ行ったことはないけど、日本のRuralやLabyrinthといった野外パーティーと感覚的には少し似ているのかもしれないと思ってる。すごく楽しそうだよね!
-SustainはNY市内からそこまで遠くないのが良いですよね。フェスやキャンプ初心者でももう少し気軽に行けるというか。
そうそう。日常から離れるのにギリギリ十分な距離。渋滞していると時間がかかることもあるけど、基本は2時間ぐらいで行けるもんね。
-ロケーションを当初の場所から移動していますよね? 私が初めて行ったのは3年目で、その時はもう今と同じキャンプ場だった気も。
前の場所を追い出されちゃって選択肢がなかったの! でも面白いことに、ほぼ同じ環境で少し大きい今のロケーションが見つかった。屋内の運動場をメインステージとして使ってるところも今と同じ。新しい場所を見つけるまで2カ月しか時間がなかったから本当に焦ったけど、結果的に前よりもいい場所が見つかって、今となってはよい変化だった。今でもその都度いろんな問題が起きるけど、Sustainっていうのは、みんなで難問を解決していくなかで強くなっていくの。今までやってきたなかで1番クレイジーなプロジェクトだけど、みんなの協力には本当に感謝してる。
Sustain-Release 2019の模様より
-Sustainの素敵なところって、関係者だけでなく参加者全員がお互いを助け合って、よい場所や時間にしようというコミュニティ的な意識があるところだと私は思うんです。その場にいる全員がこのイベントの一部で、スタッフも普段からフロアで見かける友人だったり、運営側と参加者の垣根があまりない。これは2019年パーティーに参加した時の体験談なんですけど、3日目の夜、Bossaステージの前の仮設トイレに入った時、携帯のライトで中を照らしてみるとトイレの便座の横に一輪のバラが置いてあって。とても些細なことだけど、真っ暗で汚いトイレの中にせめてこれを置いて行ってくれた人の心遣いがとてもこのイベントらしいと思った瞬間だった。
本当にキュートなエピソード! まさにそういう点で”フェスティバル”という単語はふさわしくないと思っていて、なるべく使わないようにしているの。 一般的なフェスティバルのイメージと私たちが実現しようとしている空間はまったく違うから。これはどちらかというとパーティーって感じなの。”巨大ホームパーティー”というとまた少し違ってくるけど、音楽マニアのための大きな集まりかな。
-招待制というシステムはあまりないし、そこにいる全員が誰かの友人であるという点で参加者に安心感を与えているところもあると思うんですが、どういう経緯でこうなったのか教えてください。
2014年の1回目が終わって、すぐに招待制にしていく必要があるとわかったの。というのもNYはヘンな人が多いし(笑)、どういう層に来てもらうかを決めることが大事だと思って。Freerotationというイギリスのフェスティバルに通っていた当時のパートナー、Zaraから、招待制を行っていた話を聞いてすごくいいと思った。そこから自分たちなりに少し捻って、今みたいな参加者が友人を1人だけ招待できる仕組みに変えた。加えて、もし招待した友人がパーティーのルールを破って退場になったら、それ以降もうゲストを招待できないというルールもある。こういうルールがあってそれぞれに少しずつ責任感が生まれることによって、問題を起こりにくくしている効果が大きいと思う。
-確かにそうですね。Sustainでは、泥酔していたり、マナーのない人を見たことがない気がします。もちろんみんなこのパーティーを思い切り楽しむために来ているんだけど、節度があるし、すごくポジティブ。
客層がそもそもパーティー系じゃなくて、音楽を聴くことが目的の人たちだからね。ダンスミュージックの場としてはユニークな環境だと思う。あと、最近気がづいたことがあって、参加者が毎年どんどん面白くなっているの。信じられないことだよ、みんなどこから来るの?! 本当に素敵!
-ということは、参加できる人数は増えていってるんですか?
いいえ、過去3年間ずっと1000人限定。これからもそれは変えないつもり。第1弾のチケット販売開始後、ものの10分ぐらいで売り切れちゃう。第2弾ではたった3分だった。
Sustain-Release 2019の模様より
-すごい人気。でも定員は増やさないんですね。
そう、今のところこれ以上規模を拡大するつもりもないし、そもそもまた場所を移動しない限り人数を増やすことも不可能で。でも私にとって、音楽漬けの週末を友人と楽しめるこのコミュニティをキープするためにはこのぐらいの規模にしておくことが大事だと思っている。あまり大きすぎる会場だと友人を見つけにくいしね。今ぐらいだと、どこに行っても必ず誰かに会うことができる。小さい規模だからこそ、みんながどこに行ったか心配しなくて済むの。
-NYでは性差別や人種差別を許さないとするステイトメントがベニューに張ってあったり、入場する時に口頭で確認されたり、何かあった時に助けを求められる人が巡回していますね。セーフなスペースにすることってとても大事なことだと思うし、世界的に今そういう意識が高まってきていることついてはどう思いますか?
