ハトリミホ(ex チボ・マット)×TAWINGS:ガールズパワー、クレオール性、NYから見た日本

photography_Shiori Ikeno, text_Takuya Nakatani

ハトリミホ(ex チボ・マット)×TAWINGS:ガールズパワー、クレオール性、NYから見た日本

photography_Shiori Ikeno, text_Takuya Nakatani

90年代後半のNYにおいて、アヴァンでポップ、自由でストレンジな音楽をクリエイトして世界的な評価を得た二人組=チボ・マットのハトリミホと、ポストパンクやガレージを通過した、ダウナーさときらめきを併せ持つ音楽を奏でる東京の3人組バンド、TAWINGS。去る2月14日に開催されたTAWINGSの1stアルバムのリリースパーティーでの共演、初対面を経て、この日の対談となった。「最近の東京の楽しさで一番オリジナル」とハトリが話すガールズパワーから、NYのこと、東京/日本のこと。1980年代から2020年までを行き来しながらの会話となった。

L→R / eliy(b)、Yurika(dr)、Cony Plankton(vo,g)、ハトリミホ

—ハトリさんは今回のイベントのオファーを受けたとき、第一印象はどうでしたか?

ハトリミホ:TAWINGSの音源を聴いたりMVを観たときに、スタイルがあるなと。スーッと入ってきた感じかな。感覚的に、一緒にやったら楽しい夜になりそうだなと思った。それが一番重要だから。

Cony Plankton:これ以上のことはないですよ……。

eliy:チボ・マットが再結成したときのアルバム『Hotel Valentine』(2014年発売)をよく聴いていたので、そのハトリさんと共演できたのはすごく緊張もしたし、うれしかった。

Cony Plankton:私は実はチボ・マットをあまり通ってこなかったんですけど、(ハトリミホのプロジェクトである)NEW OPTIMISMを初めて聴いたときに……

eliy:ぶち上がってたよね。

Yurika:これしかない! みたいな。

Cony Plankton:好きな音楽って、聴いて1〜2秒で「絶対好きだこれ」ってなるじゃないですか。まさにそんな感じで。

NEW OPTIMISM – Invisible Tan

ハトリミホ:ありがとう。日本に住んでいる若い女性が好きになってくれるとすごくうれしい。やっぱり自分が音楽を始めたときに、いろんな音楽を東京という街で吸収したから。あのときの自分がいまでも土台にあるから、その頃の自分みたいに何かをクリエイトしたいと思っている人たちにリーチしたい。若いときってやっぱり、漠然とした不安や疑問に対して、音楽が栄養になることってたくさんあるから。そういうふうに誰かを元気にさせられたらハッピーだなと思う。

Yurika:ライブの後の打ち上げでは、聞きたいことがありすぎて3人でインタビュー状態でした。

ハトリミホ:ディープな音楽の話から、超ガールズな質問もあっていいなって思った。

Yurika:ミュージシャンとしてどう生活されてきたのかとか、プライベートな話まで。こう思っていていいんだ、と勇気をもらえました。

ハトリミホ:クリエイターとして日本という社会で生きていくときに、やっぱり女性として考えることってあるもんね。私はいつも日本にいるわけじゃないから、そういった部分も話せて私も勉強になったし、シェアできてすごくうれしかった。

—TAWINGSはUKのポストパンク、ガレージから影響を受けた音楽性ではありますが、NYで長く暮らすハトリさんから見て、どう感じますか? 東京っぽいだとか、UKっぽいだとか。

ハトリミホ:そういうのもあるのかもしれないけど、それは後から付いてくるものだと思っていて。経験として、チボ・マットはNYで活動していたけれど、私たちが日本人だったからこれが“ジャパニーズ・ミュージック”みたいに言われた。でも日本人だからやっているわけじゃなくて、私とゆかさんという個人が作っているから、それはまた別の話。だから私は自分で音楽を聴くときは、なるべくそういうのを抜きにして、人として聴きたいなと思っている。だって日本人にしてもいろいろなバックグラウンドを持っている人がいるわけだから。音楽って自由になるものだから、そういうスピリットで作っていきたいよね。

Yurika:それはすごく共感する。

ハトリミホ:TAWINGSのなかでもしっとりした曲もあれば、洒落た感じの曲もあって、そういう全体が3人の個性の集まりだから。そこに自信を持ってもらいたいと思う。

TAWINGS|水仙(Official Music Video)

Yurika:たしかにTAWINGSは、3人の音楽的趣味が被っている部分とバラバラな部分があって。(ソングライティングを担当する)Conyちゃんも気分によっていろんな方向の曲ができてくるし、それが楽しいというか。でも根底にはどこかしらConyちゃんっぽさがある。「いまやりたいことをやる」みたいな意識ですね。

ハトリミホ:食べ物みたいに、旬のものだとエネルギーが出るみたいな感じで、そういうのが一番、人を動かす力になるような気がする。やっぱり自分の一番楽しめるものが、なんだかんだ答えは出やすいから。

Yurika:そうですよね!

ハトリミホ:いろんなエレメントがあっていいし、それが女性としての多様性にもつながる。それってこれから世の中がどう動いていくかのキーだと思うんだよね。最近の東京の楽しさで一番オリジナルなのはガールズパワーだから。去年、コラボレートしたMaika Loubtéちゃんもそうだし。

Maika Loubté – Snappp feat. New Optimism (Official Video)

Cony Plankton:ガールズパワーには背中を押されてれる感じはありますね。「男性だから」「女性だから」というのはないけれど、たまたま身体も似ているし悩みも近いから話しやすいというのはあるのかもしれない。私のまわりの女性ミュージシャンは、みんな感性を自由に取り入れている感じはする。

ハトリミホ:そういうエレメントがもっと表面に出てきたら面白くていい社会になると思う。みんなで楽しみながらグッド・コミュニティを作りたいよね。

—ハトリさんはNY生活が長いですが、外から捉えたときに東京/日本はどう見えていますか?

ハトリミホ:私がいた頃の80年代は、六本木WAVE(註:83年にオープンした伝説のレコードショップ。99年に閉店)があった時代で、あそこでは世界中のいろんな音楽にアクセスできて、楽しい時期を過ごした。東京には「知りたい」と思うエネルギーがある。NYにもあるけど吸収力はあまりないというか。いまは東京であまり時間を過ごさないからわからないけど、あの当時の音楽好きのパッションはすごかった。だから東京は好き。

—東京が世界中でもっともレコードが揃っていると言われていましたもんね。

ハトリミホ:だから東京という街にいれたのはラッキーだった。そういう面白い時代を体験したあとでNYに渡った。NYに限らずアメリカってやっぱりヨーロッパとは壁があって、実際にチボ・マットとしてメインでツアーをしたのはアメリカばかりだった。でも東京ってもっと雑多な感じ。クレオール語というか、クレオール性というものに私はすごく影響を受けているんだけど、日本にはクレオール性があると思っていて、それがルーツだと感じている。そういった意味での東京の面白さはいまでも感じるし、逆に普段いないからこそもっと感じているかもしれない。遠くにいて初めて俯瞰で見れるものもあるから。そういった日本のオリジナリティは貴重で、アメリカやヨーロッパを真似る必要はない。日本には日本のよさがあるから。

Cony Plankton:たしかに、私はまだ東京を俯瞰で見れていないと思います。音楽を始めた頃は海外への憧れが強くて英詞で歌ってみたり、海外アーティストのサポートアクトを重ねたり、そうやって小さな夢を叶えてきたんですけど。そのなかで日本のアーティストと話す機会も増えてきて、みんなの考えていることにも影響を受けたし、尊敬できるアーティストが増えてきたことが日本をどんどん好きになった理由でもある。

ハトリミホ:NYでも、友達が家に来たときに「これ聴いた?」とか話しながらいろんな音楽を聴くんだけど、日本人の名前も結構出てくる。日本にいたときには知らなかったアーティストをそうやって発見できるのはうれしい。

Cony Plankton:以前、ジェリー・ペイパーのサポートアクトをしたときも、彼は車のなかでいつも大貫妙子さんを聴いている、って言っていました。それを聞いて、勝手に日本人として誇りに思えたというか。海外にいる人から見た日本の音楽の捉え方って面白いですよね。

ハトリミホ:日本語の美しさってあるし、大好き。日本語だからメロディーが成立する、とかもあるから。逆に英語だと変なニュアンスになるから使えなかったりもする。

ー日本語はメロディーに乗せにくい、とも言われますがそうじゃないんですね。

ハトリミホ:そうかな。日本語って結構自由な気がするけど。英語よりもルールがないと思う。英語だとイントネーションがあるから、それが違うと伝わらなくなっちゃう。日本語は意外に誰にも文句言われない感があって。変化しやすい音だなと思う。

—2020年はどういった一年になりそうでしょう。

ハトリミホ:すでに結構いろんなことが起きているし、ターニングポイントになりそう。

Yurika:最近、毎年カオスですよね。

ハトリミホ:そうね。アメリカだと大統領選がキーポイントになるかな。それで国がガラッと変わるから、どこ行っても話題になるし。なんだかんだポリティカルであることが当たり前な感じはする。そのへんは日本とは違うかな。こっちだとカジュアルな会話にはなりづらいよね。

Cony Plankton:でもそういった海外の文化や動向に目を向ける人が多くなった分、日本で行動を起こしている人もちらほら出てきていて。そういった音楽やアートに共感する人が少しずつ増えてきている感じはしますね。

ハトリミホ:カルチャーの力というのはあるよね。複雑な問題だと思うけど、そのあたりはコミュニケーションが必要。いろんな考えを持った人がいていいと思うし、こうじゃなきゃいけないということはあまりないから。これからどうなっていくかって感じだけど、若い人たちが変えられる力を持っていると思うな。もっと自由になれるといいね。

INFORMATION

ハトリミホ
http://mihohatori.com

TAWINGS
[RELEASE]
NOW ON SALE | ALBUM
2020.03.25 | ‘TAWINGS’ WHITE VINYL LP

[LIVE]
2020/04/08(水)duo MUSIC EXCHANGE
2020/04/25(土)Shimokitazawa GARAGE

[YouTube]
Suisen (Studio Live) https://youtu.be/ci4K4Zh5wPo
POODLES https://youtu.be/dFZBodmqE-Q
Suisen https://youtu.be/XSMWODTHzDs

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