私が音楽活動を始めた2010年前後は実はそういう問題が多発していたの。ブルックリンにあった大型ベニューOutputとかに行くと痴漢やしつこいナンパがすごくて、そういう人たちがいるから嫌な気持ちになって全然音楽を楽しめなかったけど、ここ数年で、そういったセキュリティ問題に関して大きな変化があったと思うんだ。ルールを設けることによって状況は見事に改善されて、今ではクラブでの迷惑行為をほとんど見かけなくなった。そういう意識から、Sustainでも最初の年からずっとルールを明確に提示しているよ。
-では、日本で今回サテライトイベントをやろうと思ったきっかけを教えてください。
それは実はDJ Healthyからのアイデアだったの。DJ Healthyは、最初からずっとSustainに参加してもらっていて、2年目からは何回かプレイもしてもらった。NYの音楽シーンに長く携わって応援してくれてる人だから、彼と一緒に日本でSustainをやるっていうのは考えるまでもなく最高なアイデアだと思ったの。去年のSustainではDJ Nobu、今年はWata IgarashiやPowderに出演してもらって、日本のアーティストともよいコネクションを築けていると思う。
-そんな今の日本の音楽シーンについてどう感じますか?
今の日本はトリッピーなおもしろいサウンドがたくさん生まれていて、共感できる部分がある。あと今回また一緒にプレイできるWata Igarashiの大ファン! 彼は天才だと思う。日本の文化と音楽ってとても洗練されている印象で、NYとどこか通じる部分があると思うな。これからもっと知りたいと思う場所。
-さっきNYのダンスミュージックシーンはここ数年ですごく変わったと話していたけれど、もう少し詳しく教えてもらえますか?
リスナーは常に変化を求めていて、新しいものを探している。みんながシーンやアーティストをサポートする意欲があって、どんなイベントに行ってもガラガラってことがない。2010年代は各年代の音楽を巡ってタイムスリップするように成長していって、そのまま今はもう未来に来ちゃったように感じる(笑)。そうして歴史を勉強したことによって、それが今やっと新しい音楽に昇華しているんだと思う。ちなみに今人気なのは、もっとディープな音で、貪欲かつよりパーソナルなNYの独特なムードがある音楽だと思う。
-NYのダンスミュージックシーンは成熟してきていると私は思うけど、今後どうなっていくと思いますか?
常に変化し続けているからそれを追っていくのは難しいよね。そして、この先どうなるかはまだまだ未知だと思う。ただ、次のステップはちゃんとしたクラブがでてきていることかも。ブルックリンのBossa Nova Civic Club(以下、Bossa)は2010年代以降のNYのダンスミュージックシーンにとって最初のちゃんとしたべニューで、それまでは毎回違う場所で開催されるDIYなパーティーばかりだったから。個人的に今あるなかではベストだと思うNowadaysも含めてちゃんとしたべニューができてきて、やっとNYのダンスミュージックシーンが確立されてきたと感じられる。音楽ジャンルで言うなら、ジャングルとかブリストルっぽい音とかリズムの速い音楽の人気が高まってきてるように感じてて。個人的には、今回のサテライトイベントにも登場するBeta LibraeやDJ Pythonは旬なアーティストだと思う。
-NYでは小さなべニューがたくさんできたといってたけど、日本でも少しずつバースタイルのベニューが増えています。
少し前は日本の若者はクラブとか夜遊びしないと耳にしたけど、それも少しずつ変わってきてるでしょ? 素敵なバーが山ほどあるからクラブに行く必要がないっていうのも理解できるけどね(笑)。前にBonoboに行ったんだけど、あそこは最高だよね! Dommuneもよかった。
-あ、あとSustainのスペシャルな部分ってライティングだと私は思うんですけど、それについても聞かせてください。ライティングがあるかないかで全然違うと思うから。
あぁ、確かにライティングは大事な要素だよね。ライティングを担当してくれているNITEMINDのことは絶対に欠かせない脇役だといつも思ってて。NITEMINDがメインとBossaステージを担当していて、Groveステージのライティングと環境デザインは後輩のKip Davisがやってくれているの。KipはNITEMINDのもとで修業して、今では独立して自分の作品を制作しているんだ。NITEMINDの作品が素晴らしいのはもう知っていたけど、今回Kipの作品を見て、いい意味で本当に驚かされた。あれはまさにアートだったと思う。
-NITEMINDは、先ほど挙がったBossaやNowadaysなどべニューのライティングを手がけてますよね。
そうそう。でも、普段は一夜限りの作品を展示することで知られていて。年に数回のMutual Dreamingでのライティングもほとんど彼らが担当している。いつもカッコいいものを作ってくれるの!
-では最後に、Auroraが思うSustainの魅力を教えてください。
音楽、そしてダンス。人目を気にせず、我を忘れて、ただひたすら激しく踊れるところ。私自身こんな経験はほかではしたことない。自分の世界に入り込んで思い切り自由に踊れるって本当に素晴らしいことだと思う。音も、ステージのビジュアルも最高で、みんながそれぞれ自分の世界にフォーカスできるの。この環境で音楽を聴くのが大好き。あと初日の木曜日はだんだんと始まって、金曜日には大盛り上がり、土曜日にはクレイジーっていう、日に日に勢いが増していく感じがすごく楽しくて、最終日にはマラソンを完走しきったような気持ちになるところね。あと私の話になっちゃうけど、「Sustain」を作り上げるための準備がトラブルやサプライズも含めて全部大好き!スプレッドシート作ったりとか、問題を解決するために新しいテクノロジーを学んだり、友人と一緒に働くためにはどうしたら良いか考えたりね。今回のサテライトイベントも信頼できる出演者や仲間と準備を進めているから今から楽しみしてて。
というわけで、現行NYブルックリンで最前線のレイヴパーティー、Sustain-Releaseのサテライトイベント、S-R Meets Tokyoが1月25日(土)にContactで開催される。インタビューを読んでいただければわかる通り、間違いないパーティーだ。当日はどんな光景になるのか非常に楽しみ。きっと大混雑してしまうだろうけど、絶対に行く価値がある一夜だ。